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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百十二話 王女争奪戦XVII

『さぁ! ドンドン行きましょう! 続いて2試合目は、ロアグリーンvsビビアン!』


 名前を呼ばれたルナマリアと相手のハーフエルフは舞台中央へと歩き出す。


 ルナマリアはエルフの特徴である長い耳を仮面の一部のように見せ、相手は頭の天辺からくるぶしまで煌びやかな装飾がなされた高級マントで隠しているため、観客は未だに彼女達の正体を知らない。


 エクシードクルセイダーズの中で顔出ししているのはリーダーのカイザーだけ。残るメンバーはこれまでボロボロのマントを纏っていたのだが、どうやら彼女(分厚いマントの上からでもひと目で女性とわかるぐらいアレがアレしている)は試合の時は正装するタイプの人間らしく、今日は会場入りした時からこの恰好だった。


 『どうやら』だの『らしい』だの不明瞭な言葉を使っているのは、彼女が試合に出ていなかったから。これが本大会の初戦闘だ。


『御覧の通りどちらも正体を隠している上、本大会における両者の戦績もロアグリーン選手が2戦2勝、ビビアン選手が初試合と、まったくもって未知数な2人ですが、先程の試合に勝るとも劣らない戦いを見せてくれることでしょう!』


 もう説明した。誰でもわかる情報しか出さないのは無能のすることだぞ。せめて意気込みだけでも聞いておけ。


『そうですね。ロアグリーン選手は身体能力・術式の構築速度・予測と、戦闘の基礎にして奥義をすべてトップクラスにこなす万能選手。先手後手関係なく立ち回れるのは強みですよ。まだまだ手の内を隠していそうですし、ビビアン選手がどのように対抗するか見ものですね。30秒足らずとは言え、戦いを見たというアドバンテージを如何に活かすかが勝敗を分けるでしょう』


 はい有能。やっぱ解説出来る人間って必要だわ。そして前言撤回。進行&盛り上げ役と独自の視点から戦力分析する役の二重構造は最強だ。


 まぁだとしても本人達の情報は必要だと思うけどな。



「ふふっ……ずっと待っていたのよ、この時を……エルフを倒せる時をね!」



 試合開始直前。身に纏っていたマントを脱ぎ捨てたビビアンは、自身の姿を大衆に晒すと共にルナマリアの正体を明かし、宣戦布告。


 お互い、すべてをわかった上で、舞台に立っていたようだ。


『おぉ~っと! まさかまさかの同族対決だぁぁあああああっ!!』


 すぐさま司会者が彼女の姿と発言に反応する。


「それは違うわね! 私はハーフエルフ。あっちはエルフ。私は、ハーフが劣っていると言われている時代に終止符を打つために、ここに立っているのよ!」


 司会者の勢い任せの発言を訂正しつつ、互いの種族のプライドを賭けて戦えとルナマリアを煽るビビアン。


 その表情は自信と怨念に満ちている。


「バッカじゃないの」


 が、ルナマリアは自分には関係ないとばかりに冷酷に跳ねのける。表情が見えなくても呆れているのがわかるほどだ。


「……なんですって?」


 当然ビビアンは激怒。


 彼女の自信と恨みがどの程度のものかを読み取る術はないが、今すぐ殴り掛からないほが不思議なほど昂っているのはたしか。


 しかしルナマリアはそれを知った上でなお飽きれ口調を続ける。


「言わせたいヤツには好きに言わせておけばいいのよ。どうせ実力のないゴミの負け犬の遠吠えでしょ。恨むならそいつ等を恨みなさい。遠吠えが出来ないほどボコボコにしなさい」


「やってるわよ! ほとんどのハーフエルフが!」


(((ハーフエルフ怖っ……)))


 温厚派を知っている俺ですら一瞬畏怖してしまったのだ、ハーフエルフのことを知らない連中が引くのは当然と言えた。


 こういった何気ない言動の1つ1つがハーフエルフを貶めている原因だということを、彼女は気付いていないのだろう。


(((でもバカは死んでも治らないって言うし、まぁいっか。俺が彼女の立場でもやってたし)))


 俺か? 俺がおかしいのか? それとも読心術の不調? 精霊さん何かありました? メンテナンスとか捧げ物とか必要ですか?


「アンタ達がそうやって対抗心を燃やしてるせいで、いつまで経ってもエルフと比較されるんでしょ。人間と接することの少ないアタシ達の実力なんて誰も知らないわよ。ハーフエルフが勝手に挑んで、勝手に負けて、勝手に評判落としてるだけ。そして人間より強いハーフエルフが勝てないエルフは凄いって勝手に評判が上がってるだけ。迷惑掛けられてるのは何もしてないアタシ達の方だわ」


「ふん。優越感に浸ってるエルフの言い分ね。じゃあなに? いつか優劣をつけられなくなるから今は我慢しろとでも言うわけ?」


「『我慢』って言葉が出る時点で間違ってるのよ。人間からの評価を気にするほどハーフエルフは自分に自信がないわけ?」


「そんなわけないじゃない! 実力も、知識も、見た目も、自信しかないわよ!」


 そう言って大きな……もとい大きく胸を張るビビアン。


 彼女は、ワンピースタイプの水着の上から胸当てやフリルスカートを装着する、体の凹凸をこれでもかというほど強調する実にけしからん服装をしており、それは誰の目からしても直前の発言が嘘でないことを証明していた。


 そしてハーフエルフであることを証明していた。


 長い耳以外にも緑髪やスレンダーという身体的特徴があるエルフとは違い、他種族と交わったことで生まれるハーフエルフにはそういったものが一切ない。


 見目麗しい者は多いらしいがそれも絶対ではなく、人類との違いが人間より長いがエルフよりは短い耳ぐらいしかないのだ。一応、寿命の差もあるが、証明が難しいので判断材料になるかと言われたら微妙なところ。


「なら劣等感なんて感じる必要ないでしょ。三世代以上離れてるアンタには関係ないことじゃない」


「フィーネ。説明」


 説明不足のルナマリアの発言について、俺はすぐさま補足を求める。


 ちなみに、口ではこんなことを言っているが、ルナマリアは戦闘に前向きだ。エルフ族にしては珍しく巨乳に憧れを抱いている彼女が燃えないわけがない。平然を装っているだけ。


「ハーフエルフがエルフと交流を断っていることは周知の事実ですが、彼女の言うように嫌悪しているのはハーフエルフだけなのです。その中でも確率が高いのは、他種族と共に生きることを決めて里を出たエルフと生まれた子です。

 例え親子であっても、純血のエルフと混血のハーフエルフの間には、実力・寿命・見た目において絶望的な差が生まれます。彼等は否が応にも突きつけられる現実によって劣等感を抱き、時に差別する者達を恨むのです。

 そしてそれは親との交流が絶たれるまで続きます。正確には『子供が自力で対処出来るようになるまで』ですが、エルフの力を頼らないという意味では同じなのでまぁ良いでしょう。

 その結果、劣等感を抱いてしまった子供から親が如何に凄かったかを伝えられた孫がエルフを神格化し、何代にもわたる対抗心リレーが生まれるのです。おおよそ三世代と言われていますね」


「あー……つまりあのハーフエルフはエルフのことを何も知らないし、実際に何かされたわけじゃないのに、勝手に打倒目標にしてるとバカだと?」


「端的に言えばそうなります」


 どうやら今回は、古臭い考えしかしない停滞した田舎から飛び出した者の話ではなく、未来からタイムスリップしてきてイキっているバカの話のようだ。


 親の都合に巻き込まれただけのハーフエルフは、人生で2回、里に戻る機会を与えられると前に聞いたことがある。


 彼女の言い方から察するにエルフと会うのは初めてのようだし、見た目に反して相当幼いのだろう。だからこそこんなにも無謀なのだろう。




 王女として自分を過信した同族を正したいルナマリアと、ハーフエルフの地位向上のために何としてもエルフを倒したいビビアンの争いは、誰にも止められない。


 正直、勝っても負けても状況は変わらないと思うが、それでも戦わずにはいられない。それが戦士という生き物だ。


「「風よ!」」


 ズドンッ!


「ルナマリアが……押し負けた?」


 精霊に限らず、意志を持ったものであれば格下の命令で王に危害を加えることはあり得ない。力の源を封じられたビビアンの敗北確定かと思いきや、先制攻撃を入れたのはまさかのビビアン。


 しかも方法は精霊術。互いに放った風の弾がルナマリアの腹にだけ突き刺さり、舞台の端まで吹き飛ばされたのだ。


 何が起きたのか理解出来ず再びフィーネに説明を求める。


「ここでマリアです。あとで怒られてしまいますよ」


「スマンスマン。で? 本当に負けたのか?」


「今の攻防だけで判断するならそうなりますね。ただマリアはハーフエルフと戦うのは初めてですからね。どの程度の力で戦うべきか様子見をしただけですよ。精霊達にも先程の会話の中でビビアンさんに協力するよう伝えてありましたし」


 あ~、『これはお遊びだ。自分を倒すために力を貸してやれ』って強者がよくやるアレね。なら納得。


「ふふっ、その程度? すべての風がアンタの味方ではないのよ! とうとう化けの皮が剥がれる時が来たようね! 覚悟しなさい!」


 ビビアンは生み出した緑のドレスをなびかせながら、艶美な表情を歪ませる。


 その肩にはとんがり帽子の風精霊の2人。エルフの支配下に置かれていない精霊だ。


「まさかあれも……?」


「はい」


 もしルナマリアが最初から全力を出していたら彼等は現れず、彼女達の信頼関係は粉々に砕けると共にビビアンは二度と立ち直れなかっただろう。


 それこそ人類とエルフを恨んでいたかもしれない。


 ナイス配慮だ。

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