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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百十話 王女争奪戦XV

 Fランクの最弱冒険者と見せかけて実はSSSランク。ギルドに許可を貰って、表と裏、2つのギルドカードを作っているだけ。


 俺達が決勝で当たったのはそんな定番中の定番、U-1、今でいうなろう系主人公一行だった。正確にはその類似品、『世間離れした生活を送っていたのでギルドに登録してから日が浅いor成果を報告しておらず、ランクは低いが最強』である。


 それだけならまだ良い。


 問題は、戦いは全力を尽くすことに意味があって納得と学びと意欲を得られれば勝ち負けは関係ない、という俺の腑抜けた考えをユキが利用したこと。


 具体的には、超絶ダメージ軽減してくれる伝説の結界を面白がって解除して、斬撃一発で命が消える実践さながらの戦いにしてくれやがった。


「利用しただなんて人聞きの悪い~。この場に居る全員がルークさんならやれると信頼してるんですよ~」


 無言で頷くフィーネ、ニーナ、ルナマリア……はソッポを向いて知らんぷり。ただ彼女が否定しないのはすなわち肯定だ。


「その何もかもを見通してる顔を今すぐやめなさい。良いじゃない、やってみれば。戦う前から負けることを考えるなんてバカのすることよ」


「そんな気楽に挑んで良い相手じゃないんですが!? 相手は触れる者みな傷つける思春期の少年より危険よ!?」


「人間、死に物狂いでやれば、大抵のことはなんとかなる」


「なんとかなってないヤツの台詞じゃないな! 説得力の欠片もありゃしない!」


「一朝一夕には越えられない壁も、迂回や穴をあけるなど、対処のしようはいくらでもあります。ルーク様なら必ずや勝利の二文字を刻めると信じております」


 信頼が……重い……。


「……私へのツッコミは無しですか?」


「うん。だって指摘するとこ無いし。真面目なアドバイス&期待の言葉だし」


 と、1人落ち込むフィーネを他所に、俺はすべての元凶ユキとの交渉を再開。


「面白がってってとこは否定しないんだな」


「まあまあ。細かいことは良いじゃないですか~」


「細かい!? 動機の大部分が!?」


「それは違いますよ~。私達の目的はあくまでもルークさんの本気を見ること。ヒロインのために死ぬ気で戦う主人公の姿に興奮したいんです~。面白さは二の次~。今回はたまたまイコールになっただけ~。

 だからもう魅せプなんてしないで良いんですよ~。全力を出して良いんですよ~。何せ決勝戦ですからね~。勝っても負けても終わりですからね~」


「それが出来るならとっくの昔にやっとるわ!!」


 人生に無駄なことなど1つもない。


 今の俺の状況を指すのにピッタリな言葉だ。


 身に付けた戦闘技術のほとんどが研究の副産物。本気を出せと言われても発表会以外の戦い方なんて知らん。ゲーム開発者をそのゲーム大会に出場させるぐらい場違いだ。批難されないように解説側で呼べ。裏話させろ。


「まだ遅くない。早く結界を元に戻せ。死闘じゃなくても俺は全力を出す」


「ノウッ!」


 と、両手で大きくバッテンを作って訴えを退けるユキ。


 こうなったら終わりだ。「え~? どうしよっかな~」とかまってちゃんのように悩むフリをしているならまだ可能性はあるが、これは無理だ。絶対妥協しない。



「一応聞くけど俺とアイツが戦うまでに決着がつくなんてことは……」


「「「ない(です)(わよ)」」」


 ですよねー。これまでの感じからしてフィーネとユキが負けて2対2で回ってくるんですよねー。俺は皇帝の名を持つカイザーと戦うんですよねー。


「ちょっと違うわね。割と不安なニーナを1戦目にしたから2対2で回るのは確実だけど、誰が白星で誰が黒星かはなんとも言えないわよ」


「相手そのレベルなんですか!? 頭はポンコツでも神獣ですよ!?」


 ルナマリアの暴露に俺はさらに動揺する。


「なんで知らないんですか~? これまでの戦いを見てなかったんですか~?」


「バカ言うな。ちゃんと見てたよ。ただ、4回戦で当たった魔族チームと同じで全員が顔隠してたし、精霊術も読心術も通用しないからわかんなかったんだ」


 怪しいヤツが多過ぎて混乱してしまったが、本当のダークホースはこっちだったわけだ。木を隠すなら森の中だな。してやられたぜ。


 もういっそフィーネやユキクラスの強者が妨害してるのかとすら思ったね。


「む……全力を出せば余裕。ただやり過ぎると騒ぎになるからダメって、みんなが」


「アンタが元魔王と死闘を繰り広げたら会場がメチャクチャになるってわかるでしょ。ユキが結界解除してる時にそんなことさせるわけないじゃない」


 あ、そういう感じなのね……。


 実力はリーダーのカイザーより上だけど、彼の心意気に惹かれたとか命を助けられたとかで仲間になった連中が多いのかな。だとしたらマジで主人公だね。


 そしてポンコツについては否定しないと……。


「衝撃だった。まさか、わたしの能力が全部武力に持って行かれてて、頭脳がからっきしだったなんて」


「今更!? てか、これまで散々言っても頑なに認めなかったのに、どこで悟った!?」


「皆の技のお披露目。あれはわたしには逆立ちしても無理。術式を見た今でも真似出来ない」


 なるほど。下手に理解出来る分、凄さを理解して絶望してしまったわけか。


 なんというか安心した。それでこそニーナだ。見ただけでアッサリとコピーしたら偽者を疑う。解釈違いもいいところだ。いつまでもそのままのキミで居てくれ。


「言っておきますけど武力としても微妙ですからね~」


「――ッ!!」


 ユキの余計な一言で最後の砦が崩れかかる。


「神獣になったからといって『武』と『知』のどちらかに偏るということはありませんよ。その証拠に戦闘における計算能力や感知能力は上がっています。なので頭脳も猫人族の中で過去最高と呼べるほどに強化されているはずなのですが……」


「0に何をかけても0なんですよ~」


 真実は時として人を傷つけるという良い例だ。


「1に、1になればわたしは変われる……妹や友達にバカにされなくて済む……見ず知らずの子供から同情されなくて済む……10なんて贅沢は言わない。0.1でもいい」


「そのために勉強したり経験したりしてるはずなんだけどなぁ……」


「……? どういうこと? つまりわたしは何をすればいいの? どうしたら0.1になれるの? わたしは神獣として認めてもらうためにこれまでも努力してた。それじゃあ足りなかったの?」


「具体的にはどんなことしてたんだ?」


「体を鍛えたり、読書したり、強者と戦ったり、皆に相談したり、接客業で精神を鍛えたり、魔道具を使ってみたりした」


「つまり、やみくもに筋トレして、文字を眺めて賢くなった気になって、強いヤツに何も考えずに特攻して、友達とくっちゃべって、自分の何が悪かったか考えずにクレーム処理を同僚に任せて、便利な道具を使ってたんだな」


「…………」


「否定しろよ! どれか1つでも良いから!」


「大切なのは自分が成長していると思うこと。信じることは力になる」


「それで成長出来てないから未だに1になれてないんだろうが……」


 ニーナがポジティブなのかネガティブなのか時々わからなくなる。


 このニャンコは『前向きに倒れたい』とか『倒れるぐらいなら立ち止まる』とか平然と言える子なのだ。


「まさか電脳空間も誰かに手伝ってもらってるとかじゃないだろうな?」


『それでは1試合目の選手の入場です! セイルーン王国が生んだ期待の星。ロア商会所属ロアレンジャーから、ロォォア……ブrrrァァラーーーック!』


「次。わたしの出番だから」


 どこぞのウナギ目アナゴ科に属する魚類さんのような巻き舌で紹介されたニーナは、これ幸いとばかりに俺とのやり取りを切り上げて舞台中央へ向かった。


 今を凌げば済むと思ったら大間違いだ。終わったらジックリタップリ聞いてやる。


 それはそうと、俺にはわかる。ニーナはこれまでの試合とは比べものにならないほど盛大な歓声に迎えられてビビっている。


 遠目と無表情コンボでカバー出来ているだけ。幸か不幸かは不明だ。



『対するは総戦闘時間わずか50秒! 正体不明の闇魔術使い、エクシードクルセイダーズのミスタァァァエェェェーーーム!!』


「カカッ……獣人ごときが俺様に勝てるかな?」


 纏っていたフードをバッと脱ぎ捨て、代わりとばかりに圧倒的闇のオーラを身に纏って舞台に上がるミスターMこと元魔王。


 何が嬉しいのか、ただでさえ大きな口をさらに開いて高笑いしている。もしかしたらニーナの動揺を『己に対する恐怖』と捉えているのかもしれない。


「アイツについての豆知識は? あるんだろ?」


「その昔、オラトリオ領で王族をしている『おうぢ』ことジークさんと戦って引き分けた猛者ですね~。引退の理由は統治より戦闘向きだったから~。その点もジークさんと似ていますね~」


 待っていましたとばかりに次々に情報を出すユキ。


 以前おうぢの戦いを見た時は、俺は目も感覚も研ぎ澄まされておらず、その実力の一端を垣間見することすら出来なかったが、取り合えずヤバい相手のようだ。

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