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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百七話 王女争奪戦Ⅻ

 精霊を具現化・変化させた際に発生する衝撃波。


 創り出した物質を超加速させた際に発生する空間の軋み。


 エネルギー体はそれ等を纏ったまま閃光となり、俺と対戦相手、さらにはその奥にある観客席を繋ぐ一条の線となった。

 

「…………は?」


 あまりの速さに身動き一つとれなかった男は、光が収まった後も、レーザー発射前と同じ大勢で呆然と立ち尽くしていた。


 死を覚悟したのに何故か助かった。


 そんな顔だ。


「アレに破壊力なんてねーよ。凄いのは見た目だけ。物理ダメージはほぼゼロだ。あっても魔力が吹き飛ばされた時の違和感ぐらいのもんだ」


 会場も男と似た空気になっていたので仕方なく自分で説明することに。


 荷電粒子砲と言えば聞こえは良いが実際はレーザーポインターのようなもの。実体のないエネルギーをぶつけられて痛がるわけがない。


 人体にも無害だ。何せ『精霊』だからな。取り込もうと思えば取り込めるし、分解しようと思えば分解出来る。まぁフィーネですらどちらも初見では無理と言っていたので人類には不可能なことだろうが。


「えっ、えっ、それって意味なくね?」


「なんでだよ。化学反応じゃなくてそこで生まれるエネルギーに着目した世紀の大発見だろうが。ここはそういうのを見せる場だろうが。言っとくけどメッチャ難しいからな。国家資格をいくつも持ってるヤツでも一生掛けて挑戦して出来るかどうかってレベルだからな。

 でも俺はそれを使って新しい事業に取り組もうとしてる。有能な連中を集めてな。イブもそのメンバーになって欲しい。力を貸してほしい。

 そういうアピールを全乗せしたのが今のレーザー光線だ」


 あまりの衝撃と興奮で大会の目的を忘れた男と、一部観客のために、さらなる説明をおこなう。


 イブへの白出しも忘れない。


 彼女が手に入れた力は誰かに教えられたものではなく自分で辿り着いた真理の先にあるもの。あらぬ誤解を受けかねない魔科学会議の存在は闇に葬り去るべきだ。


 俺達の物語はここから始まる。


 そしてこれはリニアモーターカーの基礎。仕組みの第一段階を披露したと言うべきか。俺達も半年前まで理論だけだった。それを成果にしたのは大きな一歩だ。


 果たしてこの中に遅れを取り戻せる研究者・技術者・実力者がどれだけ居るのか。今のレーザー撃てるもんなら撃ってみろ。破壊力持たせられるもんならやってみろ。俺達を超えてみろ。


 そんな世界に向けた挑発でもあった。




「フフフー。微塵も残さず結界が吸収出来る素晴らしいエネルギーでしたねー」


 圧倒的科学力に加えて、唯一の戦闘手段を失った相手がギブアップした後。自軍のベンチに戻るとユキが話し掛けてきた。


 フィーネ以外に見せたことはないのだが驚愕するほどではなかったらしい。


「そりゃ良かった。ぶっ壊しちまったらどうしようかと思ってたからな」


 若干の悔しさも相まって俺はいつも通り皮肉で応戦する。


「アリシアさんの時は結界が弱くなってたんですぅー。想定してたより皆さんの攻撃が弱くて結界を維持するだけの魔力が足りなかったんですぅー。もっとバンバン撃ち込んでくれると思ってたんですぅー。私の結界はエーテル結晶の荷電粒子砲にも負けませんー」


「流石にそれは無理だろ……」


 今回使用したのは自作のマテリアル結晶だが、物質の枠を超えたエーテル結晶の場合、今のレーザーに『プラズマ』という新エネルギーを加えた超火力兵器となる……かもしれない。


 個人的にはブラックホールに近いものになるんじゃないかと思っている。


 まぁ使い道が違うので試しようがないんだが。


 必要なのは持続可能な力。ブラックホールを決して崩壊することのない出力装置に押し込むのが、俺達の取り組んでいる作業だ。


「何よあれ。バリバリ精霊術じゃない。使わないんじゃなかったの?」 


「変な言いがかりをつけるのはやめてもらおうか。俺が気にしてたのは伝わるかどうかだ。見た目が派手なら理解してもらえるから問題なし。もちろん出来る限り自力で頑張るけどな」


 次なる刺客。ルナマリアからの言及を華麗に躱す。


「ぶっちゃけもう出しきったから負けていい。あれさえ見せられれば満足だ。そもそもあんなの高速戦闘に持ち込まれない相手にしか出来ないことだしな。戦い方みたけど結構肉体派っぽかったし、その次はガチ勢だし、もう無理だろ」


 何より炎●黒龍波を放ったみたいに右腕が使い物にならない。某ゲーム機のアイコン操作のようにブルブルしっぱなしだ。握力も半減。リアルに今日一日箸より重い物が持てないかもしれない。


 やはりあれは個人で操るには過ぎた力だ。


「言い訳臭いわねぇ」


 うっせ。 



「こ、ここ、殺す気かああっ!」


「これは人聞きの悪い。私はルーク様の頑張りに報いただけですよ」


 そんなことをしていたら第2試合が始まっていた。


 眺めてはいたが凝視してはいなかったので何が起きたか把握出来ていない。フィーネが攻撃を喰らったと思ったら相手が批難するように叫んでいたのだ。


 会話に参加していなかったニーナなら見ていただろうと尋ねると、


「たぶん相手の放った魔術の一部を逆流させて体内爆発を引き起こした」


「それは……気の毒に……」


 当たり前のことだが生物は何かを出している時はそちらに集中して無抵抗になる。右手で攻撃、左手で防御のような攻防一体も不可能。


 深呼吸で体内の空気をすべて出し切った直後に風呂に沈められたら即死するし、気持ちよく吐いている時に吐しゃ物が鼻腔に入り込んだら苦しい……はなんか違う気がするな。


 ま、まぁニュアンス的にはそんな感じだ。


「『ホースで水やりしてたら出口を塞がれて暴発した』で良いんじゃないの?」


「そんな次元じゃないだろ。点滴の中身が劇薬だったようなもんだぞ。しかもあの怒り様からしてちょっと入れてから知らせてるだろ」


 怒りの中に不安や恐怖が混じっている。後遺症が残らないか不安で仕方がないのだろう。


「あれで不安がるのは自分の体のことを知らない無能だけよ。フィーネは悪くないわ。むしろ感謝しなさいよ。魔力の新しい使い方を教えてやったんじゃない」


「それはそうなんだけどさ……」


 あまりにも身近なもので皆が自覚していないが、人体や魔力は危険物だ。使い方や治し方を知らずに使えば恐ろしいことになる。


 戦うなら、研究するなら、天下一武闘大会に参加するなら、そのぐらいの基礎知識は身につけておくのがマナーというもの。


 フィーネはレベルの低さを指摘したに過ぎない。


 まぁ気の毒なことに変わりはないんだけどさ。普段なら口で言ってくれるし。運が悪かったということで。


「てか『たぶん』ってお前でもわからなかったのか? それともこっちの話に気を取られてたのか?」


「真面目に見てた。でも何をしたのかわからなかった」


 悔しさを滲ませながら言うニーナ。


 もしかしたら俺が注視していても状況を理解出来なかったかもしれない。それなりに強くなったつもりだが、神獣の眼力を超えているとは到底思えないのだ。


「フィーネさんも言ってたじゃないですか~。ルークさんの頑張りに恥ずかしくない活躍をしようって。あれは本気と書いてマジでしたよ~」


 若者言葉と思いきや江戸時代から使われていた由緒正しき言葉だったりするものを持ち出すな。『ムカつく』『ヤバい』『ビビる』もそうらしいな。


 それはそうと、


「そこまで行くと逆に無駄じゃね? 誰も理解出来ない凄さってダメじゃね?」


「解説入れたら問題ないでしょ」


 ルナマリアの言う通り、フィーネは相手が手出しできないのを良いことに、臨時授業を開始していた。一分の隙も無い二段構えだ。



「わたしも負けてられない。次。出たい」


 俺とフィーネの見事な戦いっぷり刺激されたニーナから、出番を変えてくれとの要望が入る。


 事前に決める必要があるのは出場選手のみ。順番は自由なので5戦目から3戦目に変えることは問題ないのだが、あまりやり過ぎるといつぞやの学園祭のように周りそっちのけで身内で優劣を争う事態になりかねない。


「ちなみにプランは?」


「魔力を上げて物理で殴る」


 ふむ。いつも通りだ。


「想定火力は?」


「ユキの結界がなかったら外国まで飛ぶぐらい」


 後のない相手チームはリーダーの関西弁が出るつもりのようだが、そこに触れないということは相手が誰だろうと関係ないのだろう。


「なら良し」


「良いの!?」


 我がチームのツッコミ担当のルナマリアからすかさず指摘が入る。


「だって結界あるし。どれだけ高速で叩きつけられても一般人には凄い攻撃ぐらいにしか思われないだろ。わかるヤツにしかヤバさ伝わんないだろ」


「この子が本気で殴ったら結界内だろうと流血するわよ」


「ハウスっ!!」


 ユキが否定しない。俺は迷うことなくニーナに待機を命じた。


「むぅ……」


 むくれてもダメです。


 アリシア姉の魔法でちょびっと怪我しただけで凄まじい騒ぎになった。血なんて流そうもんなら何が起きるかわからない。今更感が凄いが王国の歴史を揺るがす事件の当事者にはなりたくない。


 ここは順当にルナマリアに活躍してもらうとしよう。

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