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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百五話 王女争奪戦Ⅹ

『学問も、技芸も、どれだけ磨こうが決してゴールに辿り着くことはない。それでも人は進むことをやめない。厳しい修行の果てにあるのは成功か、はたまた挫折か。戦士よ。己のすべてをぶつけ合え……王女という名の栄光を手に入れるために!』


「「「わああああああああああッ!!!」」」


 天下一武闘大会、2日目。


 初戦を勝ち抜いた16チームが集う会場に実況の口上が響き渡る。観客達はもちろん俺達の心も奮い立たせる素晴らしいものだ。初日も思ったがプロは凄い。


『さあっ! 始まりました、セイルーン王国第4王女イブ=オラトリオ=セイルーン様を賭けた運命の対決! 2日目の実況は引き続き、わたくし、マイクがお送りいたします!』


『同じく解説のジャンです』


『さて、2回戦、第1試合は大会立案者にして優勝候補と名高いアルフヘイム王国ですが――』


 2人が進行する中、舞台上から降りた俺達は、間もなく始まる試合に備えるなり出番が来るまで裏で待機するなり通路から観戦するなり、各々の対応を取る。


 自分達の試合が終わるまで外部との接触が禁止なのは言うまでもないが、ロアレンジャーは第4試合。結構暇だ。


「試合を観戦すれば良いじゃないですか~。王城で出会った人達も全員残ってるんですから応援すれば良いじゃないですか~」


「するよ。するけどお前だって初日の見ただろ。あれで期待しろって方が無理あるだろ」


 俺は前日の様子を思い出して肩を竦める。


 本大会のルールにして絶対条件は、如何にイブの興味を引けるか。


 勝ち負けは二の次なので余裕があるなら戦闘で手の内を隠すのわかるが、研究成果のお披露目はいつ負けても良いように全力を出すべきだ。初手でイブのハートにバチコーン行ったら実質優勝。他は消化試合でしかない。


 にもかかわらず、32チームの中で俺が興味を引かれたのは3チームのみ。


 発動時間が足りなかったり大舞台で緊張して失敗したりということもない。パーフェクトプレイで「え、これで終わり……?」と思わず言ってしまう出来だった。


「たしかにみんな着眼点は面白かったよ。でも先に繋げるプランが机上の空論じゃん。アレなら情報だけもらえば良いよ。現地でジックリ指導&研究する気なんて起きないって」


 例えるなら小学生の自由研究。


 ほほぉ~と唸る部分はあれど、そこから発展させて科学の未来のために役立つかと言われればNOだ。商品化して100円均一に並ぶのがせいぜいだろう。


「物理法則や精神世界を『そういうもの』で終わらしちゃってんだよなぁ……出来ないから仕方ないんだけどさ」


「人類に期待し過ぎですよ~。辛うじて精霊が見えるだけのか弱い種族に、化学反応の裏側なんてわかるわけないじゃないですか~」


「それはそうだけどさぁ。国単位で動いてこれだろ? 流石に将来が不安になるというか、イブの核融合&分裂の理論を意図せず悪用されそうで怖いって。中途半端に理解してる分、何をするかわからないじゃん」


「良いじゃないですか~。世界はトライ&エラー&デストロイで発展してきたんですよ~。1億や10億の犠牲はつきものです~」


「多ッ!!」


 い、いや、まぁ歴史に残るような画期的な発明……刃物や乗り物や火や薬なんかは兆単位でやらかしてるだろうけど。核関連だけでも億は行ってそうだ。


「大切なのはルークさん達のような理解者がどれだけわかりやすく伝えられるかですよ~。100年足らずの短い期間で『出来ない』を『出来るかも』にするんです~。もちろん無茶しない程度の知識も添えて~」


「……頑張ります」


 いつの間にやら社会の歯車ならぬ世界の歯車になっていた。今後の世界を担う大役を任されていた。


 実際どうするかは次の世代の連中次第なわけだが。どれだけ禁止されても使うヤツは使う。


「実力を隠してるにワンチャン」


「それな」


 俺は空気を読まない(読んだ?)ニーナの発言に従い、未来への期待と不安を一旦思考から追い出して、絶賛開催中の試合に集中した。 




『そこまで! 3対0でダークネスロードの勝利です! まさかのアルフヘイム王国の敗退~!』


 知らない仲ではないし、以前エルフの里に行った時に別の王子と交流したし、何より婚約者争いをしていることと研究成果とは無関係なので応援していたのだが、優勝候補筆頭はアッサリとストレート負け。


「やはり来たか。全員がフードで顔を隠していて、観客を恐怖のどん底に陥れた有名な壊し屋を1回戦で圧倒し、今回も明らかに手を抜いていて、誰も彼等のことを知らず、読心術も通用しなかったから怪しいとは思っていたが……」


「それは本命ダークホースだー」


 意味がわからないようでわかる不思議言語。


「ちなみに俺は名前から魔族だと予想してるんだが? 顔出しで参加してる連中よりもっと高位の。何ならどこぞの魔王一派」


「ぴゅるるるる~♪」


 尋ねられたユキは完璧な口笛で誤魔化す。苦節10年。ついに身に付けたようだ。


「ふん。随分と余裕あるやないか。ワイ等のことは眼中にないちゅーわけか」


「……誰だ、お前?」


 彼等と当たるとすれば準決勝。他にもダークホースは潜んでいそうなので、アルフヘイム王国の二の舞にならないよう、本腰を入れて参加者の実力を調べようとしていると、見ず知らずの男が絡んできた。


「忘れんな! チッタジの《レッツ》や! お前等と次当たる相手や!」


「あー、その関西……じゃなくて独特の口調、言われてみれば受付する時に居たような気がするわ。テンプレのオンパレードで記憶が定かじゃないけど」


「まぁしゃーないな。ワイも絡んだヤツは半分も覚えとらん」


「じゃあ怒んなよ。てか観戦の邪魔だからどっか行け。文句があるなら試合で見せろって言わなかったか? あと本当に勝つ気があるなら対戦相手に絡んでないで試合見ろ。そもそも対戦相手の待機所は別のはずだろ。こんなところに居たら運営に怒られるぞ」


「ぐ、ぐぬぬ……覚えとれよ! 目にもの見せたる! 後で後悔しても知らんからな!」


 ノリの良い者なら口論に発展し、試合でどちらが上か、どちらが正しいか証明する流れになるのだろうが、生憎俺は雑魚に構っているほど暇ではない。



「雑魚? 司会の人が超新星って言ってたのに?」


 男と入れ替わる形で、他人の評価を鵜呑みにしたニーナが尋ねてきた。


 1回戦をストレート勝ちしてしまったせいで出番のなかったが、特に気にした様子はない。いつも通りクールビューディだ。


「それは人間レベルでの話。あいつ等のヤバさに気付いてない時点で雑魚だろ」


 舞台上から立ち去った魔族チームを顎クイして言う。


「それだけの理由?」


「まだあるぞ。団体戦で1人しか個性的なキャラが居ないチームは、フィーネクラスの実力者が1人で無双出来るルールでもない限り負けるもんだ。

 というかまさかお前も気付てないのか? そんな感知系苦手だったか?」


「……? あのチームに比べたら全然ヤバくないと思っただけ」


「あのチーム?」


 ニーナの指さした方へと視線を向ける。


 そこには優勝候補の一角。焼肉で争っていた連中の1人(やたら肉の焼き方にうるさい筋肉ダルマ)と、見ず知らずの相手が立っていた。



「フッ!!」


 筋肉が一瞬で相手の懐に飛び込み、手から生み出した炎の槍を突きつける。と同時に魔術発動。


 相手も掌底ならば受け止めようとしたようだが、想定をはるかに超えた破壊力を持ったことを察して回避しようとするも、重力魔術によって引き寄せられてしまう。


 ザシュッ!


「チィ――」


 利き腕を犠牲にして辛うじて致命傷を回避。


 しかし筋肉はそれすらも予期していたようにさらに踏み込み、拳と拳の周りに生み出した魔法陣から雨が降り注ぐような連撃が襲い掛かる。


「クッ――」


 相手はそれを受け流してゆくが不用意に近づけない。防戦一方だ。


 が、それも筋肉にとってはジャブでしかなった。


「ハアァ!」


 攻撃しながら溜めていた魔力を無詠唱で解き放つと、筋肉の手に3mを超える巨大な槍が生み出され、超至近距離からぶっ放される。さながら波動砲だ。



「すご……って、これアピール戦闘だよな? ガチバトルはこれより上ってことだよな? え、マジでこっからレベル? 俺ついていけないんだけど? 普通に死ぬんだけど?」


 俺氏。技術者がフィールドを焼き尽くす業火を放つことにドン引きする。


 ドラゴンのブレス並みだ。防げなかったら終わる。ユキの結界のお陰で怪我こそ負わないが敗北はする。肉弾戦自体もすさまじいレベルだったし、あれを開始早々放たれたらヤバい。


「見えてるなら大丈夫ですよ~」


「偉い人は言いました。『目で追えることと反応出来るかどうかは別問題だ』と」


「反応出来ないなら反応しなければ良いんです~。なんで真っ向から戦おうとしてるんですか~。事前に防ぐ方法を構築しておくなり、撃たせないようにするなり、自分のフィールドに持ち込めば良いんです~」


 正論だがそこもまた出来るかどうかは別の問題だ。


(これ……関西弁の時に全力でアピールしておいた方が良いな)

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