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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百一話 王女争奪戦Ⅵ

 良からぬ噂を流したアンチ共の狙いは、おそらくロア商会の信用を失墜させ、さらには対応に追われた俺達が王女争奪戦への参加を辞退すること。


 普通の企業ならそれなりに効果があるし、実際これまでも似たような手口で好き勝手やって来たのだろうが、ロア商会には通用しない。それどころか攻める。


 ウチに隠れ蓑なんて無意味だ。焼き払った芋づるを復元して関係者一同を表舞台に引っ張り出す。見えないゴムが装着されているから逃げれば逃げるほど勢いよく引っ張り出される。逃げなくても優し~く頭を叩かれた後に同じ結末を迎える。


 匿名掲示板への書き込み自体は十中八九依頼された連中の仕業だが、知ってか知らずか関わっていることに変わりはないので、依頼主共々、ロア商会の恐ろしさを思い知っていただくとしよう。


 なーむー。



 そちらの処理……もとい処置は一部過激派に任せ、俺は愚行の温床となった『にーちゃんねる』の管理人の下を訪れていた。


 なんとも都合の良いことに彼女は休日。


「お前、知ってて放置しただろ?」


「そんなバナナ」


 自室でゴロゴロしていたニャンコに、さり気ないボディタッチを繰り返しながら事情を説明。半信半疑……いや、1信9疑ぐらいの割合で尋ねると、ニーナはいつも通りのクールフェイスでバカにしたように否定した。


 だが、俺的おバカランキングでイヨとトップの座を争っている彼女が、一切動揺せずに嘘を突き通せるなどあり得ない。即答もあり得ない。


 これは間違いなくあらかじめ用意していた答えだ。そして残念な答えだ。


「んじゃあ管理人として把握出来てなかったんだな? それはつまり無能ってことだぞ?」


「……その二律背反はズルい」


「うるせぇ! 俺は真実の探求者だ! 自分に有利なことを一方的に主張するなんて許さん! はぐらかして両方の良いとこ取りしようなんて甘いんだよ!」


 しかも大体は言及されても「それについてはもう説明したので……」と宣う。


 あれは悪い風習だ。お互いが納得するまで良い部分と悪い部分について話し合おうぜ。もっと一問一答やってこうぜ。やり逃げ、ダメ、絶対。


「体調不良になった。しばらく休む」


「そんなテンプレの逃亡手段を許可するはずないだろ。というか休むのここだろ」


 これを使う者は大抵不祥事の直後。


 精神的に追い詰められて体調不良になる可能性もゼロではないが、それなら曖昧な表現なんてせずにそう言えば良い。出来ないのは触れられたくないから。揉み消しついでに落ち着くまでの時間を稼ぐつもりなのだ。


 そして元気になったら何事もなかったように日常を送る。


 ニーナもここを乗り切ればそうなると信じているようだが、そんなことを許すほど俺は愚かでも忘れっぽくもない。ちゃんと答えるまで追求し続ける。


「人を疑うのは良くない。本人が調子悪いと言っているんだから信じて」


 たしかに彼女の言う通りだし、俺は疑うより信じて騙された方が良いと思っているタイプだ……いや、だった。


「わかってると思うが、本人が言っている以外に証拠は無いってのは、遠方に居るなどの理由で調べようのない相手かつ調べる手段を持たない関係ってのが前提で、俺はそのどちらにも当てはまらないからな。真偽確かめるからな」


 Newルーク様を舐めるなよ。さっき以上のボディタッチで体の隅々まで調べ尽くしてくれるわ。


 その言い訳は本当に苦しんでいる人達が居るから成立するもの。もし彼等の犠牲の上に胡坐をかいて「お前等のお陰で楽に休めるわ。サンキュー」などという精神を少しでも持っていたとしたら絶対に許さない。そこには悪意しかないのだから。


「女の子の日だから仕方ない」


「男が絶対に触れられない便利な言い訳やめろ!」


 躊躇なく言えていることから察するに本当なのだろう。


「ルークがこういう話を恥ずかしがらずに出来る女の子が好きだって知ってる。また1つわたしの魅力に気付かされてタジタジ」


「人の気持ちを代弁するのもやめろ。あと『生理現象だから恥ずかしがる方が間違ってる』とか開けっぴろげなのはちょっと違うから。風呂上がりに裸でうろつくのと同じぐらい違うから」


 例えるならスカートでジャングルジムを遊んじゃう女子。何がエロで何が下ネタで何が誘惑なのかわかってない感じが好きです。体育座りとか下着で水泳とかも良き。


「つまりルークはロリコン?」


「純粋無垢な異性を好む精神を小児性愛者と呼ぶのはやめろ。日常の中にある何気ないエロスを求めて何が悪い。作られたモノより作られていないモノ。あざとさなんて悪以外の何物でもないだろ」


「……にゃん♪」


「ヒャッハァーーー!! ニャンコ祭りの始まりだあああああああッ!!!」


 ベッドの上で女の子座りを少し崩してなまめかしいポーズを取ったニーナは、尻尾でウェイトレスのスカートを見せそうで見えないギリギリのラインまで持ち上げ、両手をクイッと丸め、小首をかしげて甘えた声を出した。


 俺氏、大歓喜。


「ふっ、あざといは正義……」


 悔しい、でも認めちゃう!




「ぶっちゃけにーちゃんねるの件はどうでも良いんだ。例えお前が誰に頼まれて無視してたとしても、な」


「――っ!」


 一息ついて話題転換を図る最中、まったく意図していない様子で口にすると、ニーナは全身をビクンと震わせて固まった。


 これが彼女本来の反応だ。


 どうせそんなことだろうと思っていたので気にせず話を続ける。


「何にしてもお前が製作に携わった新技術が悪用されたことに変わりはない。だからケリはお前の手で付けろ。武闘大会に参加して犯人達をボコれ」


「武闘大会……?」


「なんで知らないんだよ!? そこは当然の顔して了承するところだろ!? 誘ってくれるのを待ってたって言うところだろ!?」


 こちらは想定外。


 ニーナのリアクションに盛大にズッコケるも、すぐさま起き上がって盛大なツッコミで応戦する。


「神獣だからって何でも知ってると思わないで。わたしが知ってるのは知ってることだけ」


「そ、それはたしかに勝手に期待した俺も悪かったけど……お前はそれで良いのか? 無能さが際立ってるけど本当にそれで良いのか?」


「問題ない。期待してない人が活躍することほど好印象なことはない」


 びしょ濡れになっている捨て猫に無言で傘を差し出す不良。


 いざという時は率先して動く昼行灯。


 普段文句ばかり言っているのに情に厚く仲間のために身を投げ出すヤンキー。


 ギャップ最強!!


「でも周りを見返したいなら普段から有能な方が効果的だと思うぞ。これならバカにもされないし」


「それが出来るならとっくの昔にしてる……」


 習得や理解までの時間が人一倍掛かる上、その頑張りも空回りすることの多い、幸薄い人生を歩んでいるニーナは遠くを見つめて悲しそうに呟く。


「……ゴメン」


 気まずい空気が流れた。



「あちゃー。ルークさんも空回りしちゃいましたね~」


 そんな時でも颯爽と現れる救世主ユキが居れば大丈夫。


「フィーネの方はもう良いのか? 殺意治まったのか?」


「モチのロンですよ~。私にかかればフィーネさんの怒りなんて3時間で治められるんです~」


 やってやったぜ感を出しながらサムズアップするユキ。その割には結構掛かっている気がする。3時間怒り続けることも中々ないが。


「まぁ良いや。んで、暇になったから様子を見に来たら、俺が残念なことをしててからかいたくなったと?」


「失敗してる人を見たらからかうというのが精霊王の仕事の1つなので~」


「ウソつけ。てかアレを失敗というのは認めるけど空回りではないだろ」


「いえいえ。気合入れて徹夜で一番目に並んだのに、二番目がその10時間後に普通に来ちゃったぐらい空回りでしたよ~」


「どんだけ残念なんだよ、俺ッ! 間違った注意1つでそんなことになる!?」


「ちなみに場所はパチンコ屋~」


「全6イベント日!?」


 ちなみに全6というのはスロット台の設定のことで、出玉を左右するこの最高値の6は平均で自給1万円、上振れすれば日給30万円も夢ではない。


 俺が遊んでいた頃には無くなっていたが、聞いた話では徹夜は当たり前だったらしい。まぁ10時間後まで他に誰も来ないということは、全6というのは嘘のボッタクリ店なんだろうけど。てか普通に虚偽広告で犯罪だ。


 話は逸れるが、賭け事は決して悪ではないと俺は思っている。


 人類があれだけ熱中するものに何故興味を示さないのか不思議でならない。人生を損しているというのはこういうことを言うんじゃないか? 楽しみを知ることをやめるな。賭け事に限らず前向きにチャレンジしてみても良いと思うぞ。もちろん自己責任で。


「もしかしてわたし……空気……?」


 大丈夫。いつもだから。お前とフィーネは二大空気だから。




「つまり親同士が勝手にしたもの、それも他に良い物件が見つからなければって条件付きとは言え、イブは色んな権力者と婚約関係にあったってわけだ。口約束の『行けたら良く』『出来たらやる』と同じぐらいの効力だけど、あるにはあるから、ロア商会の力と技を知らしめて諦めさせようって話」


「イブは多方面に手を出すビッチってこと?」


「なんでそうなる。親同士が勝手に決めたっつっただろうが」


 事情を理解していないニーナに説明するも見当違いの解釈をされてしまった。流石だ。伊達にアホの子代表を名乗っていない。


 本人も興味を引かれたところならどこでも嫁ぐみたいなノリだが、それはまぁ置いておこうじゃないか。


「じゃあルークとの婚姻契約にサインせずに口約束を優先したイブの両親が悪いってこと?」


「それは王族だから仕方ないんじゃないか? 血を途絶えさすわけにはいかないし。口約束はお互いに取り合えずキープだからそうじゃなきゃ困るだろ?」


「10年もすれば国の情勢は変わりますし色々な人と出会いますからね~。公表されていないことなので、別の国と仲良くしたいと思えばそれ相応の代償は払って簡単に破棄出来ますし~」


「……? それをしなかったセイルーン王国は悪いんじゃないの?」


 た、たしかに……王族間ではよくあることだし、その気になれば破棄することも出来たはずだ。


「まさかこれも強者やセイルーン王家の策略!?」


「ククク……ようやく気付きましたか。しかし一足遅かったですね。既に参加者として登録させていただきました。リタイアは認めませんよ」


 と、ユキがいやらしい笑みを浮かべる時は大体違うので一安心して。


「ま、他種族まで参戦したのは想定外だったんじゃないか。イブが前向きってのと合わせて、他国との関係を一掃するために武闘大会を開催することにしたんだろ」


 今回はセイルーン側がそうだったってだけで、アルフヘイム側がロア商会みたいな凄い連中と仲良くなっていた可能性はある。


 物語に出てきそうな大恋愛の末にくっ付くなんてことも……。


「貴様が王子をたぶらかした悪女かー。許さんー。一族郎党皆殺しだー」


「それな。そうならないように皆が納得する形にしたって感じだろ。偉い人の血は命より重いけど、金はそれよりも重いし」


 それは歴史が証明している。



 とにもかくにもニーナ参戦ということで……、


「まぁ私は反対ですけどね~」

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