千百話 王女争奪戦Ⅴ
「優勝候補達の技術力調査や戦力分析って意味では実りのない食事会だったけど、イブの婚約者としては『権力に任せて無理矢理』な輩が居ないことを知れた有意義な時間だったな。場外乱闘は見てて楽しかったし」
食事会という名の顔合わせ終了後。
与えられた部屋へと戻ってきた俺は、メイドさんが運んできてくれる肉料理を心待ちにしつつ、フィーネとユキと数分前までおこなわれていたイベントについて語らっていた。
「その割に食べたら帰る気でいるのはホワィ? 楽しかったなら大会当日まで泊まって行けば良くなくnight?」
「意味もなくエセ魔道言語を挟んだ直後にガチ魔道言語を入れるな。そしてなんかカッコいいからって『ナイツ』って言うな」
「クエッションにアンサーしたらビフォーアフターをマインドしま~す」
絶対間違っているのに何を言っているか理解出来てしまうのが悔しい。『クエッショッ』『ァンサ~』『ビッフォ~アッフツァ』『マインッ』とイチイチネイティブっぽさを出したり強調してくるのもウザい。
異文化コミュニケーションってこういう感じなのかもな。コイツは違うけど。そしてツッコまないけど。
「あれは珍獣みたいなもんだ。遠くから見るだけなら楽しめるけど、二度、三度となると飽きるし今後も交流を続けたい相手でもない。手の内を晒す気もないようだし、さっさと帰ってメンバー集めに励むのがベストよ」
「あーっ! 今、珍獣と書いて強者と読みましたねー! フィーネさんのことバカにしましたねー! 友人としては黙っていられませんよ! ぷんぷん!」
「文句を言うのは、再会した人間達の反応で『よく来てくれた!』と『あ、ど、どうも』のどっちが多いか、または割合はどの程度のもんか答えてからにしろ」
「さあ! フィーネさん言ってやってください!」
自分の話をしないのは出来ないからだってばっちゃが言ってた。
「まぁまぁそんな話は置いておいて」
話を逸らすのは図星だからだってじっちゃも言ってた。
あと勝手に巻き込んでおいて無視するヤツは友達無くすって親戚のおばちゃんが言ってた。
「本当の友達はそんなことでは居なくなりませんけどね~。あと『そんなこと言うヤツはロクでもない』とかいう暴論は、負け犬の遠吠えなので気にしなくてオッケ~。金持ちは金銭感覚マヒして不幸な人生歩むことになるぐらい無理矢理です~」
チッ……コイツ、人の心ってもんをわかってやがる……。人の不幸は蜜の味って言うしな。成功者は妬まれてナンボだ。
「ただそれとこれとは話が別だけどな。人の振り見て我が振り直せ。あいつ等の惨状、お前の目にはどう映ったよ?」
「ルークさんは人の分まで奪ったことが許せないんですよね~?」
他人の気持ちを代弁するのはアンチだってネット社会が言ってた。例え真実でも本人の口から出る前に言うべきことではないって言ってた。
それは虎の威を借る狐だって。
「ルークさんは人の分まで奪ったことが許せないんですよね~?」
無限ループって怖くね?
「ルークさんは人の分まで奪ったことが許せないんですよね~?」
「ったく……」
俺は、親友の言動と食事会の様子、2つの意味を込めた溜息をつき、すべてを呑み込んで会話を続けることにした。
「早食いだか大食いだか知らないけど人の分まで取るなっての。注文した品が届くまで大人しくしてろっての。あんなのバイキングで1品だけ食べ続けて品切れにするぐらいの蛮行だろ。今度同じことがあったら確実にブチギレるぞ」
逆に何事もなかったかのように仲良くされてもそれはそれで困る。
連中の1人が「決着は大会で」と言っていたのに、それまでの期間は敵味方関係なく和気あいあいと過ごすライバル達を見た俺はどうしたら良いんだ?
イケメンが「これ使えよ」と傘を貸してくれたのに、別れた直後に赤信号になってびしょ濡れになってるぐらい対応に困るぞ。
スポーツ漫画でダークサイドに堕ちてるキャラだって普段はちゃんとした生活を送ってるんだ。テスト勉強したり、ファッション雑誌読んだり、お年玉もらったりしてるんだ。小遣い貯めてゲーム買ったりするんだ。
みんな、そういう姿を見た時どうするよ? 硬派気取ってるヤツがルンルン気分でデートしてる姿を町中で見かけたら? 18禁コーナーで遭遇したら?
俺は現実から目を逸らしてあげるのが優しさだと思ったので、着替えや休憩がてら食べられなかった肉料理を堪能したら王城を去るつもりだ。
「ククク……そう上手くいくかな?」
「……なんだと? ま、まさかメイドさんが遅れている理由って!」
教えられた時刻より到着が遅れていることに違和感を感じていた俺は、いつものユキの茶番トークにもつい本気で乗ってしまう。
「そうですよ……あの駄作を生み出した王子がイチャモンをつけているんです。『肉は無くなったはずだろう』『どこに持って行くんだ』とね」
「クソがあああああッ!!」
即座に感知術を発動。別館の出入り口付近に2つの争う存在を見つけ、そこへ向かって猛ダッシュ……というか窓から飛び出した。
肉を食べたいのは俺の我がままだ。王城の人達に迷惑を掛けるわけにはいかない。
「死にさらせえええええ!!」
「なっ、なんグァァァ!?」
落下速度をプラスした踏みつけをお見舞いすると、ゴミ王子が『なんだ』と『グワアア』を合わせたような悲鳴と共に激しくバウンド。吹き飛んでいく。
「こ、これは立派な暴行だぞ!」
が、傍に居た護衛に助けられてすぐさま復帰。
メイドさんだけでは飽き足らず、救世主にもイチャモンをつけ始めた。
「やかましいッ! 言っても聞かないようなヤツにはこうするしかないんだよ!
そもそもこれが暴力なら、股間を弄ってる子供に『そこは大事な場所だから』『ばい菌が入るといけないから』と本当だけど真実ではないことを教えるのだって暴力だ! 相手が無知なのを良いことに、対話での解決を放棄して問題を先延ばしにしてるんだからな! お前、力で無理矢理正すのと嘘で無理矢理納得させるの、どっちが悪かわかんのか!?」
「訳がわからない! 貴様は何を言っているんだ!?」
「教育には正義しか存在しないってことだああああッ!!」
ザワザワ――。
「くっ……覚えてろ!」
騒ぎを聞きつけた兵士達が集まってくると、俺に恐れをなしたのか、言い訳が難しい状況だったからか、ゴミ王子は本日二度目となる捨て台詞を吐いて立ち去った。
「わかった! セイルーン王国から遥か東にあるルマット王国の第三王子《エリエクト=イ=ルマット》王子!!」
「口に出すなあああああ!!!」
まぁ1回目と同じくからかわせてもらったが……。
「ちなみにあれはまだマシな方ですからね~」
「……? 何の話だ?」
「婚約者のことですよ、ルーク様。あの場に居たのはセイルーン王国と友好な関係を築こうとする者達。セイルーンのことを見下し、結婚相手のことを道具のように考えている者は、そのようなことに時間を使ったりはしません」
「つまり敵は他に居るということさぁ~」
あれが上澄み? 嘘だろ?
何事もなくヨシュアに戻ってきた俺は、夜も遅いので勧誘を明日に先延ばしてベッドイン。
「おはよ……う……」
翌朝。いつもより早めに食堂へ向かうと、
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
途中にあるリビングでフィーネが恐ろしい笑みを浮かべて立っていた。
「ど、どうしたんだ?」
「これだよ……」
当然というかなんというか、彼女から離れて食堂に集まっていた約半数の家族に事情を尋ねると、レオ兄がケータイを差し出して来た。
画面に映っていたのは、匿名掲示板『にーちゃんねる』の、とあるスレッド。
「え~……オルブライト家は某国と裏取引をしている? ロア商会は○月×日に騒ぎを起こすも揉み消して謝罪なし? 会長はエルフと名乗っているが実はハーフエルフ? なんだこれ?」
「荒らしだね。ちなみにこれはほんの一部。僕達の個人情報や活動なんかも色々書かれてるよ。真っ赤な嘘から受け取り方によっては真実になるものまで、ね……」
「殺しましょう。書き込んだ者と、信じた者を、すべて」
辛うじて会話が成立する程度には復活したフィーネが会話に割り込んできた。
対象を抹殺する宣言を『復活』と呼ぶのであればの話だが。
主をバカにされ、家族をバカにされ、商会をバカにされ、エルフをバカにされたフィーネは激怒していた。そして病んでいた。
しかも厄介なことに彼女にはそれをするだけの力がある。
「ルナマリア! ルナマリア来なさいっ! 今こそエルフの凄さを世に知らしめる時ですっ!」
「呼んできますか~?」
「しなくていい!」
ユキならば一瞬でルナマリアに伝えることが出来るだろう。そして彼女は間違いなく飛んでくる。イヨも連れて飛んでくる。
人間より情報の方が上位の地球なら発見までに時間が掛かるor迷宮入りだが、情報より強者の力の方が格上のアルディアでは隠匿や雲隠れは不可能。
待っているのは結末の決まっている鬼ごっこだ。
しかも調子に乗った人類への見せしめとしてキッツイ罰……いや刑の。
「これって王女争奪戦関係ってことで良いんだよな?」
「だろうね。ルーク達が参加することを知った何者かが昨日の内に手を回してたんじゃいかな。これ以上騒ぎを大きくされなくなければ辞退しろって脅迫するために」
誰かは知らないけど逆効果なんだよなぁ……。
依頼された人は残念無念。喧嘩売る相手を間違えたな。
何も知らずに巻き込まれた人はドンマイ。来世頑張ろう。




