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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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七十九話 お好み焼きと恋2

投稿を始めて早3ヶ月。

ビックリするぐらいストーリーが進んでいません。


でも文字数だけは凄い事に・・・・あ、遊び過ぎた。


完結までの大筋は出来ているんですが、この調子だと1年以上かかりそうです。

気長にお付き合いください。

 食材を買い終えた一同はユキに案内されて合コン会場へとやってきた。


 その会場は集合した広場以上に全員が見慣れた場所だった。


「・・・・なんで会場が猫の手食堂なんだよ」


 全員の気持ちを代表してサイがツッコむ。


「さぁさぁ。遠慮せずに入ってくださいね~」


 だがサイのツッコミを気にすることなくユキは全員に入店するよう指示する。


 どうやらいつも飲んでいる食堂で合コン(?)をするらしい。


 猫の手食堂は本日、週に1度の定休日なので夕方にも関わらず客は1人も居なかった。むしろこの場所で飲み会が出来るように定休日に開催したのだ。



 この際、飲めれば良いかと納得した一同はユキに言われるがまま見慣れた木製ドアを開けて、店内へと足を踏み入れていく。


ガチャ。


「いらっしゃいませ。ロア商会、親睦会へようこそ」


「「「えっ!?」」」


 入店したメンバーを出迎えたのは、上司であり最高責任者でありドラゴンスレイヤーであるフィーネだった。


 自分たちの会長がウェイトレスの制服を着て接客をしていれば驚かない訳がない。


「フッフッフ~。私を忘れてもらっちゃ困りますよ~」


 今さっきまで店の外に居たはずのユキが、いつの間にかウェイトレスの格好に変身しているので合コン中はフィーネと共に接客をしてくれるようだ。


 フィーネ、ユキ以外にも普段食堂をやり繰りしているニーナとリリが居た。


 これでロア商会従業員は全員参加したと言えるだろう。



 フィーネは『1テーブルに5人まで』という条件を付け、各自で好きな席に座るように言う。


 未だ事情を呑み込めていないメンバーだが、会長から指示されれば素直に従うしかないので全員無言のままそれぞれ着席した。




 親睦を深めなければならないサイ、ノルン、ソーマ、ユチ、トリーの5人で固まって座る。当然メインであるソーマとトリーはお互い正面。


「どうぞ」


「ちょっと待て。何がどうなってる?」


 動揺を隠しきれない一同の下へ、いつも通りニーナが冷水を運んできてのでサイが捕まえて事情を聞いてみた。


 何故フィーネが接客をしているのか、定休日のはずの食堂が開いているのか、目の前に置かれている鉄板は何なのか。


「秘密」


「「・・・・はい?」」


「秘密」


 しかしニーナは頑なに説明しようとせず、黙々と各テーブルに置かれた鉄板を熱し始めた。


 彼女はおそらくフィーネかユキに口止めされている。


 唯一事情を教えてくれそうなニーナから「言わない」と拒否されてしまったら、事情を知らないまま流されるしかないだろう。


「あぁあああぁぁ・・・・か、賭けがしたい。フィーネ様とユキ様を相手にどれだけ立っていられるか、賭けが! 賭けがしたい!!」


 生粋のギャンブラー『ユチ』がウェイトレスをする2人を見ながら欲望を必死に抑えて震えていた。


「誰も挑戦するわけがないにゃ・・・・」


 トリーは娘のギャンブル癖に対して静かにツッコむ。




 そうしてサイ達が戸惑っている間にも、調理場ではルークとリリが忙しそうに料理を作っていた。


 ユキから事情を聞いたルークは2人の恋を進展させるイベントを提案。そのための下準備をリリと共にしていたのだ。


「フフフ・・・・恋する2人が一緒に分け合って食べる! 親密になるのにこれほど相応しい料理は他に存在しないだろう!」


「ルーク、手が止まってるニャ。2人で30人分作らないといけないニャ、テキパキ動くニャ」


「・・・・はい」


 リリにとってルークは命の恩人で料理の師匠なのだが、調理場は彼女の聖地。料理出来ないヤツは誰であろうと怒られる。




「なんか鉄板が熱くなってきたけど、これ大丈夫なの?」


 ニーナが起動させたテーブル上の鉄板をよく見ると煙も出始めている。


 見たことも無い料理器具が各テーブルで熱されて不安になったので、ノルンが食堂の新メニューかもしれないと思い、ユチとトリーに尋ねてみるが知らないと言う。


 そうしている間にもドンドン鉄板の温度は上がっていき、店内が熱気に包まれた頃、ユキがやってきた。



「フッフッフ~。私がマヨネーズとソースが絡み合った素晴らしい『お好み焼き』を紹介しましょう。

 皆さん! 各々が持ち寄った食材をテーブルの上に出してください!」



 ユキが指示すると同時に、フィーネとニーナがお好み焼きの生地が入ったボウルをテーブルに持ってきた。


「何このドロドロした液体・・・・野菜が入ってる?」

「飲みもん、じゃねぇな。これを焼くのか?」


 初めて見る生地に興味津々のノルンとサイは、鉄板で焼く食べ物だと判断して用意されていたオタマで生地を鉄板に流し込もうとする。


「こらーーーっ!! 何やってるんですか! 私が説明してるんですー! 勝手な行動をしちゃ駄目じゃないですかー!」


 今まさに流し込もうとしたオタマを一瞬でサイから奪い取ったユキは、2人を怒鳴りつけて注意する。


 別のテーブルでも数人が同じように焼こうとしていたので、そちらはフィーネが止めに入った。


 会長に睨まれてガタガタ震えているように見えるのは気のせいだろう。




 他にフライングをしていないか周囲を見渡した後、ユキが説明を再開した。


「おっほん、では説明を続けますよ~。

 皆さんが選んだ『おツマミ』をその生地の中に入れてください~」


「「「えぇぇええええぇーーーーーーーっ!!」」」」


「拒否する者は減給です」


「「「・・・・・・」」」


 自分が酒に最適だと思って買った食材を得体の知れないドロドロな液体に入れろと言われれば当然嫌がる者も多く、ブーイングの嵐だったが会長による静かな一言で鎮静化された。


「で、でも! アタシが持ってきたのオレンジだし。不味くなりそうなんだけど」

「俺のは・・・・食べれなくはないか?」

「やったぞ! ワシのは肉! 確実に美味いっ!!」


 各々が持ち込んだ食材を改めて確認して一喜一憂する。


 どのような料理だろうとも完成前から混ぜてはいけない食材の予想ぐらいは出来るものだ。


 しかし折角の合コンで個別に楽しむはずもなく・・・・。


「同じテーブルの人とは一蓮托生! 生地を残したテーブルは連帯責任で罰ゲームです~」


「「「なんだってぇぇぇーーーーーっ!!!」」」


 ロシアンお好み焼きパーティが始まる。




「で、では。私が焼きますにゃ」


 サイ達のテーブルではトリー自ら焼く係を担当すると名乗り出た。


 料理人として譲れないプライドがあるのだろうが流石はプロ。適度な焼き加減で1枚も失敗することなく次々とお好み焼きを量産していく。


「くっ・・・・マヨネーズとソースが絡み合って焼ける匂いが充満していく。早く、早く食べないと」


「鰹節が踊るだと!? コイツ、食べてくれと誘っているのか・・・・」


「トリーさんの手料理、トリーさんの手料理、トリーさんの・・・・・・」


 約1名変態が混じっているが、出来上がりまでの段階では概ね好評だった。



「マヨ・・・・マヨマヨ・・・・・・マヨマヨ~」


「はい、マヨネーズ」


 マヨラー精霊が充満するマヨネーズの香りにトリップして、その度にニーナがルークの作ったお好み焼きをユキの口に放り込む。


「マヨォォォーーーッ!!!」


 そしてその度に絶叫して正気に戻る、という作業を繰り返すウェイトレス達。




「よ、よし。食べるか・・・・」

「ぐっ。サイ、お先にどうぞ」


 見た目は美味しそう、匂いも素晴らしい、生地もきっとソースと合うように作られているのだろう。


 しかしこの中には自分たちが持ち込んだ食材が混じり込んでおり、食べなくとも確実に不味いとわかる食材もあった。


 一応自分の食材を中心に食べるので、ボウルは1人1つ用意されている。要は『美味しい食材のボウル』と『不味いハズレ食材のボウル』の2種類が明確に分かれているのだ。


 サイの前には見た目普通なお好み焼き、ノルンの前にはデカデカとしたオレンジ入りお好み焼きがある。明らかにハズレはノルンだった。



「いくぜっ! モグ、モグ・・・・・・」


「ど、どう?」


 苦い食材を混ぜたサイのお好み焼き。


 普段ならあまりの不味さに吐き出すサイを爆笑する場面だが、連帯責任と言われえた以上は自分も食べる羽目になるので美味しい事を祈るノルン。


「・・・・ありだな。まぁ好みはあるだろうが普通に食べられるぞ」


「うそっ!? ちょっと頂戴っ! ・・・・・・美味しい、かな?」


 ポックルの苦みが良い味を出していて、サイのお好み焼きは普通に食べられたので半分にしてあっさりと完食。



 問題はノルンのオレンジ入りお好み焼きだ。


「ううぅ・・・・こ、これ本当に食べるの? 不味いってわかるじゃん」


 焼けたオレンジが変な臭いを漂わせ、生地も固まらずドロドロのままのお好み焼きがノルンの前に積まれている。


「とっとと食べろ」


 どちらにしろ残すことなど出来ないのだ。食べるしかない。


「う~。じゃ、じゃあ・・・・・・グフッ!

 おぉぉおおぉ・・・・うぁぁああ・・・・・・うえぇええぇぇ」


 吐き出しはしなかったがブルブル震えだすノルン。


「そ、そんなにか? むしろ興味があるんだが。どれ・・・・・・オゥ」


 『好奇心は猫を殺す』と言う言葉がある。サイは己の愚かさを身に染みて理解した。


「な、なに? 生地がユルユルなのは仕方ないとして、オレンジの渋みが野菜の苦みを増幅して、オレンジの甘さが肉のえぐみを強調させる・・・・」


「しかも舌に残る強烈な味だ。腹に入ってからも胃の中でオレンジが自己主張し続けてるぞ・・・・・」


 2人は声を揃えて「不味い」と言いながらも頑張って消化していく。


 しかしボウルにはまだまだ残っていた・・・・。



 中々減らないオレンジ入りお好み焼きを横目に、ユチは自分の肉たっぷりな超絶美味しいお好み焼きを早々と完食。


「あれは2人で確実に処理してもらうとして、母さんとソーマさんは大丈夫そうだね」


 サイとノルンは犠牲になってもらうことにしたユチは救出を諦めて、本来の目的のため母とソーマを観察する。


「このトリーさんが買った小骨が絶妙な食感を生み出してますね。とても美味しいです。トト、トリーさんが焼いてくれたお好み焼き」


「ありがとうございますにゃ。ソーマさんの炒り豆も合いますにゃ」


「あ、あの! この2つの食材を混ぜたらもっと美味しくなるんじゃないでしょうか? 良ければ挑戦しませんか?」


 ユチの目の前には鉄板の上で2人仲良くお好み焼きを切り分けて食べているトリーとソーマの姿があった。



(おお? これだけ騒がしいのにいい雰囲気だぞ? ルークさん、やりますな)


 ノルンのオレンジお好み焼きほどではないが、周囲でも中々の惨状が広がっており、悲鳴や助けを乞う声が響き渡ってうるさかった。


 しかしトリーとソーマはそんな場所でも2人だけの空間を形成していたのだ。


 ウェイトレスとしてルークの世話になっていたユチは、陰の立役者が誰なのか理解していた。


 一緒に食材を買うことによる共感、一緒に料理を作る事による親和、そして互いの料理を食べてみたくなる好奇心、それらが一体となったとき2人の恋は進展する。


「な、なんて素晴らしい料理。まさに合コンのための料理と言っても過言ではない!」


「「え?」」


「・・・・ごほん。あ~、あっちも美味しそう~。私あっちのテーブルのお好み焼きも食べてくる~」


 ルークの料理知識を称賛するあまり、声に出して叫んでいたユチは何事もなかったかのように別のテーブルへと移動していった。



 お好み焼きは定番メニューにした猫の手食堂は、今後さらに賑わう事となる。

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