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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千九十四話 発覚

 俺達の取り組んでいる作業は、パズルのように足りない部分を後から組み立てるということが許されない、足並みを揃えてはじめて実現するもの。


 イブ1人習得が遅れているせいで進行出来なくなっているわけだが、誰一人責めることなく、それどころか全員復習する良い機会だと言って個別で再修業を始めた。


 そんなことをしても意味がないとわかっているのだ。


 人生とは永遠の未完の大器。絶対に辿り着けないゴールに向かって、走ったり、歩いたり、立ち止まったり、横道に逸れたり。これまでの人生で培った能力を存分に活かして突き進む。


 俺達は今回たまたま開拓された道を走れただけ。


 イブはたまたま壁にぶつかっただけ。


 これがもし実力不足で遅れているなら「これまで何やってたんだ」「そんなことも出来ないのか」と叱責した後、作業メンバーから外すが、俺達の中に彼女の実力に疑問を抱いている者など居ない。説教することなんて1つもない。


 助言することで解決するかもしれないし、彼女以外の人物ならアッサリ突破出来るかもしれないが、それはあくまでも可能性の話であり、さらに言うなら今回は個人の思想が重要視される案件。


 修行の邪魔になるといけないので大人しく待っていよう。




 俺はフィーネと、ヒカリ・コーネル・パスカルはユキと(ほぼ放置。炎に至ってはメルディ任せだが)、それぞれ専門家の下でさらなる修行に励むこと1週間。


 今日も今日とて、液体が滴り落ちるのをただ見ているだけのド●ホルンリンクルのCMばりに空気を眺めて1日を終えた俺は、部屋でダラダラしていた。


 コンコン――。


「どうぞ~。開いてるよ」


 私生活を便利にするために精霊術を使おうとも思っていないし、修行で疲労していたこともあって、ノックの主を特定することなく答える。


 ガチャリとドアが開いて入って来たのは、まさかのマリーさん。


「風の噂で色々凄いことになってるって聞いたんだけど……特に変わったようには見えないわね」


 彼女はベッドの上で固まる俺を2秒ほど注視した後、当たり前のことを言いながら部屋中央に置いてある椅子に腰かけた。


「そりゃそうでしょ。覚醒して容姿が変化するなんて創作物だけですよ」


 それだって半分ぐらいは変わらない。気合一閃、魔力を爆発的に増加させない限り、内に秘めた力を見抜ける人物がリアクションを取る程度だ。


 俺はベッドから起き上がって彼女の隣に移動。少し離れた場所にあった椅子を引き寄せて手と手が触れ合う場所に座った。


「……普通こういう時って正面に座らない?」


「まぁまぁ。そんなことより何のようですか? もしかしなくてもイブに何かありました? 通話じゃ話せないようなことが。長い話になりそうなことが」


「ええ」


 自分の席を移動させながら淡々と答えるマリーさん。


 俺は彼女と一夜を過ごす覚悟を決めた。深い意味はない。


「そのようなことを私が許すとでも?」


「フッフッフ~。『事実は小説より奇なり』『人生を綴った本は何より面白い』は強者の常識です~。ルークさんがどんな行動に出るか楽しみですね~」


 彼女面したストーカーと、他人の人生を視聴者目線で楽しむ厄介オタクも、当然のような顔で席につく。


「せっ!」


「ぬあぁ!?」


 まぁ事態を把握していたにもかかわらず報告を怠った後者には、座る直前に椅子を引き抜く『尻もちの刑』を言い渡させていただいたが……。


 人間相手にやると怪我するので絶対にやめよう。最悪一生モノだぞ。


「身体が無事なら大丈夫なんて、大間違いです……」


「うるせえ。黙れ。悲しそうな顔をするな。読心術なんて使わなくてもわかる。お前は一切傷付いてない。美味しいとしか思ってない」


「私が頑張ってそういう雰囲気にしていることに気付かないんですね、ルークさんは……」


 無視無視。




「ルーク君、ちょっと天下一武闘大会で無双してみない?」


「意味がわかりません」


 第一声で総括されても困る。


 俺が求めている情報はそこに至る経緯。天下一武闘大会とやらに出場して無双するかは、理由を確認してからでも遅くはないはず。なお出来るとは言っていない。


「読心術を使えるようになったんじゃないの?」


「アレはマリーさんが思ってるほど便利なものじゃありませんよ。話を聞く相手が人間から精霊に変わるだけで、交わすのが言葉ではなく想いなので時間短縮が可能になることや、嘘偽りない情報を仕入れられるぐらいしかメリットないです。基本的に一方的に読み取れるのは雰囲気だけですし、俺は私生活で使ってないのでそれすら無理です」


「ふ~ん。まぁ知ってたけどね。みっちゃんがそうだし」


 どうやら相手の力量を測るのは戦闘狂だけではないらしい。


「言っておきますけど精霊術が使えるようになったからって俺は別に強くありませんからね。たしかにドラゴンは倒せるようになりました。でも人間相手だと話は変わって来ます。精霊達は命の危機だったから手を貸してくれただけで、平和な人間同士の争いに関わったりはしませんから」


「そこまでの強者になってるなんて思ってもみなかったんだけど!?」


「ちなみにドラゴンの何十倍も強い『古龍』という地下世界に存在する魔獣も倒してます」


「人類最強!?」


「ただし精霊術が使えないとオークにすら勝てません。一応魔術でそれなりに応戦出来ましたけど、敵の口の中でじっくり術式を構築する時間が必要でした」


「どういう状況!? というか弱くない!? 流石にオークぐらいは自力で討伐して欲しいんだけど!?」


「ライフスタイルもバトルスタイルもスタイルも人それぞれですよ。良いか悪いかを決めるのは他人ではなく自分自身。俺はこれで良いと思っています」


「良いこと言ってるように聞こえるけど、つまり改善する気はないってことよね!? 研究一筋だから戦闘力は無くても良いってことよね!? 家族を守る気ゼロよね!?」


「大丈夫。魔獣に悪いヤツはいませんよ。盗賊も話せばわかってくれます」


「悪くないで済んだら警備兵も護衛も冒険者も要らないのよぉぉぉーーーー!!」


 と、人のことをからかった罪を償ってもらったところで、本題に入ろう。



「あれはイブが王都に隠されていた4つの鍵を見つけ出した翌日のことだったわ――」


 気になり過ぎるワードが飛び出したが、おそらくそれがイブの修行内容および習得した力なので詳しくは本人から直接聞くことにして。


「イブの婚約者が王城に来たのよ」


 結婚するのか、俺以外のヤツと……などと冗談を言っている暇も余裕もない。


「どういうことですか? 俺のことは遊びだったんですか?」


 ちなみに俺は帰宅してからずっとヨシュアに居る。つまりマリーさんの言う『婚約者』は俺以外のヤツということになる。


「随分と余裕あるわね。もっと焦るかと思ってたわ」


「マリーさんはまだ若いのでわからないかもしれませんけど、焦ってる時ほど冷静に対処する必要があるんですよ。第二次世界大戦ばりに核兵器で一掃することも辞さないので、今の内にノーベルやオッペンハイマー、テラーに話をつけておく必要がありそうですけどね」


「何を言っているの!?」


「安心してください。国に所属している精霊術師を集結させて使用する広範囲殲滅魔法より広範囲に、地獄の苦しみを味合わせるための脳内会議が外に漏れただけですので」


「何一つ安心出来る要素がなかったんだけど!?」


「フッフッフ~。ちなみにイブさんが手に入れた力は今ルークさんが言ったものに近いですよ~」


「私達が思っていた以上に危険なものだった!? 手に入れようと画策してる連中も絶対知らないわよね!?」


 ふむ……なんとなく状況がわかって来たな。



「王族は何かあった時のために複数の婚約者を用意しておくものなのよ。相手が死去したり、国の情勢が変わって結婚が難しくなったり、見た目や性格が気に入らなくてぶん殴って破談になったり、色々あるから」


 最後のはマリーさんの実体験っぽいと思ったのは内緒。


「セイルーン王家はルーク君を一番に据えていたし、昨今のロア商会の活躍のお陰で僅かながらに存在していた反対勢力も何も言えなくなってたんだけど、同時にイブの活躍も広まって二番手、三番手の連中が挨拶という名の脅迫に来たの」


「要するにそいつ等が邪魔だから内々に処理しろということですね?」


「違います」


 まぁそうだと言われても困るが……。


「個人的にはしてもらいたかったんだけどもう手遅れなのよ」


「……NTRは例え創作物でも寝取る方じゃないとブチギレるタイプの人間ですよ、俺は」


 優劣をつけたがるのは思考する生物の性なので『奪ってやったぜ、ドヤァ』はわかるが、寝取られて興奮する連中は何がしたいんだ? ドMの極地なのか? くっころ戦士気取りで『負けた……悔しい! ビクンビクン』してんのか? 例え身体は好きにされても心は貴方だけのモノと言ってくれる妻や恋人の愛情に興奮してんのか? 歪んでね?


「ちょ、ちょっと! 空気! 空気震えてるから! 感情抑えて!」


「ああ、スイマセン。イブが知らない男とベッドインしてる光景が頭に浮かんだもので、つい世界を滅ぼしそうになりました。フィーネ、ユキ、ナイス共鳴」


「「いえいえ……」」


 こいつ等ヤベェ。


 マリーさんの顔にはそんな言葉がありありと浮かんでいた。

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