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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千九十三話 成果

 千里眼の新たな使い道として、視野に入れた無機物を強制転移させる『心眼』を手に入れたヒカリ。


 人とは違う視点で世界を見ているが故に、破壊と再生を繰り返すことで強引に作り変えるという常人では思いつかない道を発見したパスカル。


 2人ともプラズマを生み出すのに役立ちそうな力や知識を身に付けていた。


「僕はバルダルで精霊について学んできた」


 大取が俺というのは事前に言ってある。何も言われずとも自分の番が来たことを理解したコーネルは、上がりに上がったハードルをものともせず話し始めた。


「知っての通り僕は素材の研究ばかりしていた。魔道具を作る際にあれこれ試行錯誤するより効率的だと思ったからだ。気が付いたら調べることが目的になっていたが、これは助言をしてくれた今は亡きコユキちゃんのお陰でもある」


「勝手に殺すな。契約期間が終わったから別の職場に行っただけだろ」


 悲劇のヒロインになろうとするコーネルの様子に堪らずツッコむ。


 大精霊は近くて遠い存在。今、俺達が吸っている空気にもコユキちゃんの魂は宿っている。例え大精霊が世代交代しても彼女の存在が消えることはない。彼女が生きた証は世界に永遠に刻まれる。


 それが、生きるための条件が揃っている箱庭を借りるだけの生物と、そのための環境づくりをする精霊の決定的な違いだ。


「何を言っているんだ。どれだけ身近な存在だろうと、いくら力をつけても会えないのは永遠の別れと言うべきだ」


「……知ってたのか」


「ああ。修行中に気付いた」


 そうなのだ。雪の大精霊コユキちゃんは二度とコーネルの前に姿を現すことはない。例えフィーネやユキクラスの力を手に入れて召喚しようとしても彼女は拒絶する。


 巣立った子供が親の元へ帰ることは許されないのだ。


「だが僕が泣き喚いたこととと今回の作業とは無関係だ。彼女との思い出は僕の中で生き続ける。その想いが修行でも役に立った」


 そんなショックだったんですか!?


 普段クールな人間がどれほど感情を露わにしたのか、非常に気になるので根掘り葉掘り聞きたかったが、冗談っぽく言っているだけでもしかしたら家族の死別ぐらいガチなやつかもしれないのでやめておいた。


 コーネルも成果について続きを話したそうにしてるし。


「僕は恩を仇で返したり忘れたりするようなゴミではない。これまでに蓄えた素材と冷気の知識をなんとか繋げられないか考えていたら、対極に位置する熱気を用いれば『物質』の枠組みを超えられることに気付いたんだ。

 以前ルークが分子について話した時に言っていたが、僕はそれとは別の、物質の外部から特定の操作を禁止している力……『プロテクト』を発見した。それを破壊する方法もな。

 もしかしたらパスカルと同じかもしれないが――」


 言いながらコーネルはいくつかの数式と記号をホワイトボードに書き始めた。


「あたしのとは違いますね。コーネルさんのは原子(精霊)ですが、あたしは分子(微精霊)自体に干渉して変化を引き起こすものですから」


 簡単な四則演算から一般人は頭が痛くなるようなものまで、様々な元素記号式が規則正しく並んだボードを、途中にもかかわらず理解したパスカルが別物と断定。


 コーネルもホッと胸を撫でおろす。


「あー、陰と陽、寒と暖、火と氷ってやつか」


 少し遅れて……というか最後までしっかり読んで俺も理解する。


 パスカルはアレだな。計算式を途中で飛ばすタイプだ。最後のこれいらんやろって答えを記入するやつだ。人に教えるのが苦手なタイプの典型だな。


「なんだ知っていたのか。だがその様子だとルークとも被ったわけではなさそうだな」


「まぁ同じ農業ではあるけど畑違いって感じだ」


 パスカルや、もしかしたら理屈を知ればヒカリも、俺が知った本当の世界の理とは微妙に違うが、それは神だか強者だかが仕組んだミスリードに引っ掛かっているだけ。


 だからこそ生み出せるものもあるはず。


 数式と同じだ。答えは1つでも辿り着く方法は無限にある。一番可能性のある俺が最難関の方法を選んだ(選ばされた)に過ぎない。


 その組み合わせが必須というなら俺は俺のすべきことをするだけだ。


 とにもかくにもコーネルは対極に位置する2つの精霊に干渉するだけの力を手に入れた……いや、その切っ掛けとなる力を手に入れつつあると。




「んじゃあ最後は俺だな。俺の成果は“これ”だ」


 パスカルやヒカリに説明した時にもしたことだが、彼等の身に付けたものを否定しないよう細心の注意を払いながら、俺は深層で手に入れたブツを差し出した。


「……何もないが?」


「はぁ……やっぱお前もそっち側の人間なのか……ガッカリだよ! 失望したぞ!!」


「気にしないで良いよ。わたしもわからなかったから。ルーク以外には認識出来ないものだから」


 俺がどういった人間を知っているコーネルは特に気にした様子もなかったが、念のためとばかりにヒカリからフォローが入る。


「これはこれは、分野が違うから必要ないのに、千里眼で識別出来ないものがあることが悔しくて再修行の旅に出たヒカリさんではありませんかぁ~。

 もう3度目ですけど、そろそろ見えるようになりました?」


「……ぶっころ」


 最後の一文字がなくても理解出来る。真逆の言葉になったり全然伝わらなかったりもするし、やっぱ国語っておもろ。


 今度縛りプレイ的な会話とかしてみようかな。


 たぶん子供の頃からそういうことして育ったヤツって語彙力ハンパないよな。なんでそういう遊びを教育に取り入れないのか不思議でならないよ。


「で、俺はいつになったら起き上がれるんでしょうか? 足腰に力入らないんですが? 賢者タイム3度目の野郎でもここまでにはなりませんよ?」


「賢者タイム……?」


「どうせロクでもない言葉だよ。起き上がれなくても説明は出来るでしょ。そのまましなよ」


 興味を示したパスカルをテキトーに流し、ヒカリは土下座のような姿勢で床に突っ伏す俺に冷たく言い放った。


 嫌いじゃない。


「これは化学反応を引き起こせるマテリアル結晶の最上位『エーテル結晶』だ。空気中にある。コーネルの言ってた物質の枠を超えた存在を俺も作れたってわけ。人に例えるなら肉体の鎖から解き放たれることで新次元の存在になる的な感じかな。

 で、コーネルとパスカルが手に入れた力でこれを何かして、ヒカリの生成した物質を組み合わせることで『プラズマ』は作り出せる……はず」


「曖昧過ぎる。何も伝わらない。具体的に何をするんだ?」


「わかれ。親兄弟から『ここのあれをそれして』って言われても何となく理解するお前等なら出来るはずだ」


「そんな主語を抜いた会話なんてしたことはない」


「ば、馬鹿な……全人類が日常的にしているものじゃないのか?」


 『あれ』『これ』『それ』は脳死トークの定番だろ? 用件を伝えるより会話することを優先した時、確実に採用される便利ワードだろ? お前ならわかってくれるよなって信頼の証だろ?


 それをしないとか不仲まである。


「それは知らないが、要するに詳しく説明する気はないんだな?」


 まぁ説明するとしたら世界の理から説明する必要があるし、それは3人の力を否定することになるから出来ないわけなんですけどね。


 一応、表五行と裏五行の壁を取り除くことでグラフで言うところの二次元ではなく三次元の変化を起こせるようになり、マテリアル結晶を液化し気化しても安定させられる、ってのがエーテル結晶を創り出す方法なんだが……。


(物理的にも精神的にも世界の仕組みを理解してないと意味ないからな。それぞれの思う正しさに向かって進めば良いさ)


 俺達は研究者だ。学校教育のように『これが正解だ! 他の方程式は使うな!』と強要することもされることもない。疑問は自らが解決しなければならない。


 それはこの仕組みを理解する第一歩でもある。


 あとやり方なんて知らん。それをこれから全員で考えるんだ。個人競技はここまで。こっからは全員で議論しながら実現に向けて動き出すターン。



 ……で、最後の1人イブは?

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