千九十二話 合流2
「じぃ~……」
「な、なんだ? 何故そんな目で僕を睨む? まさか、ユチとイチャついていたせいで習得が遅れたなんて、あらぬ疑いを掛けているんじゃないだろうな?」
パスカルに遅れること1週間。
故郷から帰還したコーネルは、挨拶よりも先におこなわれた肉体および精神状態のチェックにたじろぎ、自爆した。
「あらぬ疑いとはどのことだ? 実質2人きりなのを良いことにユチとイチャついていたことか? それとも習得が遅れたことか? まさかとは思うけど修めてないのに戻って来たなんてことはないよな? もしそうなら今すぐ計画から下ろすからな。『周りより遅れてる』は言い訳でも何でもないぞ。諦めるための理由に他人を使うな」
「そんなことは言われなくてもわかっている。勝手に決めつけて他人を罵倒するのもやめろ。言っていることとやっていることが矛盾しているぞ。ちゃんと力を手に入れてきた」
「『やることやって来た』の間違いじゃないですかねぇ~? ん~?」
普段ならまとめて否定するはずのコーネルが、前半部分には一切触れずに俺を責め始めたことで確信した。コイツは修行の傍らユチとイチャついていた。
人は真実を隠す時、話題を逸らして触れさせないようにするものだからな。
「とりま、お前の体に宿ってる精霊に、バルダルで何してたのか包み隠さず話してもらうわ。もちろん修行以外の部分を」
「やめろ。力を悪用するな」
と、自主性を重んじるようなことを言いながら人差し指と中指で何かを切断するような仕草をした直後、俺の精神は馴染みかけていたコーネルの魔力と分離した。
接続の強制切断。一種の結界だ。
そして信用されてない。
「信用してもらいたければフリだけにしろ。実行に移すな。まさか他の者達にも同じことをしているんじゃないだろうな?」
「……やるやん」
さらに読心術まで身に付けていた。
うんうん。ちゃんと成長しているな。俺は信じてたぞ。
――と、心の中で後方腕組みしてみる。
「答えろ。全員にやっているんじゃないだろうな?」
「どんな力を手に入れてるか気になるじゃん。このぐらい出来なきゃこの先ついて来れないじゃん。もし分野が違うせいで出来なくても俺の心の中だけに留めておくし」
「留めるな。消せ」
それは応相談ということで……。
「てかさ。いくら下地があったからってこんな短期間でここまで成長出来るもんか? 言っちゃなんだけどお前一般人だろ? なんで俺達に追いついてんだよ」
創作物ではマラソン大会の際、トラブルで遅れた主人公がライバルに追いついてデッドヒートからの勝利という定番パターンが存在するが、現実でそんなことは滅多に起こらない。
あるとしたらペース配分を考えずに全力疾走したせいで疲れて速度ダウンだが、よほどの実力差がなければ無理だ。たぶんアイツ等普通に走ったら圧勝するぞ。
――という脱線はこの辺にしておいて。
後発組のコーネルがアッサリ能力を手に入れているのは、プライドうんぬんの話を抜きにしても引っ掛かる。
(え~、知らないんですか~?)
(……神様が口出しするほどの問題なんですか?)
突然、神が介入してきた。
(というよりルーク君だけに話し掛けることが出来ない他の人達では言いにくいことですね~。プライバシーの侵害になっちゃいますし~)
(……聞きましょう)
驚いたものの疑問を解決してくれるなら誰だろうと構わない。俺は大人しく耳を傾ける。
(性別が決まる第一次成長。生殖能力が備わる第二次性徴。そして世界が変わる第三次成長。生物には成長が三段階あるんです~。
ぶっちゃけ初体験したことで急成長したんですね~。結構居るんですよ、そういう人間。特に異性関係でこじらせてる人に多いですね。嫌いなものが好きになるって凄いことじゃないですか。それと一緒です~)
こちらからは以上です。
神様は戸惑う俺を置いて姿(?)を消した。
「それは僕にもわからない……ん? どうしたんだ、ルーク?」
「い、いや……別に……」
神様から聞いたぜ。お前ユチとやったんだってな。上手くやりやがったな、この野郎。でも自慢しやがったら許さねえ。俺がするまで待ってろ。
そんなこと言えるわけがない。色んな意味で無理だ。百万歩譲ってヒカリやパスカル、リンといった女性陣の居ない場所でだ。出来れば酒の席。
「そうか。ところでなんだその『とりま』とは。何を略した言葉だ。妙に心を逆撫でされるんだが」
「取り合えず、まぁ」
「そんな軽い気持ちで人のプライベートを暴こうとしていたのか!?」
現代っ子舐めんなよ。現実とゲームの区別がつかずに車走らせたり銃を撃ったりするんだぞ。『なんか面白そう』で自分の顔や体を不特定多数の人間に晒したりするんだぞ。ソースのわからない情報信じるんだぞ。
悪戯心でプライバシー侵害してもおかしくないだろうが。知識や技術はその辺に転がってるんだし。
しかし安心してくれ。俺は現代っ子じゃない。入手した情報を拡散したりしない。ファイアーウォールを突破したら(というか突破出来なかったら)満足だ。
防いでくれるって信じてたしな。言ってみればアンチウイルスソフトを作った側よ。コーネルはそのチェックに偶然選ばれたに過ぎない。
そう……すべては偶然だ。
例えパスカルを際に異常なまでの知識がどこから湧き出たものか知ってしまったり、ヒカリの赤裸々な私生活を知ってしまっても、不慮の事故でしかない。
「それじゃあ早速俺達が手に入れた力を紹介するぞ。コーネルは知らないだろ? 俺達もお前の知らないし見せ合いっこしようぜ」
パスカルほどの変化……はあるにはあったが触れづらい上に指導するようなことではないのでスルーさせていただくとして。
実は俺だけハブられていて逐一連絡を取り合っていたという、自分以外のクラス内LIMEグループみたいなことがないとも限らないので、念のために確認し、全員が頷いた後。
俺達はリニアモーター実現のために身に付けた能力を披露し始めた。
「たぶん俺は最後の方が良いな。その力でどうするかって感じのもんだし」
「じゃあわたしが行くよ~」
異世界の人間が譲り合いor押し付け合いの定番『どうぞどうぞ』を知っているはずもなく、別に期待していたわけでもないので、俺はトップバッターに名乗りを上げたヒカリに大人しく順番を譲った。
当たり前だが他にどうしても一番が良いという者もいない。
「わたしがやってたのは千里眼の修行だよ。皆と違ってどこかに籠ったりはしてないから今まで通りの生活を送ってたけど、ちゃんと次の段階に進んでるから安心してね」
「へへっ、スゲーだろ。しかも手に入れた力がまたスゲーんだ。聞いて驚け。なんと強制転移の眼術を身に付けたんだぞ。生物は無理だし、無機物の中でも色々制限あるけど、既存の物質と同化させて新しい素材作れるんだぞ」
「……ねぇ、なんでルークが言うの? しかも自分の手柄みたいに自慢するし。わたしのターンなんだから大人しくててよ。あとわたしの話は過程が面白んだよ? 目標に定められてた結果だけ言ったら意味ないんだよ?」
ジト目ニャンコは尊い。
異論は認めないし、異論が出るほどマイナーな性癖でもないはず。『活発こそ至高!『プリティ以外は認めない!』などの意見なら仕方ないが。てか全部最高で良くね? 仲良くやらね?
さてさて、ジト目や眉がこれ以上つり上がらない内に謝っておくとしよう。
「サーセン。いつもやられる側だったからやってみたらどんな気持ちかなって。パスカルの時にやったらたぶん殺されるからヒカリでやらせてもらった」
「で?」
「楽して得る優越感の何が嬉しいのかわかりませんでした。僕に他人自慢は無理ということがわかりました」
他人が知らない情報を明かした際、求めていた通りの反応を高確率で得られるならともかく、今みたいに白けるリスクを負ってまでやるべきことではない。
少なくとも俺はそう思った。
リアクションを取る相手がコーネルだけってのも大きかったな。もし多ければ半数が盛り上がれば勝ちと思えたかもしれない。結果論でしかないが。
「次はあたしですね」
コーネルが効率厨と化して修行編は後程ゆっくり聞くと言ってしまい、ヒカリの出番が完全に終了したと同時に拗ねたことはさて置き、二番手、パスカル。
彼女ならばこの冷え切った空気をなんとかしてくれるはずだ。
「あたしはマンドレイクについて学びました。属性は土と木です。研究対象を一つの種族に絞ることで精霊以外の世界の理『生と死』も実感することが出来ました。
手に入れた力は『破壊からの再生』。ヒカリさんが『混合』で新たな物質を生み出すのであれば、あたしは今あるものを作り変えます」
「…………え? 終わり?」
「はい」
一仕事を終えたような彼女の雰囲気から何となく察したが、案の定だった。淡泊だ。そして一瞬だ。




