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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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閑話 力こそパワー

「良かったですね~、暴力に寛容な世界で」


 地平線の彼方まで広がっている真っ白な空間にポツンと存在するTVと座椅子とテーブル(時々コタツ)。通称『ニート部屋』で、いつものドテラ姿でゲームをしていた神様は、背後に立つ俺を画面から目を離さずに批難するようなセリフを吐いた。


 一瞬、久しぶりに訪れたことを怒っているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。内容こそ皮肉じみているが、口調や雰囲気からは称賛が窺えるのだ。


「もしかしてゴミ拾い大会で後輩の仲を取り持ったことを褒めてます? もしくは修行を中断して遊んでたことを責めてます?」


 俺はそれを確かめるべく口に出した。


 すると神様は、にこやかな笑みを浮かべて、


「それを決めるのはルーク君自身ですよ~。ルーク君がそう思うならそうなんでしょう。私に人の言動を咎める権利はありません。

 後悔しているなら愚痴を聞きます。上手くやったと思うなら自慢話をしてください。どちらでもないなら怒ります。プラスにもマイナスにもならない生き方はするべきではありませんからね。何かは思ってください。感じてください。私に言えるのはそれだけです」


 アンタが咎めないなら一体誰が咎められるんだ。


 そうツッコむより先に神様は畳みかけるように是非を問うてきた。イエスかノーか半分か。そんな日本人に優しい答えはダメらしい。まぁする気もないが。


 俺は答えは決まっている。


「上手くやれてますね。人間関係・能力アップ・計画の進行。全部順調です」


「暴力に関してはどうですか~?」


「肯定する気はないですけど、言葉だけではどうしようもない時には必要だと思ってますよ。抑止力とかまさしくでしょ。暴力だらけじゃないですか」


「おやおや、平和なスローライフを望んでいた引きニートはどこへやらですね~。生と死の理はそこまでルーク君の人格形成に影響を与えましたか~?」


「そんなに変わったつもりはないですけどね。1つのことを否定したら巡り巡って肯定していたことまで否定する羽目になるって思うようになっただけで。『嫌っていた事象も受け入れるようになった』って感じです」


 一方通行ではなく逆行してみることで見える世界があった。関係性を考えたら全部が繋がっていた。世界は一にして全、全にして一だった。


 ただそれだけの話だ。


「まぁあくまでも『俺は』ですけどね。世間から批難されたら仕方なく従ったりすることもあると思いますよ。自分の正義と他者の正義は違いますけど、だからと言って事を荒立てたくはありませんからね」


「歩み寄りと他人志向を一緒にするんじゃありませんッ!! 他人と上手くやっていくことや他人から認められることを求めるだけの人生なんて、お母さん許しませんよ!?」


 突然激怒した神様がコントローラーをぶん投げてきた。


「誰がお母さんだ。エリーナ=オルブライトに謝れ。そしてそれは別に良いだろ。『だけ』はダメだけど周りと上手くやっていこうとする心は買ってやれよ」


 持ちやすいような持ちにくいような独特の形をしているそれを受け止めて、神様の発言に意見する。


 問題があるとすれば倫理観まで世間に委ねること。


『怒られてないから大丈夫』

『批判の声が少ないから大丈夫』

『評判落ちてないから大丈夫』


 自分の中に正義や信念やブレーキがないことに対して苦言を呈すべきなのだ。


「信念なんて持って社会で生きていけると思うなあああああーーッ!!」


「それは社会の方が間違ってるだろおおおおおおおおおおーーーッ!!」


 どこぞの社会学者の受け売りだが、他人志向型の他には、社会の伝統や慣習に従うことを行動の基準とする『伝統志向型』と、自己の内的な確信や良心に従って行動する『内部志向型』がある。


 彼は50年以上も前から、前近代社会における伝統志向型から近代市民社会における内部志向型へと移行し、さらに現代の大衆社会における他人志向型へと推移することを予期していた。


 次がどうなるか見ものだな。


 まぁ俺達が作るものなんだが……。


 それと話は逸れるが、コーネルもバルダルの人々も最近他人志向型になっていて、その原因はギャンブルを広めた父にあると憂いていた。


 こっちは志向というより憧れだけどな。実際コーネルにもそう言ったし。


 一攫千金を手に入れている人間を羨ましいと思う心、自分もああなりたいと願う心によって、バルダルの人々は『負けても次取り返せばいい』と搾取する側の人間に誘導されるがままギャンブルに手を出す。まるで他人に尽くすかのように……。


 コーネルはその光景に他人志向型の人間の姿を垣間見たのだろう。


「先人を馬鹿にするものじゃありませんよ~?」


「いつ、誰が、馬鹿にしたんだよ……ってまさか社会が間違ってるってやつか? あれは違うぞ。反面教師として活躍してもらってるだけだから。もちろん教師として活躍してもらう場合もある。見本バンザイ」


「そこまでわかってるなら全然オッケ~ィ♪」


 先程までの怒りが嘘のように機嫌を直した神様は、クリア目前で中断していたゲーム画面(コントローラー投げる前にちゃっかりスタートボタン押してやがった)に視線を戻し、


「ああああーーーーっ!」


 配線ピーンによるフリーズ。


 昔のゲームあるあるだ。




「って、最初から始めるんかい……」


 神界に時間の概念が存在しないのを良いことに一からゲームを始めた神様。俺はその隣でヤジを飛ばす係に就任した。


 友達のやっているゲームを見るというのも乙なものだ。楽しいトークや美味しい食べ物なんかがあったらパーフェクト。


「最近じゃあ、愛と勇気だけが友達の彼も『暴力で解決する悪人』とか『力がすべてだと教える悪い見本』とか言われてますからね~」


「マジっすか!?」


 神界で食事をしたことがないので若干期待したのだが、案の定、食べ物は出て来ず、代わりに投げかけられた話題に驚愕。


 暴力関係で何か話そうと思っていたのだが先手を取られるとは……しかも興味津々のテーマ。乗るしかあるまい。


「え、だって、あの作品ってアクキンマンや悪事を働いてるキャラクターに対して『それは悪いことだ。今すぐやめるんだ』って警告してもやめないから、やむを得ず実力行使してるんでしょ? ほぼすべての作品がそうじゃないですか。まさかそういうアクション系の作品が全部問題視されてるんですか?」


「いえいえ。『アソパソアソ』だけですよ。別世界のことなので詳しくは知りませんけど、子供向けということが大きいんでしょうね~」


「え~……俺も『龍玉』見て育ちましたけど、俺も、同世代の連中も、暴行犯になったりしませんでしたよ。ちゃんとファンタジーとして捉えてましたよ」


 奥様方が不倫・殺人・犯罪なんでもありのドラマを熱心に見ていたり、男共がレイプやらロリやら盗撮やらのAVを見ていたりするのは良いのか?


 それこそ今神様がやっている子供向けのゲームも敵を殺すことでレベルアップする。他人の家から金品を盗み、生き返るからと味方を平気で犠牲にし、言葉での解決を図ることなく暴力のみで片付けている。


 こういった話では必ずと言って良いほど出ることだが、どこを基準として、どこまで規制するのか、明確にしないと絶対そのファンから不満が出るぞ。


「でも中二病にはなったでしょう? 闇の炎に憧れたり、世界崩壊を望んだり、身近なものが擬人化した時のために愛情注いだりしたでしょう~?」


「……そういう作品を禁止したらもっと世界は良くなると? 夢や希望を創作物ではなく現実に向けるようになると?」


 たしかに現時点ではアソパソアソを見て育った世代ばかりだ。放映される前に人格形成された昭和の人間は違うが、彼等は彼等で何かしら暴力的なものに触れて育っている。なにせ口より手が先に出る時代だ。


 それ等が一切なかった場合のことは誰にもわからない。


 もしかしたら本当に良くなるかもしれない。


 しかし、禁止禁止と臭いものに蓋をしても、生きづらくなるだけではないだろうか? もっと根本的な問題を解決をするべきではないだろうか?


 そういう一面があるのはたしかだが、実際アソパソアソを見た子供がどう感じたか、見せた側の中にある正義とは何か、話し合ったり教えたりして善悪の判断を培うべきではないだろうか?


 創作物に全責任を押し付けてないで教育者としての責任を果たせ。じゃないと手遅れになるぞ。規則はすぐに変更出来るけど、人の精神を変えるにはン十年掛かるんだぞ。


 次はなんだ? 『ザザヱさん』のカヅオの影響で子供がいたずらする? 『ちびまろ子さん』の影響で子供が親の言うこと聞かない? 『ボケモソ』の影響で勝負に金品を賭けるようになった?


 捉え方次第でいくらでも悪いことは出てくるぞ。



「世界は闇に覆われようとしている……」


「アンタが言うと冗談に聞こえないんだよ……」


 こっちは大丈夫だ。そんなことは絶対させないし、人類の脅威である魔獣が存在する限りそんなことにはならない。ここは暴力が溢れている世界なのだ。


 そっちは異世界の出来事として今後も動向を探ろうと思う。神様が話してくれるかどうか次第ではあるが、どこを落としどころにするか気になるし。


 俺が生きてる間に決着がつくかは知らん。

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