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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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七十八話 お好み焼きと恋1.5

「合コンですよ~。ラブな飲み会ですよ~」


「は?」


 いつものように俺はフィーネと共に部屋で魔道具を作っていると、石鹸工場から帰ってきたユキが「合コン、合コン」言いながら寄って来た。


 合コン、正式名称『合同コンパ』。


 リア充の、リア充による、リア充のための飲み会だ。主に男女の親睦が深まって恋愛に発展することが多いらしい。というかそれを目的とした集会。


 そしてユキはこのリア充イベントを開催するとほざいている。


 そんなイベント俺が許すわけがないだろ? 全力で叩き潰す! リア充、死すべし・・・・。


「で、誰が合コンやるって?」


「主役はソーマさんとトリーさんです~。ソーマさんが親密な関係になりたいらしいんですよ~」


 俺が脳内で邪魔する計画を立てていると、ユキは予想外の人物の名前を口に出した。


 なんだロア商会の従業員か。


 他人なら全力で邪魔してたけど従業員なら全員と仲が良いし、身内の問題と言っても過言じゃないから応援するぞ。


 ってか部署は違うけど職場恋愛は面白そうだな!

 オフィスラブ、大いに歓迎しよう。



「そう言えば工場で飲み会をする、と大勢が盛り上がっていましたね。参加者が増えても問題ないものなのでしょうか?」


 先ほどまでとは一変して、ソーマの恋を応援するために動こうとする俺の隣でフィーネが気になる事を言った。


「いやいや。ロア商会全員参加って、それもうただの親睦会じゃん。合コンじゃないじゃん」


「そうなんですか~?」


 ユキはわかっていないようだけど、そんな事になれば高確率で朝まで親睦会で飲み明かすことになる。


 もしかしたら親睦会が終わってから2人でシッポリと夜の街に消える計画なのかもしれないけど、その飲み会は終わらないと思うぞ。


「やめてやれよ。ソーマだっていい歳なんだから、仕事に支障がなければ結婚してもいいだろうよ」


 ロア商会は子育て面でも充実した企業だ。人口増加のためにもドンドン結婚して、バンバン子供を産んでもらいたい。




 しかしユキが聞いた話では、普段の口達者なソーマからは考えられないほどガチガチに緊張していて、とても2人きりで話せる様子ではないらしい。


 そんなソーマのために楽しい飲み会を開いてトリーと仲良くなろうって計画みたいだ。


 なるほど。まだお互いを知るという交際前の段階なのか・・・・。


 それだけ本気ってことだろうけど、案外ソーマって純情だったりするのか? 出会って1時間でベッドインって印象だったぞ。 



 仮にソーマとトリーが合コンで上手くいって交際に発展したとしても問題があった。


 デートスポットが無いのである。


 ド田舎なヨシュアには遊べる場所も無ければ観光場所も存在しない。


 これが王都なら劇場に行って演奏会や演劇を見たり、各地から集まる商店や露店で楽しくウィンドウショッピングをしたり、珍しい料理を食べに行ったり出来るだろう。


 逆に自然豊かな町だったら、その自然を満喫できる登山や海水浴、草原で寝転んだり、採れたて食材を使った料理を楽しめるだろう。


 しかしヨシュアは都会ではなく、かと言って自然豊かでもない中途半端な田舎町だ。


 そんな町で楽しいデートが出来るとは思えないし、どこか遠くへ行くにしても2人とも忙しくて時間が取れないだろう。



 『デートスポットがなければ、作ればいいじゃない』。


 普段の俺ならそうする。


 でもなんで俺が見ず知らずのリア充のために、イチャイチャする場所を提供しなければいけない?


 そんなものは領主にでも頼め! 税金を汚職以外に有効的に使わせろ!!



 そんな訳でヨシュアには当分デートスポットが誕生する予定はない。


 あえて言えば石鹸工場の門であるドラゴンの骨とか、美味しい料理が食べられる猫の手食堂だけど、2人の職場だしデートスポットって感じるのは無理があるだろうな。




「どこで飲み会するんだ? ヨシュアに猫の手食堂以上の料理を出す店なんてないだろ」


 別に自画自賛するわけじゃないけど、猫の手食堂は世界トップレベルの飲食店だと思う。


 塩や冷蔵庫が流通し始めてから各料理店が挙ってウチの真似をしようとしたけど原価割れしたらしく、高額になるか微妙な味の店しかないはずだ。


 フィーネやユキみたいに無料で食材を調達出来るルートを作らないとそうなるだろうよ。


 で、どこでやんの?


「その事で悩んでましたよ~。私も良い案がないか聞かれましたし~」


「・・・・私は聞かれていませんよ? 何故会長の私には聞かないのでしょうか?」


 それについて説明しておくと『フィーネが従業員と仲良くない』とかそんな事は決してない。恐ろしくて近寄られないって事もない。


 単純に暇人でヨシュアを隅から隅まで知っているユキが知らないのなら、多忙なフィーネも同じく知らないと思われたんだろう。もしくはフィーネに言えば主の俺に伝わって、オルブライト家を巻き込むって思われたかだ。


 元々少人数の合コンだったはずだから、何かの手違いで広まってしまったんだろうな。


 ユキ、合コンの事を俺達以外に話してないよな? お前が広めたりしてないよな?




 まぁ今はそんな事より、ソーマとトリーの親睦を深める計画について話し合おうか。


「フフフ・・・・ユキ、何故もっと早く俺に聞かなかった? 男女が仲良くなるための秘策を持っているこの俺に!」


「な、なな、なんですってーっ!?

 食堂へ料理指導に行く以外は家から出ない引きこもりでリア充嫌いなルークさんが、女性と仲良くなる方法を知っているなんてーーっ!」


 事実は時に人を傷つける。そして今まさに俺は傷ついた。


 おっと、そんなこと言って良いのかな?

 マヨラーが歓喜する料理なんだけどな~。ユキは食べたくないのかな~?


 俺はユキの反応を考えてニヤリとしてしまう。


 普段なら何でもストレートに言ってくるユキに対して、怒りを露にするはずの俺が余裕な表情を見せるのでフィーネもユキも不信がっている。


「なんで不敵な笑みを浮かべてるんですか~?」


「どのような秘策なのでしょうか?」


 やれやれ。恋愛経験が少なそうな2人には理解できないんだろうけど、俺の計画を説明してやろうか。


「ずばり! 『ロシアンお好み焼き』だっ!」




 話を聞き終わった2人は、どちらも尊敬の眼差しで俺を見る。


「ゴクリ・・・・マ、マヨネーズがさらなる進化を!? た、たた、食べてみないと・・・・し、しししし親睦会で出せる料理か、わわわ、わかりませんよ~?」


 両手をワタワタと動かしつつ、よくわからないポーズを取りながら自分が味見をすると名乗り出たユキ。


 でも所詮友人の少ない引きこもりな俺が作る料理ですから・・・・。


「いやぁ~、だってユキは参加しないんだろぉ~?

 合コンの開催場所は猫の手食堂だからリリにでも教えたら終わりだな」


「ごめんなさいー! 私にも食べさせてくださいーー! マヨネーズの精霊が私に呼び掛けているんですーーーっ!!」


 マヨネーズ教信者のユキは声を震わせながら「なんでも協力するから『お好み焼き』が食べたい」と懇願してきた。


 なんだよマヨネーズの精霊って・・・・。


 まぁそこまで謝るのならさっきの無礼は許してやろう。



「ルーク様は本当になんでも知っていますね。流石です。

 オルブライト家でも是非お好み焼きを作りましょう。私とルーク様の食材が絡み合い、1つの料理が生まれる・・・・ウフフフ、まさに生命の営み・・・・・・フフフ」


「お、おう。合コンまではリリに色々と教えないといけないから、それが終わってから一緒に作ろうか」


 なんか最近フィーネの俺を見る時の目が怖い時がある。


 いつも通り慈愛に満ちてるんだけど、時々ユキがマヨネーズを愛でる時と同じ目になってる気がするんだよな。


 俺が入学したら半日以上離れ離れになるんだぞ? 大丈夫かこれ・・・・。




 数日後。

 食材を揃え終わった俺達は、合コン開催とお好み焼きの事を伝えるために開店前の猫の手食堂にやってきた。


 最高責任者のフィーネが許可してるから問題はないんだけど、定休日に料理を作ってもらうリリにだけは説明しておかないと。


「ついに、ついに! トリーにも恋の季節がやってきたのニャ! ユチもお父さんが出来て大喜びニャ! もちろん協力するニャ!!」


 リリに事情を話したら尻尾をビンっと直角に立てて喜びを表現しつつ、全力で協力すると言ってくれた。


 どうやら食堂内でもトリーの恋愛下手については度々話題に上がっていたらしく、彼女は典型的な『恋愛より仕事優先』な女性になっていると言う。


 どうやら俺の思った以上に毎日が充実していて結婚願望が無くなってるっぽい。


 もしかしたらこの合コンが2人の恋のラストチャンスかもな。想像以上に重大な局面に関わってしまったらしい。


 失敗する気は毛頭ないけど、結構な割合の責任が俺のロシアンお好み焼きに掛かっている。


「じゃあ早速、お好み焼きのレシピを教えるから一緒に作ってみようか。当日は俺も手伝うしさ。

 あ、その前に立ちっぱなしの尻尾触ってもいい?」


 さっきからずっとビンビンなリリの尻尾が気になって仕方ないんだよ。


 残念ながら断られた。




 てな訳で、生地を作り始める。


 お好み焼きには色々種類があるけど、現状作れるのは特別な素材を一切入れないノーマルなお好み焼きだ。


 まず小麦粉を水で溶いた生地を作る。


 ここで大切なのは粉ふるいを使ってシッカリと小麦粉のダマを無くすこと、そして生地を混ぜ合わせること。


 次に具、キャベツと青ネギをみじん切りにして卵と共に生地に投入して準備完了。もちろん海産物、野菜など色々な食材を混ぜても美味しい。


 ガルム油を引いて熱した鉄板の上で豚やガルム、オークなんかの肉を焼きつつ、さきほど作った生地を流し入れる。


 片面が焼けたらひっくり返して両面をこんがりと焼き、マヨネーズと特製オイスターソースと鰹節をかけて完成!


 各種食材を混ぜることでいくらでも味を変化させられるお手軽料理だ。



「ママ、マヨ・・・・マヨ、マヨ・・・・・・マヨネーズ」


 生地を焼き終わった辺りからユキが正気を失ってブツブツ奇声(?)を上げていた。


「「「・・・・ゴクリ」」」


 いや、ユキだけじゃなかった。


 フィーネとリリ、それと話を聞いて協力者となったニーナが俺の作ったお好み焼きに注目している。


 ちなみにフィーネが風の結界を張ってくれているので匂いは漏れず、他の従業員は大人しく掃除しているのでバレていない。最初に秘密の会議があるって言ってあるから厨房に近寄らないし。


「落ち着けっ! まだ説明することはたくさんある!!」


 今にも飛び掛かってきそうな一同に『まて』をさせて俺は説明を続ける。



 まず今回のために2日で完成させた特製のオイスターソースの紹介だ。


 塩の量産によってユキは海に入る事がなくなった、とかそんなことは全くない。


 これまでと変わらず毎日のように海産物を持って帰ってくるんだけど、その中に牡蠣やホタテがあったのでそれを使ってソースを作り出した。


 まず、洗った牡蠣とホタテを貯水ボックスを使い水分を抜いてすり潰す。地球なら湯煎を繰り返して濃縮させるけど貯水ボックスなら一瞬だ。


 次にペースト状になった牡蠣を砂糖、塩、そして『醤油もどき』と一緒に煮込んで完成だ。


 『醤油もどき』はその名の通り、未完成な即席で作った醤油だ。小麦と大豆、塩水で煮込んだだけ。だって醗酵するかわからないし、麹なんて存在しないんだぞ!? 作れるかっ!


 あ、鰹節は保存食として使ってるみたいで、微妙に味が違うけど普通にあった。



 お好み焼きで使った鉄板は、先日作っていた魔道具だった。


 前々から「ホットプレート欲しいな~」って思って試行錯誤してたんだけど、加熱鉄板の火力制限を解除するのは怖かったし、消費魔力が上がるから非常に疲れる魔道具しか作れなかったのだ。


 でも難しく考えることは無かった。単純に加熱鉄板を2つ重ねて密着させる魔法陣へと改良することで、さらなる摩擦熱が起きて解決。


 そもそも改めて思い出してみたら昔の火の起こし方と同じ原理だった。何故気付かなかった俺。



 と言うわけで、安全で消費魔力もほぼ変わらない二重構造のアルディア版ホットプレート『新・加熱鉄板』が誕生したのだ!




「モグモグ」

「・・・・モギュモギュ」

「フ、フフ・・・・マヨネーズは世界一ぃ~。無限の可能性を持った調味料ですよ~」


 俺の説明を聞きながらフィーネ以外の全員が勝手にお好み焼きを食べていた。


「勝手に食べるなよ!? 俺が折角、新しい料理の説明をして「ルーク、食べないの?」・・・・いただきます」


 ニーナに言われるまでもない。鉄板使ってるから冷めないけど、みんなだけ食べてるのに俺が我慢する必要なんてどこにもないだろ。


「ふむふむ。これなら『お好み焼き』と呼んでも問題ない出来だな」


 俺が手を付けたことで黙って佇んでいたフィーネもお好み焼きを食べ始めた。


「美味しいですね。さらに食材を加えて新しい味を生み出せるとは素晴らしいです、ルーク様」


 初挑戦の割に、かつて食べたお好み焼きとほぼ同一の物が作り出せたな。



 ちなみに同じ親睦を深める料理でとして『鍋』も考えたんだけど、失敗すると全員に被害が出るから止めておいた。


 その点、お好み焼きは生地を個別にすれば犠牲者は1人で済むし、極端なハズレ食材は少ないはずだ。


 『お好み焼き』・・・・お好みって名前に恥じない万能料理だな。



 後は各自が好きな食材を持ち寄って、楽しい飲み会にしようじゃないか!

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