千八十九話 続・ゴミ拾い4
ゴミ拾い大会、後半戦。
そろそろ作業にも慣れてきた頃だろうと、俺達は当初の予定通り、ラッキー&セクスィー、ミドリ&アスカ、カルロス&エリートの編成に変えるべく動き始めた。
「最後は登録したチームでゴミ拾いしようぜ。同期とゆっくり話したいこともあるだろ。これは確認してみないとわからないけど、今までに集めたゴミは別の袋に入れて、ここからはどっちが多く集められるか競争するのも良いな」
この大会。個人での参加も認められているのだが、集めた量を競うことを知らなかった頃に登録した(というか名前を勝手に使われた)ので、俺はラッキー・ミドリ・カルロスの後輩チームに入っている。
先週の大会中にカルロスから頼まれて許可を出したが、どうやら後輩達が参加を決めた時点で俺の名前も入っていたようなのだ。
それはともかく、チームの上限が4人ということで、俺達ロア研究所メンバーは後輩チームと新人チームに分けて登録している。
そうしないと登録や集計が面倒なことになるという理由もあるが、これならば自然な形で対立を煽ることが出来る。個人成績もチーム成績もわかるなんてやるしかないじゃない。
「アスカはどっちが良い?」
「私ですかぁ~? そうですねぇ……」
質問について悩むフリをしながら勝ち筋を見出そうとするアスカ。彼女の頭の中は、如何にミドリを下し、上限関係をハッキリさせるかしかない。
「楽しそうですしやりたいですぅ」
結果は何かしらの勝算が見つかったのか、イエス。
「んじゃあエリートと合流するついでにラッキーに聞いてくれるか? 俺とカルロスはお前等の意見を尊重するし、ミドリも嫌とは言わないだろ」
「ルーク先輩はどうするですかぁ~? 3対4は厳しくないですかぁ~?」
何も言わずともミドリが拒否しない理由を察したアスカは、挑発的な笑みを浮かべて、己の用意したシナリオを確かなものにするべく質疑応答に移った。
これがリーダーの仕事とも知らずに……。
「もちろん手出しはしない。これまで通り様子見しながら1人寂しくゴミを拾っとくよ」
「そういうことならオッケーで~す♪ それじゃあカルロス先輩、私はこれで。と~っても楽しかったですぅ! また一緒に作業しましょうね♪」
まんまと策略にハマったアスカは、甘えたような声と魅力的(かどうかは疑問の残るところだが)なウィンクを残して意気揚々と去って行っていた。
これで彼女は立案者として先輩チームに勝負を挑まなければならなくなったわけだ。報連相をしなければならなくなったわけだ。
(ククク……あとはラッキーが「さっきミドリさんと会いましたけど沢山集めてましたよ。やっぱり魔術を使える人って効率良いんですね」と言えば、彼女は妨害に回らざるを得なくなるって寸法よ……)
俺はこっそりほくそ笑む。隣で愛想笑いを浮かべているカルロスも、心の中では同じことを思っていることだろう。
これ等はすべてミドリとアスカのための布陣。
そこ以外は割と仲が良い。あえて言うなら、セクスィーにおだてられて舞い上がったラッキーがいつも以上に空回りして失態を犯すぐらいか。
まぁセクスィーは被害を受けても「ナイス失敗!」ってなもんなので、迷惑するのは周りだけだったりするんだが……。
そんな裏話はさて置き、ロア商会で初となる相性による異動もあり得るほど仲の悪いこのチームは、カルロスとアスカのように一方的に嫌っているのではなくお互いがお互いを嫌い&苦手としているので、いきなり組めと言われても従うわけがない。
例え先輩の命令でも嫌なものは嫌だし、アスカはNOと言える新人だ。
なら騙すしかないじゃない。陥れるしかないじゃない。
エリートやセクスィーを頼ることは出来ない。片や完璧主義の堅物、片や呑気に見ているだけの採点マンなので、ミドリの魔の手(?)からゴミを守れる(??)のは彼女だけ。
一時の辛さを我慢して勝利を手にするか、しばらくマウントを取られることを覚悟で勝負から逃げるか。二者択一だ。
そして彼女は間違いなく前者を選ぶ。
なお勝てるとは言っていない。俺は手出しをしないがユキはする。引き分けになるよう調整させていただく所存である。ドンマイ!
「連絡が届くまで時間掛かるしのんびりゴミ拾いながら雑談でもしてようぜ。こうして2人きりでゆっくり話したことないよな?」
「ですね」
計画の成功を祝して乾杯でもするように拾い上げたゴミを突き合わせる俺とカルロス。
しっかりとゴミ袋の中に仕舞い込み、視線を地面に向けたままでの会話がスタートした。
「ところでなんで女嫌いなんだ? やたらコーネルと仲良いしホモなのか? ユチがライバルだったりするのか?」
「なんでそうなるんですか……僕は普通に女性が好きですよ。アスカさんのように裏表のある人や自分至上主義の人や計算高い人が苦手なだけで」
3アウトチェンジだな。よく普段通りに接していたなと感心するほどのアウトだ。
「って、計算高いのもダメなのか? カルロスは賢い人間が好きなんだと思ってたんだけどな。勝手な想像だけど」
「使い方によります。ルーク先輩やユキさんのような他人のため、企業のため、世界のために使える人であれば気になりません。むしろ好きです。
しかし彼女は自分のことしか考えていません。如何に可愛く見られるか、如何に上に立つか、如何に他人を見下すか、それしか頭の中にないんです」
「そりゃどうも……」
カルロスが初対面で分厚い心の壁を張っていた理由と、最近それが解けてきた理由を同時に納得した俺は、テキトーな相づちで返す。
コーネルもそうだが、カルロスも偏見というか悪い面しか見ようとしないタイプの人間だったらしい。
0点スタートの上に減点方式なんだもん。そりゃあコミュ障っぽくもなりますわ。むしろよく盛り返せた俺。やっぱ真面目に仕事するのって大事だね。
「あー……それと一応言っておくけど、もしそれが本当だとしたらアスカを入社させたフィーネ達の見える目がないって言ってるようなもんだからな? まったく違うとは言わないけどその上で企業に貢献しようって人だから、彼女は」
「……はい」
怒ったつもりも考えを否定したつもりもないのだが、カルロスはやたら神妙な顔でうな垂れた。
意識改革は自分でおこなうしかないので注意するのはこの辺にしておいて、この説教じみた空気をなんとかするためにも共通の話題で盛り上がるとしよう。
「前にコーネルが言ってたけどカルロスもバルダル出身なんだろ? コーネルはギャンブル嫌いだけどお前はどうなんだ? やっぱり搾取する側とされる側が明確に分かれる賭け事は嫌いか?」
「それも使い方次第ですね。一概には言えません。賭博が経済を回すというライヤー公爵の主張も理解出来ますし、射幸心を煽って金銭を巻き上げているというコーネルさんの主張も理解出来ます。
お2人も察してくださっているのか、そういった話題を振られたことはありませんし、おそらく今後もないでしょう。物事の善悪を決めるのは簡単なことではありませんからね」
「良いこと言ってるけど何故それを人間関係で発揮させられない!?」
「学生時代に色々あったので中々……。逆に賭け事では失敗したことがないので客観的な意見を出せます」
「そこまでわかっていながらトラウマ克服に乗り出さないのは、もはや罪よ!?」
笑い話に出来るほどでないようだが、思い出すのも嫌というほどではないのか、照れくさそうに頬を掻きながら過去の失敗談に軽く触れるカルロス。
もしかしたらキャピキャピ女を嫌うことを悪いと思っていないのかもしれない。
そう思った俺は、コメディの空気を崩さないよう細心の注意を払いながら軽快なツッコミを入れて、敵情視察を試みた。
「先輩……失敗したままでいることも時には必要ですよ」
「ぐうの音も出ない正論だなッ!」
あえて立ち止まることで見える景色がある。手に入る考えがある。
そんなこと言われたらもう何も言えないよ……。
(変えるとしたらアスカの方だな。たぶんやることになるんだろうけど。主にミドリ関係で。今すぐに)
早速問題が発生したようなので、ミドリ&アスカチームのところへ行ってみようと思う。
エリートが合流するまで持たないとは、流石は相性最悪の2人。目が合った瞬間にバトルが始まる対戦ゲームみたいなノリだな。うん。




