千八十八話 続・ゴミ拾い3
「ったく……何がそんなに嫌なんだか」
なんとか後輩達の謀反を退けた俺は、一同と別れて1人でゴミ拾いを始めた。
最初から口出しするのは違う。まずは若い者達に任せるべきだ。
ただ、前世では合わない人間でも無理矢理合わせ、今世では出会っていない(少なくとも関係者と呼ぶ距離には居ない)俺としては、そのどちらでもない『仲良くならないと作業に支障が出る』な状況でそれが出来ないカルロス達の気持ちがよくわからず、ついつい愚痴っぽくなったりする。
職場の仲間はクラスの余りもので作られた修学旅行の班とは違う。今後、数十年と関わる相手だ。睡眠時間を除けば一緒に過ごす時間は家族より長い。だというのに何故仲良く出来ない? どこかで腹を割って話し合って解決すべき問題だろ?
どうしても無理ならロア商会に申し出て距離を置かせてもらうべきだ。最悪部署移動も視野に入れて。
商店だろうと農場だろうと素材調達だろうと研究が出来ないわけじゃない。関係ありそうでない、ないようである、そんな場所を経験することで拓ける道もある。むしろ一度経験しておくべきだ。
――という文句は今回の作戦が失敗した時に表に出すことにして、
「さ~て、どんな調子かな~っと」
作業を始めて5分。そろそろ何かしらの動きがあるだろうと、感知術で気になる3組の偵察をおこなった。もちろん友人チームのチェックも忘れない。
問題が起きた時にすぐさま介入出来るよう監視対象の4チームの中心部を作業区域としている上、度々手が止まってしまうので、清掃活動では前回ほどの成果は残せないが許してくれ。
作業スピードは比べものにならないけど丁寧さは変わらないし、こういうのは結果よりも過程、綺麗にする意志が大事なんだろ?
まぁ自分を正当化するための言い訳ですけども。スマンね。先週頑張ったから勘弁してくれ。俺には清掃活動より職場環境の方が大切なんだ。
(って、この裏方の感じ、なんか強者みたいだな……アイツ等は両方上手くやるけど)
俺は、フィーネ達の大変さをほんの少し理解しつつ、体と心を切り離してゴミ拾いと監視の両立を続けた。
「で、キミ達は何を言い争っていたんだね? お兄さんに話してみなさい」
案の定、一番手を飾ったのはミドリ&セクスィーの『チーム欲望』だった。
好き嫌いがはっきりしている上に武力行使も厭わないノット我慢と、相手の見た目に点数をつけることを生き甲斐としていてコンプレックスにも容赦なく触れるKY。
衝突しないわけがない。
が、セクスィーに悪気はなく、ミドリも量と質(内容)が問題なだけで褒められること自体は良いらしいので、『地雷原を歩いてもらってダメなら即ビンタ』でアッサリ解決。
3アウトで1日喋れなくなるという、喋りたがりにとって地獄のような罰則もあるので、過度に品評会を開くこともなくなるはず。
暴力の勝利だ。視線や行動が気持ち悪いのは頑張れ。どっちも。
というわけで、俺の質問は二番手、ラッキー&エリートの『チームオタク』へのもの。
ミドリ達のところに行くまでは良い感じだっただけに、何が起きてこうなったのかサッパリだ。流石に話し合いながらの監視は無理だからな。
「聞いてくださいよ! エリートさんったらジローさんのことを丸まるだけの無個性な主人公だと言うんですよ! アルマジロの特徴はなんといっても丸まること! 軽く丸まったり、凄く丸まったり、刀のように丸まったり、『破滅の刀』という作品名を体現した存在なのにですよ!?」
「わたくしはヒロインのネズミ子が口に咥えている伝導線のことを、あれは歯が伸びすぎないように噛むためのものですね、とおっしゃるラッキー先輩の主張の方が理解出来ませんけどね。あれにはちゃんとした理由があるんです。畜生と同列視しないでいただきたいです」
……おい。
「あれあれ? もしかしてコミックス2巻の14話と15話の空きページで作者がコメントしてたの知らないんですか? エリートさんの好きってその程度なんですか?」
「まさか。当然知っています。しかしあれは作者が勝手に言っているだけ。ネズミ子ファンの間では違います。作品が動物をモチーフにしているので勘違いしがちですが、そういったシーンは一切描かれていませんし、編集部に問い合わせたところその予定もないと返答をいただきました。独自解釈をするのは勝手ですがそれを押し付けて来ないでください。迷惑です」
おーい。
「はぁ……居ますよね、そうやって一刻も早く不安を解消したいからって問い合わせる人。どうして公式見解が出るまで待てないんですか? その意見が今後の作品に影響を与えるとは思わないんですか? 作者のやりたいことが出来なくなって駄作になったら貴方達の責任ですよ?」
「良くなることだってあります。その意見が作品づくりに必要ない、または悪影響だと思えば、編集部が止めれば良いだけの話でしょう。わたくし達はあくまでも可能性を与えているだけです」
「なら口に出さないでくださいよ。今の言葉を作者が聞いていたらどうするんですか? 世間の声として影響を受けるかもしれませんよ?」
「かもしれないをイチイチ気にしていたら作品について語れなくなりますね。そもそも先輩はジローを丸まることただ一点について褒められていますが、彼の本当の魅力は仲間との友情を育んだり決して見捨てない精神ではないでしょうか?」
「そんなことはわかっています。私はその中でも特にの話をしているんです。作品やキャラクターについて語る際に一番好きなところを出すのは常識ですからね。ネズミ子だってあの伝導線を一番にアピールポイントとして語るはずです。むしろあれこれもと語るのは素人と言っても良いでしょうね。エリートさんのように」
「どうやら先輩にはファンとしての常識はあっても社会人としての常識がないようですね。資料を作る際に目次をつけない人間は要点をまとめられない人間です。ひと目でわかるようにしてからそれぞれの項目について詳細説明をおこなうのは、議題を明確にするためには必要なことですよ。見直す際にも役立ちますしね」
「話を逸らさないでください。最近のネズミ子はどうしたんですか? 萌え路線じゃないですか。エリートさんは本当にあれで良いと思ってるんですか?」
「もちろんです。美少女とヒロインは切っても切り離せないもの。先輩の推しキャラ『シノビ』とキャラが被っていてファンを取られているからと言って批難するのは如何なものかと。シノビを上げる提案をした方が建設的ですし作品全体の質に繋がりますよ」
……うん、もう良いや。好きなだけやってくれ。推しキャラとかカップリングとかランキングとかの話に部外者が口を挟んでもロクなことにならない。
論争の中にもちょくちょく相手を尊重する意見も見て取れるし、放っておいて良いだろう。どうせ破滅の刀サイコーって結論に行きつくんだ。
というか作者と編集部の意見が食い違ってるって、大丈夫なのか、破滅の刀……。
「――ってことがあったんですよぉ。おっかしいですよねぇ、キャハハ~」
「は、はぁ……」
ラスト。カルロス&アスカチーム。
構ってちゃんと構いたくないちゃん。自称アイドルと女嫌い。陽キャと陰キャ。
相性は良くないが、カルロスが一方的に嫌っているだけであり、それを治せるほどの能力を持ち合わせていない俺としては何もすることが無い。
ぶっちゃけここに来た目的は2人ではなく、彼等に絡んでいる相手だ。
「なんか思い出話してるっぽいけど、アンタ等、ウチの新人と知り合いだったのか?」
「フェ~ッフェッフェ! 久しぶりじゃのぉ、元気じゃったか? ワシは病気じゃったぞ」
イリュージョン婆、剛力、闇の波動使い、通称『特売ハンター』またの名を『三銃士』が、カルロスを置いてけぼりにしてアスカと盛り上がっていたのだ。
「おいおい、もう年なんだから気を付けろよ……」
質問に答えてもらっていないが、体調不良の方が大問題なので一旦引いておく。もちろん忘れたりはしない。あくまでも中断だ。
「あ~、肩が凝ったのぉ~」
「なんだその目は! 揉めってか!?」
と言いつつも、俺はイリュージョン婆の頭上を漂っていた闇……もとい冥属性の精霊を払い、そのまま肩に魔力の針を撃ち込んで体内の血流を良くしてやった。
「おおっ、随分楽になったわい。先週あった北部のゴミ拾いも体調不良で不参加じゃったが、こんなことならお主に頼めば良かったのぉ」
「人を便利な治癒術師扱いすんな。こんなことが出来るようになったのはその後だよ。あといつになったら答えるんだよ。アンタ等、アスカとどういう関係だ」
「彼女は、わたくしが以前暮らしていた町で隣に住んでいましたのよ。久しぶりに再会したので思い出話に花を咲かせていたのですわ」
答えたのは闇の波動使い。
もしかしたら闇の波動使いになる前の彼女のことが知れるチャンスかもしれないが、別に興味もないのでこのまま離別への道を歩ませていただく。
「んじゃあな。俺達はゴミ拾いで忙しいんだ。『北部の』ってことはアンタ等も今回は参加してんだろ。どうせ目的は賞金なんだろ。ゴチャゴチャ喋ってる暇があったら集めた方が良いんじゃないか?」
「なんじゃ冷たいのぉ」
突然の別れの挨拶に悲しむイリュージョン婆達。アスカと闇の波動使いはわかるが、他2人は意味がわからない。いやわかる。
「そんなこと言う仲でもないだろうが。もしあのまま言われるがままに肩に触れてたら、どうせ『暴力を振るわれた。慰謝料として集めたゴミを渡してもらおうか』とか言い出してただろ。魂胆見え見えなんだよ」
「えっ! こ、このお婆さん、そんなにアレな人なんですか!?」
「ああ、気を付けろカルロス。コイツは死を司るババアだ。自分の利益の為なら死ぬ死ぬ詐欺は当たり前。息子・孫でも平気で殺す死神だ」
「フェッフェッフェ」
否定しろよ……どこか1つで良いから否定してくれよ……。




