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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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千八十七話 続・ゴミ拾い2

 楽しい時間はアッという間に過ぎていくもの。気が付いたら開会式が終わりかけていたので、俺は学友達に別れを告げ、所属グループの下へ戻って来た。


「……b」


 運営の話には耳だけ傾けていたのか、そもそも聞く気がなかったのか、こちらの様子を見ていたというミドリから質問が投げ掛けられる。


「随分盛り上がってたな? まぁたしかにファイとシィ以外の2人は1回イベントで絡んだだけの友人の友人だけど、なんかアイツ等『破滅の刀』って漫画だか小説だかに滅茶苦茶ハマっててな。作品は知らないけどオタクトークはお手の物だから、ちょっとからかってやったんだよ。お前等の愛はどんなもんよ、ってさ」


 気持ちはわかる。友達が自分と遊んでた時より楽しそうにしてたら取られたみたいで悔しいもんな。何してたのか気になるもんな。


「当たり前のように理解しないでください……」


「え? ダメなん? 実体験だけど?」


「いえ、そちらではなくて……」


 意図の読めないカルロスのツッコミ。


 後輩の言動に理解を示すのは先輩として当然のことなので詳細説明を求めるよいとしたのだが、それより早く別の方向から気になる話が持ち上がった。


「破滅の刀……あれは良い物です。特に3巻のジローが覚醒するシーン。あれは1巻から張られていた伏線が回収されると同時に、その後の展開に大きく影響する心境の変化によるもので、作者の――」


 ラッキーがかつてないほど饒舌に、それこそシィ達にも負けないほどの熱量をもって、作品について語り始めたのだ。


 しかも、彼女の人生の総括とも言えるトライ&エラーを繰り返すハイテンションコメディではなく、如何にその作品が素晴らしいか他者に伝えるための語り掛けるような口調で。


 ファンだ、これは間違いなくファンだ……未読者に布教するために2冊目3冊目を買っているガチファンだ。


 ただそんなことはどうでもいい。


 問題は、進撃のエリマケトカゲことエリートの目が一瞬輝いたこと。


 開始時刻が迫っていたのと、他に話題についていける人間が居なかったので早々に終わったのだが、彼だけは素知らぬ顔をしながらも『わかるわかる』という空気を醸し出していた。


 ……なに? そんなの趣味の合う人を見つけたのに声を掛けられないただのコミュ障じゃないか?


 それは違う。


 新人達がロア商会に入って1ヶ月が経とうとしているが、色々と観察したり各方面からの情報をまとめた結果、彼はどうも完璧主義者らしく、失敗だらけのラッキーと相性が最悪ということがわかった。


 もちろん表立って何かあるわけではない。


 お互い人間(?)が出来ているので、ラッキーはどれだけキツイ言葉で注意されようと笑顔で受け止めるし、エリートはどれだけ失敗しようと『またですか。仕方ないですね』で済ます。


 しかしそれでは本当の仲間とは言えない。


 今回、清掃活動に参加した目的の大部分は、そういったわだかまりを解消することにある。


 同じ趣味を持っているなんてこれ以上ないほどの取っ掛かりじゃないか。



「チーム編成を変えるぞ。ラッキーはエリートと、ミドリはセクスィーと、カルロスはアスカと組め」


「「「――っ!?」」」


 この機会を逃す手はない。


 提案すると一同に衝撃が走った。


 実は仲介役リンからの情報で、今組ませたチームの相性が最悪……というかいざこざの原因であることが判明していたりする。


 ミドリが先輩と知らずに喧嘩を売ってきたアスカや豊満ボデーを馬鹿にしてくる(?)セクスィーと仲良く出来ないのは言うまでもないが、キャピキャピ(死語)女が苦手なカルロスと対応を変えるつもりのないアスカや、失敗だらけのラッキーと完璧主義のエリートも中々ギスギスしている。


 嫌いな相手からの指導など、どれだけ懇切丁寧に教えても……いや懇切丁寧にすればするほど不満は溜まっていくだろう。指導にミスがなければなおのこと。人間はマウントを取ってナンボなところがある。


「ちょ、ちょっと待ってください! それは作業に慣れてからにするべきではないでしょうか! 僕達は清掃活動を経験したことのありますが、後輩組はしたことがないんですよ!? どうしても僕達が指導する形になってしまいます!」


 当然のようにカルロスが遺憾の意を示す。というより拒否に近い。


 仕方がない。自分が対象ということを除いても荒れることは目に見えている。もし俺が彼の立場だったとしても同じことをするだろう。


 が、しかし、前回も語ったがスタンプラリーではなくゴミ拾いにした理由は場を持たせるため。


 まずは指導係と無難な作業をして、可能と判断したら後半戦でこうするつもりだったが(もちろんカルロスも合意済み)、状況が変わった。


「これは決定事項だ。上手いことやれ。言わなくてもわかってるだろうが、上辺だけの付き合いをしてるチームは容赦なく介入させてもらうから覚悟しておけ。力を持った人間の介入は厄介だぞ。セッ●スしないと出られない部屋に閉じこめられる可能性もあるから覚悟しておけ。憎悪を愛情に変換したりするかもな。ハッハッハッ」


「『ハッハッハッ』じゃないですよ! 犯罪じゃないですか!」


「良いかカルロス……犯罪はもみ消せば犯罪じゃないんだよ」


「バレても問題ないと!? これ以上ないほどの権力と武力の行使じゃないですか! ってそういえばロア商会は昔からこんな感じだった! 怖っ! ロア商会怖っ!!」


 今更ながら自分達が所属している組織の恐ろしさを痛感したカルロスが、自問自答した後に震え始めた。


 運営的にも問題ない。集計するのはあくまでもチームメンバーが集めたゴミなので、誰と行動を共にしようと違反にはならない。これによって敵チームに張り付くことで妨害するという作戦も取れる。ゴミ拾いで何やってんだって話だけど。



「さぁゆけ、若者達よ。私はキミ達を見守っているよ。たまに手や口を出すよ」


「…………」


「ん? どうしたんだ、ミドリ? 出口は反対側だぞ。さらに言うならこっちにゴミは落ちていないぞ」


 大会開始の合図に合わせて催促すると、ズルズルと、いつもの足音を鳴らして珍獣がゆっくり近づいて来た。


 すべてをジェスチャーで済ませる彼女には小声というものが存在しない。接近するのは何か渡したいものがある時のみ。しかし今はゴミ袋とトングしか持っていない。


 ズバァーーーン!!


「ィッてえええええ!?」


 遠心力の力をフルに使った重量感たっぷりのビンタが俺の体を吹き飛ばす。


 ゴキッて、首がゴキッて鳴りました。


「ナイスです、ミドリさん。これは暴力ではありません。気合を入れるためのビンタです。僭越ながら私も活を入れさせていただきます。唸れ! ミドリさんを運び続けて鍛えられた我が腕力! はあああッ!」


「その詠唱と腰を深く落としたタメ、そして掛け声は、活を入れるのに必要ですかね!?」


 さらにラッキーが破壊力を求めているとしか思えない言動で続く。


 一瞬で背後に回り込んで打ち返されましたよ。どこぞの戦闘シーンのごとく『動きが早過ぎて姿は捉えられない。でも1人キャッチボールでもするように攻撃された者は打ち上げ続けられる』な展開になりそうですよ。


 ギャグなんだろうけど。ボケただけなんだろうけど、それにしたってあんまりだ。俺じゃなきゃ暴行罪で訴えていたぞ。


「2人共、先輩になんてことをするんですか。大丈夫ですか? これ。僕が用意した特製ドリンクです。飲んでください」


「お、おお、カルロス……ありがとう……って真っ青ぉぉっ! 自然界に存在しない青い液体ぃぃ!! 絶対ヤバいやつぅー!!」


 堪らず膝をつく俺に手を差し伸べてくれたカルロスが手渡してきたのは、謎の液体が入った透明なコップ。なんかボコボコ泡を立てている。


 危なかった。完全に飲みかけていた。


 たしかにカルロスは飲めば回復するとは一言も言っていない。しかしこの状況で差し出すのは詐欺に近い。完全にトドメを刺しに来ている。


 俺はそこまで恨まれることをしたのだろうか?


「ミドリさんが体に良い素材を提供してくれたんです。さぁさぁグイっと逝きましょう」


「いやあああああ!!」


 何故食材ではなく素材なのか。これは実験か何かか? というか逝くって言いました? どこへ? 神界? だとしたらパスカルにあげて。あの子神界に行きたがってたから。たぶん喜んで飲むから。


「ダァ~イ」


 血走った目でコップを口に押し付けてくるカルロス。


 人間関係に悩まされた若者はこんなことになるのか……。


 あと新人。流石に絡んだことのない先輩には手を出してこなかったが、見ているだけというのも十分過ぎる悪だと、俺は思うぞ。

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