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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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千八十六話 続・ゴミ拾い1

「……え、もう5日経ったん? マジで?」


 痔と便秘になる頭部のツボを押して赤髪の古龍を撃退した俺は、フィーネから今日が清掃ボランティアの当日であると教えられて驚愕を露わにした。


 口・拳・心・知識、己の持つすべての力で状況にあった最善の一手を示し続けていたせいで時間という概念を忘れていたが、まさかそんなに経ってようとは……。


 これが浦島効果!


「で、でも帰れなくね? 結構遠くまで来てるし。転送装置(?)はテーマパークにしかないって言ってたじゃん。今から向かって何とかなるもんか?」


 その話題を口に出すということは問題ないのだろうが、中断すると効果がなくなるというありがちな展開と合わせて、念のためにフィーネに尋ねる。


 まぁ経験値がゼロになったとしても二つ返事で承諾するつもりだが。


「今のルーク様であれば大丈夫ですよ」


「つまり俺に素質があって5日で習得している展開? フィーネの予想を遥かに上回る速度で力を手に入れた?」


「残念ながら寸分違わず進んでおります」


 さいですか……。



 フィーネ曰く、深層に籠り続ければ7日で『力』を身に付けることが出来るとのことだが、深層に足を踏み入れてから5日。未だに戦いには慣れないが(一生慣れることはないだろうが)、生き抜く術はそれなりに手に入れたつもりだ。


 大切なのはどんな相手だろうと冷静に対処すること。


 食物連鎖の上位者を前にして足がすくんで動けないだの、恐怖に駆られてわけのわからない行動を取るだの、思考出来なくなるだの、死を招いているだけ。


 生きたければ落ち着け。命が消える寸前まで最適解を捻り出す努力をしろ。小便を漏らすのもガクブルするのも泣きわめくのも生き残ってからすれば良い。


 死を受け入れろ。暴力を受け入れろ。理不尽を受け入れろ。


 生きるとはそういうことだ。


 イヤなことから目を逸らすのは簡単だし、そっちの方が楽だ。しかしそれでは本当の意味での楽しさは手に入らない。いつ訪れるかわからない『イヤなこと』に怯え続ける人生だ。


 そして命は死の上に成り立っていることを忘れてはならない。


 怒号を響かせる古龍はもちろん、振動で動いた空気や対処するために動かした原子にも命がある。新たな現象を生み出すということは破壊と再生を繰り返しているということ。


 命をもって命を制す……なんと尊い世界だろう。


 ――というのが、この5日間、万物の声を聴いて得たすべてだ。


 別に強くなっちゃいない。生と死を実感して心境の変化があっただけ。繰り返し走馬灯を見たせいでどうでもよくなったとも言う。


 でもそれで十分。いや知らんけど。あくまでも個人的な感想だ。実際の効果とは異なる場合がある。


「……っし、戻って来れた。あー、たしか集合場所って高校近くの公園だっけか?」


 よく覚えていないが天国への階段を登るような気持ちで地上に戻ってきた俺は、誰ともなく呟き、ゴミ拾い大会第二弾の会場へと向かった。




「せ、先輩……大丈夫ですか? なんというか、その、色々と」


 公園に入るなりラッキーが引き気味に尋ねてきた。すでに集まっていたミドリ・カルロス・新人3名も似たような顔をしている。


「ん~? 全然平気だぞ。ほれ」


 包帯でグルグル巻きになった右腕を振って平気アピール。


「ちょっと化学反応の調整ミスって跳ね返ってきて体内で暴発しただけだ。神経が繋がるまで念のためにこうしてるだけで痛くないし、作業にも支障ないぞ」


「問題しかないワードが盛り沢山でしたけど!?」


「ははっ。バカだな~。実験だって失敗するじゃないか。いつこうなってもおかしくない世界だってお前等も知ってるだろ。念には念を入れられる実験ですらその有様なのに、不確定要素ばっかの実践で失敗しないわけないじゃないか。想定内、想定内」


「「「…………」」」


 平気アピールをすればするほど周囲が引くのを感じる……どうしろと……? あ、気にしないのが一番? そうですか。そうします。


「んじゃあチーム分けだけど、ラッキーとアスカ、ミドリとエリート、カルロスとセクスィーで良いよな。俺は適当に加わる。もちろん優勝も目指さない。メインは懇親会だ」


「妥当なところですね」


 先週のゴミ拾い大会で打ち合せた通りの展開なのだが、まるで今初めて聞いたような顔で答えるカルロス。何なら俺に責任を擦り付けようとしている。策士だ。


 去年のようにスタンプラリーでも良かったのだが、ある程度仲良くないと道中ですることがなくなって詰む。


 対してゴミ拾いは『ゴミを拾う』という明確な目的があるので自由に動き回れる。作業に集中しているのだから会話がなくても問題ナッシング。視線を向けなくても怒られない。むしろ向けたら何処見てるんだと怒られる。


 上辺だけの会話すらおぼつかない彼等にピッタリじゃないか。



「……で、お前等なんで居んの?」


 ルール説明等は前回と同じなので右から左に聞き流しつつ、ここ数日で急激に仲良くなった精霊達の密告によって後輩グループの他にもう1組知り合いが居ることを知った俺は、こっそり忍び寄って声を掛けた。


「酷い言われようだなぁ。貴族だってボランティア活動に参加するよ」


「力を余計なことに使うんじゃないですの。不快ですの。今度やったら殺しますの」


 そこに居たのはファイとシィ。


 普段から気配の感知などおこなっていないファイは平然とした様子だったが、頼っていることの多いシィは必死に驚きを表に出さないようにしていた。


「人の心を読むんじゃないですの。うざいですの。力の悪用は大罪ですの」


「読んでねぇよ。親友が考えてることなんて見ればわかるわ。というかお前が読んでんじゃねぇか」


「ルークは顔に出やすいから。今回はシィもだけど」


「「…………」」


 似た者同士、イエーイ。


 さらにこの場にはもう2人。ファイ達の同級生という……。


「忘れるな! ピート=ベーカーだ!」


「ベアトリス=テイラーよ。学生服の製造販売の最大手の」


「むしろ何故覚えてると思った? 友人の友人だろうが。学園祭関係でちょっと絡んだだけの仲だろうが」


 当時は仲良くする気もなかったし、今もないので彼等に絡むのはこのぐらいにして、


「アリスは?」


「仕事の方が忙しいらしくて今回は欠席だよ」


 便りがないのは良い便り。忙しいのは順風満帆な証拠。昔の友人から宣言されるのは交流が続いてる証。


 何の問題もない。



「そう言えば今週の『バンバン』見たか? 応募者に抽選で『破滅の刀』のジローのフィギュアが当たるらしいぞ。しかも素晴らしい出来って話だ。シノビ推しの俺としてはあまり興味を惹かれないが、コンプリート勢のお前等は大変だろう」


「そんなのとっくの昔に知ってるわよ。リーク情報が出た時からね。私はまだ雑誌を買い続けるだけの貯金が残ってるし、シィはお金がないって最近魔獣討伐で稼いでるのよね?」


「この辺りの魔獣は狩り尽くしましたの。ダンジョンに潜るか遠出するか悩み中ですの。当然当たるまで寝る間も惜しんで稼ぎ続けますの」


 絡まないと言ったがあれは嘘だ。


「なにオタトークしてんだよ。仲悪かったんじゃないのかよ。平民見下してたんじゃないのかよ。まぁそんなことはどうでも良い。楽しそうだ。俺も混ぜろ」


「破滅の刀を知ってるのか?」


 ピートが訝し気に尋ねてくる。


 部外者お断りと言わんばかりに拒絶している気がするのは、決して被害妄想ではない……はず。


「いや知らん。バンバンとかいう雑誌も。でも布教してこそのオタクだろ。魅力を語って俺をハマらせてみろ。素質はある。いやもう俺がお前等を試す。今からする問いに答えろ。作品への愛がどの程度のもんか見せてもらおうじゃないか」


 俺は早口でまくしたてて質問を開始した。


「おいしいものを食べるより漫画やグッズを買う方が幸せだ」


「「「イエス」」」


 ファイ以外の全員が即答する。


「フィギュアを集め始めるとコンプリートせずにはいられない」


「「イエス」」


 コンプリート勢と言われたシィとベアトリスが即答。


「コミックにはもちろんカバーをかける」


「「「イエス」」」


「限定品は迷わず買う」


「「「イエス」」」


「Tシャツとジーンズがあればカッコいい服・可愛い服はいらない」


「「「くっ……!」」」


 貴族として、年頃の女子として、返答に詰まる一同。


「小説は内容よりカバーやイラストの方が大事だ」


「「「ぐぬぬっ……」」」


 ファンとしてどちらかを選ぶことは出来ないご様子。


「初恋の相手は二次元キャラだ」


「「「かはっ……!」」」


 シィはもちろんピートとベアトリスも違うらしく、鋭い右ストレートを喰らったように口元を抑えて膝をついた。


 ふっ、勝った。


「ちなみに俺は全部当てはまるけどな」


「小説の内容と絵は!? オタクの永遠の議題だろう!?」


「好きな著者なら絵を、好きな絵師なら内容を想像で補え。ファンにとって重要なのは好きか。作品の出来は二の次だ。もちろん自身の感想を伝えるのも忘れちゃダメだぞ。変な路線に行こうとしてる人は止めるのもファンの務めだ」


 完全勝利宣言にすぐさまピートが噛みついて来たが、一蹴。


「初恋の相手はどうですの! 萌えが普及したのはここ数年! 貴方が生まれた時には存在していなかったはずですの!」


「存在していたさ。俺の頭の中に。視覚化してもらわなきゃ愛を見出せないなんて、まだまだ甘いなシィ。俺は生まれる前から獣人ラブだったぞ」



 目から鱗の連続。この日からファイを除いた一同は、俺のことを『神』と呼ぶようになったとかならないとか。


 ご飯はお腹が満たされる。


 フィギュアは心が満たされる。


 好きは世界を救うよ。

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