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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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千八十五話 深層4

『我が大地を汚した罪万死に値する! 命をもって償え!』


 最強という枠組みさえ逸脱した存在。世界に降りかかる災厄と呼んでも差し支えない三頭龍は、巨大な顎を開いて死の宣告をおこなった。


 俺は蛇に睨まれたカエルのように動かない。いや動けない。


 全身に漆黒のオーラを纏った龍の3つの頭と6つの目がこちらを見ているから。


 完全に標的にされている。


 一挙手一投足どころか心の奥底まで見透かし、抗戦の意志を感じた瞬間、食物連鎖の上位者が獲物を狩る時ように舌なめずり。大蛇のような体を鞭のようにしならせて肉片に換えるか、純粋な魔力の力で消滅させるか、はたまた俺の頭では思いつかない方法か、とにかく絶望を与えるに違いない。


 当然逃げることも不可能。


 唯一の希望は、真摯な態度で接して怒りを沈めてもらうこと。


 幸い、凄まじい速度でこちらに迫って来ているだけなので、あとコンマ数秒は生きていられそうだ。それだけあれば弁解はもちろんズッ友にすらなれる。


 大丈夫。落ち着いて想いを伝えるんだ。肉体などという時代遅れの道具は捨ておけ。口頭では1文字が限界だが思考なら無限。時代は心だ。


(あぁ……どうしてこうなった……)


 これは演技ではない。


 繰り返す。これは演技ではない。


 おっと、これは違いますよ。これは不快な思いをさせてしまったことに対する自責の念や主人公としての義務であって、三頭龍さんに伝えたい言葉は別にあるんです。


(え~っと、その鱗素敵ですね。強者特有のノットケモナー状態ですけど、そうじゃなかったらペロペロしていたところですよ。ちょっと魔力封印してみません? 心の壁取っ払ってみません?

 あ、それと友達だから言いますけど口臭いですよ。ちゃんと口臭ケアしないと。今度人間界にある用品持ってきてあげますから一旦放してくれませんかね。ギザ歯が服に食い込んでるんですよ。

 あとですね。大切な土地を人間の血で汚したくないっていうのはわかりますけど、体内に入れるのは同化するのと同じことですからね。摂取したものは血肉になるんです……え? 口の中で消滅させる? 業火で?

 あーそれはやめておいた方がいいッスよ。俺んチの精霊王、そういうの嫌いだし。言っとくけど怒らせたらメチャ怖ぇから。どうなっても知らんよ。前に同じことしようとした深層の魔獣瞬殺してたし。マジでマジで。やべぇから)


『……貴様、精霊王と知り合いか?』


 三頭龍の動きがピタリと止まった。


 はい、仲良し~。これで争わなくて済む~。やっぱ言葉より心っすわ。


 反応してくれた時点で勝ちを確信していたが、念のために『俺の知り合いスゲーから』ムーブしておいて良かった。お陰で共通の話題が出来た。もはや同じ趣味を持つ同志と言っても過言ではない。


「イエ~ス♪」


 ケモナーの本望とも言える『ケモグモグ死(獣の口内で弄ばれて死ぬこと)』から一遍、俺はトランポリン空間と音が反響する空間を合わせたようなアトラクションと化した三頭龍の口内を堪能しつつ、決して届くことのないサムズアップで返す。


『つまり貴様を殺せば世界最強の座を狙えるというわけだな! 全力の精霊王に勝ってこそ意味がある! 我の覇道のために死ねえええ!!』


 【急募】完全に逃げ道を塞がれた状態で目の前に火球が出現した時の対処法。何故かフィーネからもらった腕輪の結界が使えません。


 3秒以内にレスがつかない場合、俺は死にます。


(1.名無しの噛み それはただの魔力なので物質より分解しやすいですよ~。やり方は化学反応を起こす時と一緒~)


(2.名無しの嘔 水の精霊術で口内の水分を奪ってから、氷の精霊術で肉体を破壊するのもありでは~?)


(3.名無しの土 あきらめる一択…)


(4.フィーネ 1に先を越されました……皆さん早過ぎますよ。暇なのですか?)


 あっという間に4件も書き込みが。大人気スレだ。


(え~、1と2は、助言、あ、り、が、と、う……でも、後で覚えておけ……3は、アンチだろ、どっか、行け……4ドンマイ……後半部分は、必要、な、い、ぞ……例え事実でも、煽るような発言は、感心しないな……っと)


 脳内でノットブラインドタッチ。通称ドタドタタイピングですぐさま返信。名前で煽っている連中への復讐を胸に、続々と届くレスをスルーし、早速実行に移した。


 噛まれないし嘔吐もされない。


 絶対に脱出してみせる。



 さて、生死を分ける戦いに挑む前に(挑んでいる最中だがまぁそれもありだろう)、主人公として何が起きているのか説明しておかなければなるまい。


 それは数時間前に遡る――。




『ナイス中二! 暗黒闘気……素晴らしい発想力です。感服いたしました』

『また一緒にテニヌしようぜ! 次は負けねえからな!』

『あっ、私とも光と闇トークしてください! 異世界転生トークも是非!』


 深層の魔獣達に混じってゴッコ遊びを堪能した後。俺(とフィーネ)は惜しむ声を一身に受けながら遊戯エリアを出た。


 向かうはテーマパークの出入り口。


 俺としてはこのまま楽しい深層ライフを送って力を手に入れることもやぶさかではなかったのだが、どうもここで得るべきものはすべて得てしまったらしく、「これ以上ここに居ても意味がない」と言われてしまっては仕方がない。


 目的はあくまでも修行。


 俺の気持ちなど二の次だ。


「って、そういうのが大事なんじゃなかったのか?」


 移動しながら尋ねると、フィーネはすまし顔で、


「その通りです。ですのでルーク様にはテーマパークを満喫していただきました。今抱いておられる楽しい気持ちを胸に地獄へ参りましょう」


「地獄!? 地獄って言ったか!?」


「いいえ? 言っておりませんが?」


「じぃぃ……」


「…………」


「じぃぃ~~」


「…………ぽ」


 しらばくれるフィーネを睨み(喜ばせ?)続けること数分。


 目的地となる外界へのゲートが見えてきたところで、フィーネが諦めたように口を開いた。


「人間、恐怖や苦痛を伴うことは嫌でも記憶してしまうものです。しかしそれはマイナスなことばかりではありません。世の中には経験しなければ得られないものも数多く存在します。恐怖があるからこそ克服があり、痛みがあるからこそ心身は強くなれるのです。慣れるのです」


 自分で考えた筋トレしているニートと、試合経験豊富なプロボクサーでは、間違いなく後者の方が強い。


 どんな結果だろうと誰からも怒られないお嬢様と、幼い頃から失敗ばかりしていた研究熱心な女の子では、間違いなく後者の方が打たれ強い。


 彼等には困難な道を歩むだけの志があるから、乗り超えてきた経験と実績があるから、嫌なことでもプラスに換える力があるから。


「でも痛いのは嫌です。トラウマは嫌です」


「大丈夫ですよ。幼い頃のアリシア様との修行の日々を思い出してみてください。今のルーク様ならあの頃よりも避けられるようになっています」


「俺が成長したのと同じく相手も成長していますが? そもそも別人なのですが?」


 仮に戦闘力5のゴミが1000まで成長したとしよう。100だった相手は1300ぐらいになっているし、今回俺が相手しようとしているのは1億の別人だ。


 相手が変わっているのに当時と比べる意味は一体どこにあるのだろうか?


「私からすれば深層の魔獣も幼少期のアリシア様も大差ありません」


「俺にはデカすぎる差ですが!?」


「果たして本当にそうでしょうか? ルーク様は御自分を過小評価しておられるだけなのでは?」


「そんな手には乗らないぞ。危険を冒してまで手に入れたい力じゃないんだ。安全だとわかるまで俺はここから動かない」


 天然の戦闘力測定器を持っているのに曖昧な言い方をする理由は、明かせないからだ。『主人公だし意欲だけで何とかなるやろ』って考えだからだ。


「実際そういった次元の話ですし……精霊術師に必要な力は肉体ではなく心の強さですよ。もちろんあるに越したことはありませんが」


「じゃあ根拠を示せよ! 少しでも古龍に抗えるって根拠を!」


「では……」


 フィーネは一呼吸おいて語り始めた。



「ルーク様は当然のように会話しておられましたが、地上と深層では言語が異なります。無意識に翻訳しておられたのですよ。独自の言語を操る地上の魔獣や動物ほど差はありませんし、念話などによる意思疎通も図られていましたが、普通の人間には到底不可能な芸当です」


「俺が精霊術師だから出来たってことか?」


「はい。相手の内側を読み、心の機微を言語化し、それに対する自分の想いを言霊にして伝える。口に出すのではなく相手に届けるのです。

 人類の間では『相手の気持ちを察する』などと言いますが、ルーク様自身が察しようと、出来ると思っていなければ絶対に出来ないこと。

 ルーク様は既に精霊術を使いこなしておられるのですよ。後は心持ち次第です」


 割と説得力があった。


「……マジでやる気でなんとかなるレベル?」


「やってみればわかりますよ」


 力が欲しいか欲しくないかで言えば間違いなく欲しい。努力するかしないかで言えば間違いなくする。


 魔境に興味がないと言えば嘘になる。



 フィーネの口車に乗せられて外界へ出ることを決めた俺は、


『人間。ここが我の支配する土地と知ってのおこないか?』


 ゲートをくぐった先に居た三頭龍さんに絡まれて心が挫けた。




 ゴオオオ……ォォ……。


「おおっ、マジか!」


 古龍にとって人間はGのようなものらしく、地に足をつけただけで汚らわしいと怒り出し、話が冒頭に戻る。


 知人……もとい匿名レスのアドバイスに従って業火に立ち向かうと、思いのほかアッサリと消火に成功した。


 武力など求めてはいなかったが、精霊・微精霊を研究していたことがこんなところで役に立つとは……人生わからないものだ。


 ガブッ――!


「あ……」


 まぁ口内という攻守共に優れた(という表現が正しいのかは知らないが)場所に居ることには変わりないんですけどね。


 舌を器用に動かされて右手噛み砕かれたんですけどね。


 そりゃ自分の口内だもの。歯の間に挟まった肉を処理出来るんだから、舌の上に乗ってる食材を噛むなんて余裕のよっちゃんですよね。


『グアアアアアアアアッ!!!』


「ってお前が苦しむんかい! 歯ぁモロ! ちょっとエナメル質溶かしただけじゃん! 銀歯でアルミホイル噛んだようなもんじゃん!」


 戦い方次第では深層でも結構生きていけそうです。


『ぐぅ……良いだろう、貴様を通してやる。だが我を倒したからといって調子に乗るなよ。我は深層でも下から数えた方が早い弱者。テーマパークを警備として雇われているだけのモブに過ぎん』


 あ、やっぱり無理そうです。

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