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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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千八十三話 深層2

『よーこそ、よーこそ! 灼熱地獄に、よーうーこーそー!!』


 深層は想像していたものとはだいぶ趣が異なる場所だったが、地底人も俺達と同じく生きているのだから、豊かさや楽しさを求めることもあるだろう。そのために発展させたりもするし、どこからか仕入れてきた文化を真似したりもする。


 根付くかどうかは二の次三の次。取り合えずやってみて、気に入れば残すし、気に入らなければ滅ぼす。気に入っていた者達とは争う。


 そんな人類の縮図が、今、俺の居る、テーマパークの1エリアと呼ぶにはあまりにも広大な土地には広がっていた。


「まぁこれは違うけどな」


『何故そんなことを言うんですか!? 楽しいですよ!? 見た目で判断しないでください! というか見た目も素晴らしいじゃないですか!』


 テーマパークらしい鮮やかな服を身に纏った半透明のゴーストは、アトラクションを馬鹿にされたと思ったのか、息を荒げて(?)灼熱地獄の素晴らしさを主張し始めた。


 が、こちらにも言い分はある。


「楽しい楽しくないの問題じゃない。人類の歴史を語る上でこんな火炎空間は存在しないし、してはならない。今すぐ『このアトラクションはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません』って説明文を付け加えろ。

 あと人間は絶対楽しめないから無理矢理引き入れようとするな。訴えるぞ」


 日本の象徴として忍者や侍を登場させるまでは良い。隠し通路満載の忍びの里を作ったり、言葉遣いを『拙者』『ござる』にするのも全然構わない。


 しかし、城壁を飛び越えるジャンプ力を求めたり、分身の術が使える前提で話したり、武器をビームソードにしたり、居合抜きが抜刀した流れで切らず振りかぶることにガッカリするのはダメだ。速さ重視の技で人体を切れるわけがない。


 俺達が勧誘されているアトラクションはまさにそれだった。


 メインはマグマ遊泳。プールサイドには防滑タイルの代わりに高温でも解けない石材が使われているが、熱した鉄板など比べものにならないほどの熱を宿している。水の代わりに刃物が降ってくる滝や、水鉄砲の代わりに実弾が飛び出る銃の貸し出し、剣山への登山などお遊びエリアも健在。


 現実と空想の区別がつかなくなった結果、良くない方向に軌道修正したファンタジーワールドだ。


『え~? 自力で深層に来るほどの実力者なら楽しめますよぉ~。もしかして貴方、そちらのエルフさんに連れて来てもらった口ですかぁ? 興味本位で遊びに来ちゃった系ですかぁ~?』


 うぜぇ~、コイツうぜぇ~~。


 このゴースト、間違いなく接客に向いていない。客の発言に突っかかるようなヤツは裏方に回せ。教育がなってないぞ。


『それはそうでしょう。自分見習いですし』


「だからイチイチ突っかかるな。心を読んでまで」


『声に出てましたけど?』


 ……まぁ人間そういう時もある。


 俺が独り言をブツブツ呟くのが癖の陰キャ体質だとか、何を言っているのか聞き取れないほどモゴモゴ喋るタイプというわけではない。断じて違う。


「そんなことより自分の実力不足を肯定するな。恥じろ。新人だからは言い訳にならないぞ。現場に出るってことは会社の信用を背負うってことだ。お前の言動1つでこのテーマパークが潰れることだってあり得るんだぞ。そのことを肝に銘じておけ」


『はは~ん、さては貴方クレーマーですね? そうやって自分を挑発して貶めようって魂胆でしょう? そうは行きませんよ』


「ちげーよ。親切心で注意してやってんだろうが。変な風に捉えるな。常に自分は正しいと思うな。周りの意見に耳を傾けろ」


 なんだ、この荒んだ若者のような従業員……。


 あ、ちなみに今回は若者全般であって『現代の若者』ではないので勘違いしないように。どの時代の新人もこんな感じだ。


 情報化社会になったせいで、そういった話が目につきやすかったり同意を得やすかったりするので勘違いしがちだが、基本的に若者は「自分は正しい!」「こんなの間違っている!」をモットーにしている。


 違いがあるとすればどれだけ表に出すか。


 現在、老害と呼ばれている者達は、様々なハラスメントによって無理矢理やらされてきた。上司に対する恐怖と取り合わない姿勢が口封じとなっていた。


 しかしそれが出来なくなった現代では何でもかんでも表に出す。


 昔の人間は酒やタバコに走ってストレス解消していたが、現在はそれ等が悪とされているので、匿名での愚痴はもちろん、本人や会社に直接言うことも多い。


 良く言えば意見が通りやすくなった。悪く言えば扱いづらくなった。


 あくまでも多くなったというだけでそうではない若者も居るし、本人の感じ方次第なので第三者の俺がどちらが正しいか決めることも出来ないが、周りの意見に耳を傾けるというのはどんな状況でも必要だと俺は思う。


 これを言うと何故か同調してくれる連中を集めようとする者が居るが、俺の言ってるのは自分の思うところを述べて人の過ちをいさめる『異見』の方だぞ。


 ソクラテス先輩も言ってただろ。『貴方のあらゆる言動を誉める人は信頼するに値しない。間違いを指摘してくれる人こそ信頼出来る』って。


 大切なのは「なるほど……」と思うことだ。唸ることだ。


 個人で出来ることなんてタカが知れている。思考も、行動も、作業も、仲間とやった方が成功する確率も得られるものも断然大きい。


 納得した分だけ達成感は増える。納得していない分だけ達成感は減る。


『あ、じゃあそろそろ交代の時間なので自分はこれで』


「話を聞いてないだとォ!? 結構良いこと言ってたんだぞ!?」


『そういうのいいんで。自己啓発とか間に合ってるんで』


 定時出勤・定時退社の鏡は、ここまでの流れを一切合切無視して、客であるはずの俺達を残して姿を消した。流石はゴースト。


 これは現代の若者だわ。もし昔の新人がこれやってたら暴力or説教待ったなしだったわ。


 手を出せないとこういう時面倒だよな。


 対話で何とかしろって、話を適当に流す相手をどうしろってんだよ。それを悪いと思ってない相手を正すためにはどうしたら良いんだよ。誰か教えてくれよ。説教の時間を貰うことすらハラスメントとか言われるんだぞ。



「って誰も来てないが!? まさか時間になったからって理由で帰ったの、アイツ!? 交代の人間が来ようが来まいが関係なく!?」


 当たり前のように居なくなったが、入り口には俺達以外誰も居ない。無人だ。


 そんな気は一切ないが、もし俺達がアトラクションに入りたくなったらどうするつもりなのか。そしてこの後に来るであろう客の相手はどうするのか。


 もはややる気の有無の話ではない。社会人(?)としてアウトだ。赤の他人だろうと注意すべきレベル。百万歩譲ってやむに已まれぬ事情があるなら交代が来るまで見ててくれるよう俺達に頼め。急ぎの用事がある感じじゃなかったけど。


「いいえ、ルーク様。姿は消していますがそこに別のゴーストが来ていますよ」


 これが事実なら流石に上司に知らせた方が良い。


 念のためにフィーネに確認すると、彼女は明後日の方向を向いて言った。その直後、ゲートが不自然にバタバタと揺れる。


 どうやら本当に交代が来ているらしい。


「……なんで姿消してるんだ?」


 が、めでたしめでたしとはならない。


「やる気のないさっきのゴーストは姿を見せただろ? まさかアイツ以上にやる気ないとか? 仕事の一部だからとほざいて制服に着替えるのが始業後のヤツだったりする?」


 すると先程より激しめにゲートがバタバタ揺れた。違うらしい。


 しかし返答ではないので正解はわからない。


「仕事への意欲と自己啓発は別ということでは?」


「あー、自分なりに良い接客をしようとした結果、喋ったり客の前に姿を見せるのはNGなのに就業規則を破ってしまったってことか」


 たしかにあのゴーストは「それ違うよ」と言われて逆上しただけで、最初は良かった。逆に新しい方はまったく勧誘して来ない。


 この見守りタイプこそが本アトラクションのスタッフのあるべき姿なのだろう。


『やれやれ……やっと居なくなった……』

『まったくあの係員にも困ったものだ』

『お肌がフヤけちゃったわ!』


 実際、ウザ絡みしてくるゴーストが居なくなったのを知った客達が続々と出てきた。利用者数アップのために拘束されていたのだろう。


 取り合えず人さえ入っておけば賑わっているように見える。賑わっていれば人は集まる。以下リピート。


 力で無理矢理という感じではないし、話術と言えばそれまでなのだが、あまり褒められたことでないのは確かだ。




「……で、お前なんでついてくんの?」


 元々、俺達は別のアトラクションへ向かうところだったので、強引なゴーストから解放された客達共々灼熱地獄を後にした。


 そんな俺達の後をつけるストーカー野郎が居た。


 新人勘違いゴーストだ。


 終業時間外だからなのか、先程までの派手な制服姿ではなく、胸元にデカデカと『ゴ』と書かれたTシャツ一枚の軽装。下は履いていない。制服もそうだったのでそういう種族なのだろう。


『貴方から鳳凰山のニオイを感じたので』


「……意味がわからないんだが?」


『知らないんですか? 鳳凰山のような超一流の職場で働くためには、ここのような何をやっても許される温いところで研修する必要があるんです』


「ここ職業訓練場だったの!? にしたって言い方がアレだけど!」


『ちなみに従兄弟のゴーストライター渡辺はもう就職して現場に出ています。会ってませんか?』


 俺の反応から鳳凰山経験者だと判断したゴーストは、ツッコミを無視して続ける。


「会ってない。あとライターで炎要素を出してるつもりかもしれないけど、違う意味に取られるから改名した方が良いぞ」


『簡単に言わないでください。名前を変えるためには、家族で話し合い、種族リーダーに書類を提出し、月に一度おこなわれるリーダー会議で議論、決まったことを幹部に知らせて、許可されれば逆の順序で戻って来るので、そこでようやく周囲に知らせることが出来るんです。物凄く時間が掛かる作業なんです』


 逆ギレされた……。


 しかも答えになっていない。


「従兄弟と会ったかどうか確認するだけなら無言でついて来る必要なんてないだろ。俺達に何か用があるんじゃないのか?」


『自分が就職しやすくなるように口添えをしてもらおうかと思いまして』


「帰れ!!」


 コネをコネコネするなんて真似は許しません。


 鳳凰をホッちゃんと呼ぶほどの仲だとか、彼の昔馴染みのユキと親友だとか、各種アトラクションをクリアして鳳凰山の連中に認められたとか、余計なことを言う前で良かったよ。



「ちなみに彼の従兄弟、ゴーストライター渡辺さんは、アリシア様がお世話になっていますね」


「マジか……」


 ゴーストライター……あ、名前聞いてなかったわ。まぁ強引ゴーストで良いか。強引ゴーストが居なくなった後で良かった。


 これ以上変な知り合いが増えるのは御免だ。

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