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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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千八十二話 深層1

「地下は、我々が暮らしている世界の下であると同時に、地底に生きる者達の上でもあります。距離で言えば我々の方が近いですが労力は変わりません」


 セイレーンが暮らしている湖の底の奥。海中トンネルのような空間にポツリと設置されていたエレベーターに乗って深層へ向かっていると、フィーネが何の脈絡もなく深層トークを始めた。


「何の話だ?」


 創作物で描かれがちな色彩豊かなワームホールに目と心を奪われていた俺も、視線はそのままに意識を隣に移す。


 ワームホールには見入ってしまう“何か”があった。


「その前に1つ。慣れるまではあまり見入らない方がよろしいですよ。肉体と精神のいずれかならば問題ありませんが、両方は引き込まれてしまいます」


「これそんな危険なものだったんですか!? ヒカリは何度か来てるって言ってましたけど!?」


 慌てて視線も逸らす。自然と見入ってしまうだけで意識すれば簡単なことだ。ミニスカートやズボンの裾、首元から見える桃源郷と同じだな。


「道を見つけられたルーク様だからこそですよ。『見つけたばかりだからこそ』と言った方がわかりやすいですね。理解している分、情報過多になりやすいのです」


 つまり危ないと。


 フィーネに声を掛けてもらわなかったら俺も思春期男子並みにおサルさんになっていたと。目も心も持っていかれたままだったと。後日、クラス内や女子界隈で批難の的になっていたと。


 仕方ないんや。思春期ってそういうもんなんや。大便と一緒。あまり口うるさく言わないであげて。女子も見えない努力してあげて。俺も出来るだけ見ないように努力するから。相互理解していこう。


 非常に分かりやすい例え話をしたはずだが、フィーネは無理矢理エロに絡められたことが気に食わないのか、相づちも打たずにスルー。


 まぁ俺の中で納得したので良しとしよう。


「ただし、引き込まれたとしても乗り物酔いのような状態になるだけなので、そこまで気にする必要もありませんが一応忠告させていただきました。こればかりは治療も出来ませんし」


 フィーネの力をもってしても治せない病気……知恵熱とか五月病とかそんな感じだろうか?


 何にしても辛い思いをする前で良かった。3D酔いも乗り物酔いも二日酔いも望んでなるようなもんじゃない。


「ちなみに回数こなせば慣れるみたいなことは……」


「ありません。酔わないための唯一にして絶対の方法は、知識を深め、自らで乗り越えることのみです」


 酒酔いと同じだな。


 少しずつ飲んでいればそのうち飲めるようになるなんて嘘だ。アルコールの分解能力は遺伝によって決まっている。無理なものはいつまで経っても無理なのだ。


 遺伝に左右されない体内機能の向上や、不快感への慣れ、分解が遅い故にアルコールの回りも遅い人など、飲み続けることで酒に強くなる場合もあるが、それは体に無理をさせているだけなのでほどほどに。


 俺と一緒に美味しく飲める酒を探そう。


 ま、俺は知識という名の源泉だがな!



「んで、結局地上人と地底人の話は何なんだ? 労力とか言ってたけど」


 酔いトークをドヤ顔で締めた後。


 俺は脱線した話を元に戻して改めて尋ねた。


「リニアモーターカーについてです。太古からの契約や結界などもあるにはありますが、将来のために深層の者達に話をつけておいて損はありませんよ」


 俺達が地下鉄に乗るのも、古龍(?)が数百m上の地域に行くのも同じ労力だから、無賃乗車や無許可の開拓を避けるために説明しておけってことかな。たぶん。


 お互いの領域がどのようになっているか知らないが、下手に大地を削って「お、侵略か?」「うるせぇ! 誰に断って真昼間に工事してんだ! こっちの迷惑考えろ!」などと思われたら世界が滅ぶ。


 良くて地上と地下の2つの世界を巻き込んだ戦乱時代に突入だ。


「まぁ俺が主導で始めた事業だしな。1週間ぐらい特にやることないんだろ? ならやるよ。観光ついでに」


 フィーネが居れば大丈夫。世にも珍しい魔道具があれば大丈夫。強者すら感心させる知識があれば大丈夫。関係者全員から鬼才と言われる話術があれば大丈夫。


 ……そう思っていた時期が俺にもありました。




 そこは不自然な明るさと奇妙な静寂に包まれていた。


 近くには飲食街やラブホテル街がある。若者が多く、ファッショナブルな公園通りとは趣が異なり、ちょっぴりいかがわしく夜の方が賑わう大人なエリア。


「なんでやねん……」


 皆の話からベルダンや鳳凰山のような『THE ダンジョン』を想像していた俺は、深層のあまりの普通具合に溜息を漏らした。もちろん感心ではなく呆れる方の。


「古龍が縄張り争いしてる山は!? そこら中を飛び交う魔法は!? どこまでも広がる自然豊かな大地は!? 力こそすべての弱肉強食の世界は!?」


 静寂の原因が自分(外界からの侵略者)であることを理解しながらも、構わず喚き散らす。


 辺りを歩いている連中に奇怪な目を向けられようが知ったことか。ツッコまずにはいられない。なんで人型やねん。なんで町やねん。なんでハロウィンやねん。


「ご安心ください。我々は偶然テーマパークに出てしまっただけで、そういった場所もございますよ。どうやらルーク様の抱いておられる深層イメージを壊そうとする何者かの手によって出口を変えられたようですね。到着地点のイメージを持っていない初回はよくあるのですよ」


「なんじゃそりゃああああああああああーーーーッ!!!」


 深層……思ったよりアレな場所だった……。


 アレが何かは聞かないでくれ。


「おっ! 見ろよ、人類発展の歴史だって! 俺が生み出した魔道具とか文化とか展示されてるかな!?」


「流石ルーク様……秒で馴染みましたね」


「まぁ鳳凰山で似たような経験してるしな。こう言っちゃなんだが想定内だったよ」


 理想と現実が違うことは多々ある。


 気に入る・気に入らないはともかく、そういうものである以上は受け入れるしかない。理想の世界(というか想像通りの魔境)もあるにはあるようだし。


 思い通りにならないからといつまでもどうしようもないことにブツブツ文句を言うより、それを如何に楽しむかの方が大事だし建設的だろ?


「ではまず受付へ参りましょう。我々は受付を通らずに入園してしまいましたので」


 地上界テーマパークを満喫しようとする俺を見たフィーネは、不法入国および無銭乗車(?)によるトラブルを解決する案を提示。俺も二つ返事で応じる。



「あ、もしかしてベルフェゴールさんのお知り合いの方ですか?」


 近くのインフォメーションセンターで出入り口の場所を聞き、ついでに謝罪と説明をすると、俺の体に染みついたベーさんのニオイというか気配を感じ取ったインフォメーションガールが、話の途中で何かを察したように口を挟んで来た。


「……まぁ」


 理解が追いつかないが事実ではあるのでこれを肯定。この様子からして悪いことにはならなそうだ。もしなったらフィーネに何とかしてもらった後でベーさんをボコる。悪名轟かせてんじゃねえよって文句言う。


「でしたら入園の手続きは必要ありませんよ。もちろんお代も結構です。御自由にお楽しみください」


 っぱ大地を司る怠惰さんは最高だぜ。誰だよ、『地』を裏五行にしたヤツ。昇格して差し上げろよ。『時』に負けてねえよ。


「え~……手のひら返しがお好きなルーク様」


「なんだ?」


「勘違いされておられるようなので訂正させていただきますが、ベルフェゴールさんは『土』と『金』の2属性を持ち合わせており、上位属性の『時』と『冥』も使いこなせますよ。ただあのような性格なので楽に使用出来る『土』しか頼りませんが……」


「最強じゃね!?」


 性格については解釈一致なので置いておいて――。


 世界の理に最も近い特殊五行の内の2つを支配し、闇に最も近いとされる『冥』を隠し玉に持つベーさんは、もしかしなくても世界最強の生き物なのかもしれない。


 まぁ何度も言うが性格がアレなので猫に小判なわけだが……。


 フィーネは遠回しに言ったが、使い方を忘れているに今月の給料全額賭けても良い。彼女が死ぬまでに使用するか否かはNOに全財産だ。


「ちなみに、私の得意属性は風ですが、『天』『無』『時』『冥』『雪』の全属性も扱えるのですよ。ユキやベルフェゴールさんのように極めているわけではありませんが」


「き、器用貧乏……?」


「最近、私の扱いが酷くありませんか!?」


 いやだってなぁ……。


 それしか使えない一流とそこそこ使える二流だと、絶対と言って良いほど前者が勝つじゃん。多種多様ってそれだけで弱いじゃん。ゲームでも活躍するのは序盤だけで、後半になればなるほど扱いにくくなるじゃん。火力最強になるやつだと特に。


 そもそもそんな特殊属性をどこで使うんだって話だし。どうせ天から隕石落として町1つ消し飛ばしたり、存在そのものを消したりするんだろ? ただの殺戮兵器じゃん。チーターじゃん。使い道ゼロじゃん。


 勝者にもなれず、力を示す機会もない人間のことを、器用貧乏と言わずしてなんと言う。



 さ、そんなことより許可も貰ったことだし、テーマパークを楽しむとしよう。


「ルーク様ぁぁ~~!」

最近パソコンの調子が悪く、詳しい知り合いに見てもらいますが、修理が必要だった場合は申し訳ないのですが数日ほど休むことになります。

近々投稿がなくなった時は修理に出したのだと思ってください。

飽きたり辞めたわけではないのでご安心を。

小説書くのメチャクチャ楽しいです。

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