千七十七話 ゴミ拾い6
コスパ最強の吸い殻のみを集め、その他のゴミを放置していた効率厨に、同じルートをもう一度周らせるという効率の『こ』の字もない作業を命じた後。
俺達は、終了時刻より30分早く開会式がおこなわれた広場に戻って来ていた。つまり、イヨ達との勝負や、自身の清掃活動より優先している。
目的はただ1つ。
運営への注意だ。
「覆面調査を実施するべきです。量や質によって優劣をつけるのは良いと思います。最も優れた者、頑張った者に褒美を与えるのも良いと思います。
しかしあれではゴミ拾いになっていません。ユキに調べてもらいましたが、得点の低いゴミには見向きもしないチームが結構居るようですね。本末転倒ではないですか?
顔の知られていない人間が参加者の活動内容を監査して、減点もしくは警告をしなければ、同じことの繰り返しですよ」
「それは……私達も薄々感じていました」
話を聞いてくれた代表の1人がうな垂れながら認めた。
傍らには一杯になった2つのゴミ袋。運営として本部から離れることは出来ないらしく、広場周りの清掃を担当することになっていたのだ。
中身のほとんどが落ち葉や雑草なのは喜ぶべきことだろう。
……人間目線なら。
(アスファルトに咲く花なら刈られなかっただろうに……所詮人間は邪魔なものを排除するしか能のない生き物ってことか……)
「しかしこれ等はあくまでもボランティア。参加者はもちろん私達も仕事の休みを利用して活動しているだけなのです。ゴミを拾っていることには違いなく作業内容を強要することは難しいですし、調査する人材が足りない現状では中々……」
密かに別のことを考えていると、運営の男性はどうしようもない現状を語り始めた。俺も人間アンチを引退して乗る。
「難しく考える必要はありませんよ。町の人達に頼めば良いんです」
「清掃活動に監視ボランティアを募ると?」
「まさか。そんなことするぐらいなら効率厨を放置して清掃活動に参加してもらった方が何倍もマシです」
世間知らずの小僧の自己中心的な主張でないことに安堵した男性は、興味深そうな顔で話を続けるよう促してくる。
あのハゲの主張を認めたくはないが分担制が効率良いことは確か。
可燃ゴミ・資源ゴミ・小型破砕ゴミと、それ専門のゴミ拾い業者にチームを組ませれば、作業効率は格段に上がるし収集後の処理も楽になる。
もしかしたら運営はそれを狙っていたのかもしれないが、結果的に全員が可燃ゴミ……しかも高得点のものだけを拾うというロクでもない事態になってしまっている。
では、どうやってそれを阻止するのか?
「コメントをもらうんですよ。リアルタイムのね」
「コ、コメント……?」
「はい。突然ですが、にーちゃんねるや町・店のホームページのことは御存じですか?」
「え、ええ……にーちゃんねるは特定の話題について話している掲示板に匿名で書き込むことの出来るネットサービス。ホームページは画像や文章で宣伝するものですよね」
「その通り。そして清掃活動についても告知はされている。しかし内容は簡素な告知と結果報告のみ!
そこでにーちゃんねるのように誰でも書き込めるようにするんですよ。○○地区で手を抜いてるヤツが居るとか、××地区がメチャ綺麗になってるとか、町民全員に監視役になってもらうんです。
これだけケータイが普及しているんです。子供でも思わず見てしまうような、目でも楽しめる特設サイトを作って周知させれば、情報なんて簡単に集まります。ボランティアへの関心も得られて一石二鳥!」
「おおっ!」
ドヤァ~。
今やケータイは1人1台の時代。基礎学校に通うガキや通話以外の使い方を覚えられないジジイババアはともかく、大人ならチョチョイのパッパで通報……もとい書き込みよ。
「しかしそんなにうまくいきますかね? 関心がないからこそ参加者が集まらなかったわけで……」
「それはやり方次第でしょ。優勝チームの戦略紹介とか、どんなゴミが多いかとか、集めたゴミがどんな風に処理されたりリサイクルされたりしてるかとか、拾って終わりじゃなくて前後も伝えるんですよ。
他にも、参加してくれた学生にはお菓子とジュースをプレゼントしたり、学校や企業に頼んで行事としてやってもらったり、ゴミ拾いをオマケにしてスタンプラリーしたり。
目的地で問題に答えられたらスタンプ押してもらえるようにして、出題内容をゴミ関連にしたら自然と注目するし集めるでしょ。『このゴミの種類は?』とか『処理方法は?』とか『何から出来ている?』とか。何なら今みたいにポイント制にしても良いですし」
「「「おおおッ!!」」」
いつの間にやら集まっていた他の運営の皆さんも歓声をあげる。
「それで無理ならロア商会から掃除用魔道具を提供しますよ。掃除機とか高圧洗浄機とか食器洗い機とか洗濯機とか」
「「「うおおおおッ!!」」」
万全な体制にさらに歓喜する一同。
これは採用と見て間違いないだろう。
(というか最初からそうしとけよ、なんだよ賞金って……)
こういう場合は現物支給と相場が決まっていると思っていたのは、どうやら俺だけだったようだ。金券を禁止したことが仇となったのかもしれない。
まぁ仕方ないよな。アレ、悪用し放題だし。電子マネーにも同じ空気を感じるが、俺が生きていた時は問題になっていなかったし、神様に聞く限り今もあやしい取引に使われているらしい。
平気で視聴者・参加者プレゼントとかしてるけどどうなんだろうな。現金じゃん。視聴者買ってるようなもんじゃん。話題づくりのために支払ってるようなもんじゃん。
あ、あと、そこまでやってもコメントが少なかった場合は知らん。頑張れ。オススメはサクラを雇って盛り上がってるように見せることだな。にーちゃんねるで話題になれば自然と集まるはずだ。俺達みたいに注目される何かをするチームが現れてもグッド。
『え~、優勝は2100ポイントを獲得した、チームチョコーズです!』
そんなこんなと閉会式。
瞬間最大風速はどのチームより強かったはずだが、何分作業時間が少なかったので、俺達は勝負相手であるイヨ達に敗北した。
チコ・イヨ・ココ・ルイーズの4人から1文字ずつ抜き出して『チョコーズ』だ。
運や時間の使い方もあるだろうが、やはり大きいのはユキの悪戯。ゴミ袋の中身を転移されたことで広がった差は到底縮められるものではなかった。
あと言っておくが俺は『ー』を一文字とカウントするヤツが嫌いだ。しりとりでも数に入れない時あるじゃないか。ルビーを『い』にする違和感よ。『び』で良いだろ。せめてどっちかに統一しろよ。「それは『い』もしくは『び』な」とかいつまであやふやにしておくつもりだ。伸ばし棒が可哀想だと思わないのか。あの子は前の文字に委ねる優柔不断クンなだけで意志がないわけじゃないんだぞ。母音以外になりたかったり、母音の中でもこれが良いってのがあるはずだ。
「その話、今、必要ですか~?」
「いや。ただの時間稼ぎだ。でもお陰でいい案が浮かんだよ。これで俺達は勝者になれる」
「何をするつもりか知らないけど、子供相手にあんまりムキになるもんじゃないにゃ……」
「勝負に女も子供も関係ない。全力を出さないで何が面白いってんだ。本気と本気のぶつかり合いだから楽しいんだろ」
と、チームメイツの合意を得たところで、表彰式から戻って来たドヤ顔の少女達に宣言しよう。
「俺、このイベントの欠点を見つけて、それを見直してもらうために運営にアドバイスしてて忙しかったし。お前等は欠点だらけのイベントで勝利したに過ぎない。欠点に気付きすらしなかったみたいだけどな」
点差からしてハゲとのやり取りや運営への報告がなければ追いつけていた。つまりこの勝負は引き分け。むしろイヨ達の反則負け。
「はぁ? なに負けおしみ言ってんのよ。ゴミのゆーせんじゅんいなら、わたし達だってきづいてたわよ」
「だね。でも終わってから言えば良いかなと思ってゴミ拾いに専念してたんだよ」
はい出た。自分もそう思ってました発言。
良い意見に同調しておけば同格になれると思ってるタイプだ。実際は手柄を横取りしてるだけなのにな。こういうのは言ったもん勝ちだろうがよ。せめて追加の意見出せや。
「写真」
お互い一歩も譲らない状況に待ったを掛けたのは、ぼそっとした呟きにもかかわらず沈黙の隙間を縫うように放たれたお陰で全員の耳に届いた、チコの言葉。
「ふん、残念だったなチコ。それはもう伝えてるぞ」
サボっている証拠写真、この場所にゴミが沢山あると進言する写真、どれだけ町が汚れていたか人々に知らしめる成果写真。
ケータイの撮影機能は悪いことばかりじゃない。良いことにも使えるんだ。
「違う。綺麗になったところを映した写真。その方が達成感がある。町の紹介も出来る。劇的ビフォーアフター」
「なん……だと……!」
くっ、俺としたことが……ネガティブな写真ばかり集める気でいた。
そうだよな。誰が汚れたものを見て喜ぶんだよ。抱くのは『ゴミの多い町』っていうマイナスイメージに決まってるじゃないか。綺麗な町になったって写真も必要だろうが。
「ふっ、勝った……」
満面の笑みではなく口角を少しだけ上げるニヒルな笑み。野郎がしたらキザったらしいだけだが、獣人娘がすると何故こんなに愛らしいのだろう。
やはり耳や尻尾の動きと関係があるに違いない。リニアモーターカーの件が片付いたら研究に取り掛かるとしよう。
それはそうと……。
「すいませ~ん。良いアイディアが浮かんだので追加のアドバイス良いですか~」
俺は、一仕事終えて休む間もなくゴミの処理に掛かろうとしている運営陣に、今思いついた案を提供しに向かった。
先に言ったもん勝ちよ。ケケケ。
「で、ルークは何をなやんでたの?」
「いや、俺勝ったし。完膚なきまでに勝利したし。言う必要はないね」
認めてもらえませんでした。
何故だ。




