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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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千七十六話 ゴミ拾い5

『自分が仕事よりプライベートを優先する人間で、そうすることに何か価値があるというなら、どうぞ』


 散々仕事とプライベートを分けないと言っていた俺としては、こんな、これ以上ないほど分けた考え方を認めるわけにはいかない。挑発とわかっていても乗らざるを得ない。


 来週も清掃活動をおこなうことに。


 さようなら深層。


 こんにちは後輩。


(……って、これだと分けてるな。6日仕事に励んで1日交流。後輩と遊ぶのと同じぐらい仕事を楽しんで、仕事と同じぐらい真剣に清掃する。うっし! それで行こう!)


 今と同じだ。出来ないわけがない。


「つまりカルロスさん達と勝負するんですね~? 何か賭けるんですね~?」


「真剣になるのに条件が必要なのは無能だけだろ。俺はそんなことしなくても出来る」


 先輩vs後輩か、教育する側とされる側を組ませるのかはわからないが、どの道チーム分けして競うことになりそうなのは言わないでおこう。


「まぁ教育する側とされる側でチームを組んで三つ巴の争いが起きるんですけどね~」


 と思ったら口に出されてしまった。断言されてしまった。


「ルークさんは第三もとい第四勢力の倒すべき敵として立ちはだかるんです~。もちろん皆さんの監視をしながら。良い感じに絡んで見せ場も作ってくださいね~」


 さらに無理難題を押し付けられてしまった。


 たしかに、どこに所属しても角が立つから、勝負するためにはそうするしかないんだろうけどさ……。


「と、知らないフリをして上手いことやる陰の立役者気取りのルークさんであった~♪」


 それは言わないお約束。俺は空気を読める男なのだ。




 遅れを取り戻した分だけ遅れる。


 急がば回れの亜種というか、人為的逆効果というか、まるでそうなることが最初から運命付けられていたかのように負の連鎖に陥った俺達は、このままでは間に合わないので最終手段『分散』を使うことに。


 これなら誰かが作業中断を余儀なくされても2人は動ける。


 カルロスと対話している間、あまり関係のないトリーが周囲のゴミは拾ってくれていたが、話している内容が聞き取れなくなるほど離れるわけにはいかず、作業速度は激減した。


 もう一度同じことが起きたら確実にイヨ達に負けてしまう。


 そうなったら、数週間前まで幼女だった連中に仕事の愚痴をこぼすという、トンデモナイ辱めを受ける羽目になる。しかも敗北者の汚名付きで。


 彼女達のドヤ顔を見たくないと言えば嘘になるが、流石に今回ばかりは欲望より大人としての立場を優先したい。


「ふんっ、はっ、そいや!」


 語り部をしながら例の反復横跳びゴミ拾いをしていた俺の耳に、ガッシャガッシャと鉄が擦れるような音が聞こえた。


 こんな音を出すのは1人しかいない。


 冒険者の中には防御力重視で甲冑を身に纏う者も居るだろうが、1歩進むごとに地面を震わせるような重量では足手まといも良いところだ。土精霊もヒーローが登場した時の子供のように湧いている。


「なんだ。ゴーレムさんも参加してたのか」


 というわけで作業中断を余儀なくされたのは俺でした~。


 ……うん、知ってた。どうせこうなるんだろうなとは思ってた。誰かしら知り合いが現れるのは覚悟してた。話し掛けない選択肢もあるにはあったけど、そうなったらそうなったで別の誰かが来るんだ。より面倒臭いヤツが。


 なら素直に興味があって話が早いゴーレムさんで行こうじゃないか。


『いえいえ、私のはただの日常ですよ。ゴミ拾いは好きでしているだけです。こうしていると結構皆さん真似して下さるんですよ』


 挨拶よりも優先すべきと考えたのか、お辞儀だけの簡易的な挨拶で済ませたゴーレムさんは、謙遜しながら質問に答える。


 しゅげぇ~、しゅげぇよォォ~。


 言わずと知れたベルダンメンバーにしてヨシュアの守護神は、町が誕生してからここまで町民に好かれた存在があったかと問いたくなるほど素晴らしい魔獣さん。


 今日も今日とてそれを体現していた。


『ただ、だからこそポイ捨てする人達も居ますけど……』


「…………ごめん」


 1人で良かった。こんな顔を誰かに見られたくない。好意に甘えるのはバカだが返さないのはゴミだ。裏で嘲り笑うような連中は心まで腐った犯罪者だ。


 しかし俺はすぐに怒りを収めた。


 当然だろ。本人がそれを望んでないんだから。


『ありがとうございます』


「こちらこそ」


 思いやりの極みのような時間だ。


 こんなことにならないために色々やって来たはずなんだけど……ユキも言ってたけどやっぱ急激な人口増加が原因かな。町やそこに暮らす人々、魔獣に対する愛が足りないんだろうな。暮らし始めて間もないから仕方ないけど、なんだかなぁ~って感じだ。


 ま、ゴーレムさんに余計な心配掛けてもアレだし、切り替えてこ。



「折角だし途中まで一緒に行こうぜ」


『はい』


 俺達の目的は同じとも違うとも言える。ゴミ特化の俺と違い、ゴーレムさんは地面の補修やら犯罪者の確保やら事故防止やら奉仕全般を担当している。


 カルロスのように直立不動で聞かなければならない真面目な相談というわけでもないので、ゴーレムさんにはゴミ拾い以外の活動に専念してもらい、作業効率と引き換えにお喋りを楽しむことに。


 丁度休みたいと思っていたところだ。


「実は俺達の間でちょくちょく話題に上がるんだけど、ゴーレムさんってメッチャ人助けしてるじゃん? これまでに何人ぐらい助けたんだ?」


 ゴーレムさんの英雄伝は、知り合いの知り合いの知り合いまで辿れば確実と言っていいほど救われた本人に行きつく。活動開始して5年でこれだ。マジで凄い。


『さぁ? 数えたことはありませんね。気にするべきは助けられたかどうかであって、数を気にする必要はありませんから。ただお陰で今幸せですと声を掛けていただけるのは嬉しいですよ。忘れっぽいので思い出せないことも多いですけど』


 良い人やぁ~。


 恥ずかしそうに頭部を掻くゴーレムさんに思わず溜息が出る。


 胸を張って自慢して良いことなのにそれをしない。する意味を感じていない。これを良い人と言わずしてなんとする。


「854件ですね~。人数だと優に万を超えます~。これはセイルーン北部にある高難易度ダンジョンの8層に、10年間毎日7時間、人助けの専門家として在中した時と同じ数です~」


「普通に国から感謝状貰えるレベルじゃん!」


 ゴミを探し求めて0.2里。本人すら知らない質問には、合流したユキが答えてくれた。仕方ないね。荒らされてない(?)エリアは限られてるし。


 というかやっぱスゲーや、ゴーレムさんは。




「チッ、後で後悔するぞ!!」


 参加者ではないゴーレムさんから得点ゴミを受け取ることは流石に違反なので、出会うまでに集めたゴミは別で処理してもらうことに。


 中央部へ向かうというゴーレムさんと別れ、合流地点にやって来た俺とユキは、開会式で会ったハゲに舌打ちされるトリーの姿を目撃した。


「どうしたんだ?」


 事情も聴かずに手や口を出すわけにはいかない。苛立つハゲを黙って見送ってトリーに近づき尋ねる。


「なんでもないにゃ。ゴミを渡せば賞金山分けにするって誘いを断っただけにゃ」


「うわ、マジかよ……そういうこともあるとは思ってたけど、まさか本当に巻き込まれるとは思わなかったわ。しかも協力しないと罵倒されるとか。治安悪っ」


「あんまりしつこかったら手が出てたにゃ。あ、もちろんゴミ袋の方にゃ」


 いや、そこはバレないように攻撃しないとポイ捨てとして処理出来ない……って違うな。うん。ダメだぞ。めっ。


「まぁ実際問題見つけたゴミをどっちが取るかで争ったりすることもありそうだよな。直接的な妨害はないにしても、足が速い方が取ったり、袋に入れる直前に横からかすめ取ったりさ」


「『偶然の落とし物ロストアイテム』や『不平等な真実リジェクト』もそうですね~」


 出た。ゴミ拾い界隈の裏テクニック。


 雰囲気から察するに、ゴミ袋に穴をあけて落とさせるのと、「それはまだ拾ったとは言いませーん」と子供のような理屈をこねて力づくで奪うって感じかな。


 運営に訴えるにしても、クソ女のニセ痴漢騒動みたいにウソの訴えやただの勘違いもあるだろうし、基準が難しいからこそ明確な規則がないと俺は見ている。


「つまりルークさんは実践方式の武道大会をしたいと~?」


「そこまでは言わんけど、それを活用というか悪用することで勝利を手にする人間も居るんじゃないか?」


「得点の高い吸い殻だけを集めて他のゴミは無視するとか~?」


「そうそう。んで残ったゴミを集めるのはバカのすることとか言ったりして……って居るのかそんな参加者!?」


「むしろ何故居ないと思った~」


 た、たしかに……ゲームだって経験値効率や収集効率の優れたものだけを相手にして他は無視する。行動理念は同じじゃないか。


「もしかして……効率厨の通った後って結構ゴミ残ってる?」


「それは見てのお楽しみ~」


 楽しめるかなぁ……ハゲの後を追ってわんさか残ってたらブチギレるかもしれない。隣に落ちてる空き缶無視してたら殴り掛かるかもしれない。


「ゴミ袋の中が吸い殻しかなかったことは言わない方がいいかにゃ?」


「それもう答え出てんじゃんッ!!」


 手の平から零れるほどの吸い殻を集めるまで、他のゴミが落ちていない確率とはどれほどのものなのだろう。



「ふん! 俺は細かいゴミを集めるのが得意な箒使い! 得意分野で効率よく掃除することの何が悪い! 雑巾を持っているものは窓を拭き、力がある者は机や棚を動かし、クイックワイパーを持っている者は掃除機が通った後を通るべきだ!」


 現場を目撃したので問い詰めたらあっさり認めた。しかもそれっぽい屁理屈をこねてくれやがった。


 ハゲの言った『クイックワイパー』とはロア商会オリジナルの掃除用具である。モップの先にドライシートやウエットシート、立体吸着シートなど各種シートを取り付けて使うことが出来る。使い捨て&立ったまま使用可能な雑巾って感じだ。机などを拭くハンドタイプも絶賛販売中。


 閑話休題――。


「わかってるならそれ全部持てよ。チームで手分けしてさ。というか吸い殻以外にも細かいゴミなんていくらでもあるだろ」


 分担制と道具切り替え、どちらの方が効率が良いのかは要検討なので置いておくとして、拾おうとしないのは違う。


「そんな非効率なこと誰がするか! 取捨選択は戦場における基本だ! 怠れば敗北あるのみ!」


「ゴミ拾いの根底を覆す発言だな。集めるという意味でも競うという意味でも」


「なんとでも言え。胸を張ってゴミ拾いをしたい? 勝ちたければそんな甘えた考えは今すぐ捨てることだな!」


 胸を張れないゴミ拾いとは一体……。


 あと上手いこと言ってんじゃねえよ。そのボケは誰も拾わないぞ。ドヤァ。


「あ、こんなところにまだ残ってたにゃ」


 トリーは無視されると興奮する性癖についてあまり造詣が深くないようだ。


 まぁ俺とハゲでは無視されたことに対する喜びの意味合いが違うがな。喜びと悦びだ。


「って話が逸れただけで罪がなくなるわけじゃないからな。ちゃんと全部のゴミ拾えよ。じゃないと等価交換で得点低いゴミと入れ替えるぞ」


「おおっ! いつの間にそんなことが出来るようになったんですか!」


「誰が俺がやるって言った。お前に決まってんだろ」


「えぇ~」


「良いからさっさとやれ。そのハゲ反省してないし」


 心を読まなくてもわかる。


 ユキは納得していないのか、仕方なくといった様子でハゲのゴミ袋に手を向けると、一時期ブイブイ言わせていた彼女が何者なのか思い出したらしく、ハゲは激しく動揺して、


「そ、そんなことしてまで勝ちたいのか! 証拠がないから、ルール違反じゃないからって、やって良いことと悪いことがあるぞ!」


「お前が言うなッ!!」

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