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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十一章 仕事とプライベートの両立

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千七十四話 ゴミ拾い3

 ゴミ拾い大会が始まった。


 制限時間は120分。参加者達は運営の合図と共に、各々の作戦タクティクス、それぞれの宝島アルカディア、銘銘の想いを胸に散って行った。


「んじゃあ勝敗はゴミ拾い大会の得点システムに則って決めるってことで」


「まけないわよ!」


 1分1秒1ゴミも無駄に出来ないと急き立てられるように駆け出した連中と違い、俺達はのんびりとしたもの。


 もしかしたらボランティア活動ということを考えたら彼等の方が正しいのかもしれないが、原動力があまりにもアレなので手放しで褒める気にはなれない。


 もちろん純粋に町を綺麗にしたい者や、俺達のように賞金なんてどうでも良いけど競争相手には負けたくない者、どうせやるなら一番になりたいと思う向上心の塊も居るが、朱に交われば赤くなるし真水に1粒でも塩を入れたらそれはもう塩水。


 公式とは言え賞金を目的の1つにしている以上、俺が彼等を褒め称えることはない。


 本物は受け取らない。受け取ったとしても清掃用品の購入費に充てる。何なら汗水たらして稼いだ給料を募金する。


 コーネルとか、コーネルとか、コーネルとか。


 まぁ流石にそこまでやれと言うつもりはないし、学生チーム(というかイヨ)と競うためにルールがわかりやすい大会に参加……つまるところ金目的の参加者に混ざることにした俺が言っても説得力もないだろう。


 優勝したら清掃用品を買って寄附すれば良いだけの話。雄弁なヤツほど信用ならないってじっちゃんが言ってた。出来るは行動で示す。そうしないのは実力のないヤツか口先だけのヤツだって。


 ゴミ拾いのプロ(?)に勝てるとは思えないが、守銭奴に金をくれてやる義理もないので、例えイヨ達に大差をつけたとしても手は抜かない。


 目指すは優勝だ。



「頼りにしてるぞ、トリー」


 5対2(実質1)では勝負にならないので、保護者として参加していたトリーを引き抜かせていただく。


 本当なら開会式の間にやろうと思っていたのだが、聞き入らなければならないものだったので開始後となってしまった。ただ運営を上手いとは言いたくない。


 口を挟まないということはイヨ達も異論はないのだろう。


「ルークさん達の方に入るのは構わないにゃ。でも私が集めた分はどうなるんだにゃ? 登録は向こうのチームになってるにゃ。受け渡しは不正行為にならないかにゃ?」


 トリーもこうなることを予想していたようにアッサリ引き受けてくれた。さらに問題提起まで。


 それについては俺も考えていた。答えも出ている。


「そんなルールはない。トリーは集めたゴミを捨てて、俺はそのゴミを拾う。この大会はそういう他チームとの協力ありきなんだよ」


 結論は問題なし。少なくとも公言はされていない。


「たぶんだけど上位勢は同じことやるぞ」


「容量や時間の関係で持ち帰ることが出来ず、やむを得なくゴミを捨てたところに偶然通り掛かっただけ……『一握りの宝島トレジャーボックス』ですね~」


「たかだかゴミ拾いに大層な名前つけるんじゃない。結構グレーな戦法だし」


「え~? ゴミ拾い界隈じゃ有名な作戦名ですよ~?」


 そんな界隈は今すぐ滅びろ。勝ち負けなんて気にせずにゴミを拾うことに全力を注げ。競うなら担当地域をどれだけ綺麗に出来たかを競え。


「自分も参戦してるクセに~♪」


「俺達はそうしないと運営が計算してくれないから仕方なくやってるんだ。重量計があったらこんなことしてない。面倒でも1つ1つポイント計算する」


「おにぃならなんとか出来ないの?」


「……出来ません。スイマセン」


 くっ……少女猫の期待に応えられないのがこんなに辛いとは……!


 精霊術は万能じゃないの。俺に使えるのは基本属性だけで、重力とかの応用は全然なの。使えても機械ほど詳細には測定出来ないだろうし。




「普段あんまり気にしないけど結構ゴミって落ちてるんだな……」


 イヨ達と別れ、ゴミ袋片手に町を歩くこと5分。3人で分けているにもかかわらず、俺の袋に入っているゴミは一塊と呼べるほどになっていた。


 吸い殻、紙袋、靴下、よくわからない部品(おそらくオモチャか衣類の一部)、果物の皮や種、etc……。


 視点を変えるだけでアッサリ様変わりしたゴミ町に、悲しみと苛立ちの感情が湧き上がってくる。


「仕方ありませんよ~。町に新しい人が増えましたからね~。その分、その土地の常識を知らない人も多くなるってもんですよ。誰かが何とかしてくれる。そんな他力本願な人が」


 赤信号、みんなで渡れば怖くない。


 最近、ロア商会が猛威を振るっていないこともあるだろうが、それにしたってあんまりな状況だ。言われなきゃ出来ないなんて子供じゃあるまいし。


「おやおや、ここにも他力本願な人が居ますね~」


「……スマン。これまで何も言わなくてもやってくれてたからって、いつまでもお前等がやってくれると思うのは高慢な考えだよな。自分でやれって話だよな」


 強者でなくても注意することは出来る。正すことは出来る。たしかに楽だし早いし確実だが、だからと任せっぱなしにするのは愚かとしか言いようがない。


「まぁ『ロア商会だから』という信仰にも似た原動力を排除するために、主導者に手出し・口出しを禁止したのも私達だったりするわけですけど~」


 上げて落とす好感度ブレイカーの鏡がここに居る。


 人々の関心を引くために悪が栄えるまで放置。それを大々的に排除することで人知れず潰すのとは比べものにならない称賛を得られる。所謂マッチポンプ。


 もちろん責めることは出来ない。


 結局こうなるまで動かなかったのは俺達なのだ。


「足元がお留守ですよ~」


「それな」


 世界に目を向けるのも大事だが、身近なことから目を逸らして良いわけではない。


 このゴミ拾い大会……奥が深いぜ……。


「まぁ今はとにかくゴミ拾いしましょう~。何も考えずにただひたすらに目の前のゴミを拾うんです~。じゃないとイヨさん達に負けちゃいますよ~」


「いやそこは考えさせろよ。教訓を得たことで生き方が変わるシチュエーションだっただろ。勝負よりそっちの方が大事だろ」


「勝負に勝って試合に負けたなんて弱者の理屈ですよ~。力のある人は、勝つことにだけ執着して姑息な戦法を取る相手に正々堂々と挑んで勝利し、多くの人達に称えられるんです~」


「んじゃあなおさら考えさせろ。それが今後の方針を変えた上で勝つ唯一の手段だろうが。良いとこ取り出来るだろうが」


「フッフッフ~。私達の集めたゴミをこっそりイヨさん達の袋に転移させていることにも気付かないマヌケには無理ですよ~」


 アホがバカなことしくさったからゴミ返して。


 そんなことを言えるはずもなく、俺は体罰によってユキから反省の言葉を引き出し、47kgのゴミを回収した。


 幻術を掛けてまで小石を偽装されたんだから気付くわけなくない? なくなくない?


 ……なに? 暴力は何も生まない? 反省なんかしない? そりゃそうだろ。反省しないヤツは何したってしないんだよ。甘やかすな。暴力を頼れとは言わないけど反省するまで何かしらさせろ。それが教育ってもんだ。


 ただコイツの場合それ以外に方法がないんだよ。相手にしなきゃ終わらないんだよ。反省させてくれるのを望んでる。相手が怒るまで煽るアホの亜種だ。構ってもらいたいだけのクソガキとも言う。


「44……40……ば、馬鹿な! まだ下がり続けている!?」


「はいはい……体重自由自在だから吸い殻より意味ないって言いたいわけね……」


 1人ス●ウターゴッコをするユキを軽く往なし、魔力を使わなくても片手で持てるようになった袋から容量を喰うだけの邪魔者を放り出し、ゴミ拾い再開。



「今のやり取りをしてる間に私はこれだけのゴミを集めたにゃ」


「本当に申し訳ないと思っています。今後はこのようなことがないよう細心の注意を払いながらうんたらかんたら」


 仕事や作業を楽しんだり遊んだりすることは大切だが、ほどほどにしないと怒られます。


 具体的には成果を出しましょう。成果さえ出しておけばある程度のことは許されます。逆に出さないと口先だけのアホとして邪険にされます。


 まさに今の俺です。

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