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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十章 ニューフェイスとニューウェーブ

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閑話 イブ編

 王都セイルーンを囲う壁は、太古の昔、強者によって作られたもので、堅固であるが故に外敵から人々を守る盾と町の拡大を妨げるお邪魔者の二面性を持つ。


 セイルーン王国が誕生して1000年。


 安全な壁の内側を開拓し尽くした人間達は、新たな領地を求めて危険を承知で壁の外へと乗り出した。そして、大自然と多くの犠牲と引き換えに、勢力と生産力を拡大していった。


 ただ侵略されなかった土地もある。


 残しておくメリット、手を出すデメリット、あるいはその両方。何かしらの理由で自然のまま残しておくことを定められた聖域だ。


 今回の主役、イブが居る、王都からほど近い標高100mほどの小山もその1つ。




「すごい……白霊山の地下にこんな領域があったなんて……」


 年中白い霧が掛かっている『白霊山』は、イブの先祖にしてユキの親友、アイフローラ=リーン・レイ・マルク=セイルーンのためにユキが作った墓地だ。


 セイルーン王族の墓としても使われているそこは、数年に一度ある墓参りの時期以外は誰でも訪れることの出来る観光スポットとなっているが、ユキが案内したのは上ではなく下。


 地を割き、水を割き、結界を割いた先にあったのは、ちょっとした講堂程度の広さの洞穴と、真ん中にポツンと置いてある石碑と、そこへ続く一本道と、道を塞がないように生い茂る自然。


「……? 涙? なにこれ?」


 まるで世界がそうなることを望んだかのような空間に言い知れぬ“何か”を感じて溜息を漏らすイブは、突然、自らの意志に関係なく目から溢れ出したものに戸惑った。


「フッフッフ~。やっぱりイブさんは精霊と相性良いですね~。早速受け入れてもらえたみたいで何より何より」


 ユキはそんな少女の反応に上機嫌に何度も頷く。


「……そろそろ教えて。ここは何? なんで私をここへ連れて来たの?」


 これと言った説明もなく城(というか研究室)を連れ出されたイブは、それさえわかれば色々ハッキリすると、洞穴観察を中断して尋ねた。


「セイルーン王族は世界でも稀に見る強者と縁のある一族ですからね~。お墓参りする強者は多いんです。しかし想いが顕現してしまうのが強者。参拝に訪れた人の人生をついうっかり変えかねません。

 そんな皆さんのために用意したのがこの空間なのです! ここなら祈り放題、楽しみ放題! 死者を想って泣くも良し、過ぎ去りし時間を懐かしんで憂えるも良し、死者が羨むほど騒ぐも良し!

 この空間にはそんな皆さんの想いが溢れているんですから、仲間との気持ちの受け渡しがあるのは当然のこと。その涙は受け入れてもらった証ですよ~」


「他の王族……お父様達がここの存在を知らないのは適性がないから?」


「あれ~? 私、ガウェインさん達が知らないなんて言いました~? いえ、まぁ知らないんですけど」


「……?」


 自分でも何を言っているのか理解出来ずに首を傾げるイブ。


 そうしている間にも彼女の中の不可解な出来事は進行し、抱いていた疑問がどのようなものだったのかすらわからなくなる。ユキの返答が何を意味しているかも忘れる。


「私をここへ連れて来た理由は、ここで作業すれば普通の場所より色々なことが可能になるから?」


 脳内から綺麗サッパリ消えた疑問を思い出すことなく、イブは直前までおこなっていた質問を開始した。


 ユキも気にすることなく応じる。


「半分正解で半分不正解~。たしかにここは精霊で満たされているのでイブさん達のおこなおうとしている作業効率は格段に向上するでしょう。しかし、本来命日にしか開かない場所に特別に招待しただけなので、それは別の場所でやってくださ~い。ここはあと3時間で閉じま~す」


「別の……?」


「ふっ、それは自分で考えるんだな……私に教えられるのはここまでだ。ヒントはこの空間。探せ。この世のすべてをそこに置いてきた」


 キメ顔で情報提供を拒否したと見せかけてバッチリ提供するユキ。


「……あの石碑を調べるのもダメ? 私の勘が怪しいって言ってる」


 ユキの助言もあり、非常識とは思いつつも好奇心を抑えきれなかったイブは、この空間を構成している要因の1つであろう石碑の解析の許可を求める。


 物質としても想いが宿ったエネルギーの塊としても、あれは間違いなく世界で唯一のもの。何より露骨に怪しい。もはや自分から情報が詰まっていると訴えかけて来ている。本当の作業場所を示そうとしていると言っても過言ではない。


「ギクゥ! ま、まぁ、し、しし、子孫ですし、1日ぐらい良いと思いますよ。ダメなら弾かれるでしょうし……って触るんか~い! 私の名演技には一切触れないのに石碑には触れるんか~い!」


 近づくだけなら問題ないだろうと返答を得る前に歩みを進めたイブは、許可が出るより早く『ユキが動揺する=脱線スタート=OK』という謎方程式で石碑に触れた。


「これが本当の王族のお墓だったり?」


 さらにユキのボケもツッコミも無視して尋ねる。


「ぐぬぬ……ルークさんの知り合いは接すれば接するほど私の扱いが雑になっていく……何故だ!」


「…………」


「あ~、はいはい……答えますよ、答えれば良いんでしょ……私達は墓荒らしも遺体のすり替えもしてませんよ。セイルーン王家の骨も肉体も、ぜ~んぶ山の頂上に埋められてます。土に還った一部があの石碑に降り注ぐというだけで~」


「それはもう本物」


「なら周りにある木々も、白霊山自体も、それどころか世界全体が生物のお墓ということになりますね~」


「……ここを調査するのとユキさんとお話しするの、どっちの方が真理に近づくか聞いても良い?」


「良いと言うと思ったか馬鹿め~」


 と、今回の要請は拒否したユキは「こんなところに居られるか! 私は帰らせてもらう!」と死亡フラグを立てて、イブを置き去りにして姿を消した。


 同時に空中にタイマーが表示される。数字がゼロになるまでに脱出……もとい調査を終えろということだろう。




「王都には秘密がある」


「突然娘が部屋に転移してきて何か言い出したんだけど、母親として王妃としてどうするのが正解なの!? 今朝まで普通の引きこもりだったわよね!? この短時間で貴方は何を知ったの!?」


 たっぷり3時間、白霊山の地下を調べたイブは、転送場所に母ユウナを選択し、相談という名の巻き添えをおこなった。


 娘が手に入れた謎の力に動揺するユウナだが、イブは持ち前のコミュ障と面倒臭がりと一握りの真実を武器に、素知らぬ顔で一言。


「ユキさんが」


「オーケー、わかったわ、それ以上何も言わなくて……あ、いえ、1つだけ教えて頂戴。私は何をすれば良いのかしら?」


「中央広場・北部12-D地区の防壁・南部3-D地区の防壁、それと王城の地下を調べる権限を。出来れば人除けもしてもらいたい」


「期限と期間は?」


「同時期ならいつでも。期間は1週間ほど掛かると思う」


「すぐに大臣を招集して計画を練るわね」


 母から王妃の顔になったユウナは、必要最低限の情報を引き出すと、部屋を出ていった。


(1000年前、強者達に聖なる紋章ルーンを与えられた都市【セイルーン】は、結界に刻まれたルーンに干渉することで大精霊が召喚可能となる、人と精霊を繋ぐ場所でもあった。

 そのための条件……王都に隠された龍脈は必ず私が見つけ出す)


 彼女の進むべき道は決まった。1人部屋に残された少女は燃えていた。


 召喚方法を知ってる強者に仲介を頼むのでは意味がない。


 精霊王が用意した正規のルートで呼び出すことが人類を次の段階に進める条件であり、リニアモーターカーはその先にある。


 それが石碑に宿った精霊から手に入れた僅かにして極大の情報だった。

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