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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十章 ニューフェイスとニューウェーブ

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千七十話 使い方を求めて

 時間にして180分。『力』と呼ぶにはあまりにも実感のないものを大微精霊達との交流によって手に入れた俺は、早速それを活かす方法を模索し始めた。


 そう……模索だ。


「なんと…道理で…道理で?」


「ベルフェゴールさん……自分の発言に首を傾げないでください。変化を感じられていないのであれば無理に触れる必要はありませんよ。ルーク様は手に入れられた力で何かを成したわけではなく成そうとしているだけで、変化という意味では前向きの姿勢以外に褒める部分がないことは事実ですし」


「どーりで…」


「……もしかしてですが私の話を聞いていなかったりします? 右から左へ聞き流していたりします?」


「そんなことありますん」


「…………質問です。ルーク様が大微精霊の方々と交流した理由およびその相手は?」


「今度作る魔道具の素材に深層のものが必要になったから? 相手は鍋将軍と…え? あ、いえ、やっぱり今の無しで。え~………冬将軍さんと春一番さんと…夢色片想いさんと…お、女心と秋の空?さん」


「もう良いです。貴方がこの状況を理解していないことを理解しました。それはそうと、空への苦手意識なのか新人だからなのかは知りませんが、世界を司る者達の名前ぐらい覚えてあげてください。夏色夢想いさんと乙女心と秋の空さんです」


「前者はメンゴですけど、秋の空さんは正式な大微精霊じゃないですし…フィーネさんがルークさんとの交流のために用意し、」


「今すぐその口を閉じなさいッ! ル、ル、ルーク様!? 何でもありませんよ!? お気になさらず作業を続けてください!」


 悲鳴に近い声で叫ぶフィーネ。


 作業に集中していて聞いていなかったが、彼女がこんな声を出すなんて相当のことがあったに違いない。詳しく説明してもらわなければ。


 俺は大地を調べる作業を中断して、何を盛り上がっていたのか、2人に尋ねるような視線を向けた。


「墓穴…掘りましたね…」


「貴方が掘った穴に放り込まれたの間違いでしょう。ルーク様の記憶は、異空間での出来事を思い出していただき、どさくさに紛れて消せば済む話。ですがその前に、ベルフェゴールさん、貴方をなんとかする必要があります。

 土葬は喜ばれそうなので宇宙葬にしてあげましょう。打ち上げられる覚悟は出来ていますね? では行きますよ、1、0!」


「準備が早い~…カウントダウンも早い~…でも私よりは遅いぃ~…」


「くっ……! まさかあの一瞬で……! やりますね。これでは貴方を地面から離したら二度と深層へ行けなくなる。宇宙葬は諦めざるを得ません。命拾いしましたね。優秀な部下の皆さんに感謝することです」


「労働への対価も、指示も、何もしなくても働いてくれる労働力の鏡ぃ~」


 俺の知らないところで何かが起きていた。


 1つ言えることは土属性が超ブラック企業だってこと。もはやベーさんに尽くすことだけに喜びを感じてるようになっているのかもしれない。


 あ、あと、ベーさんがフィーネを弄ってたこともわかったかな。


 2人共それ以上の情報を出すつもりはなさそうなので、詳細はわからないままだが……作業には支障ないようだし良しとしよう。




 さて、何故俺が大地を調べているかというと、フィーネに指示されたからだ。


 当然ながらそれでは模索とは言えない。


 だが指示された内容が『深層に行って高純度のマテリアル結晶を取ってこい』ならどうだ? 他者に助言を求めたり同行したりは禁止という条件付きで。


 深層が地下世界ということはわかっている。


 しかし肝心の行き方は見当もつかない。


 そんなの、幼稚園児が金とパスポートだけ渡して「これで世界の裏側まで行ってこい。道中での独り言や他者との接触禁止な」と言うようなものだ。


 さらにマテリアル結晶の入手方法について考えていたこともある。


 フィーネが必要のないことを指示するはずもなく、やれと言われてしまった以上何かしないわけにもいかないので、一番可能性が高そうなベルダン周辺の地面を調べる前提で、尋ねた。


「今後の作業に高純度のマテリアル結晶が必要ってのはわかるよ。いくら化学反応専用の素材で内部が弄り放題といっても伝導率とか変化の仕様とか違うだろうし、宿ってる魔力量も違うから。あのままお前等の協力を得られなかったとしても用意するつもりだったし。

 でもなんで深層なんだ? ドワーフ達が使ってる鍛冶台でも良くないか? ぶっちゃけあれって石を高純度のマテリアル結晶に換える魔道具だろ? しかも化学反応起こし放題の」


 化学反応の研究において、鉱石や液体といった天然素材は、構成している分子が一律でなかったり分子の流れを作ることが難しかったりするので、使われることは少ない。


 例えば、『木を燃やせば炭素になり、炭素と酸素を混ぜれば二酸化炭素になり、二酸化炭素と炭素を混ぜれば一酸化炭素になる』という化学反応が人為的に生み出した回路を無視して発生してしまうのだ。


 それこそがこれまで化学反応が発見出来なかった要因なのだが、マテリアル結晶は物質を構成する分子を再現することで似た反応を引き出すことが可能だったりする。


 言ってしまえば基礎を学ぶための初心者向けの教材だ。ここで得た知識を本物で活かすことが、現在、研究者達の取り組んでいる主な作業である。


 そんな夢のような素材に新たな可能性を見出すのは当然のこと。


「加工方法が鍛冶で、作成した物はすべて二次加工が出来ない物になるからですよ。あの神具で素材は作れません。加工の途中で中止することも不可能です」


「そう……なのか?」


「はい」


 必要な素材を用意するために神力の宿った鍛冶台を頼るという裏技は、製作者すら知らない事実によってアッサリと否定されてしまった。


「もし使えたとしてもフィーネさんは許可しませんでしたよ~。紙製造機が良い例じゃないですか~」


 担当を交代したはずのユキが補足説明を始めた。


「神の力を宿した神具と人の手で作った魔道具。生産効率やコストは比較するまでもありませんけど、紙の仕組みを理解出来ないまま使い続けるのは違うと、あえて生産量を抑えたんでしょう? 自分には紙を作り出す技術や知識がないから、研究対象を作るだけ作って他の人に任せたんでしょう?」


「……まぁ」


 面倒になったからって頼るんじゃない。


 彼女の纏う雰囲気からはそんな責めの言葉を感じた。


「ルーク様もご存知の通り、マテリアル結晶の欠点として『いくら分子を弄ろうと本物にはなれない』というものがありますが、あの鍛冶台はそれを可能にする代わりにそういったデメリットも存在するのです」


「一応言っておくとルークさん達の技術の問題ではありませんからね~。そういう素材というだけです~」


 驚愕の事実第二弾。どころか三弾、四弾。


 てっきり研究者側の問題だと思っていたのだが、そもそもの問題として人間の英知は自然には勝てないらしい。


 そんな状況に終止符を打つための力が『魔科学』だったのだが……まぁ現状を鑑みるにどの道諦めるしかなかったっぽいな。


「今回は素材として必要になるから、深層にある高純度のマテリアル結晶を取って来いと?」


「はい。これは自力で行くことが大切です。よってベルダンを利用することも禁止します」


 あのダンジョンの内部は深層に繋がっているというような話を聞いたことがある。期待はしていなかったがやはり自分で新しい道を探すしかないらしい。


 こうして俺の深層への入り口探しor入り口作りは始まったのだった。




「あ゛あ゛あ゛~~~っ! ぜんっっぜん見つかんねぇぇ~~っ!! つーか暗くてなんも見えねえええええ~~~っ!!」


 模索すること2時間。


 何の成果も得られず堪らず吠える。


「少し皆さんの話でもしましょうか」


 そんな俺を見かねたのか、フィーネはこれまで一切出そうとしなかった(聞く気もなかったが)他メンバーの情報を出し始めた。


 自然と俺の手も止まる。


「ルーク様が大微精霊の方々と交流している間、私は皆さんに努力すべき方向性を教えていました。

 世界に働きかける外向きの力、世界を知ろうとする内向きの力、精霊という世界を司る巨大な力、微精霊という世界を構成する細小な力」


 言いながらフィーネは空中に座標軸のような図を描いていく。


「コーネルさんはアリシア様と同系統の『マクロ-外向き』。精霊の力を自分のものにすることで世界を変えようとするタイプです。求めるは破壊。

 イブさんは『マクロ-内向き』。ただひたすらに自己研鑽に励み、その知識と技術がどこまで精霊に通用するか試すタイプです。求めるは創造。

 パスカルさんは『ミクロ-外向き』。認められるのではなく自ら発信する。研究によって見つけた力で世界を変えようとするタイプです。求めるは再生。

 そしてルーク様は『ミクロ-内向き』。二度目の人生にして数々の異能を持ち合わせておられるルーク様は、本来すべての特性を持っておりますが、今回求めるべきは世界の根幹を知ることでしか成し得ない力。破壊・創造・再生・維持、すべてを使って内なる世界を見つけてください」


 うん、よくわからん。


 でもありがとうと言っておこう。

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