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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十章 ニューフェイスとニューウェーブ

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千六十五話 大微精霊との交流1

 プラズマは、地球であれば気体を構成する分子を電離して陽イオンと電子に分けれることで作り出せるが、最近になって物質内の分子を人為的に移動させることが可能になった俺達にそんな、文字通り雲を掴むようなことが出来るはずがない。


 化学反応を発生させるだけなら場所は問わないが、何が起きているか知るためには顕微鏡の7cm角のステージに乗せるしかないので、現状、分子の移動は手に取れるものでのみおこなえる作業なのだ。


 そもそも気体の構造や分離する条件が地球と同じとは限らない。


 が、ウジウジ文句を言っていても仕方がないので、俺はそのために必要であろう力を手に入れるべく、ユキの呼び出した大微精霊と交流を開始した。



「オラァァーーーーッ!!」


 初対面のお偉いさんに、協力していただく側の人間が、鬼のような形相で叫びながら掴みかかるなんてあり得ないと思うじゃん?


 居るんだわここに、そんなアホが。


 まぁ俺なんですけどね。


「言われた通り頭にしがみ付いたぞ、ユキ! こっからどうするんだ!? 兜ってどうやったら取れるんだ!?」


 最初の交流相手は冬将軍さん。


 どうやら彼は力試しをするタイプの精霊らしく、力を貸してもらうためには兜を奪わなければならないと教えられた俺は、4畳ほどの小さな対談室の中央で棒立ちしていた大男に見よう見真似の縮地で接近。2m近くジャンプして男の顔を覆った。


「うわぁ……初対面の落ち込んでる人に抱き着くとか、ルークさん、どんだけ陽キャなんですか……いいえ、これはむしろ空気読めてませんね~。

 休憩時間にラノベを読んでいたオタク君が爆笑シーンに吹き出してしまった瞬間、『なになに? なんか面白い系? 何が面白いのか俺にも教えてくれよ』と親しくもないのに絡み、『え? 今の何が面白いわけ?』とお構いなしにド直球の感想を口にする陽キャと同レベルです~。オタク君が必死に一連の流れを説明しようとしているのに『あ~そういうの良いから』と一文のみで面白さを見出そうとするアホです~」


「お前にやれって言われたからやってるんですけど!?」


 まさかの裏切り。まさかのドン引き。


 俺は堪らず説明を求めた。


「何故私の言うことを信じようと思ったのか……」


 おずおずと手を伸ばしては体に触れた瞬間にビクンと手を引っ込める。もう片方の手ではガッチリと兜を握りしめる。耳をすませば小さな声で『やめてください、やめてください』と言っている。視界が塞がれた状態で振りほどこうと暴れたら何か壊しそうで怖いので一歩も動かない。


 そんなダウナーコミュ障将軍から飛び退き、やれやれと呆れたように肩を竦めるユキに握りしめた拳を突きつけたのは、言うまでもないことだろう。


「何故そんな相手から顔を隠すアイテムを奪おうと思ったのか……」


「指先1つで受け止めんな! そこは大人しく喰らっとけ! たまに実力者っぽいとこ見せるんじゃない!」


 が、ユキは俺の攻撃をアッサリと受け止めて、何故なのかシリーズを続けた。


 どれだけ力を入れても微動だにしない。手を引っ込めようと思っても彼女の指先に張り付いたかのように動かない。というか全身が金縛りにあっていて口以外動かせない。


「回答するまで解除されませんよ~」


「……嫌よ嫌よも好きのうちかと思いました。心まで裸になって喋らないと仲良くなれないと思いました」


「ん~まだ足りませんね~。言ってないことがありますよね~?」


「~~~っ! 今更引き返せないと思いました!!」


 ユキの例え話を引用するなら『加害者は別の陽キャ』だ。


 実は自分もラノベ好きで、オタク君の読んでいた作品も好きで、でも周りの友達には隠しているのでからかう形でラノベ談義をしようと話し掛けたら、陽キャBが「なになに?」と絡んできてしまったパターン。


 それ以降、オタク君は二度と教室でラノベを読まなくなったし、自分もオタク趣味をやめてしまった。


「そしてその陽キャBがお前だ! 詫びろ、真犯人!」


「異議あり! その後の対応が悪かったルークさんにも非があると思います!」


「お前が邪魔してるからだろうがッ! さっさと謝らせろ! 弁解させろ! 交流させろ!」


 俺は表の友達も裏の友達も大事にしたい。BBQやってうぇいうぇいしたいし、アニメやラノベ談義で盛り上がりたい。ただそれだけなのだ。


 ダウナーの人間が……いやダウナーでなくても、目の前で暴力行為を見たら全力で関わることをやめるし逃げるに決まっている。


「ま、まさか私にすべての罪を擦り付けるつもりですか!? 騙されたりリアクションのためとは言え、自分がしたことに変わりはないのに!?」


「……一緒に謝るぞ」


 ユキの保護者とはこういった人生を歩む人間のことを言うのだ。



『いい子、ですね』


「は……?」


 何度も言うが俺達は初対面。いきなりわけのわからないノリを持ち出されても困るし、自分以外の人間がそのまま戯れ始めたら苦笑いなり愛想笑いなりを浮かべて戸惑うだろう。


 冬将軍も例に漏れず終始引いていたのだが、頭を下げようとした途端、突然穏やかな笑みと褒め言葉を贈られた。


「でしょう~?」


 さらにユキもドヤ顔で答える。


「おやおや~? まさかわからないんですか~?」


「ま、ま、まさっかぁ~。アレだろ。冬将軍さんは迷惑掛けられたことを怒るどころか今の茶番が気に入って、落ち込みから立ち直って、俺の清く正しく美しく楽しい人柄に感銘を受けて協力者になりたいと思ったんだ」


「ファイナルアンサー?」


「先程は大変失礼しました。もしよろしければ万物を新たな段階へ移行させるための力を貸していただけないでしょうか」


 幸い好印象を持たれている。こういう時は下手なことはしない方がいい。


 俺は素直に冬将軍さんに詫びとお願いした。


『え、嫌ですけど……』


「流れって知ってます!? ここは受けてくれる流れでしょう!? じゃあなんなん、さっきの言葉!? 認めてやった感出してんじゃねえぞ、オラァ!」


『や、やめて、やめてください……兜を取らないで……』


 早めの再放送。しかも今度は兜を取るまで終わらせるつもりはない。それが嫌なら説明しやがれ。


 そんな意志を感じ取ったのか、冬将軍さん……もとい冬将軍は口を開きかけたが肝心なところでダウナーが出て、ユキに縋るような目を向けた。


 と、同時に俺の体が宙を舞う。


「無理言うんじゃありません! 他所は他所、ウチはウチです! それが嫌なら他所の子になりなさい!」


「母親!? そして俺は何をねだったんだ!?」


「一切その気のない人に協力を仰ぎましたぁ~。大微精霊が誰かに協力するなんてあり得ないのに、暴力を振るって強要しましたぁ~」


「……もしかしてなくても俺とお前等の間ですれ違いが起きてます?」


 大前提が間違っているのではないかという質問に、ユキと冬将軍は不思議に顔を見合わせる。


「何か勘違いしてるみたいですけど、今回集まってくれた皆さんの目的はルークさんが微精霊を扱うのにふさわしい人物か判断することであって、協力者ではありませんよ~? 皆さんに認められてはじめて世界のリミッターを外せるんです~」


「あー、そういえば言ってたな。規則がどうとかルールがどうとか」


「忘れないでくださいよ~。ルークさんは今からそのルールの例外になる人なんですよ~。何かしでかしたら私も大微精霊の皆さんも責任を負うんですからね~」


 ユキは白い頬を膨らませて文句を言う。


 どうやら交流というのは名ばかりで実際は面接で、それは今後の展開に必須スキルで、俺は面接官に罵詈雑言を浴びせて暴力まで振るったと……。


「すいませんでしたあああああああああああああーーーッ!!!」


 スライディング土下寝、炸裂。




「ったく、だったら最初に言っておけよ……」


 なんとか冬将軍様に許してもらい、無事に一次面接を突破した俺は、部屋の外(屋上)で休息がてらユキに文句を言っていた。明らかに説明不足だった。


「微精霊と交流って時点で気付いてくださいよ~。むしろこっちが『む~』ですよ~。こんな察しの悪い子を推薦しただなんて恥ずかしいったらありゃしない」


「そりゃスイマセンね。それはそうと、偽情報を流してそんな基本的なことすら考えられないようにしたお前の責任について議論しないか?」


「だが断る」


「断ることを断、」


「だが断る」


「「……ふふふ」」


 ガガガガッ――。



 さて、適度な運動で体と心をリフレッシュしたところで、二次面接に入るとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1300話おめでとう、いや、お疲れ様です。 一月前に、この作品を知ってから、もう虜になってます。 これからも、為になる作品を期待してます。 (漫才師養成ギプスとして)
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