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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十章 ニューフェイスとニューウェーブ

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千六十四話 物質と精霊

 実のあるようでないようであった第一回魔科学会議がお開きになった後。俺は、直接指導すると言ってくれたユキと共に、研究所の屋上に来ていた。


「とうとう力を与える時が来ましたか……」


 屋上の縁に立ち、遠くを見つめて、意味深な台詞を吐くユキ。


「そう言えばこれまでお前に技術指導らしい指導ってされたことなかったな。助言ばっかだ。しかもわかりにくい」


「私は皆さんほど過保護じゃないんですぅ~」


 生まれついてのネタキャラにシリアスを長時間維持することなど出来るはずもなく、俺の言葉に反応して振り返ったユキは先程までの空気はどこへやら、拗ねたように言った。


 そのままの意味で受け取れば本人の意志を尊重する。裏を読めば「フィーネさんやベルダンの人達に先を越されて何も出来なかった。悔しい!」となるが……。


「まさかかさか。変なポジティブシンキングしないで、そのままの意味で受け取ってくださいよ~。私は指示厨になりたくないだけ~。個々の創り出す道を見たいだけ~」


「その割に助言してくれたけどな」


 ちなみに有能な技術指導者組織ことベルダンの人達にベーさんは含まれていない。


 彼女からも色々教えてもらってはいるが、受けた指導と言えば『地面に潜る』のみ。役に立ってはいるが彼女にとってそれはただの休息で、意図していたか怪しい……というかたぶん違う。


 ユキとベーさんは助言タイプだ。面倒臭いのか何なのか、手より口を動かすタイプだ。


 しかしユキは、この説を否定するように首を横に振り、


「それこそ『フィーネさんやベルダンの人達に~』ですよ~。先を越したのは私の方ですからね~。一から十まで説明される前に三まで教えて、後は若い者に任せましょうってなもんです。

 辛く苦しい道でも本人が進もうとしているのなら、と皆さん引き下がってくれました~。つまりルークさん達がここまで成長出来たのは私のお陰~」


「さすが精霊王! スゲー!」


「フッフッフ~。そうでしょうそうでしょう。遠慮せずにもっと褒めて良いんですよ~。

 教え過ぎたと思ったら妨害したり、追加で教えるのは恥ずかしいので足りなかったらフィーネさん達に投げたり、強者の皆さんが悩みに悩んで決めたボーダーラインをさも自分が考えたように振舞って先出ししたり、『失敗したら誰かが何とかしてくれる。むしろ何とかしないヤツが悪い』と自由奔放にやってきたことなんて気にせずに、思う存分褒めるが良い~♪ ふはははは~♪」


 急募。精霊王を捕まえておける牢獄。更生施設と職員でも可。


「さ、師匠としての威厳を出したところで早速修行に入りましょう!」


「出たのはボロだけだぞ」


「まずは精霊さんと今よりもも~っと仲良くなってもらいましょうかね~♪ はいは~い、皆さん集まって~、点呼取りますよ~♪」


 真っ当な意見を聞き入れていればこんなアホにはならないわけで……ユキは俺を無視して精霊達を召喚し始めた。




 さて、あちらの準備が整うまで、他の連中がどうなったのか話しておこう。


 俺がユキと屋上に来ているのと同様に、会議に参加していた面々も自分にしか出来ない作業に取り組んでいる。


 異世界の失敗談や他愛のない雑談が誰にどのような影響を与えたかは不明だが、何かしらの役には立ったのだろう。会議の前と後では意欲というか意識が違った。


 具体的にどのようなことをするのかはわからないし、知るつもりもない。あったとしてもすべての作業終了後。リニアモーターカーが完成した後だ。


 唯一にして絶対の情報は、俺が千里眼を使わない物質の生成、ヒカリが千里眼を使った物質の生成、俺を含めた研究者がそのための魔科学の研究、そしてリンが余計な情報を与えないようにしつつ必要な知識を共有させる担当ってこと。


 あっちにフラフラこっちにフラフラしていては進まない作業なのだ。


 本計画で最も重要と言える『各研究者と連携』をおこなうことになったリンは、会議の内容の把握で早速躓いていたが、わからないところをコーネルやパスカルに説明してもらっていたので何とかなるはず。俺も居るしな。


 まぁ、とにもかくにも、チームプレイであってチームプレイでない計画は順調に進んでいると。


 そして、今から俺がおこなおうとしているのは、千里眼を使わない物質の生成および魔科学の研究に役立つ、精霊との対話。


 言うなれば俺は研究チームの中での精霊担当。全属性を操れ、すべての科学の知識を持ち、2つの世界を知る者として、万能選手になれる俺はそのための修行をしようってわけ。



「では紹介しますよ~」


「おう!」


 戦うための力なここまで積極的にはなれなかっただろう。必要性を感じないし、いくら命を守るためとは言え強すぎる力は新たな脅威になる。


 しかし研究のためというのであれば話は変わってくる。


 やる気は十分だぜ!


「まずは《冬将軍》さん。ダウナーです」


『…………』


 将軍という名にふさわしい立派な甲冑を身に纏った氷属性(?)の大精霊(?)は、一瞬こちらを見てすぐに目を逸らし、無言のまま、猫背で、下を向いて、足を引きずりながら、与えられた部屋(言うまでもなくユキが作り出したもの)に入っていた。


 陰キャ役満だ。


「次に《春一番》さん。熱血です」


『シャアアアアアアッ!! よおおおーーろしくぅぅーーー!!!』


 名前の通り、吹き荒れる春の嵐のごとく勢いよく部屋へ飛び込んでいく、火か風の大精霊。


 一瞬というほどではなかったが、脳の処理が追い付いておらずハッキリしないが、ボクサーっぽい恰好をしていたような気がする。


「《夏色夢想い》さん。爽やか」


『よろしくお願いします。楽しい時間にしましょう』


 涼しげで軽やかな笑みを浮かべながら、聞き取りやすいボリュームでゆっくりと丁寧な言葉で話す、おそらく水属性の大精霊。


 振り返った勢いで夏空のような長い青色の髪がフワリと広がる。イイ匂いも広がる。しかもキビキビ歩ている。後ろ姿だけでちゃんとした人だとわかる。最初の陰キャとはエライ違いだ。


「《乙女心と秋の空》さん。メンヘラ」


『あなたはわたしのこと24時間考えてくれる? 構ってくれる? 寂しさを埋めてくれる? 好きになってくれる?』


 現れるやいなや、黒髪ロングヘアを振り回しながら接近してきたのは、全体的にダークな色合いを基調にしたフランス人形のようなファッションの女性。


 真っ赤な唇から放たれた重すぎる台詞と、舐めるように見つめる金と白の瞳に、俺の心はマジでドン引く5秒前。


「あーっ! さてはルークさんってば、鍋奉行さんや狸寝入りさん、あきたこまちさんの方が良かったと思ってるんでしょー!? ダメですよ~。わざわざ来てくれたんですから、邪険にしちゃ~」


「違う。というか知らん。誰だよ」


「精霊統括機関の皆さんです~」


 偉い人達……もとい偉い精霊だということだけはわかった。



「交流を始める前にちょっと良いか?」


 初対面の相手と一斉に会話して一斉に仲良くなるのはプロでも難しい。そのために用意した個室なのだが、2人きりになる前にどうしても聞きたいことがあった。


「精霊で意志を持つのって精霊王だけじゃないのか? 本能の赴くままに行動する精霊や、そいつ等を束ねる大精霊は百歩譲って納得したけど、こいつ等はなんでこんな個性持ってるんだ?」


「え? 彼等は精霊じゃありませんよ? 私そんなこと言いました?」


「……言ってないな」


 精霊と仲良くなるために呼び出しただけ。登場の仕方が強者でも中々見ない転移だっただけ。明らかに属性を持っているだけ。


 ユキは一言も彼等が精霊だとは言っていない。勝手に俺が勘違いしたのだ。


「つまり強者か?」


「というより概念に近いですね~。人々の『○○は××であってほしい』という想いが形になったのが彼等です~」


「ふむ、よくわからん」


「例えばルークさんは『鍋奉行』と聞いて何を思い浮かべます?」


「あー……おせっかいで、仕切り屋で、計画性があって、その計画からちょっとでもズレたら怒る人かな」


「狸寝入りは?」


「面倒臭がりで、ウソつきで、コミュ障で、卑怯者」


「そういった言葉に籠められた想いが具現化したのが彼等なんです~。意志を持っているのではなく周囲の意志を統括している。彼等はそういう存在です。

 一言で言うなら『大微精霊』ですかね」


 矛盾しているが何となくは伝わった。


 たしかに、精霊の基礎となっている微精霊を知ることは、能力アップに繋がるだろう。


 それこそ物質を用いずに化学反応を起こせるようになるかもしれない。逆も然り。彼等の協力を得ることは、未知の物質を生み出すために必須とも言える。



「ちなみに、彼等の存在を知っているのは強者の中でもごく一部で、人類では初かも! 少なくともここ1000年では初! やったね!」


「それはそれは……御期待に応えられるよう精々努力しますよ……」


「ではでは、まずは冬将軍さんの兜を取るところから~♪ 指示通り動いてくださいね~。じゃないと死にますよ~」


「交流とは一体!?」


 たしかに技術指導だけど! 修行だけど! なんか思ってたのと違う! 操り人形になりたいわけじゃないの! もっとこうアレな感じにしたかったの!

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