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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十章 ニューフェイスとニューウェーブ

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千六十話 魔科学

 気体・液体・固体に次ぐ第四の物質状態『プラズマ』を生み出すためには千里眼を使って生み出す物質と使わないで生み出す物質が必要で、そのためには精霊術を魔道具で再現する技術『魔科学』が必要で、非常に危険な取り組みなので好奇心に塗れた連中が訳もわからないまま手を出さないようにルールを定める。


 それがこの会議の目的だ。


 これ等はすべては俺がフィーネ達の発言から導き出した根拠のない憶測で、魔科学なる未知の技術が確立出来るかもわからない状況なのだが、集まったのは全員「それでも構わないからやってみよう」と言ってくれるバカ野郎だった。


 皆で盛大に失敗と取り越し苦労をしようじゃないか。


「そんなルークさん達の前に現れたのは、太古の昔に鳳凰一派によって滅ぼされた超文明の系譜を今に伝える氷の女王! 彼女が命懸けで守っていた技術を使ってルークさんは改革を進める!」


「デタラメ言うな。真意がバレるまで知らぬ存ぜぬだっただろうが。美味しいとこだけ持って行くんじゃねえ」


 自力でその答えに辿り着くことが協力する条件だったらしく、フィーネとユキはこれまでの分を取り戻すように積極的になった。


 まだ隠しているような気もしなくもないが、疑い始めたらきりがないので一旦信用することにして解放……したのだが、2人共円卓中央の電気椅子モドキが気に入ったのか一向に動く気配がない。何なら自主的に拘束具を再装着している。


 それは別に構わないが語りに割り込んでくるのはNGだ。ましてやウソなど以ての外。


「ホッちゃんはそんなことしない。部下の教育もちゃんとしてる。お前と違ってな」


「なっ……! ルークさんは10年以上一緒に居る私より数十分しか交流していない鳳凰を信じるんですかー!?」


「そりゃそうだろ。だってお前ウソと冗談しか言わないし」


 いままではホウさんと愛称で呼んでいたのに、わざとらしい動きと口調で鳳凰などと言うお調子者のことを誰が信用するというのか。


「仮に今言った内容が全部本当だとしたらお前はホッちゃんに負けることになるけど良いんだな? 技術だか知識だかを守るので精一杯で逃げ回ってることになるけど良いんだな? 氷属性より火属性の方が優秀だと認めるんだな?」


「いやですねぇ、そんなわけないじゃないですか~♪ ただのジョークですよ、ジョーク♪ 私達は火属性になんて負けませんし、与えるのは知識だけで技術は頑張れってなもんですよ~」


 ウソでも冗談でもなくジョーク。


 第三の選択肢を提示して俺の指摘が間違っているとさり気なく主張したユキは、自身の発言を否定することで自己(所属組織?)の評価を高めた。


 何気に今後の方針も教えてくれている。


「見方によっては古代文明は鳳凰一派が滅ぼしたと言えますけど、それは力と永遠の命を求めた愚かな連中が鳳凰山に攻め込んだり魔科学を使って世界を破滅させようとしたからです~。

 世界を巻き込んだ争いに発展したのは事実ですけど、ちゃ~んと強者の皆さんで証拠隠滅しましたし、ルールとか仕組みとかも作ったのでご安心を~」


 言葉にしたらどうせのらりくらりとはぐらかされるので、念話とは別の、強者相手なら可能であろう方法で感謝の気持ちを伝えようとしていると、それより早くユキが先程の発言の補足を始めた。


 今の説明で何を安心しろというのか。俺達が歩もうとしている破滅への道そのものじゃないか。


(というかやっぱり昔にも魔科学あったんかい! そしてルールあるんかい!)




「じゃあ、精霊術をどの辺りまで魔道具で再現するか決める前に、過去の失敗談や定められているルールを教えてもらおうか」


「必要ありませんよ」


「……何故?」


 ようやく始まった会議。その出鼻をくじいたのはユキではなくフィーネだった。


 一度は協力的になった彼女達にそのような態度を取られるなど想像もしておらず、なおかつおこなったのが俺至上主義のフィーネということで、俺の戸惑いはMAXである。


 この感情はフィーネにも伝わっているはずだが、それでも彼女は気にすることなく淡々と話を続ける。


「精霊術を魔道具で再現することが非常に困難だからです。

 精霊術を用いた魔道具の作製、あるいは魔道具で精霊に干渉して現象を引き起こすことは容易です。ルーク様の言っておられた『科学』がそれに当たりますね。

 しかし、想いの力を人工的に作り出す魔道学は、生物を生み出すようなもの。ましてや使用者が世界と繋がって個々に生み出すなど、もはや神の領域です」


「つまり出来ないからルールなんか必要ないってことか? でもユキは作ったんだろ? なら難しいけど不可能ではないってことじゃないか?」


 たしかに、俺達のやろうとしていることは人体錬成に近いのかもしれないが、作り出すのは意識などという曖昧模糊なものではなく、精霊術師なら誰でも可能な想いを伝える技。


 言ってみればメールで『愛してる』と送信するようなものだ。


 その送信先をどうやって定めるのか、高確率で受け入れてくれる文章とは、受け入れてくれるにしても『俺のことを好きにならなければお前の親兄弟を殺す』などと誤解を与えないためにはどうすれば良いのか。


 おそらく、ユキの言っていた世界の破滅とは、その辺りを上手くやらなかったために起きかけたこと。


 この会議の目的は、新技術でよくあるシチュエーションにならないためにはどうすれば良いか決めることだ。


「どうやら勘違いされているようですね。ユキの言ったルールとは開発者ではなく協力者のためのものですよ。端的に言えば強者です」


「……どういうことだ?」


「そのままの意味ですよ。過去に生まれた魔科学はすべて強者の協力があってこそ。人や魔族がゼロから生み出した技術など1つもありません。それ等が失敗した原因は限度を超えた力を与えたため。そういったことが二度と起きないよう協力に制限を設けたのです」


「お前等余裕でオーバーしてね!?」


 各種アドバイスはもちろん、素材の生成方法の技術指導やら千里眼の提供やら、人知を超えた力を授け過ぎている気がする。


「全然余裕ですよ~。この程度はグレーゾーンですらありません」


「これでセーフとか過去の強者はどんだけ無茶したんだよ……」


「そうですねぇ~。周囲の精霊をエネルギーに変える魔道具を現物で渡したり、精霊界に干渉出来る力を与えたり、今より強くなりたければ人体実験しなきゃと助言したりですね~」


「アホかぁあああああああああああああああああッ!!! 何故誰も止めなかった!? 何故迷いなく使った!? 何故危険性を理解してる強者の忠告を無視した!? それどころか戦う!? バカじゃねえの!? 一回滅びろよ人類!!」


 同族じゃないから核兵器使っても良いよね。だって俺達がナンバーワンだし。


 そんな空想世界ですら戸惑う理屈を現実世界でおこなうバカが存在したなんて、恥ずかしいを通り越して歴史改変したくなる。


 だって先祖が率先してた可能性もあるわけだろ? 無理無理無理。父親が性犯罪者なのと同じぐらい無理。迷惑掛けたホッちゃんに今すぐ詫びに行きたい。


「まぁまぁ~。そういう時代だったんですよ~。何が正義で何が悪かわからない。戦う理由を求めて戦っていたんです。強者は強者で世界が移り変わる様を楽しんでましたし。

 知ってます? 戦争って凄く発展出来るんですよ。当然ですよね。命が掛かってるんですから。敵を殺す道具を作らないと一族が死ぬんですから。

 でも批難しちゃダメですよ。そういう時代があったからこそ今があるんです。当時の技術や知識が現代社会にどれほど活かされてるか知るべきです。皆さん、彼等の犠牲の上に生きていることを忘れないように」


 悔しい。上手くまとめられてしまった。


「でもルールを定めたってことは間違いだったと認めたんだろ? やり過ぎたって反省したんだろ?」


「それは言わないお約束~♪ 私が生まれるより前の時代なので私を責めるのはお門違い~♪」


 何なんだよ……。


 ってかメッチャ話が逸れたよ。これはこれで有意義な話だったから良いんだけどさ。



「結局のところ魔科学は実現不可能ってことか?」


「それを確かめるのがルークさん達の生きる道じゃないですか~?」


 そうでした。


 でもなんかムカつく。テストで点数だけ書いてどこが間違っているか教えてくれないみたいな感覚だ。じゃあ採点すんなよって言いたくなる。


 資格試験とか、○×はこっちで付けるから受験した分の答えは教えろや。翌年の参考書で見ろとかふざけてんのか。


「ユキ。意地悪はその辺にしておきなさい。貴方の指導にも関係していることでしょう。隠してもすぐにバレますよ」


「テヘペロ~♪」


(まただ、まただよ……またこいつ等は本当っぽいこと言って俺をからかうんだ……)


 ユキのリアクションから今の発言が冗談であることを確信した俺は、本日何度目かの肩を落とした。教える気があったのに隠すとか酷い裏切りだ。


「説明を続けてもよろしいですか?」


「どうぞ……」


「強者のために定めたルールの1つに『出力調整』というものがあります。これによって世界には魔道具の出力上限が生まれました。そして精霊術とは世界を構成するすべてに干渉する限界のない力。

 ルールに抵触しない程度に力を抑えることで皆様の言っておられる『魔科学』にはなり得ますが、それはルーク様の求めておられる力ではありません。

 リニアモーターシステムに利用するためには『精霊術を』『誰でも』という前提を排除する必要があるので、今はそちらの研究に集中し、出力を抑えた魔科学は後世に任せるべきかと」


「精霊の力は使うけど精霊術じゃない何か……例えば化学反応とかを、俺のチートメガネみたいに適任者が使えば、そのルールは適応されない? 魔道具じゃないし精霊術でもないから?」


「はい。いわゆる『神具』と呼ばれるものですね。それこそユキがルーク様に与えようとしている力であり、ヒカリさんが手に入れるべき千里眼の真の力です」


 神具……神力を使わず自力で作っちゃうかぁ……。



「もちろん、ルーク様がそんなことより魔科学に取り掛かりたいとおっしゃるのであれば止めませんが、いかがでしょう?」


「まぁ必要だと思ったから研究しようと思ってただけで、わざわざ劣化させないと使えない力とわかったから全然構わないけど……え? なに? 結局ルール必要ない感じ?」


「千里眼の真の力を引き出せる才気溢れる若者と、全属性の精霊術を操れる才気溢れる研究者と、化学反応の昇華という世界の理を歪める知識と度胸のある協力者が、100年以内に揃うなら必要だと思いますよ~」


 無理だな。


 そりゃルールなんて必要ないって言うわ。ツァーリ・ボンバ(人類史上最大の水素爆弾)の利用規約を作らないのと同じ。二度と生まれないものを規制する意味などない。


 俺達は神でも強者でもない。残り数十年の寿命で出来ることなんて、真・魔科学と科学の基礎を作ることぐらいだ。

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