表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十章 ニューフェイスとニューウェーブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1295/1659

千五十八話 楽しい探索(主観)

 幸い今日は1年でもっと部外者が出入りする……のは学園祭なので、次に多い入学式。


 校内に見知らぬ大人が居ても何らおかしくない状況で、唯一注目される原因『廊下で正座』を排除した俺は、誰はばかることなく少女一行の校内探索に加わった。


「改めて聞くけどどうだった、学生生活初日は? 楽しかったか?」


 3年振りの母校のニオイ。ついOB精神が前面に出てきて各種教室の説明をしそうになったり自然と足が向いて道案内しそうになるのを抑えつつ、廊下を歩く。


 当然、話題もネタバレしないもの。というか目的の大部分を占めるものだ。


「微妙。今後に期待」


「だね~。入学式はやたら長いし、内容もありきたりなことか新入生の手引書に書かれてることばかり。移動待ちとか整列待ちとか説明がやたら多くて、立ってたか歩いてたか座ってた印象しかないよ~」


「それね。教室にもどってからせんせーが話すこともそうだし、なんか怒ってまどガラス割るし、グイグイくるクラスメイトのせいでぜんぜんしゃべれなかったし、そーぞーしてたより楽しくなかったわね」


 ふむふむ、順調に式典や新生活や集団行動に苦手意識を持ち始めているようで、なによりなにより。


 子供にとって何もせずにジッとしておくというのは苦痛以外の何物でもない。しかし大切なことだ。これまでの人生でして来なかったから慣れないだけで、各イベントで似たようなことを繰り返していく内に自然におこなえるようになるはず。


 学校とは『周りがしてるんだから自分もしなくちゃ』という集団心理を利用して我慢を教える場だと、俺は思う。


「……って、怒って窓ガラス割った!? 担任が!? 何があった!?」


「あー、気にしないで。子供は嫌いだけど性的な目では見るロリコン新米教師が、イヨちゃんに性癖とか過去の悪事とか見抜かれて逆上して、自分は有名な貴族の出だから何しても許されるとか言い始めたから『わたし達の両親はロア商会に勤めてる。会長を通じてセイルーン王家に伝えて家ごと潰してやるぞー』って脅したらさらに逆上して、『そんなことしやがったらお前等もこうしてやる』って見せしめに教室の窓ガラスを割っただけだから。すぐ連行されたし」


「気になるワード盛沢山んんんんん~~~~ッ!!!」


 一応解決したらしいがこれで気にしない人間など存在するのだろうか?


 そもそも何故そんなゴミを雇った、ヨシュア学校。事前に身辺調査とかしなかったのか? それすらも揉み消されたってことか?


 百歩譲ってそうだとしても、右も左もわからない1年生と進路で悩む5年生は、絶対に新人に任せるべきじゃない。親御さんからクレームくるぞ。ましてや今年はエルフの里から留学生来てんだぞ。下手したら国際(?)問題になるぞ。


 何より――。


(フィーネ達が止めなかった理由はなんだ? まさか気付いてなかった?)


 無駄とは思いつつも強者の不可解な行動について考察していると、ココが「おにぃには関係ないけど」と前置きをして話を続けた。


「だから代わりの先生が来るまで授業は地域の人達にお願いするんだって。先生見習いの高校生とか、引退した先生とか、仕事の話が出来るOBの人とか」


 ……わざとだな、絶対に。何なら代わりの先生とやらは来ない。不幸な事故とか幸運な出来事とかが多発してヨシュアに近づくことすら出来ない。


 ただこれだけは言っておく。


 ありがとう。




 流石に必須科目は残った教師陣で回すらしく、特別講義に呼ばれるのを首を長くして待つと見せかけてさり気な~くアピールしていこうと心に決めた後。


「にしても良く気付いたなイヨたそ。お前はクラスメイトを救った。ヒーローだ」


「え、あ……ふ、ふん! とうぜんでしょ! エルフはすごんだから!」


 不穏分子の排除というトラブルが起きることすら阻止したイヨたそを褒め殺しにすると、普段からかわれてばかりだったせいか、一瞬戸惑った彼女は緩む口元を必死に抑えながら腕組みしてソッポを向いた。


 ここまでテンプレなツンデレも昨今珍しい。件のロリコン教師の前でしたらルパ●ダイブ必至だっただろう。もちろん結末まで同じ。


「それにしても困ったもんだな。事件を未然に防ぐことが大切だと散々言われてるにもかかわらず、そのために犯行現場が必要ってんだから。本末転倒じゃないか」


 いつになったら世の中は後手に回らなくなるのだろう。もはや対策が必要になるまで待機しているんじゃないかとすら思えてくる。


 存在しないルールやシステムを生み出して悪用される前に対策しておくこと面倒臭がってね? 意味ないとか思ってね? むしろ「ここ抜け道ですよ~」って権力者に教えてね? 騒ぎになってから仕方なく封鎖してね?


「おにぃが心を読める魔道具作れば?」


「100%争いが起きるから出来たとしてもしないかな」


 正直、今回も前科や自白(?)からの暴挙がなければ、子供の悪戯か妄想だからと流されていただろう。


 しかし深層心理を暴くことはタイムマシン製作と同じぐらい危ないこと。


 人は本音と建前を使い分けることで他者と仲良くなれる。心の壁を壊した先には破滅しかない。


「イヨちゃんは普通にやってるのに?」


「使い方さえ間違えなきゃ便利な力だからな。たしか過保護な精霊に制限されてるんだろ? 自由に使えないんだろ? 一旦検閲入るんだろ?」


「だいじょーぶだって言ってるんだけど……」


 初めて携帯を持った子供のようなことを言うイヨたそ。


 ネットや機能制限が厳しくて思っていたより出来ることが少なくて落胆するアレな状態だ。


 許可を求めている時点で与えられていること・自身の自由にならないものであることが確定しているが、本人が気付くまで放っておくとしよう。


「魔道具だとそういうの全部使用者に一任されるからな。難しいんだ」


「制限掛けても簡単に外されちゃうってこと?」


「そ。さらに言えば技術的に精霊との対話なく心を読むってのが無理なんだよ。精霊術師って精霊から又聞きする形で表層真理を知るじゃん? でも精霊の声って選ばれた人間にしか聞こえないじゃん? 出来ないじゃん?」


「なるほどね~。そういうのをなんとかするのがおにぃ達の仕事だと思ってたけど、やっぱり無理なものは無理なんだね」


 そういう言い方されると……ねぇ?


 たしかにヒカリの千里眼なんかは最たる例かもしれないけど、悪用しない人間だから与えられた感あるし、一歩間違えば世界の破滅をもたらすようなものを作りたいかと言われたら微妙じゃない?


 ダイナマイトを作ったノーベルとか、原爆を作ったオッペンハイマーがどんなこと思ってたのか気になるわ。「このぐらいなら大丈夫!」とかかな?


(……け……いけ……死んだ後のことなんて気にせず行け。突き進め。やりたいようにやれ)


 なるほど。こういう感じか。本物だか自らが生み出したものかは知らないが、神という絶対的正義の名の下に迷うことなく作業を続けたわけだ。


 やけに積極的な神託が下ったが、もうちょっと考えたいと思う。まだ焦るような時間じゃない。周りの人と相談してから決めても遅くはない。


 今回強者が非協力的だから何かあったら怖いとか、そのための技術が足りないとか、そういうんじゃないのよ。




「しっかし懐かしいなぁ~。あの机とかもしかして俺の使ってたやつじゃね?」


 1年に一度の進級と共にクラス替えをするということは、5年過ごした俺は5つの教室に所属し、それぞれの場所にそれぞれの思い出があるわけで。


 天然素材を多く使用している木製の机は、完全人工物と違って1つ1つ特色が出るものだ。


 あの色、あの年輪、あの模様、4年生の時にお世話になったものかもしれない。


「……ネタバレ?」


「じゃない?」


「っぽいね」


「いやいやいや。ただ感傷に浸ってるだけだから。俺がどの机を使ってたとか知ったところでだろ。そんな目をするな。俺達の旅はまだ始まったばかりだぞ」


 まるで俺のことを一刻も早く追い出したいと言わんばかりに、基準ゆるゆるな契約違反を持ち出す少女達。


 心が弱いヤツならもう挫けている。


 仲良しこよしで顔を突き合わしているのもデカイ。除け者にされてる感が半端ない。実質面と向かっての陰口だ。これほどキツイものはない。


 しかし俺は心強き者。この程度ではめげない、負けない、挫けない。


「そう言えばソーマ達はどうしてるんだ? 来てるんだろ?」


「保護者同士で交流中」


 念のために話題転換を試みると、チコが視線を廊下の片隅に向けて答えた。その方角に居るという意味だろう。方向感覚に自信のある者にだけ許された行動だ。


 そして『交流』というのはクラスメイトの親御さんと社交辞令を言い合う例のアレに違いない。


 少なからず貴族も混じってるだろうし、ひたすら自慢話を聞く&ロア商会所属バレで羨望の眼差しを受けるの、ご苦労様です。


「ルナマリアは? 来てんのか? それともフリーザやクララが来てるとか?」


「ルナマリアさんはさそったけど『別に行かなくてもいいでしょ』ってことわられた。パパとママは来てない」


「……ドンマイ」


 たしかにルナマリアはそういうヤツだし、ここからエルフの里までは何週間も掛かるから面倒臭いのはわかるけど、どうせ暇なんだから誰か来てやれよ。


 写真や映像送ればOKじゃないぞ。その場に居るってことが大切なんだ。


「とでもいうと思った!? ざ~んね~んで~した~! ちゃーんとみんな来てくれたわよ! わたし愛されてるんだから!」


「え? もしかしてミナマリアさんとかも来てんの? ヘルガとかレイクたんとかオジギソウとかモーモーさんとかも来てんの? スゲーじゃん。マジVIPじゃん」


「…………としはもいかない子供をイジメてたのしい?」


「割と」


 もちろん面白く返してくれる人に限ります。本気で嫌がってるかどうかを察するのもコミュ力だと思います。


 ちなみに、3人とも『今後も末永い付き合いを~』なタイプではなく人間に絡まれる前に帰宅していたのでそれで一からかい、カメラは魔力が強すぎるとピンボケするという嘘情報を伝えてもう一からかいしました。


 記憶に残る学校デビューになったと思います。


 感謝の印に首がズレるほどのイヨレクイエム(上段蹴り)をもらいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ