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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十章 ニューフェイスとニューウェーブ

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千五十六話 初日を終えて

「うーっす。悪い、遅くなったわ。あ、俺、ノンアルのレモンサワー」


 夜。仕事終わりに近所の居酒屋へやって来た俺は、すでに集まっていた面々への挨拶と共に、居合わせた店員にササッと注文を済ませた。


 そして空いていた席に座る。掘りコタツだ。ヒカリとサイの間だ。ケモフェス開幕だ。どうせなら美少女の方が良かったけど仕方ない。


「ここは居酒屋でもなければ猫の手食堂でもないニャ。店はそこの敷居まで。こっち側はただの民家だし、私達は仕事終わりだから注文されても知らんニャ。欲しければ勝手に冷蔵庫を漁って、なければ諦めるか店から持って来てもらうニャ」


「チッ……しゃーねーな」


 時間外労働を拒否する社畜の風上にも置けないユチの言うことに従い、自らの飲み物をテーブルの上に並んでいるものの中から選ぶことに。


 ここの冷蔵庫にレモンサワーが入っていないことはわかっている。コップもある。向かうだけ無駄だ。


(んじゃあ……炭酸にしようかな。ジンジャーエール)


 透明な瓶に貼られているラベルとその奥に見える薄黄色の液体に運命を感じた俺は、身を乗り出して瓶を手に取り、自らのコップに注いでいく。


 丁度会話が途切れたことで、トクトクと液体が流れ出る音やシュワシュワと炭酸の弾ける音がよく聞こえる。


 なみなみと注がれたそれに手を伸ばした、次の瞬間!


 バシッ――。


 無言で叩き落とされた。


「色々おかしいよね? なんでレモンサワーがないこと知ってるの? 知ってたならなんで注文したの? あとそれわたしのコップ。同じの飲んでたからついでに注いでくれてるのかな~と思ったら当たり前のように自分のにしてるし」


 そして質問という名の説教が始まった。


「え? 空だったから誰も使ってないと思って……」


「直前まで飲んでたよね!? 目の前で飲み干したよね!? 雫ついてるよね!? 席と席の間にあってどっちのかわからなくなるのはよくあるけど、ここって完全にわたしのテリトリーだよね!? 皆でつまむ用だったとしても『あ、それ良いっスか?』って確認するレベルの配置でそれは無理あるでしょ!?」


「あ、そうなん? いや~酔ってたから気付かなかったわ~」


「酔いは万能じゃないからね!?」


 果たしてそうだろうか? 『酔い』『眠気』『疲れ』の3つほど万能なワードはないと思うのは俺だけか? なら仕方ないで過失を軽減してくれる最強ワードだろ?


 使用者は選ぶが『育ち方』も軽減ワードだ。


『育ての親が酷いヤツで人格が歪んでしまって……』

『裕福な家庭で育ったから一般常識がちょっと……』

『周りにチヤホヤされる人生だったから……』


 ヤツは四天王の中でも最強だ。


 なにせ完全な被害者になることが出来る。


 他3人は自らの力でなんとでも出来るが、育ち方だけは外的要因が大きい……というか100%だ。犯罪を繰り返すようなら更生施設の能力や基準が問題視され、初犯であればよほどのことでない限り許される。


 最初から最強を頼るなどあってはならないので四天王の中でも最弱の『酔い』に先陣を任せてみたのだが、やはり酔う要素がない状況では無理があったようだ。


 戦闘力5のゴミめ。


「ルーク君の使い方の問題でしょ……。酔いさんは悪くないよ。シチュエーション次第で2番手になれる可能性を秘めてるよ。流石に育ち方さんほどじゃないけどさ」


「ああ。『眠気』や『疲れ』みてぇにいつでも切れるカードってのも助かるが、ここぞって時に活躍してくれる『酔い』も重要なカードだ。『酔ったから眠い』『こんなの飲まなきゃやってられん』みたいなコンボで使えるしな」


「そーそー。大切なのは使い方だって」


 使えない雑魚を忌々し気に見ていると、リン・サイ・ノルンの元祖ロア商会組がまるで水を得た魚のように生き生きと総攻撃を放ってきた。


 こういう虎の威を借る狐のアンチが一番質が悪い。


 弱者を庇う自分カッケー。悪を裁く自分サイコー。普段中立を気取ってるクセに立場が弱くなった途端裏切るし、形勢逆転したらまた戻って来るんだ。強い者の味方をしやがるんだ。


「最強の剣を振りかざすことに喜びを感じるクズ共め! 弱者をいたぶって楽しいか!? 弱者を庇って嬉しいか!? 矛盾してるって気付いてるか!?」


「「「いや……大体ルーク(お前)のせいじゃん……」」」


 ……せやね。




「で、どんな感じよ、みんなンとこの新人君は?」


 到着から10分。ようやく落ち着けたので本題に取り掛かった。


 題して『新人教育、初日を終えて』!


「ちなみに俺ンとこは愚痴ることも報告することもないぞ。数年来の友人と楽しくお喋りしてただけだからな」


「あー、パスカルさんね。ルーク君と楽しくお喋りが出来るってやっぱり優秀なんだ? もう仕事初めてるんでしょ?」


 他人事のように尋ねるリン。


 それもそのはず。彼女は既に俺達のチームではないのだ。


 研究者としては並でも広報や勤続年数はロア商会トップクラスの彼女は、新人教育補佐として毎年、場合によっては2年に一度所属チームを変える。


 一昨年は俺とコーネルが指導される側だった。


 去年は俺とコーネルが教育する側だった。


 今年はどちらでもない。


 広報や相談役(主にこっちがされる方)として関わることはあるだろうが、ラッキー&アスカ、ミドリ&エリート、カルロス&セクスィー、もしくはこれら3チームをまとめて面倒見るので俺達のことに構っている余裕などない。


 恨むなら自分の激高コミュ力と周りの激低コミュ力を恨め。あと嫌なことを嫌って言えない自分。


「そりゃもう。取り合えず研究体力を見るために好きにやらせてるけど、ラッキー達よりあるんじゃないかと思ってる。コーネルと同格って感じかな」


「おーっ、それは凄いね!」


 まぁこの感じからして望んでやってるんだろうけどさ。高校野球の監督みたいな? 2年間でどこまで育てられるかみたいな?


 研究体力とは、仕事に全身全霊を注げる体力および期間のこと。研究に限らずここぞという時の体力や集中力は成果に大きく影響する。


 例えば俺。


 イベントへの参加や企画優先で怠けているように見えるかもしれないが、語らないだけでちゃんと仕事はしているし、進展がありそうなら24時間労働したりもする。冗談や誇大表現ではなくガチでトイレ休憩しか取らないやつだ。


 食事は手軽に済ませられるもので、それも魔法陣なり化学反応なりを眺めながら取る。必要があればそれすら中断する。作業優先だからな。


 で、第四の物質状態という未知の情報を入手したパスカルは、初日からぶっ飛ばしてサービス残業を望んだので好きにさせた。


 現段階ではどうしようもないことは彼女もわかっているはずだが、何かしないと始まらないのも事実なので、やりたいと言うなら止める理由はない。労働時間なんて気にする方が間違っている。やりたい時・出来る時にやるのが研究だ。


 他の仕事は知らん。労働時間とかいうよくわからない型にハマってれば良いよ。疲れてるのに、その気がないのに強要されるとか、夫婦の離婚原因の上位『性の不一致』そのものだと思うがな。義務感に苛まれながらの子づくりご苦労様でーす。


 ちなみに俺とコーネルは手応えを感じなかったので定時退社した。俺は帰りに先輩から魔道具についてアドバイスを求められてこんな時間になったけどな。



「こっちは……まぁ普通かな。初日だから何とも言えないけど、今のところはみんな仲良く出来てるよ。ラッキーちゃん達も先輩出来てるしね」


 今後の教育方針を決めるために簡単なテストをしたというリンは、実力・人間関係共に問題ないことを明かす。


 前者は確認しようがなかったので喜ばしいことだ。


「その『みんな』に例外が存在しないことを祈るよ」


「ははっ、ちょっと難しいかなぁ……」


 苦笑しながら肩を竦めるリン。


 やることが山ほどあったから、仲介役のお陰、初日数時間だけだったから、理由は色々考えられるがトラブルが起きるのは時間の問題のようだ。


 泣きつかれる前に次に行こう。



「ウチは第二支店の方に2人入ったけど良い子だったニャ。1人1人に指導員がついてるし、店舗全体でフォローも出来るし、マニュアルも存在するから楽なもんニャ」


「接客業を舐めるなッ! 人の心は十人十色、十日十色! 昨日と同じことをしてもブチギレるヤツはブチギレるもんだぞ!」


「そんな情緒不安定な客は拳で黙らせるだけニャ」


 いいなぁ~。俺もそういうお手軽クレーム対応したかったなぁ~。


 というか向こうもそうなんかい。ここだけじゃないんかい。正直神獣居るから何とかなってる感あるよ。普通の店なら暴力沙汰で営業停止処分だよ。まぁそんなことしくさる前に権力と武力のダブルパンチで黙らせるけど。


 って、出来とるやないか~い!


 …………セルフツッコミをスルーされるほど寂しいものはない。そもそも前世の話だしな。あと神様にリミット解除されなきゃ思いもしなかったし。



「で、問題の商店はどんな感じよ? なんか春の段階では苦労してたっぽいじゃん」


 本題中の本題。本日のメインと言っても過言ではない、ノルン店長率いるロア商店のお時間がやってまいりました。


 子供達と行った夢の国でも、スポーツ大会でも、散々愚痴っていた。


 これは気合を入れて付き合わねばなるまいと皆を集めた次第だ。こういう時、共感してくれる人間は1人でも多い方が良い。気心が知れていればなお良し。


「苦労って言われてもねぇ……」


「ああ。他が異常なだけで並だと思うぞ?」


 などと素っ気ない素振りを見せつつ、2人の苦労話大会は夜遅くまで続いた。


 一応フォローしておくと大半は人生の愚痴。あと普通に思い出話も多かった。やはりこのメンツを集めて正解だったようだ。

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