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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千五十一話 新入社員ガチャ第二弾

 4月。


 春休みなど存在しない社会人は、自分を含めた社員の転勤・今年度のノルマ発表・新入社員との対面で、ようやく気持ちが切り替わる。


 特に新しい仲間の加入は大きい。


 嫌いな相手とは距離を取るという選択が出来る上、卒業という明確な別れが存在する学生と違い、社会人の付き合いは一生モノだ。


 どれだけ苦手な先輩でも絡まなければならない。どれだけ実力の劣った後輩でも合わせなければならない。任せなければならない。苦労も喜びも責任も成果も分かち合わなければならない。


 先輩が部下に、後輩が上司に。日常茶飯事だ。中途採用や左遷や栄転で接し方に苦労する人間はごまんといる。それが嫌で辞める人間もごまんといる。


 果たして新人は社会の荒波に耐えられるのか。馴染めるのか。初めて後輩を持つラッキー達はちゃんと先輩出来るのか。


 答えは今からおこなわれる年に一度あるかないかのプレミアムガチャで判明する。




「後輩の不安を煽るのはやめろ」


 おそらく希望と緊張を抱いて登壇するであろう面々に負けないぐらいドキドキしながら待機していると、隣にいたコーネルが訳のわからないことを口走った。


「まさかとは思うけど俺のことか?」


「他に誰が居る」


「一杯居るじゃん」


 新入生歓迎会の会場には、去年と同様に研究所の職員が大勢集まっている。


 当然というか雰囲気も同じ。


 研究所のことを知ってもらうためには地下の素材&資料置き場を案内するのが一番で、『どうせ来るんだからここでやれば良くね?』の精神で毎年会場にしているのだが、コミュ障の権化たる研究者共はひたすら棚を眺めている。


 休憩時間にすることがなくてラノベ読んでる学生と一緒。バリアだ。忙しいアピールだ。


 新人に興味のある連中なんて3割もいない。


 彼等の目当てはこの後の報告会。あと強制連行を怖がってかな。


 個人的にはバリアを張れることも大きいと見ている。何もない会場にしたら半数が不参加になるだろう。実際、ぼっちラノベと同じで割と楽しそうにしている。注意深く見ていると時々口角が上がる。


 からかったら辞表出しそうだからしないけど……。


「どうもルーク君は、先輩の心得と称してあることないこと吹き込んでラッキーちゃん達を混乱させてる自覚がないっぽいね」


「教えてくれって頼まれたから教えてやってるんだろうが。それを理解出来るかどうかは別の問題だろ。責めるなら俺じゃなくてラッキー達にしろ」


「まぁ聞く相手を間違えたことはそうだね……」


 と、溜息を漏らしたリンは、新人から先輩へ進化しようとしている3人を見て尋ねた。


「なんでこんな才能の塊に頼んだのさ? 技術だけでここまでのし上がった先輩からのアドバイスなんて、ロクでもないものに決まってるじゃん。正解を知った上で指導する人間の真似なんて出来るわけないじゃん」


 酷い言われようだ。


 俺だって努力している。主に前世の知識を引き出す&再現する方面で。それを才能の一言で片付けられるのは非常に遺憾です。


 ちょっと人より経験が多くて、強者の力を借り放題な環境に居て、神様からアドバイスと異能もらってるだけだろうが!! 運が良いのは認めるけど!!


「つい魔が差して……」


「ラッキーさん!?」


 この中では一番の先輩からの説教(?)に、一番の若輩者であるラッキーは申し訳なさそうに罪を認めた。


 雰囲気もさることながら発言が完全に犯罪者のそれだ。


「そこは否定しろよ! してくれよ! 仮に事実だとしても隠す努力しろよ! 俺じゃなきゃ縁切られてるぞ!」


「良いんじゃん」


 まぁね。後輩を可愛がるのは先輩の義務ですし。ネタだろうとマジだろうと受け止めるし面白くするよ。上下関係より成果の方が大事じゃん。規律や周りの印象を気にするなんて無能のすることじゃん。そんなの結果を出してればおのずとついて来るって。


 楽しい職場ってそういうことじゃん。



「にしても新人遅いな~。流石にワクワクドキドキを保つのも疲れてきたんだけど。さっさと担当とか第一印象とか決めたいんだけど」


「……? さっきから初対面のようなことを言っているが、ルークは面接官をしなかったのか?」


「してない。幹部と言っても俺は『なんちゃって幹部』だからな。フィーネとユキに投げっぱなしよ」


 商会への貢献度なら誰にも負けない自信はあるが、何故かウチは武力が必要とされるので、貧弱代表の俺としては大手を振って幹部とは言いづらいのだ。


 立場上やろうと思えば出来るが、審査するよりされる方、対象も曖昧模糊な人間ではなく基準がハッキリしている作品が望ましいので、立候補はしていない。


「国家資格みたいな現在の能力で評価するならともかく、将来性や個人のやりたいことも加味してとなると流石にな……」


「その気持ちはわからなくもないが、いずれはすることになるんだろう? 早いか遅いかの違いじゃないか」


「いやいや、他に適任のヤツが幹部になったら、そいつに任せれば良いじゃないか。期待しているよコーネル君」


 流れるように指名して反論の隙を与えず本番スタート。




「……なぁあれって」


「ああ。バルダルに生息する『エリマケトカゲ』だな」


 エントリーナンバー1。巨大エリマキトカゲ。


 リザードマンと言った方が伝わりやすいだろうか。成人男性ほどのサイズのエリマケトカゲが壇上に立っている。


 ややこしいが『マキ』ではなく『マケ』だ。わかりやすいように例えただけでちゃんとエリマキトカゲも生息している。どちらも魔獣だが、ウーパールーパーが居るんだからエリマケトカゲが居てもおかしくはない……ような気がする。


 ちなみに見分け方は襟巻が『ついている』のと『意図的に巻かれている』の違いだ。某サイヤ人のように首元に生えている部位を巻いているんだとか。


 俺もバルダルに行った時に話で聞いただけなので詳しくは知らない。


「クワァ」


「「「…………」」」


「すいません滑りました。わたくしエリマケトカゲの《エリート》です。ロア商会を志望した理由は、化学反応において最も進んだ技術を持っていると判断したからです。もちろん専攻は化学反応の研究です。よろしくお願いします」


(メッチャ流暢に喋るやん……)


 初手でネタに走って魔獣のフリ(?)をしたエリート君は、場の空気が凍ったのを察して慌てて普通(??)の自己紹介に切り替えた。


 コーネルが愕然としているので、このエリマケトカゲは突然変異とか実は強者とかそういう類の者なのだろう。名前からしてそうだ。


 まぁ種族名から取っただけかもしれないけど。




「きゃー! 私のためにこんなに集まってくださってありがとうございますーっ! アスカです! まだ右も左もわからない新参者ですが、よろしくお願いします♪」


 エントリーナンバー2。若干自意識過剰でぶりっ子のように感じるが、何故ロア商会が採用したのかわからないぐらい普通の子。


 ちなみにこの『普通』には見た目も含まれている。ぶっちゃけ中の上。リンとタメを張る程度だ。


「…………」


「きゃあ! なんですかあなたは!」


 もはやイコールにしても怒られないぐらい確率激高な気がするが、自意識過剰でぶりっ子のアスカはしたたかな性格だった。


 一言二言で挨拶を終えたエリート君と違い、先輩達にアピール出来る貴重な機会を無駄にしないよう喋りまくっていると、ミドリが新人の独壇場に乱入。


「え~、ミドリさんはこう言ってます。『おいテメェ、さっきアタイにぶつかって謝らなかっただろ。しかもなんだその言い草。覚えてもないってか?』と」


 無言の圧力を掛けるミドリの斜め後ろに立っているラッキーが、言葉を発せない彼女の代わりに話し始めた。


 本邦初公開。ミドリの口調と一人称。


 まぁプリチーアシカハンドをバタバタさせておられるので、ラッキーの手によってアレンジが加えられているようだが、主張自体は正しいっぽい。


「え……え……?」


 戸惑うアスカ。見ようによっては厄介な先輩に絡まれた新人だが、その反応を見たミドリ(ラッキー)はさらにボルテージを上げていく。


「え~ミドリさんはこう言ってます。『あァ? 人をおちょくるのも大概にしろよ。人が気を遣ってこけてやったのに、このメス豚は手を差し伸べるどころか、邪魔だなこのアホ面、と罵倒しやがったんだ。怒らないことに定評のあるアタイもキレちまったよ。まさか新人とは思わなかったけどなぁぁおいぃぃ』と」


 どういう意図かは不明だが、最後の『おいぃぃ』のところで、自分の手を刃物に見立てて舌なめずりをするという抜群のシンクロを見せた。


 もし彼女の言っていることが本当であれば悪いのはアスカだ。


「い、いや、そそ、そんなこと言ってないです! ホントです、信じてください!」


 出勤初日の新人と1年間共に仕事をしたミドリ。信頼度には絶望的な差があるが、疑いの眼を向けられたアスカは必死に訴えるしかなかった。


「ミドリさんはこう言ってます。『おい、ふざけるなよ。テメェ立場わかってねぇな。小娘がチョーシ乗ってんじゃねえぞ。●●の●●●に●●……って、ええ!? そ、それは流石に無理ですよー!」


 ブチッ――。


 自作自演、マッチポンプ、セルフツッコミ。今のラッキーを形容する言葉は数多存在するが、ミドリやアスカの反応を窺うより先に何かが切れる音が聞こえた。


「うるせーんだよ、このにやけノロマがあああああ!!」


 アッパーカットを喰らったミドリは氷漬けになって吹き飛ぶ。巨体を受け止めきれずにラッキーも一緒に吹き飛ぶ。


「あ……」


 そして訪れる静寂。


(まぁそーだよなー。普通の子なんて来るわけないよなー……腹黒かぁ)


「えっと、その、てへっ☆ じゃあねー♪」


 全員から冷たい視線を浴びたアスカは壇上から立ち去った。そして何食わぬ顔で会場を散策し始めた。


 現実は漫画のように場面転換出来るわけじゃないしな。



「……b」


「グッ、じゃないよ。あんな攻撃お前なら余裕で防げただろ。慰謝料ガッポリみたいな顔しやがって……わざと手を抜いて被害者になろうとすんな。

 さっき言ってたことは本当にあったんだろうな? 先輩の威厳を見せ付けようとしたんじゃないだろうな? 本性を引き出すために事件でっち上げたとかじゃないよな?」


「…………b」


 普段より反応が遅いことに触れたいのは山々だが、次の新人が待っているのでそちらに集中しよう。

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