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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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外伝31 アリシア覚醒

「お前……ちょっくら死んどくか?」


 他者から与えられた力を自らの才とし、足りない部分は神獣や妖精に補わせて強者を気取り、一生彼等の成長を妨げる存在。反省の色は無し。


 男は、1時間にも満たない交流でアリシア=オルブライトのことをそう断定して、敵意を剥き出しにする。


「断るわ。あと70年は今の生活を続けるから」


「考え得る中で最悪の返答だな。バカは死ななきゃ治らないらしい」


 男は、この期に及んで一切動じないアリシアを馬鹿にしたように笑い、ゆったりとした動作で人差し指を向ける。指に宿った魔力が輝きを発している。


 ここで戦闘するつもりだ。


 おそらく『世界は数ではなく力で勝る種族が支配するべきだ』と考える強者至上主義なのだろう。魔法・神獣・妖精達の攻撃を無効化することは然しもの強者でも困難なはずなのだが、下等種族がどうなろうと知ったことではないらしい。



 空気が張り詰める中、誰よりも冷静だったクロは男について1つの仮説を立てた。


『この男は他の強者達のことをよく知らない新米強者。自らの正義を盲目的に信じてしまって周りが見えなくなっている厄介者なのではないか?』


 強者は基本的に干渉しないが、個人的な我がままで町が滅ぼされるのを黙って見ているほど無関心ではない。ましてや抗うのは特A級の強者の関係者だ。実力不足で殺されるのであれば手は出さないだろうが、町への被害を抑えようとして手加減したりケガ人を助けた隙を狙われるとなれば話は別だ。


 彼等にも道徳観はある。


「グルル。グルルル」

(場所を移しませんか? ここで戦えば町に被害が出ます。そうしたら強者が干渉してきますよ。貴方の狙いが駆け付けた強者というのであれば仕方ないですけど……違いますよね?)


 もしこの仮説が正しければ交渉の余地はある。


 クロは語り掛けるように提案した。


「ッハ、知らないようだから教えてやる。人類に加担する強者より見下してる強者の方が多いんだ。そしてあらかじめそういう連中に話はつけてある。どんだけ暴れても助けなんて来ねえよ」


 強者の中には、現状維持の温厚派と、弱肉強食を真理とする過激派が存在することを明かす男。この町の周りにはそういった者達が集まっているらしい。


 が、この一言にクロは安堵した。


(過激派が本当に弱肉強食の世界を作ろうとしているのなら、現状維持を望む温厚派と対立することになるはずです。でもそういった諍いは起きてません。起きてたら絶対にユキさんか誰かが連れ戻しに来ますからね。

 数が多いというのもこの人の知っている中での話です。そもそも本物は本能の赴くままに生きているので話し合いで何とかなる人達じゃありませんよ。もしかしたら彼等に適当にあしらわれたのも数に入れてるんでしょうか? 行けたら行くより信頼度低そうですけど……)


 やはり新米だ。


 しかし指摘しても男は間違いなく信じない。それどころか逆上して、本当に強者が現れるかどうか試すために被害を拡大させるかもしれない。それはマズイ。


 そう考えたクロは再び提案した。


「グルル」

(では移動する条件として妖精の2人は手を出さないというのはどうでしょう? 僕とアリシアさんのコンビネーションで貴方を圧倒してみせます。神獣に頼り切っていないことがわかれば納得してくれるんですよね?)


「ほぉ~。殺すのはそいつが生かす価値のある人間か見てからにしろってことか。まぁたしかに将来的に強者になれるならここで殺すのは惜しいわな」


「グルル。グル……」

(でしょう? 貴方にわかるのは筋力や魔力や籠められた力といった基本的なもので、潜在能力や連携能力まではわからないようですし、ここはひとつ全力を出せる場所へ移動して実践してみるということで……)


「さっすが神獣。わかってんねぇ」


 男は、クロの察しの良さに、久しぶりの笑みを覗かせる。


「だがその提案は聞けねぇな。強者の1秒は人間の一生より重い。かもしれないで時間を無駄にするほど俺は暇じゃないんだ。ここでそいつを殺して1秒でも早く自己鍛錬に励んでもらう方がメリット大きいしな」


「グル?」

(え? なんで自己鍛錬すると思ってるんですか? 普通に逃げますよ?)


「……相棒を殺した俺が憎くないの?」


 キョトン顔、2連発。


「グルル。グルル」

(実力で負けて死ぬのは仕方ありません。それが冒険者です。周りへの被害を考えずにここで戦うなら先程も言ったように強者が来てくれますし、来なければ私はアリシアさんを庇って死ぬだけです。万が一生き延びても復讐は何も生まないので強者連合共同組合協会に言って裁いてもらいます。すでに通報済みです)


 ポジティブで無理ならネガティブを原動力にしようと復讐者になることを薦めるも、クロは大人な意見でこれを拒否。世間知らずの若者を裁くために法まで持ち出した。


「…………近場にしろよ。あと到着したらすぐに始めっぞ」


 男の頭の中には、どれだけ重りを追加しても決して傾くことのない天秤がいくつもあるようだが、今回は傾けられる天秤だったらしい。


 こうして一行は、オーク達との戦いで焼け野原となったばかりの、誰も居ない大地へと向かうのであった。




(……アリシアさん?)


 その異変を最も早く感じ取ったのはクロだった。


 かつてないほど危険な状況に震えているのか、一矢報いてやろうと作戦を練っているのか、感情を前面に押し出して激怒しているのか。


 いずれにしても全力を出すためには不必要なものなので、もしそのようなことを考えているのだとしたら普段通りの動きが出来るよう相棒をリラックスさせようと背後に意識を向けたクロは、これまでに感じたことのないアリシアの空気に驚き、思わず振り返った。


 彼女は無言で木の壁を見つめていた。


 長年の付き合いと、感知が得意なクロには、それが何を意味しているかすぐに理解出来た。


(レーヴァテインを……強化している……?)


 ヨシュアでのイベントの数々、ベルダンでの修行、妖精の里を復活させるために妖精達と協力したこと、アールヴの里でよくわからない生物と戦いを繰り広げたこと、魔界での激闘、ライバル達との思い出、鳳凰山で学んだ炎。


 自分達がこれまで歩んだ軌跡を、想いの力に変えて魔法剣レーヴァテインに宿していた。


 自身の力だけではない。まるで、そこで出会った者達が頼られるのを待っていたかのように、精霊達は迷うことなくレーヴァテインに入り込んでいく。


 大半は精霊界から直接入っている。この異常事態にクロ以外が気付くのはまだしばらく掛かりそうだ。




「おいおいおいおいッ!! なんだよそれ!?」


 焼け野原に到着した。約束通り戦闘態勢はバッチリだ。荷台から降りたアリシアを見た男は、これまでと明らかに違う大剣に思わず声を荒げた。


「これは――」


 アリシアが答えようとした次の瞬間。


「世界の支配者であるわたくしと妹レイの力ですよ。たしかに弱者は役に立ちませんが、思い上がった強者よりはマシですので」


 地面から生えてきた自称世界の王、マンドレイクのレイクが、二言告げてすぐに消えた。


 数秒。静寂が訪れる。


「ま、人生の集大成って感じね。もちろん『これまでの』ね。今はまだ魔道具を頼らないと実現出来ないけど、将来性を見出させるには十分じゃない?」


「……フ、フハハ、フハハハハ!! おもしれぇ! ならその力見せてみろ!」


 男が吠えた途端、右目につけていた眼帯がはじけ飛び、全身から炎が噴き出す。


 男はようやくアリシアが激怒していたことに気付いた。


 図星を突かれて怒るのは無能。本物は言葉ではなく実力で示す。彼女は男を見返すために怒りを心の奥底に仕舞い込んだ。怒りを想いに変えて力を得た。


 復讐というマイナスの力ではなく、今を切り開くプラスの力に。


 それこそ男が求めていた『強き者』だった。


 あとは本物かどうか試すだけ。


「俺は《グレゴリ》! 暴虐のグレゴリだぁぁ!!」


 その日、誰も知らないような町の近くの焼け野原は、今後数年よくわからない磁場が発生する焦土と化した。




「おっほぉぉーーっ! アリシアさん凄いですね~!」


 一方その頃、オルブライト家の庭では、スポーツ大会の優勝賞品として1週間ヒカリを鍛えることになったユキが、契約終了までのラストスパートとばかりに凄まじい魔術の連撃を浴びせていた。


「どうしたの? アリシアちゃんに何かあった?」


 そんな中、突然歓喜の雄叫びをあげたユキに何事かと尋ねると、


「いえいえ、ちょっと急成長してビックリしただけですよ~。もしかしたら100年足らずの人生で本当にこの域まで来るかもしれませんね~。楽しみですね~」


「……わたしより強い?」


 聞いたことのない褒め言葉に嫉妬の炎を燃やすヒカリ。わかっていても聞かざるを得ない。


「微妙ですね~。相性がありますからね~。機動力重視のヒカリさんに勝とうと思ったら、あの生意気トカゲと2人掛かりでないと~」


「それってつまり機動力以外は負けてるってことだよね? クロ君で補填したら全力出しても負けるってことだよね?」


「オフコ~ス。あ、もちろん足になるだけですよ。感知・攻撃・防御・その他諸々を使用しない条件ですよ」


「より悪いよ! 相棒の居ないから負けたなんて言い訳したくないよ! 魔法剣を持ってないからなんて言い訳もしたくないよ! わたしは生身で、単身で、2人を超えるよ!」


「あっちゃ~。実はアリシアさんの良きライバルになれるような修行しかさせてこなかった、なんて言えそうにない雰囲気ですよ~」


「今、凄いこと言ったよね!? 冒険者になるよりユキちゃん達に鍛えてもらった方が強くなれると思ってた、わたしの人生ぶち壊す発言したよね!?」


「いやまぁそれは合ってるんですけど、アリシアさんの場合イベント多発と言いますか出会いが凄いと言いますか、流石はルークさんのお姉さんだな~って感じなので……」


「むむむ……」


 フィーネやユキほどではないが、他の誰よりもルークの異常体質を共に経験しているヒカリは、『運命』という残酷な現実を突きつけられて不服そうに唸る。


「あ、時間ですね。お疲れ様でした~」


「ちょっとおおおおおおおおおおおーーーーッ!!!」

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