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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千四十九話 スポーツ大会12

「もらったあああああああッ!」


 試合開始から18分30秒。


 まるで最初から狙っていたかのようにチーム全員の息が合った瞬間、完全に攻防の輪から外れたマリーさんは、何もない空間に向かって全力ダイブ。手の中に飛び込んできた黄金ボールを握りしめた。


 キャッチした時のズドンという重い音と、「ッしゃ!」という王女らしからぬ歓喜の雄叫びは、近くに居た俺とイブにしか聞こえなかったはずだ。


 そして俺は一生懸命な人間を馬鹿にするクソ野郎ではない。ダイブした時の顔がちょっとアレだったけどスルーだ。超高速で駆ける黄金ボールを捉えられる目でジックリタップリ見たので鮮明に覚えているけどスルーだ。


 マリーさんが胡桃サイズの輝くボールを、親指、人差し指、中指の3本でつまんで天高く突き上げると同時に、


『そこまで! 21対20でオルブライト家チームAの勝利で~す!』


 審判のユキから“俺達の”勝利宣言がなされた。


「「「えっ!?」」」


「くく……くはは……はーっはっはっは! まんまと掛かったな! お前等、黄金ボールに気を取られて自分達のゴール見てなかっただろ! フィーネの援護射撃はスコアボールを狙ったシュートでもあったんだよ!」


 天国から地獄。勝利から敗北。確信から疑問。


 イブ達の驚愕した様子に笑いを抑えきれなかった俺は、噴き出しながら説明を開始した。


「一発逆転と見せかけて地道に追いつくって作戦を俺達が取ることも予想して、たまにスコアボールがどこにあるか確認してたみたいだけど、甘い甘い。

 あれは俺が土の精霊術で生み出した偽物。本物は戦いの中でうま~く見えないようにしたんだよ。防御壁や足場や攻撃魔術で吹き飛ばしてな。

 ボールには術が効かないからって油断してただろ? 本体には効かなくても周りに干渉することは出来るんだよ! カバめ!」


「得点は!? スコアボードには3対10って書いてあったわよ!? あれに干渉するのはルール違反のはずよね!?」


 偽物を見抜けなかったこと、18回もあったゴールシーンをことごとく見逃したこと、同じく18回もフィールド中央に出現したスコアボールに気付けなかったこと(ゴール後に自動転送される)、そもそも作戦に気付けなかったこと。


 数々のミスは自分達の責任なので諦めているようだが、ダイブする直前に確認していたのだろう。マリーさんは観客席の上にある巨大モニターを指さして、偽装ではないかと吠える。


 たしかに、絶対的基準となる得点を信じられなくなるのは色々問題があるので、スコアボードへの干渉は如何なる場合も禁止している。


「俺達はルール違反なんてしてませんよ。俺達が偽装したのは得点じゃなくてマリーさん達の視覚情報なんですから」


「……どういうこと?」


「ケイドロの第二ラウンドで感覚を狂わせる精霊術使ったでしょ? そして第三ラウンドでは無効化された。あれで確信しました。弱体化した今の強者なら条件さえ揃えば幻術を掛けられると。

 対象人数、制限する情報、掛け方……あの時と違ってあからさまに出来ないとは言え準備時間はたっぷりあって人数は1/3以下、制限するのは世界初となる液晶モニターの色彩、掛け方は完全に意識の外からゆっくりと。

 この試合中、マリーさん達の意識を何度逸らしたかわかります? 先天性・後天性問わず男女合わせて全人類の5%ほど居る色覚異常って知ってます?」


 俺は無言のマリーさんを他所に説明を続ける。


「試合中は外野の声が届かない上に勝負に熱中していて、何かの拍子に目に入っても負けている俺達の応援や罵倒だと思っていたみたいですけど、皆ちゃんと指摘してましたからね」


「マリー。先に謝っておく。私とケロべロスは少し前に幻術に気付いていた。ただ外野が何を言っているのか読唇術で見抜いた後だったから言わなかったんだ。自力で気付けなかった私達の負けだと思ってな」


『すいませんでした』


 マリーさん達にとっては衝撃の、見破られることは予想していたのにあまりにも上手くいきすぎて『うししっ、バレてないバレてない、俺スゲー』とドヤってしまった俺にとっては同情で得た勝利のような微妙な気分にさせられる事実が明らかになった。


 チェイスで勝てると思ったら普通に負けたのは秘密です。邪魔者が居るだけであんなに飛行しにくくなるんだね。初めて知ったよ。


 が、なにはともあれ一回戦を突破だ!




「気付けたはずなのに……私は気付かなくちゃいけなかったのに……」


「あんまり気にすんなって。例え瞬間記憶能力があったとしても無理だったよ。イブが悪いんじゃなくて俺が上手かっただけ。こんだけ用意周到にやってアッサリ見抜かれる方の気持ちも考えろ。泣くぞ。たまには凡人を立てろ。譲れ」


 次の出番が回って来るまで落ち込むイブを慰め、ついでに俺の株を上げ、第二回戦はチーム学生。


「ついに決着の時が来ましたわね! 負けませんわよ!」


「……ついにって言うほど俺達勝負してたか? というか決着つけるようなことあったか?」


「問答無用ですわ! ワタクシの目的はルークさんの得意分野で圧倒すること! 話はそれからですわ!」


 よくわからないがこちらとしても負けるわけにはいかない。



「何故ですのおおおおおおおおおおおーーーーッ!!!」


 VSアリス……秒で終了。


 動きは遅いがその巨体でゴール全域をカバー出来るゴーレムさんをキーパーにするという作戦は良かったが、点を入れられないとわかった以上攻めるはずもなく、向こうに黄金ボールを捕まえられる人物が居なかったので余裕勝ち。


 正直、ボールそっちのけで普通の戦闘を繰り広げただけなので、語ることがない。基本的にオフェンスが強い&目玉のゲームだからな。




 イブと違ってアリスには「慰めは不要ですわ!」と一蹴されてしまったので、ゆっくり休憩して第三回戦……チーム幼女。


「アッサリ負けたな!? 流れ的にお前等のところとぶつかるんだと思ってたんだが!?」


 好戦的な目を向けてくるイヨたん達をスルーして、敗北者の中に混じっているユキに、執行猶予をつける条件として「1回でも私達より上の成績を収めたら」と試合フラグを立てていたユキに絡む。


「いや~申し訳ない。まさかここまで皆さんが弱いとは思いませんでしたよ~」


 するとユキは悪びれた様子もなく頭を掻きながら謝った。


 たしかにコイツは活躍していた。走攻守、どれを取っても強者の名に恥じない動きをしていた。


 敗因は、幼女相手にどこまで本気になって良いのか決めかねたワン達。本当に役に立たなかった。本人達も自覚しているのか、誰に責められたわけでもないのにうな垂れている。


「お前がそういう目をしてんだよ!」


「被害妄想も大概にしろよ。俺のは『全力で向かってくる相手に対して手を抜くなんて失礼と思わないのか?』だ。勝ち負けじゃない」


 実際、あまりにも歯ごたえのない相手に、イヨたん達はガッカリしていた。ユキが頑張っていただけに余計目立った。誰が見ても手加減していた。


 俺もユキも主催者側の人間だ。そりゃあ『なんで参加してんだ?』と責めたくもなる。


「それはそうと俺達の方が上になったんだから、弁当の件は無しな」


「ですね~。ただ言っておきますけど無罪ではなく執行猶予ですからね~? 今度お弁当でハッスルして周りからクレームが入ったら実刑ですからね~?」


「わかってるって」


 そんなヘマはしない。弁当必須のイベントがそう何度もあるとも思えないしな。


「うそ!? ガッコー入ったらすぐにピクニックがあるの!? どこ、どこいくの!? オヤツは銅貨何枚まで!?」


「お、追いつくにゃ、イヨちゃん。そんな期待するようなものじゃないにゃ。町の外にある公園で3時間ほど遊ぶだけにゃ。何かするってわけじゃないにゃ」


 幼女と人妻猫の会話が耳に入ってきた。


 トリー達は初戦でゼクト商会に負けており、持て余した時間を幼女達への教育に費やしていた。これもその一環だろう。


「さ~て、帰ったらライン決めないとな。鬱陶しさって基準が曖昧で難しいよな」


「うわっ……おにぃ、ついて来る気だ……」


「……ダメなの? なんで? 保護者でOBって課外活動に参加しても許される存在じゃないの? 元担任のクリスティ先生と町中で会ったらメッチャ喋るよ? 企画とか機材の相談されるよ? それって実質教師じゃん。なんとなくだけど4人の担任はクリスティ先生になる気がするし、ついて行っても怒られないどころか歓迎されると思うよ?」


 その後、学校行事がどういったものかの説明は、チーム研究所とチーム食堂の試合が終わるまで続いた。




「ナイスぅ~! ユチが珍しく胴元やってないから正確な倍率はわからんけど、絶対高配当になるお前等が猫の手食堂を負かすとかマジナイスぅ~!」


 真面目に聞いていないと怒られるので試合は一切見れていないが、コーネル率いるチーム研究所が優勝候補筆頭のチーム食堂を下したことだけはわかった。


 あとは俺達が次に当たる幼女達に勝って、3位決定戦で幼女達が食堂に勝てば……あるいは俺達が研究所に勝って優勝すれば、めでたく総合優勝だ。


「今回は流石にニャ……」


 朗報をもたらしてくれたコーネル達を褒め称えていると、敗者ユチが口を挟んできた。


「……あ、知人を賭けの対象にしないって話か?」


 一瞬そんなに酷い試合だったのかと訝しんだが、すぐに俺の発言(たぶん顔に出ているだけ)に対する回答だとわかり、確認のために尋ねる。


「というより『子供達を』だニャ。たまには純粋に楽しむのも悪くないニャ。そういうのが嫌いな人も居るし」


「もしかしなくても僕のことだな。そしてその判断は正解だ。そんな大会なら当日不参加もあり得たからな」


「いやいや、断言するけどコーネルはそんなことしないニャ。嫌がりながらも皆の迷惑にならないように我慢してくれるニャ」


「それを言うならユチだって我慢したじゃないか」


 ……この中に爆発物をお持ちの方はいらっしゃいませんか? バカップルのエセ謙虚を見てるとムカムカするので、この不快感と一緒にこいつ等を消し飛ばしたいと思うのですが。


 …………なに? この怒りを決勝でぶつければ良い?


 そうですね。そのためには幼女達を全力でボコす必要がありますが、仕方ありませんね。勝負の世界は非情なものなのです。

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