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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千四十八話 スポーツ大会11

 終盤戦開始の合図は激しい地鳴り。


 音と衝撃の正体は、実の姉妹にして王族の2人が放った光と闇の混合魔術を、レオ兄が1人で対処したもの。


「マジかよ……スッゲーな……」


 上空から一部始終を目撃した俺は思わず溜息を漏らした。


 然しものレオ兄もこの高出力魔術を防ぐほどの力はなく、術が一部先払い+補充式であることを理解した彼は、少しでも火力を抑えるべく隙だらけの術者達を攻撃。


 それでも十分の火力を持つ先払い分の砲弾を、重力・風・土の三属性を巧みに操り、さらには生み出した剣の腹で撫でて往なすという超高等テクニックを用いて、俺達から地面へと照準を逸らした。


 もちろん一歩間違えば致命傷。まさに『肉を切らせて骨を断つ』だ。


「クルル。クル」

(何を他人事みたいに。ルークさんが土の精霊術でフォローしなかったら危なかったですよ。あれは2人の成果です)


 隣に“立っている”白雪が呆れたように言う。


 彼女は、色々干渉することで浮遊を可能にしている俺と違い、『空間を掴む』という神獣らしさ全開の異能によって空に居た。


「危なかっただけだろ。たぶんだけど手を貸さなくても1人でなんとかしてたぞ」


「クル~」

(どうですかね~。ルークさんなら絶対フォローしてくれるっていう信頼があっただけじゃないですか?)


「なにそれエモい」


 相棒に背中を預けて共闘するのと、別々の場所で作業していて「へっ、流石だな」となるの、どちらの方がエモいか小一時間ほど議論したくなる。


 もしそれが命懸けで、最後の言葉を伝えるか否かも議論するとなると、丸1日は必要になるだろう。


「――なんて冗談言ってる場合じゃないな」


 イブ達の放った魔術にどういった狙いがあったのかは不明だが、チーム王族は無効化されたことに一切動揺しないまま、各々のターゲットに飛んでいった。


 俺と白雪の下には、セイルーン王都の守護神アルテミスとオラトリオ領の番犬ケロべロス。


 どちらもイブの魔道具頼りの拙い浮遊。その気になれば空中を駆けることも出来るはずだが……手加減のつもりか。


「ケロちゃんの方任せて良いか? 俺はみっちゃんをやる。レオ兄のフォローも忘れずに」


 俺は白雪が頷くのを確認することなくみっちゃんに突っ込んでいった。




「悪いんだけど私達の相手もしてもらうわよ!」


「なにぃっ!?」


 上空戦が始まって数秒。俺は気が付いたら地上に居た。


 周りにはイブ・マリーさん・ケロちゃん。そしてレオ兄。


「そ、そうか! ケロちゃんの召喚……! やけに俺を狙うと思ってたらこれが狙いだったのか!」


「正解。これほどの近距離なら人ひとり運ぶのなんてわけないのよ。わざわざ勝率の低い相手に挑む必要もないしね」


 ケロちゃんに触れたことで一緒に召喚されてしまったと。


 一方的に決めたルールを守ってくれると思うほど愚かではないので、混戦になることは予想していたのだが……どうやらイブ達の作戦にまんまとハマったようだ。


 しかし――。


「舐められたもんですね。俺達なら簡単に落とせると思ったんですか? これでも近所じゃチームワーク抜群の兄弟って有名なんですよ」


「へぇ~そうなの?」


「まぁ……主に僕が合わせてるからですけど」


「それがどうした。チームワークってのは両者が100%の力を出すことじゃない。個人では達成出来ないことを成し遂げる力だ。どっちも60%の力しか出せなかったとしても合わせて120%になれば成功だろうが」


「それはそうだけど……僕じゃなくても良いこと多いよね? 比率にするなら僕が30%でルークが90%だよね?」


「それがどうした」


「……さっきみたいな説明ないの?」


 続きはウェブで。


 し、仕方ないじゃん。科学の進歩に犠牲はつきもの。それでも良いよって喜んで被験体になってくれる身近な人間がレオ兄とマリクしか居ないんだから。フィーネに治療されるまでハゲ状態でも許してくれる人間2人しか居ないんだから。


 まぁ断られたら勝手にやるだけだけど……。


 あと、近所の人達にはその上澄みというか、成功確実だったり仲良しな部分だけを見せてるから、そういう評価になってるだけど……。


 いや、世の中なんてそんなもんよ?


「あ、それと攻撃する前に訂正させてもらうけど、私達の狙いは貴方達を沈めることじゃなくて黄金ボールを取らせないこと。11点入れるまで寝ててちょうだい」


 次の瞬間。


 地を這うようにこちらの懐に入り込んできたイブは強烈な右ストレートを、それより早く背後に回り込んだマリーさんは魔力で生み出した双剣による乱舞を、ケロちゃんはレオ兄に向けてストライクレーザークローを放っていた。


 取り合えずこれだけは言わせてくれ。


「そりゃ悪手だろ、王女っコ」


「「――っ!」」


 声に反応した2人は反射的に上空へ飛び退いたが、魔道具でブーストを掛けた俺は後追いにもかかわらず彼女達より先に上空へ辿り着いた。


 ゴオオッ――!!


 直後、俺達のいた場所を竜巻が駆け抜ける。


「忘れてもらっては困りますね。ここから離れられないだけで手を出せないわけではないのですよ」


 台詞、雰囲気、ポーズ、シチュエーション、すべてにおいて圧倒的強者感を醸し出すフィーネ。


 さぁ、的当てゲームのはじまりだ! 精々逃げまどえ弱者共!



「って今のフィーネさんがこんな火力の魔術連発出来るわけないでしょ」


 一瞬でバレた。


 ぶっちゃけチャージ必須の脅し技です。次弾装填までに2分ほど掛かります。なんか向こうも溜めてたし良いかなって。攻撃来ないかなって。


「それがどうしたって言うんですか? 敵に囲まれてても簡単に脱出出来るのはわかったでしょ? ケロちゃん道連れ召喚作戦は通用しませんよ。魔力を消費するだけなのでやめて方が良いですよ」


「そうかしら? ブーストを使うルーク君の方が私以上に消耗するんじゃない?」


 これまた一瞬でバレた。


 車でもそうだ。最も燃費の悪い行動は停止と発進を繰り返すこと。ましてやアクセルベタ踏みの急加速など、いくら魔道具の補助があると言ってもそう何度もおこなえるものではない。


 この後にマリーさん達や黄金ボールとのチェイスが控えていることを考えたら、もう出来ないだろう。


 しかしそれを知られるわけにはいかない。


「消耗? 一番消耗してるのはケロちゃんの精神でしょ? 言ったはずですよ。俺は獣と触れ合うほどに回復すると。あの一瞬で3タッチ1舐めしました。次は倍します」


 果たしていつまで持ちますかね、と余裕の笑みを浮かべてみる。


 この試合だけならいざ知らず、優勝するためにはこの後も勝ち続ける必要がある。チームメイトを使い捨てるという選択は取りたくないはずだ。


「ここで貴方を沈めればいい話じゃない?」


「無理ですよ、マリーさんには」


「個人的にはその挑発に乗ってルーク君を追いかけ回したいところだけど、チームの勝利のために我慢しておくわね。貴方の相手は私達全員よ」


 一瞬マジでビビったが、主にイブ&マリーさんがおこない、隙あらば攻撃するというチーム戦によくあるパターンだったので一安心。


 ――と言えるほど余裕があるわけではないが、頑張るしかない。



(え~っと、まとめると、体に浸透するイブのワンパン攻撃を避けて、近距離も遠距離関係ないマリーさんの攻撃も避けて、時々ケロちゃんと一緒に召喚されるレオ兄のサポート……はいいから、もうブーストしなくて済むようにケロちゃんに触れないようにして、いつどこから飛んでくるかわからない魔術攻撃に注意して、戦闘の最中に黄金ボールの姿を捉えて、なんとか離脱してキャッチすれば勝てると)


 ……これなんて無理ゲー?


「フィーネさ~ん! 援護は俺メインで頼みま~す!」


「わかりました。アルテミスさんとケロべロスさんが本気を出した場合は防がれてしまいますし、この距離ではマリーさんに気付かれて先に召喚されるしまう上、レオポルド様が巻き込まれる可能性があるので、タイミングを見て援護します」


 ……それって、しないって言ってるようなもんじゃない?


『ガルル! 魔獣が器用でないと思いましたか!? 甘いですよ!』


 レオ兄が足に力を籠めた瞬間、その足場を崩し、体勢を崩させたケロちゃんは、四肢と三つ首と尻尾をフルに使った回転連撃を放った。


「つ、強い……」


 慣れない四足歩行の魔獣との戦いに加え、いつ飛ばされて盾にされるかわからない不安感がレオ兄の動きを通常の何倍も悪くする。


 って感じで、なんか地上は地上で白熱してるし。


「クルゥッ!」


「はああッ!」


 頭上では光と炎の渦が吹き荒れている。それだけではない。白雪が全身をバネのように使った尻尾ビンタを喰らわしたかと思うと、地面にめり込んだみっちゃんが何事もなかったかのように戦線復帰してお返しとばかりに踵落としを炸裂させる。


 火力の問題か、体の構造の問題か、みっちゃんほどノーダメージではなかった白雪は、ペッ、と血反吐を吐き捨てて口元を拭いニヤリと笑う。


 熱戦激戦大決戦だ。お互いの負けず嫌いが発動してリミッターを勝手に解除している。『向こうがやってるんだからこっちも良いだろ』理論だ。


 絶対混じりたくない。


「貴方を抑えれば勝てそうね」


「よろしく」


 観客がいなければ全裸になって、初心な乙女を動揺させて、安全に離脱して、ゲームを終わらせたいと思う俺は間違っているのでしょうか。

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