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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六章 王都セイルーン編
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七十三話 猫の手食堂

 ついに『猫の手食堂』が完成した。


 前々から計画していた異世界料理を提供するロア商店初の飲食店だ。


 店長にはリリ、ウェイトレスにニーナを雇用。


「アタシのお店ニャ!」


「わたしが食事出す」


 そう言いながらリリとニーナは嬉しそうに無人の店内を駆けまわり、これからの活躍に期待できる意気込みを見せてくれる。


 スラムで死にかけていた半年前から一転、彼女達は一国一城の主になったのだから当然だろう。



「私達も頑張ります! ・・・・ニャ」


 はしゃぐ2人の後ろには、フィーネとユキによって厳選された従業員達が勢ぞろいしていた。


 俺の指導通りに語尾を「ニャ」にした22歳、猫人族『アン』

 リリの知り合いで一緒に冒険者をしていた27歳、猫人族『アール』

 親子で働きたいと応募した30歳、母猫『トリー』

 ニーナより少し年上の10歳、娘猫『ユチ』

 常にダルそうな目が特徴な26歳、唯一の犬人族『フェム』



 猫の手食堂もロア商会の傘下なので、素材の調達や金銭のやり取りは全てフィーネが手配している。


 リリ達にも店舗の経営も少しづつ覚えてもらい、いずれは彼女達だけで店を回せるようになってもらう予定けど、今はまだ料理と接客だけで手一杯だろうから当分はフィーネ頼りだ。


「これだけ獣人が揃うと壮観だな~」


 猫の手食堂はその名の通り猫人族が中心の料理屋になった。


 元々「リリとニーナが猫人族だから」と言う理由で俺が命名したんだけど、どうも応募者全員がその名前から獣人専門店だと勘違いしたらしく、殺到したのは獣人だけだった。


 その中から女性のみを5人採用して、リリとニーナを入れた合計7人でこの食堂を切り盛りすることになる。




 それでは早速、自慢の食堂を紹介しよう!



 まずは床や壁、テーブル等の内装。


 ここには一般的な建築物に使用されている木材ではなく、フィーネとユキが自信を持ってオススメする『魔界深層の呪樹』を採用した。


 抜群の強度・耐久性・耐水性を兼ね備えた究極の木材で、例え野蛮な冒険者同士で喧嘩を始めても傷1つ付かないどころか、頑丈過ぎて職人すら加工出来ないのでフィーネ達に任せた。


 もちろん解呪済み。なんでも、迂闊に触れると様々な呪い状態になってやがて死に至る危険な呪樹らしい。


 でもフィーネ達は難なく魔術で加工していった。


 建築屋には木材を組み立てる作業だけやってもらったんだけど不満は無いらしく、楽しそうに作業してくれて物凄い速さで完成した。


 食堂と同時進行で別の建物も造ってもらってるから「手が回らなくてむしろ助かった」って言われたよ。注文多くてスイマセン・・・・。



 フィーネとユキの魔術で見る見るうちに量産される角材を見て感嘆する俺やアリシア姉や大工の皆さん、それに名も無き通行人達。


 ユキが有能なのはおかしいじゃないか! って思う人も居るだろ? 大丈夫だ。アイツは俺の予想を裏切ることなくバカだった。


 フィーネと同じ速度で呪樹をバラすユキだけど、その度にドヤ顔でこちらを振り向きアピール。しかもたまに解呪を失敗して大惨事になりかけたり、急に芸人の血が騒ぎだして謎のパフォーマンスや見学している人々を驚かせようとする。


 面白がる人も多かったけど、それ以上に呪いの恐怖により見学者は誰も居なくなった。


 唯一、棟梁だけは指示する必要があったので残る事になったんだけど、父さんが「お願いだからエルフの姉ちゃんだけで作業してもらえないか?」と何度も言われていたらしい。


 重ね重ねスイマセン。




 ウェイトレスが注文を取るための魔道具も作った。


 前世の知識から『POSシステム』を応用。


 手のひらサイズの魔道具の番号に触れると各種注文が一瞬で厨房にある大きな掲示板に映し出されて、料理の数量が一目でわかるようになっている。


 『塩分控えめ』や『冷まして』などの特別な指定があればウェイトレスが口頭で伝えて、それ以外では彼女達は店内で接客する事になる。


 無駄を省いた結果、美少女を常に見ていられる食堂になった。


 これは流行るで~。俺なら間違いなく入り浸る。



 次に水廻り。


 食堂では水道が必須だったので貴族への交渉は父さん達に頼み、近くに下水処理施設を作った。


 ヨシュア改善計画のモデル店として稼働することになる。


 これで成功すれば本格的に領地の一部を下水処理施設や発熱施設にして、全ての人々が魔石に頼らない豊かな生活が実現できるだろう。


 で、食堂の下水だけど、フィーネが近くの川までの地面を魔術で切り取って魔道パイプを埋め込む作業をしてくれたので、貯水タンクが一定量になるまで流れ込んで、使用した水は川に流れ出す仕組み。


 後は我が家と同じく『ろ過システム』で微精霊達に頑張ってもらう。


 その結果、湯と水が両方出せる混合栓が使い放題な調理場になった。



 肝心の料理に必要な物だって新作の魔道具が目白押しだ。


 火力が必要になるコンロには火属性の魔獣を素材とした加熱鉄板を使用。


 鉄よりも頑丈で熱耐性があり、精霊との相性も良かったのでリミットを外した加熱鉄板の摩擦熱で『IHクッキングヒーター』が作れたので、こちらも使い放題だ。


 スイッチ1つで火力の調節も可能な、匠の技が光るコンロに仕上がっている。



 包丁やフライパンと言った調理器具にはアダマンタイトを使用。


 絶大な強度を誇り、手入れをせずとも一生切れ味の落ちることがない伝説級の代物だ。


 そんな高級品を贅沢にも料理包丁として使ったのには訳がある。


 切りつけた相手の魔力を無力化できるのだ。


 これにより魔獣を素材にした料理を出す猫の手食堂では、特別な魔術を使わなくても誰でも一流食材を下処理できるようになった。


 じゃあ『アダマンタイトを世界中に広めればいい』ってのは戦争に使われそうなので却下だし、そもそも数が少ないらしい。


 ユキが謎のルートから入手してきたので詳しくは知らないけど、量産は無理だと言っていた。



 まぁそんな話はさて置き、食堂だから大量の食材を確保しておくため、特注の大型冷蔵庫を設置した。これには冷凍機能も追加。


 標高5000m以上の雪山にしか生息しない樹木を冷蔵庫の素材に使用したんだけど、氷の精霊が寄ってくるらしく瞬間冷凍が可能になった。これはユキの提案による物。


 冷凍と冷却によって『かき氷』や『冷たい飲み物』を短時間で提供することが可能になった。



 どれもこれもアルディアには存在しなかった品々だから、誰もが欲しがるだろうけど売ったり譲ったりはせず、フィーネとユキの努力の結晶として恒久的に猫の手食堂で有効活用することになる。




「フフフ・・・・我ながら劇的なビフォーアフターをしてしまったな。とてもスラム街とは思えない建物を完成させたものだ。フハハハハ!」


 俺がつい高笑いをしてしまうほど立派な食堂だ。


 猫の手食堂があるのはスラム街の目の前、つまり通路を挟んだ向かいの建物である。


 これはスラム改造計画の始まりとして「人を集めるにはまず食べ物」と言う総意によるものだ。スラム民への残飯提供のメリットもある。




 そして何故俺がこの場に居るのか?


 理由は簡単、料理作りの指導をするからだ。


 全員に最低限の接客技術と料理法を教えたけど、食堂で一番大切なのは料理。


 アルディアには存在しない料理を数多く知っている俺でなければ教えられない技術ばかりだった。


「まずは全員が簡単なデザートを作れるようになってもらう。それと焼くだけのハンバーグとソーセージもだ。

 リリとフェム、トリーは料理人として応用の揚げ物や蒸し物にも挑戦だ」


 デザートや飲み物、サンドイッチなど所謂『軽食』は基本的にウェイトレスが用意するので必須項目だ。


 応用品は我が家とロア商会従業員の投票により『ハンバーガー』『から揚げ』に決定。




 ハンバーガーは『オークバーガー』と『ガルムバーガー』の2種類。


 スモークされた薄切りオーク肉のベーコンを塩・胡椒たっぷり使って香ばしく焼き上げ、ジューシーな肉厚オークと特製ソースを使った『THE 肉』なオークバーガー。

 

 配合率を変えたガルムのひき肉を使った、安くてヘルシーな『シンプルイズベスト』のガルムバーガー。


 どちらも齧り付いた瞬間、肉汁が溢れ出すのでヤケドには注意だ。


 パンは肉と合うようにフワフワに蒸して、優しい口当たりと肉汁が染み込む事で味の変化を楽しめるソフトバンズと、ハンバーガー専用に薄切りした一般的な焼きバンズの2種類から選べるようにした。




 から揚げは『ロックバード』という鳥の魔獣がオススメだとユキが言うので採用。


 ロックバードのもも肉は、溜まっている魔力を繊維に沿ってほぐして柔らかくすることでジューシーな仕上がりに。

 

 コツは柔らかくする時にフォークで穴をあけることと、氷属性の魔術で肉を冷やすことだ。それによってお酒につけるのと同じような効果があった。


 これに関しては冷蔵庫で数時間寝かせる事で可能だったので、手順としてはガルムと同じようにほぐし、穴をあけて冷蔵庫で寝かせ、片栗粉をつけて油で揚げる。


 若干手間だけど、この手順を踏むことでから揚げは肉汁あふれる極上肉になる。



 加熱鉄板を食堂専用に改良しているので、これらの料理は誰でも簡単に作ることが可能になっている。


 問題は焼き時間や揚げるタイミングが均一ではない事と、味付けが均等になるまでには経験が足りないことだった。


 なので時間があればひたすらハンバーグを焼き、鶏肉を揚げ続けた。


 作った料理は『試作品』としてロア商会の従業員やスラムの人々に無料配布した。


 その時に全員から言われたのが「絶対食べにくる」という一言。


 この食堂は間違いなく成功する、と確信したね。



 どちらもユキの涙ぐましい努力によって得られた調味料によって完成した料理だ。お礼にマヨネーズをあげたらとても喜んでいたよ。



 フィーネとユキがたまに高級な魔獣の肉を手に入れるので、限定商品として『〇〇のから揚げ』という料理もメニューに加えた。


 運が良ければドラゴンの肉を食せる世界で唯一の食堂である。




 そんな料理指導をする俺の横では、フィーネが接客に関する指導をしてくれた。


 ニーナ達ウェイトレス組は基本こちらで店内を動き回っている。


「ニーナ。あなたに必要なのは笑顔ではなく、注文を間違えない事と料理の説明をすることです。味は素晴らしいのにウェイトレスのせいで店が繁盛しなくなりますよ」


 ロア商会においてスパルタ教育で有名なフィーネが鞭を振るう。


「難しい・・・・から揚げはロックバードのもも肉を使ってて油で揚げた料理で、一人前が3つ、男は酒、女はリンゴジュースが合うからオススメ」


 感情の乏しいニーナに笑顔での接客は不可能なので、寡黙なウェイトレスとして頑張ってもらわなければならなかった。


 そして寡黙という接客においてのデメリットを抱える以上は、フィーネクラスに有能でなければ客は満足しないだろう。



「ニーナはダメダメにゃ。私は完璧に覚えたにゃ。ちなみに飲み物は冷えた物と温めた物のどっちでも用意できてるにゃ」


 ニーナより2つ年上のユチは世渡り上手なようで、笑顔はもちろんウェイトレスとしての仕事を全てマスターしていた。


「ユチは学校出てるから卑怯、文字も計算も出来るなんてズルい」


 ニーナと違って学校で一般常識を学んでいた彼女は即戦力。


 そもそもスタートラインが違うのだから仕方ない。


 スラム住まいで文字も読めないニーナは覚えることが多く、毎日遅くまで指導されているらしい。



「でもニーナは戦闘力が桁違いにゃ。喧嘩があっても鎮圧できる実力があるのは羨ましいにゃ」


 そんな優秀なウェイトレスのユチだけど、ニーナより劣る部分もあった。


 ウェイトレスに必要な技能かはさておき、武力という一面においてはニーナは大人顔負けの実力がある。


 と言うより、トラブルを避けるためにユチ以外の従業員全員が戦える武闘派食堂になっている。


 いざとなればフィーネやユキに応援を頼めば瞬時に制圧できるだろう。



 そんな恐ろしい『猫の手食堂』は近日オープン予定だ。

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