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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千四十六話 スポーツ大会9

 最終種目は、俺、ルーク=オルブライトオリジナルの……大切なことなのでもう一度言うがオリジナルのスポーツ『魔道チェイサー』だ。


 ラグビーのような競技だが、各々の役割や攻守はラグビーほど明確に分かれてはおらず、ひたすら得点を稼ぐアタッカーが妨害に回ったり、ゴールを守るキーパーが10点になる黄金ボールを捕まえに行ったり、状況に応じて自由に出来る。


 捕まえるというのは黄金ボールが逃げ回るボールだから。


 どちらかがキャッチするまで試合は続くが、逆に言えばキャッチした瞬間に終了するので、当然のように最初はメチャ速い。弾丸を素手で捕まえるぐらい無謀だ。


 時間経過で徐々に遅くなるので、確保を狙える速度になるまでにどれだけゲームを壊さないかが重要になる。


 そしてドッジボールの時も語ったが、一回戦目は相手チームの情報が皆無な上、人数も本来想定していた10対10より大幅に少ない4対4で、経験者と呼べるほどやり込んだ人間も居ない。


 そんなわけで何となくで担当を決めた俺達は、これといった作戦も決めないまま、どうすれば総合優勝出来るかを話し合っていた。


「ドッジボールで2位、ケイドロで4位、ボール争奪戦で10位……微妙なところだな。優勝するためには最後何位なら良いんだ?」


「2位です。チーム食堂とチーム王族が4位以下という条件付きですが」


 その質問が来るのを待っていたかのようにフィーネが答える。同時に俺は肩をガックリと落とした。


「キッツ……イブ達は初戦で当たるから何とかなるけど、反対ブロックのヒカリ達は運じゃん。どっかが潰してくれること祈るしかないじゃん」


 トーナメント表はドッジボールとほぼ同じで、初戦の相手がゼクト商会から王族連中に変わっただけだったりする。偶然という名の必然だろう。


 両チームと当たって実力で負けるならともかく、自力が一切関係のない状態で2勝されたら終わりというのは流石にやる気が削がれる。バトルモノだったらクレーム必至だ。


「何とかなるって、ルークは魔道具でイブ様を上回れる自信があるのかい? ちなみに僕はマリー様に勝てる自信はないよ。あの人在学中からおかしかったし。もちろん良い意味で」


 黄金ボールを狙うチェイサーの任に就いた白雪ほどでないにしろ、点取り屋という重要な仕事を与えられたレオ兄は、元後輩のマリーさんとの点取り合戦に勝利出来るか不安そうなご様子。


 レオ兄が点数を入れ続ける限り俺達は負けない。逆に10点差をつけられたら勝利はない。


 そのプレッシャーが、子供に良いところを見せたい父親の背中だか肩だかに、重くのしかかっているのだろう。


「自信を持てよ。アンタはそのマリーさんを差し置いて高校代表になったじゃないか」


「それって各校対抗戦のことだよね? わかってると思うけど、試合だろうと王族に攻撃するのは嫌だってことで、マリー様は候補から外れてたからね? 『差し置いて』じゃなくて『工程に入ってない』だよ」


「なら今ここでどっちが上か決めれば良い。別に負けたって良いんだ。タイマンで勝負するわけじゃない。個々の能力が劣っていようと、10点取られる前に黄金ボールを捕まえれば勝てるし、11点入れれば向こうに捕まえられても勝てる。これはそういうゲームだからな」


「簡単に言ってくれるね。そこに個々の能力が影響するんじゃないか」


 チッ、ああ言えばこう言うネガティブめ……。


「睨んでる理由は大体想像がつくから聞かないけど、だからこそキーパーのフィーネや、イレイザーのルークに頑張ってもらわないといけないんだよ。僕も頑張ってみっちゃんさんから点取るから」


 おっと、負けた時の言い訳と頑張らない言い訳を垂れ流してるだけのクソ野郎かと思ったら、ちゃんと勝つための算段と志があったわけね。


「お任せあれ。全力でフォローさせてもらいますよ。邪魔させてもらいますよ」


 今回俺が就いたイレイザーの存在もラグビーと異なる点だ。


 無差別に選手達に襲い掛かる鉄製の暴れ玉……つまるところ第三勢力を排除あるいは敵に向けるのが俺達イレイザーの仕事である。


 普通に敵の妨害もするので通称『お邪魔者』。


「あ、言っておくけど負けて良いってのはレオ兄だけじゃなくて、俺や白雪もだからな」


「負けた時の予防線としか思えない発言が飛び出したんだけど!?」


「私は負けてはいけないのですね……」


「そりゃな。みっちゃん程度には勝ってもらわないと」


 俺はイブと、レオ兄はマリーさんと、フィーネはみっちゃんと、白雪はケロちゃんと競り合うことになる。


 そして、みっちゃんことセイルーン王家の守護神アルテミスは、他に良い括りがないので同じ強者扱いだがフィーネと彼女では実力に天と地ほどの差がある。


 53万様と2万そこそこさんぐらいある。スーパー古龍にでもならない限り負けてはならないのだ。なっても勝ってもらいたい。主人公はこっちだ。


「フィーネさん、白雪さん、危なくなったら本気出しても良いんですよ?」


 20分も経てば黄金ボールは子供でも捕まえられる速度になるよう設定されているため、それまでは妨害の妨害の妨害の(以下略)をして時間を稼ぐ。


 ――というのが俺達『非力ーズ』の作戦だ。


「クルル」


「そうですね。白雪さんのおっしゃる通り、勝利より大切なものがあります」


 2人がどこまでやってくれるか未知数なので、こうせざるを得ないのだ。


 白雪に至っては成功するビジョンが見えるまではアタッカーとイレイザーをしてもらうつもりだ。おそらく他のチームも同じ。猫の手食堂は知らん。身体能力に任せて攻撃全振りで黄金ボールを取りにいく可能性もある。


 まぁそうなったら11点取るだけなので、集塵機のような魔道具を使って一瞬で終わらせそうな王族チームと違って対処のしようはある。


 唯一対処出来る俺達が初戦で潰しておくのは、ありありのありだったりする。


「ゲームバランスが崩壊するような真似は運営が許しても俺が許さん」


(((お前が言うなッ!!)))


 やっぱ幻聴多いわ。終わったら病院行こ。




「これより我等は修羅に入る!」


 泣いても笑ってもこれが最後。負けた瞬間即終了。決勝戦まで残らなければ総合優勝はない。というかチーム食堂が2回勝てばジエンド。


 崖っぷちだ。


(頑張れ、オルブライト家チームB、もしくは商店・ゼクト商会・研究所の中で勝ち進んだヤツ。絶対潰せ。言ってくれれば魔道具貸し出すから)


「それはウチとしても願ったり叶ったりだけど、道具の貸し借りは禁止されてるんじゃなかったかしら? あと本当に修羅に入る人はそんなこと言わなくない?」


「マリーさん……」


 そろそろ試合が始まろうかという時に、敵チームのリーダー的存在のマリーさんがやって来た。激励とは思えない。というか明らかに揺さぶりに来ている。


「お得意の心理戦ですか。その手には乗りませんよ。俺はみっちゃんとケロちゃんをモフりますから」


「……同じケモナーとして共感したいところだけど流石に今は違うんじゃない?」


「なら試してみますか? 俺のゴッドフィンガーでビクンビクンさせちゃいますよ。まともに動くことすら出来なくなっちゃいますよ」


「別の意味で動けなくなるかもしれないわね。恐怖や気持ち悪さで」


 理由なんてこの際どうでもいい。半数の動きを封じるなどバランスブレイカーも良いところだ。そして俺にとっては朝飯前、どころかそれをすることで朝飯を取らなくて一日元気にやっていけるほど治癒&活力になる。


「言ってることが露出狂の変態と同じなのよねぇ……」


「王女ともあろう者が何言ってるんですか。冷静に考えてみてください」


「え、ええ、そうね。はしたない例え話をしたわね。御免なさ、」


「普段出来ないことをする高揚感や禁止されてることをおこなう背徳感は、どこにだって存在するじゃないですか。初めて空を飛んだ時。初めて海に行った時。初めて香辛料を食べた時。人々は何度も繰り返している内にその時の気持ちを忘れてしまいますが、露出狂の人達は違う。彼等は毎回新鮮な気持ちで楽しんでいるんです。人生を謳歌している人を馬鹿にするのはやめてください。不愉快です」


「そこで肯定派に回るの!?」


 もちろん冗談だ。他人を巻き込む謳歌の仕方など間違っている。せめて対価を払え。事後承諾で良いから援助交際みたいに協力者に礼をしろ。というかそういう店に行け。ヤラセが嫌なら脳内妄想で我慢しろ。もしくはVR技術の発展を願え。


 ま、それはともかく、敵を動揺させることには成功したようだ。


(くくく……勝ったな)



「お互いベストを尽くしましょう」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 ……ねぇ、なんで爽やかな笑顔で握手なんかしてんの? まるで俺が悪人みたいじゃん。勝つためには手段選ばない人みたいじゃん。ホントに激励に来ただけなの? ねぇ?


 せめて情報収集して行きなよ。


「ほらほら、重要そうな魔道具がそこにありますよ~。何か気になりますね~。あ~っと、こんなところに作戦を書いた紙が落ちてるぅ~。見られたら困るぞぉ~」


「ウチはイブ特製の『ワンパン君』と『飛行魔道具』を使うわよ」


 イイ子ぶってんじゃねえぞ! 知ってんだかんな! そのスマイルの下にドス黒い思想抱えてんの! 黒幕なんだろ!? そうなんだろ!? そうって言えよ!!


 ……色々な意味で負けられない戦いが始まる。

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