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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千四十五話 スポーツ大会8

 各々が勝負とは無関係の複合チームを作ってから1時間。


 美味しくて楽しい食事で腹と心を満たした俺達は、名残惜しみながら臨時パーティを解散し、自分達のチームと合流して午後の部に向けて気合を入れていた。


「いや~、食事中にあんなに喋ったのは久しぶりだよ。やっぱ弁当スゲーよ。食事時間なんて普段なら長くても20分とかなのに、弁当マジックのお陰で40分も楽しんじゃったよ。倍だぞ、倍。信じられるか? 食事っていう人生の中でもトップクラスに重要な楽しみを倍楽しめるとか最高過ぎるだろ。弁当マジ弁当。メンバー集めや場所取りや身支度に時間取られてなかった1時間丸々弁トーク出来たって」


「ど、どうされたのですか? 先程から弁当弁当と……お弁当に関する画期的な魔道具でも思いつかれましたか?」


「っぽいね。ルークってこういう時態度に表れるし。この異常なまでの弁当推しは絶対そうだよ」


 この1時間で一体何があったんだ、と訝しむようにこちらを見るフィーネとレオ兄。


「期待してるところ悪いけど何もないぞ。弁当の素晴らしさを語ったら改めてスゲーなって思って弁当信者になっただけだ」


 これも思い込みっていうのかな。


「愛する妻と子供のところまで遠征していたレオ兄はともかく、弁当マニアになるまでの一部始終を見ていたフィーネにはわかってほしかったぞ」


 失望を露わにするとフィーネは申し訳なさそうに、レオ兄は何を言ってるんだかと肩を竦め、


「にしては露骨だけどね。完食するまでに掛かる時間がそのぐらいなだけで、食べ終わってから喋ってるじゃないか。今回は内容物の交換があって周りにペースを合わせてたから遅れただけでしょ」


「御弁当様を馬鹿にすんなッ!! 御弁当様は凄いんだ!!」


「本当に自分で意識改革しただけなの!?」


 さ、気合も入ったことだし、午後の部を始めようか。


 ……え? まさか大声を出すことが活力に繋がる法則をご存じでない? 戦の前とか最中に大声出すじゃん。鼓舞するじゃん。あれよ。


 …………なに? 弁当への情熱はどこまで本当か? 全部だよ。言わせんな恥ずかしい。でも滅多に登場しないからこそ特別感があるわけ。本当は俺だって職場に持参したりイベント毎に持ち寄ったりしたいよ。でも違うじゃん。だから弁トークしたい気持ちをグッと我慢して次登場するのを心待ちにするんだ。そう、1年に一度しか会えない織姫と彦星の如くな。


『え~、そこの弁当マニアさん、第三種目を始めるので所定の位置についてください。3秒以内に向かわない場合は遅延行為とみなして、弁当を持って来るのを度々忘れる刑、どんなオカズが入ってるかワクワクして開けたら箱一杯のご飯と梅干1つになる刑、不慮の事故で中身ぶちまけて泣きながら市販品を買う羽目になる刑を執行します』


「悪魔めッ! 地獄に落ちろ!」


『3秒過ぎたので執行しま~す』


「説明時間も含むのは反則じゃないですかね!?」


 俺は文句を言いながら全力で走った。


 ユキのやり口はわかっている。こうして時間を稼いで言い訳の出来ない状況にするつもりなのだ。なら抗議しながら従ってやるさ。ふははっ、ユキ敗れたり!


『とか思ってるみたいですけど、普通に宣言してからの時間なので、刑は執行されま~す。それが反則なんて誰がいつ決めたんですか。自分の都合の良いように解釈しないでくださ~い』


 くそったりゃああああああああああーーーッ!!




 第三種目は『ボール争奪戦』。


 ルールは至ってシンプル。フィールド内にある10個の巨大ボールを制限時間終了時にいくつ自陣に所持しておけるかで勝敗が決まる。肝となるのは奪いに来た敵を如何に撃退するか。そしてどのチームを狙うか。


 一回戦はAとBの2ブロックに分けておこなわれ、5チームの中で上位3チームが残る。二回戦は6チームの中で上位4チームが残り、三回戦は勝ち残った4チームでの優勝決定戦となる。


 俺が知らないだけで実は正式名称がありそうなこの競技。これまでの種目と違って超次元になりやすいので魔力・魔術・精霊術、すべてにおいて制限が掛けられている。


 つまり魔道具の出番というわけだ!


「いいか、ここは絶対に負けられないぞ。なにせユキのチームより上の順位になれば執行猶予がつくんだからな」


 それが苦労の末に引き出した条件だった。


 あんなもん実質無罪だ。次に罪を犯したら大変な目に遭うってわかってて誰が犯すんだよ。理不尽なことなら世論を味方につけて抗議すればいいだけだしさ。


 つまり、3回のチャンス(初戦から当たるのだ)の中で一度でもユキチーム……というか王都の学生連中より多くボールを確保すれば、俺の楽しい弁当ライフは約束される。


「わかってると思うけど集中攻撃すれば良いってわけじゃない。まずは勝ち残ることを考えろ。奴等に勝てそうな時だけ手を出すんだ。

 幸い王都組で怖いのはユキだけ。ワンもニコもスーリもただのパンピー。雑魚だ。しかもこっちにはOBのレオ兄が居る。偉大な卒業生であることを伝えるだけで土下寝する。取ったボールも喜んで差し出す。実質7対1だ」


「例え僕が歴代最高の学生だったとしてもそれはないと思うよ」


「クルル」

(するとしても王族チームにですよ)


「くそ! スポーツマンシップはどうした! 忖度とか汚いぞ! 相手が誰であろうと正々堂々全力で戦えよ!」


「「「…………」」」


 もちろん冗談だ。実力で無罪を勝ち取ってみせる。だからそんな冷めた目をしなさんな。士気にかかわるでしょ。




「やめろよ! なんで俺達ばっか狙うんだよ! 他んとこ行けよ!」


 試合中盤。各々の力量が判明し、戦況をどう動かすか決まりつつある中、俺達オルブライト家チームAは敵4チームから猛攻を受けていた。


 出力が制限されているので時間内に倒しきることは難しく、勝敗を分けるのは自陣のボール数なので例え全滅しても時間稼ぎさえ出来れば勝てるので防御側が強く、バトルロイヤル……もといケイドロと比べて人数も半分なので対処しやすくはある。


 だが限度はある。


「他!? 他だと!? ボールを独り占めして何抜かしてんだ、この野郎!」


「バランスブレイカーにもほどがありますの。さっさとこの『吸引力の変わらないただ一つの集塵機・改』を止めるですの。さもなくばぶっ壊すですの」


「さっきから壊そうとしてますよね!?」


 彼等の目的が魔道具の破壊なのでそちらを『アタッカー』、それを阻止しようとする俺達の邪魔をする連中を『ディフェンダー』と呼ぶことにする。


 ディフェンダーはヨシュア・セイルーン両学生チームがおこなっているのだが、中盤までの戦力分析の成果か適材適所の配置がなされており、俺はワン・スーリ・ファイ・シィの4人を相手にしている。


 正直な話、精霊術を身に付ける前からシィ以外とは互角だったし、身に付けた今となっては彼女が全力を出さない限り4人を相手にしてもなんとかなる。


 ただ集塵機の方までは手が回らない。


「くっ、さっさと壊れんか! なんじゃこの堅さは!?」


「イヨレクイエム! イヨレクイエム! イヨレクイエム・ジ・エンドォォ!」


「ゴメンネ、おにぃ。研究者さん達みたいに解析・解体出来ればこんなことしなくても済んだんだけど、魔道具の『ま』の字も知らないわたし達はこうするしかないんだよ~」


 こうしている間にも、自陣最深部に設置した竜サイズの集塵機は、磁石のようにボールを貼り付けている魔道具は、アタッカーの手によって葬り去られようとしている。


 出力調整されていて助かった。ほとんどの連中がボールを巻き込んでいるし、イヨたんに至ってはボールの上から蹴っている。そちらの方が攻撃力があるからなのだろうが、全力なら試合が成立しなくなっていた。


(((今もしてねえよ!)))


 ……最近幻聴が多い気がする。働きすぎかな?


 フィーネはユキで、レオ兄はガチ戦闘員のルー&ノッチの相手で手一杯。動力源をしてくれてる白雪は魔道具の中から結界を張るので精一杯。しかも吸引メインだから出力弱め。


(八方塞がりとはまさにこのことだな……)



「とでも言うと思ったか、バカめ!」


「「「――っ!?」」」


 ディフェンダーの目的はあくまでも俺達の足止め。全力でボールも何もない敵陣地へと逃走した俺を追いかけるか否か、4人が迷った瞬間、俺は勝利を確信した。


 離れた場所から叫ぶ。


「喰らえ、秘技『ルークマウス』! 俺達は王都組に勝てればいい! 協力してくれるならボールをやろう! 王都組と一緒に落ちるのは1チームだけで済むんだ!」


「この魔道具は今の内に壊しておかないと次も使われちゃいますよ~」


 ……いや、今はそういう話は置いておこうよ。関係ないじゃん。空気読もうよ。敵チームが主人公の発言に動揺するって場面じゃん。


「「「オラオラオラオラオラオラッ!!!」」」


「使わないから! 約束破ったら針千本飲むから! 本当にユキのチームに勝てれば満足だから! 何ならサレンダーするからぁぁーーーッ!!」



 結局、集塵機は破壊され、すべてのボールを奪われた俺達は、攻撃側に回るだけの体力も魔力も精神力も残っておらず、呆気なく敗北した。


「そしてチャッカリ1位を獲る私~。まともに戦ってれば二回戦に進めたのに残念でしたね~」


 最後にユキの煽りを受け、執行猶予を賭けた戦いを次へ持ち越す羽目になった。


「別に良いですけど次が最後の競技ですよ~? 負けたら弁護制度も保釈金制度もないまま実刑ですよ~? 大丈夫なんですか~?」


「大丈夫。最後のは自信あるから」


 ぶっちゃけこのボール争奪戦は繋ぎよ。これこそ俺の作りたかった流れ。


 すべては最終種目『魔道チェイサー』で決着をつけるための詭計よ。

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