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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千四十三話 スポーツ大会6

 警備兵と泥棒、略して『ケイドロ』は、どこぞの鬼ごっこモドキとは違い、どちらが早く相手チームを戦闘不能状態にするかを競う種目で、紅白に分かれてのバトルロイヤルである。


 総合優勝を狙うためには味方を裏切ることもやむなし……というか、背後からの誤射や敵との共闘や盾だと思ったら味方だったが平然とおこなわれるので、信じられるのは自分と自分のチームのみ。


 同じ組の連中は基本裏切ると思った方が良いレベルだ。


「大丈夫だよ~。利用価値があるうちは何もしないから~」


「つまり利用価値が無くなったら何かするってことですよね!? しかも盾か武器かオトリにする気満々ですよね!? どちらにしても俺死にますよね!?」


「ルークならやれると信じてる」


「こんな嬉しくない信用のされ方、生まれて初めてだわ!」


 第二ラウンド開始早々、広範囲魔術からの切り込み部隊という白組の先制攻撃を耐え抜いた俺の周りを固めるのは、ヒカリ&ニーナのニャンコ姉妹。


 チームメイトとは離れ離れになってしまったので心強くはあるが、いつ裏切られるかわからない恐怖が付き纏うため、素直に喜べなかったりする。


「離れ離れになったのはルークが盾にしたせい」


「3対2って相当有利な条件だったのに逃走を選んだお前等のせいだろ」


「自分だけ逃げようとするからでしょ。今も自分を頭数に入れてないし。わたし達の狙いはあくまでも優勝。こんな序盤からリスクを冒す必要なんてないの」


「そうだとしてもチョッカイぐらい掛けるべきだったんじゃないか? ちなみに俺は離れてから掛けようと思ってたぞ」


「掛けてないじゃん」


 たしかにヒカリの言う通り、逃亡に全力で、援護だの注意引きだのレオ兄の役に立ちそうなことは一切していない。


「仕方ないだろ。レオ兄が『ここは僕に任せて先に行って』って言ってたような気がしたんだから」


 この台詞を言ってくれる味方を見捨てて行かないのは、逆に冒涜だ。


 やっぱ無理だわ、と戻って来るパターンは命の危機がある時限定で、こんな損得勘定剥き出しのお遊び大会でするべきものではない。


「わたしには『え!? 作戦と違わない!?』って動揺してるように見えたけど? あの感じからしてレオ君が前衛でルークが後衛だったんじゃないの?」


「戦略とは状況次第で如何様にも様変わりするものだよ」


 こいつ等の裏切りが怖くて何も出来なかったのは秘密です。チョッカイ掛けた瞬間に背後からバッサリとか全然あり得るし。


 それこそ第一ラウンドのマリーさんのように空を飛ばされるかもしれない。


 彼女は赤組(前回俺が所属していた組)の注意を引くだけだったが、味方がおこなえば敵をおびき寄せることが出来る。戦線離脱しないギリギリのラインで生かしておけばさらにグッド。怪しいとは思いつつも手を出さずにはいられない。


 『敵よりも怖いのは無能な味方』という格言もあるぐらいだ。役に立たなければ邪魔になる前に排除されるし、より役に立つ方法を思いついたら容赦なく実行するに違いない。


 おそらくレオ兄は最初ヒカリの言った通りの反応をしたのだろう。しかしすぐにこちちの意図を察してくれて俺の言ったような反応をした。


 つまりどちらも間違ってはいない。


 そういうことにしておこうじゃないか。


「あとで本人に確認して良い?」


「ダメ」


 可愛らしく首を傾げてお願いしてくるヒカリ。俺は断固たる決意で拒否する。


 どういった心境でその行動を取るに至ったかはわからないが、俺にはそう感じられた。卑劣な猫め。そうやっておけば男を意のままに操れると思ってるんだろ!


「――とか考えてそうな顔してるけど、わたしは真顔で、首を傾げてもないからね。妄想するのは勝手だけど、それを表に出すのは、薄着の子が全員自分のことを誘惑してると思ってる童貞みたいだからやめた方が良いよ」


「これで誘惑してやろうって気持ちを女共が持たなくなったらな」


 本命へのセクシーアピールに使っている以上、それを見た第三者にイヤらしい気持ちを抱くなというのは無理があるだろう。


 狙い撃つつもりなら、ホテルなり自宅なり2人きりになった時だけにしろ。というか行為に及ぶ時だけにしろ。勝負下着みたいなもんだろ。


 言葉にしても行動にしても公共の場でおこなうからには無差別攻撃だ。


「わたしの例え方が悪かったね。謝るよ。やってないことをさもやったように見せる達人のルークには『否定』を選ぶべきだったね。誘惑してません。可愛い子ぶってません。そして千里眼の力が疑われるのが嫌だからあとでレオ君に確認します」


「俺達の13年間の絆が疑われるのも嫌なんだが?」


 ただのチームメイトならまだしも、家族から「本当に~?」とか「実は○○だったんだろ?」とかほぼほぼ否定しながら尋ねられるの、みんなも嫌だろ?


 自分がされて嫌なこと、周りがされて嫌なこと、自分がしたくないことをするのは違うじゃん。ダメじゃん。


「聞いてきた」


 と、ここで身体能力お化けが、ブゥン、と高速移動にありがちな効果音を出してどこかから戻って来た。


「レオはヒ、」


「さーて、第二フェイズはこっちから打って出るぞ! お前等準備は出来てるな!」


「ヒカリの言ってた通りの反応しかしてなかった。最初から裏切るのはあり得ないって言ってた。わたし達が手伝わなくてもルークが参戦してくれるだけで勝ててたって。でも厳しそうだから逃げたって」


 掟破りの強引なドリブル!? そこは次のシーンに移るところじゃん! 最初の『ヒ』だけで大体察してくれるって! というか結局逃げたんかい! 役立たず!


 ……なに? 追撃部隊が押し寄せて来て5対1になった? 囲まれてる中で逃げ切っただけでも凄い? しかも可能な限り時間稼いでくれたんだ、ふーん。やるじゃん。


 まぁそれはそれとして、レオ兄は敵に情報を渡さないようにしてるだけだから。真実じゃないから。信じる必要ないから。マジでマジで。100万賭けるって。




 俺のことをオトリに使うと公言したヒカリだが、今はまだその時ではないのか、そんなことをするまでもなく楽々撃破ポイントを稼ぐ方法を見つけたのか、姉妹は俺を置いて戦禍に巻き込まれ……いや、戦禍を引き起こしに行った。


 そんな戦闘狂共と対照的に俺は地面の中で息を殺して状況を窺っていた。


(お互いに雑魚は狩り尽くして、好き勝手に暴れ回る連中に便乗して攻められそうなところに加勢に入るって感じか……)


 残り赤白共に7人。


 ポジティブに考えれば安全地帯が増えて不意打ちの危険性が減った、ネガティブに考えれば格上しか残っていないので狙われたらひとたまりもない。


 そもそも、ここまで狙われなかったのは、こちらの存在に気付いた者を、強者と挟み込むように動き回っていたからだ。『俺なんかに気を取られてたら背後から襲われるぞ』と無言の圧を掛けていたお陰。


 盾となる人材も居なくなり、あえて隙を見せて襲い掛かってきた強者の背後からさらに味方が襲い掛かる二重トラップも視野に入れ始めた現状、俺はオトリの役目を真っ当して脱落するべき存在だろう。


(味方は……フィーネが生き残ってるのか)


 彼女が本気を出してくれるなら1位を獲ろうとも思うのだが、二流冒険者クラスにまで劣化した今のフィーネではこの辺りが限界だろう。俺は言わずもがな。


(んじゃあ最後にひと暴れして終わりますか!)



「やあやあ皆の衆。調子はどうだい?」


 地面を泳ぎ、時々踏んづけられたり魔術で狙われたりしながら戦場のど真ん中へとやって来た俺は、精霊術を解除して人工芝のフィールドに仁王立ちした。


「おっと、攻撃するのは俺の話を聞いてからにしてもらおうか」


 魚が自らまな板の上に飛び込んできた。盾が自ら立候補してきた。オトリとして立派だった、じゃあ敵諸共消し飛べ。


 敵味方、攻撃防御、魔術物理問わず殺到するよりも早く制して話を続ける。


「俺の実力じゃここに残ってる連中に攻撃を当てられて一発。運よく当たったとしても戦闘不能まで持っていくことは出来そうにない」


「「「…………」」」


 ならさっさとポイントになって失せろ。


 ほぼ全員から、それこそ脱落者共からも視線が突き刺さる。


「というわけで戦闘不能になるまで一方的にボコることにした! 精霊・化学・魔力に精通したお前等に通用するか試させてもらうぞ! フィーネ!」


「はい!」


 何も伝えていないが了承したフィーネは、俺の放った術をフィールド全体に拡散させた。




『は~い、そこまで~。ルークさんとフィーネさんが最後まで生き残ったので赤組の勝利で~す』


 それから3分。視覚・聴覚・嗅覚・感覚を限定的に奪われた一同は、俺達の手によって呆気なく敗北した。


「なんなんだ、アレは……」


「みっちゃんほどの強者でもわからないのか。あれは不可視結界の応用と、聴覚と感覚を麻痺させる音波と、嗅覚を混乱させる精霊術だよ」


 敗北者達を代表して尋ねてくる神獣アルテミスに、ニタニタと勝者の笑みを浮かべて答える。


 光の反射やら網膜うんぬんといった視覚化の仕組みは語り尽くされていると思うので省くとして、音波はみんな大好きモスキート音だ。


 これも説明するまでもないだろうが、年齢とともに周波数の高い音が聞こえにくくなる現象を利用して、『子供にしか聞こえないから~』と事件を起こしたり、逆に解決策にしたり、活躍の場は限られているにも関わらず妙に使われている。


 言わば物語界のブームアイテムである。


 今回重要なのはそれ自体ではなく、こういった場合に必ずと言っていいほど使われるソナーの仕事を奪うのが目的だ。


 音波を反響させて見えない敵の位置を探る。ならそれを封じれば見えない敵……つまり俺達の居場所を感知されることはない。


 フィーネの力で強化・拡散させれば向かうところ敵なしだ。


「それは……本当に最強なのでは?」


「どうだろうな。必要な環境が全部揃ってたこのフィールドだからってのもあるし、お前等が弱体化してたってのもあるし、混乱してたってのもあるし」


 これが命の奪い合いだった場合、彼等は間違いなく全力で解除、もしくは対処していただろう。『なんか面白そうだから掛かっておこ』『不思議な感覚だわ~』など楽しまなかっただろう。


「ちなみにリニアモーターカーで使う予定の技術だったりするぞ」


「詳しく」


 楽しむことすらせずボーっと時間が過ぎるのを待っていただけのイブが、後悔に塗れた顔で食いついてきた。


 なんてことはない。線路やトンネルの存在を魔獣達に気付かれないよう結界に織り交ぜるだけだ。忌避剤と一緒。

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