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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千三十八話 スポーツ大会1

 ヨシュアーランド編から1週間が経った。


 俺は何もない平原に居た。


 数分前までは山だった。中にはダンジョンが広がっていた。数百という魔獣が蔓延っていた。しかし今は平原だ。


『え~、本日はお日柄も良く、絶好の運動日和となりましたことを大変嬉しく思います。皆さんもよく集まってくれました。主催者としてお礼申し上げます』


「な~にがお日柄も良くだ。無理やり晴れにしたんだろーが」


 そんなだだっ広い平原で、大勢の人々の前に立ち、開会宣言という慣れない役目に緊張しながらおこなっていると、酔っ払いからヤジが飛んできた。


 勘違いされがちだが『お日柄』は天気ではなく、先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の六曜のことであり、冠婚葬祭のためのこじつけ&売上対策だ。


 実際、地球でも日本と中国ぐらいにしかないもので、精霊という目に見える基準が存在するこの世界では、精霊術師が言えばそれが正解(良い日)になる。


 それには天気も含まれるので、サイは昨晩から降り続いてた雨を強者の力で何とかしたことを、人工的に創り出しておいて何言ってんだ、と責めているのだ。


 天候を操るなんて神にでもなったつもりかよ、と暴言を吐いているのだ。


『うるせえ。黙れ。口を挟むな。雨天決行より良いだろうが。代わりにスピーチやらせんぞ。当然ヘマしたらこれでもかってぐらい責めるからな』


 俺は泣きそうになりながらも気丈に振る舞う。


 酔っ払いの相手などするべきではないのだが、そうしなければアンチの彼はいつまでも同じことを言い続ける。仕方がない。


(……お前等なに傍観してんだ。やれ)


「むぐっ!?」


 精霊達は俺を気遣ってサイの口を封じる。


 これでスムーズに進行できる。ありがとう精霊達。


『この土地を我々のために提供してくれた関係者の皆さんにも感謝を』


「提供? 恐喝の間違いでしょ? 開拓予定地に資源豊富なダンジョンが誕生しちゃってどっちを諦めるか悩んでたところに、『ウチならダンジョンを地下に移して魔獣が出てこないように蓋出来ますよ』って詐欺師面で進言したんでしょ」


「交換条件として、工事着工までの土地の使用権と、ここ等一帯の地下の開拓禁止と、確認作業が出来そうな人間の招集を要求したんだニャ」


「偶然ダンジョンが誕生しなかったら自力で造り出してた」


 次なるクレーマーは猫親子。


 サイと違って実力では到底敵わない相手……いや、そもそも実力とかないけど、スピーチはもう終わるので相手にする必要もない。


『それでは皆さん! 今日1日スポーツを楽しみましょう! セイルーン大運動会、開幕です!!』




 話は1週間前まで遡る。


 ヨシュアーランドを満喫した翌日。


 ソーマ家で目を覚ましたチームチョコの3人は、部屋に並べられていた入学祝の数々に震えあがり(イヨたんはガチで気付いてなかったっぽい)、ソーマとトリーが朝の身支度を終えるまでお披露目会を繰り返した……らしい。


「僕達はこれから仕事だから相手出来ないけど、昼にはユチが来てくれることになってるから色々教えてもらうと良いよ。筆記用具の使い方とかね」


「パパ……自分が何言ってるかわかってる? それはないよ。あり得ないよ」


「ん。ない。一生に一度しかない基礎学校の入学式で、世界で一番大切なファーストコンタクトで、使いさしを見せるとかあり得ない」


 ソーマが今の内に慣れておくように言うと、ココとチコが失望を露わにして拒絶した。


「そ、そうね! これはガッコーで使うべきものだわ!」


 すべての鉛筆をトッキントッキンにし、さぁいよいよ使うぞと意気込んでいた、机の上に筆箱の中身と落書き帳を広げて色鉛筆を握りしめていたエルフ娘も、何事もなかったかのように2人に倣ってランドセルに仕舞う。


「じゃあウチで使用してるものを使えば?」


「慣れ過ぎるのは良くないよ」


「……どゆこと? トリーさんわかる?」


「さぁ~?」


 まだイヨたんとの距離を測りかねているソーマは見なかったことにして代案を出すも、幼女全員の意思を代表して口に出したココの謎理論に、大人達は首を傾げた。


 ちなみに俺も意味がわからなかったが、話を聞いた直後、ユキから「DTが本で得た知識をひけらかすようなものですね~」と言われて秒で納得した。


 予行演習バッチリでも引かれるし、脳内トレーニングは無意味どころかピロートークの内容から体勢を変えるタイミングまですべてを決めてしまうので逆効果だ。


 必要なのは適度な素人感。仲良くなるためにはマウントではなく共感および下手に出ることが重要だと彼女達はわかっていたのだ。


 ……え? 普通に就活スーツで例えれば良くない? 着慣れるのは必要だけど汚れてたらダメってこと?


 …………そうね。


 ま、まぁそれはさて置き、入学祝の中で唯一家で使える『勉強机』でユチが来るまでの時間を潰すことにした幼女達は、合流後、我が力作『魔道チェイサー』で遊ぶことにした。



 結果は言わずもがな。


 ただ2つだけ不満点があった。


 1つは場所。


 初回ということもあって全力で遊びたかった3人は広場ではなく農場で遊んだらしいのだが、農場は農業をする場所であってフリースペースではない。強者の協力がなければ足場を作り出すことも出来ない。


 大人しく広場に行けば良かったのだが、見ず知らずの人間をン十人と参加させることに抵抗があったのか、俺の作る魔道具の性能や安定性を信用してもらえなかったのか、はたまた別の理由なのか。


 まさかの魔獣蔓延る野原でプレイすることに。


 一応何事もなかったのだが、魔道具の特性的に魔獣除けが出来ない上、正規のルート以外から出入りされると不備が出る恐れがあるのでやめていただきたい。


 2つ目は人数。


 魔道チェイサーはラグビーのようなゲームだが、応用を利かせることでゲーム性はいくらでも増やすことが出来る。


 チーム戦で言えば、ボールを大きくして玉転がしをしたり、数を増やして自陣にどれだけ保持していられるかを競ったり、ゴールポストをフィールドにランダムに出現するようにしてゴール数や触れた個数を競ったり。


 個人戦なんて無限大だ。ただの屋内トラックとして使っても十分楽しい。


 今にして思えばサイが批難していた理由の1つにこの『気候に関係ないのに雲を吹き飛ばすな』も入っていたのだろう。


 しかし雨というだけでテンションが下がる人間は俺だけではないはず。大会はカラッと晴れた日にするべきだし、これを否定する人間はこの場には居ない。


 ともかく、こういったものは人数が居た方が面白いわけで、幼女達から相談を受けた俺は、1週間かけてあの手この手で知り合いを集めた。




「面倒見がいい? わたしが? んー、自分じゃ淡泊だと思ってるんだけど……」


「ヒカリさんは絶対に良いですわ。わたくし達を集めたのもヒカリさんでしょう。お忙しいルークさんに代わって」


「躊躇なく全部の予定をキャンセルするアリスもアリスですの。そのせいで断りづらくなりましたの」


「あ、あの……まさかとは思いますが、あちらにいらっしゃる御方って……」


「ん? ああ。そうそう。セイルーン王国の第2王女《マリー=オラトリオ=セイルーン》様。その隣に居るのが妹のイブ様。昔からルークと仲良いんだよ。まったりティータイムのことも知っててくださって、復活を期待してるって言われちゃった」


「おい、ワン、ニコ。俺達のこと全然説明されてねぇぞ。王族の取り巻きだと思われてんぞ」


「しゃーない。俺だってそうする。取り巻きってのも事実だしな」


「お主達はまだよいわ。我なぞ既に3度も売り子扱いされておるのじゃぞ。飲食物の取り扱いについてアドバイスするために露店の中に入っておっただけなのにじゃ」


「ま、間違えたつもりはないのよ? ただちょ~っと顔が見えなかっただけで……」


「母さんは食い意地が張ってるからね。ところでクレアさん。例のものは持って来ていただけました? オルブライト家の方は準備出来てるんですけど」


「ミ、ミドリさん! 私達本当にここに居て良いんでしょうか!? 場違いじゃないですか!?」


「……b」


 なんかメチャクチャ集まった……。


 途中参加で良いから、という『行けたら行く』封じの禁断技を使ったこともあるだろうが、セイルーン王国でメインを張っているキャラクターが勢揃いしている。


 ま、大会は盛り上がりそうだから良いんだけどさ。

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