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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六章 王都セイルーン編
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閑話 マヨラー戦記

 始まりは些細な出来事だった。


 あの時、俺があんな事を言わなければ・・・・。


 いや、後悔しても意味がない。起こってしまった以上は受け入れるしかないんだ。



 それは俺がイブと言う婚約者の事を報告して、オルブライト家の騒ぎが収まった後だった。


 リリ達と食堂の様子を見に行っていた自己中心的な空気を読まないバカ野郎が帰宅した瞬間に俺は怒鳴りつけたんだよ。


「よくも裏切ったなっ! マヨネーズを禁止にしてやる!! 食べるのはもちろん、見るのも触るのも嗅ぐのも禁止だ!!」


 ユキはマヨネーズ大好きなマヨラー精霊だから、罰としては最も効果的な方法だろう。


「なっ!? わ、私からマヨネーズを取り上げると言うんですかーーっ!? あんまりですー! 鬼~、悪魔~、ぼっち~」


 うるさい。ぼっちは関係ないだろ!


「王都からの帰り道で穏便な報告の仕方をあんなに相談したのに、完全に忘れて核弾頭ブッコミやがって! その罰だっ!」


 お前が出て行ってからどれだけ苦労して説明したと思ってる。


 お前の鳥頭には心底呆れたよ。


 今度という今度は許さない!



 しかし怒り狂っている俺とは対照的に、余裕の表情を崩さないユキ。


「フッフッフ~。ルークさん残念ですね~。私がどれだけマヨネーズを貯めこんでいると思っているんですか~? 探し出せるものなら没収してみればいいです~」


 給料をマヨネーズにしてから結構な時間が経つが、その間ずっと計画的に貯蓄していたらしい。


「なんでそんなとこだけ計算出来るんだよ。もっと私生活や仕事態度を改める努力しろよ」



 しかしユキが隠していると言うマヨネーズを俺が見つけられるとは思えなかったし、発見したとしてユキから奪う手段は無い。


 その事実を突き付けられてさらに苛立った俺は、つい言ってしまったんだ。



「あんな未完成なマヨネーズで満足するなんて馬鹿だよな~」



 足りない食材を軽く考えても『マスタード』『胡椒』『レモン』『オリーブオイル』と、今のマヨネーズは妥協もいいところだった。



「なっ! な、ななな、なんですとぉぉぉぉーーーーーーーーーっっっ!!?」


 俺が告げた一言に、ユキはまるで「明日世界が破滅する」とでも言われたかのような驚愕した表情でのけ反った。


 でも俺はもう止まらない。畳み掛けるようにユキを罵倒し続ける。


「何度でも言ってやるっ! あのマヨネーズは素材が半分しか揃ってないんだよ。あんな妥協品で満足するお前の舌は3流なんだよっっ!!」


「そ、そんな・・・・み、みみみ未完成? あの完成度のマヨネーズですら未完成だって言うんですか!?」


「ふんっ! ああ、未完成だよ! マスタードも胡椒もレモンもオリーブオイルも足りない。

 ユキは魔力と精霊術を封じられた状態で、これが自分の全力ですって言えるのか?」


 あの程度のマヨネーズで完璧なんて言えるわけがない。




 俺の言う事を真面目な顔で受け止めていたユキが静かに喋り出した。


「・・・・その食材、どうしたら手に入りますか?」


 語尾を伸ばすのんびり口調はどうした? キャラがブレてるぞ。


「言っただろ。3流のお前じゃ一生出会えないんだよ。未完成のマヨネーズで満足してろ」


「いいえっ! 私は決して妥協しない精霊、ユキっ!!

 必ずや見つけ出してみせますよぉぉぉーーーーーっっ!!」


 そう言って食材の特徴を俺から聞き出したユキは飛び出していった。


 教えるのを嫌がったら土下座しながら「何でもしますから~」と泣きついてきたから仕方なく教えたんだよ。





 魔界にあるホーネットの森にて。


「そうですか~。クーさん達も知りませんか~。

 ・・・・え? それは本当ですか!? 酸っぱい物を食べたことがある!? どこでですかぁーーーーっ!?」


 どうやら新参者のキラーホーネットの中に食材について知っている者が居たらしい。


「わかりましたー! あの山ですね~。え? 危険? そんな事よりマヨネーズです~。貴重な情報ありがとうございました~」


 早々に情報を聞き出したユキは危険な山へと転移する。



ギャーギャー! ガオーガオー!


 ホーネット達から「危険」と忠告された山の中は、言われた通り魔獣の巣窟で常にどこから雄たけびや威嚇する咆哮が聞こえる。


「うるさいです~。さっさと酸っぱい食べ物を寄こすんですよ~」


 が、そんな事は全く気にしないユキは魔獣たちを蹴散らしていきながら食材を探し求める。


「フムフム。たしかに酸っぱいですね~。これがレモン? ルークさんに確認しましょうか~」


 ユキに脅された蛇の魔獣が酸っぱい果実の元へ案内してくれたため、楽々入手できた。


 そしてマヨネーズの素材になるかを調べてもらうべく、オルブライト家へと転移する。


「レ、レモンだ。間違いなくレモンだぞコレ。どこで手に入れたんだよ」


 入手方法なんてどうでもいい、一刻も早く完璧なマヨネーズを食すためにユキはルークの質問など無視して再び転移する。


 ユキ、レモン入手。



 大量ゲットすべく再び山へとやってきたユキは突然魔術による攻撃を受けた。


「なんですか~。私は忙しいんです~。

 ・・・・ん~。戦争、ですかね~?」


 山の外で大規模な争いが起こっているらしく、先ほどの魔術はその流れ弾のようだ。


 基本的に争いごとには介入しないユキだが、このままでは折角探し出したレモンが全滅する可能性もあったので、この争いを止めるか、場所を移動してもらう事にした。


「ども、ども~。ちょっと話し合いをしましょうか~」


 いきなり現れた少女の話を聞いて戦争を止める軍隊など居る訳もなく、ユキを無視して攻撃は続けられる。


「そうですか~。話し合いは無理ですか~。レモンのためですので、ひと頑張りしましょうか~」


 『悪魔の山』

 いつしか人々からレモンが育つ山がそう呼ばれるようになり、誰も近寄らなくなった。




 深海にて。


「辛い食べ物を知っている!?」


 突然現れた悪魔の化身ユキに怯えきったリヴァイアサンは知っている情報を全て話した。


 すると、どうやら貝の一種に塩とは違う辛さを持った魔獣が居るらしくご丁寧に海の王者、いや『元』海の王者リヴァイアサン自ら現物を持ってきてくれる。


「ご協力感謝しますー! マヨネーズ!」


 マヨネーズを呪文にして、また別の場所へと転移する。


 そしてリヴァイアサンに平穏が訪れた。


 ユキ、胡椒入手。


 


 セイルーン王城にて。


「マヨネーーーズっ!!」


ビクッ!

「・・・・ユ、ユキさん?」


 ルークからプレゼントされたリバーシの魔法陣を解析していたイブが、突然の来訪者に驚いている。王城の結界もユキの前では無意味なのだ。


 もう少しで完成するマヨネーズの事を考えてテンションがおかしくなっていくユキが、イブに事情を説明すると「料理長なら知っているかも」と言うので料理長に聞き込み。


 料理長は東の国でマスタードらしき調味料のことを聞いたことがあると言うが、詳しい国まではわからないらしい。


「東の国ですね~。わかりました~」


 そして再び転移する。方向さえわかれば後は現地で聞き込みをするだけだ。



「マヨネーズ!」


 ユキが何度か転移して辿り着いた村に求める素材があった。


 その近くに最近ダンジョンが出来て、そこから溢れ出す魔獣によって壊滅の危機らしく、もし解決してくれるならマスタードを譲ると言う。


 もちろんユキはすぐにダンジョンへと潜っていった。


「マーヨ、マヨマヨマヨマヨマヨマヨマヨマヨォォォーーーーーーーッ!!!」


 ユキは「マヨマヨ」叫びながらダンジョンを数十分で踏破。


 最下層に居た巨大な鳥のダンジョンマスターを瞬殺し、最深部で魔力を解放してダンジョンは跡形もなく消滅させた。



 平和になった事を村長に報告したユキに、まさか数十分で解決するとは思ってもいなかった村人たちは呆気に取られている。


 村人が一応確認すると、間違いなくダンジョンは無くなっているらしく、報酬が支払われることになった。


「旅のお方、誠に感謝いたします。お礼の品として村に伝わる伝説の魔道具を「そんな物よりマスタードですー!」・・・・本当に調味料だけでよろしいのですか?」


 結局ユキは討伐の報酬としてマスタードとカラシナの実だけを貰う。


 カラシナを育てればマスタードの原材料になるので大量生産が可能だと村長が教えてくれたのだ。


「感謝しますー! マヨッ!」


 その村では救世主『マヨ』の伝説が語り継がれることになるのは未来の話。


 ユキ、マスタード入手。




「マ~ヨ~ネ~ズ~」


「「「ひぃぃぃぃっ!!!」」」


 ユキがやってきたのはアクア領主邸。


 会合していた領主ダンと貴族達は突然テーブルの下から這い出てくるユキに恐れおののいた。


 残るオリーブオイルを入手するためにオリーブの情報を求めるが、その場にいる全員が知らないと言う。


 ルークの情報通りなら海辺で生産される事が多いはずだが、アクアには無く、近くの海岸にも存在しないらしい。


 ならば海洋都市をしらみつぶしに探すだけだ。



 そしてユキは次々と転移していく。


「マヨッ!」「いや~、知らないな~」


「マヨッ?」「ごめんなさいね。わからないわ」


「マ~ヨ」「これじゃダメかい?」


 似た食材を見つけるたびにルークに確認するが、ことごとくオリーブでは無かった。



 いくら探してもオリーブが見つからない。しかしルークはマヨネーズの味付け、舌触りにおいて最重要なのがオリーブだと言う。


「マ、マヨ~」


 妥協するしかないのか・・・・いや、挫けない・諦めない・妥協しない。それがユキのポリシーだ。


 手当たり次第に聞き込みをすれば必ず見つかる!



「マヨマヨマヨマヨッ!」


 海洋都市になければ全世界を巡ればいいのだ。


 ユキは転移しては聞き込み、そしてまた転移を繰り返した。




「まよ? ユキ、何を言っておるのじゃ?」


 気が付くとユキの目の前には、世界的商会であるゼクト商会の娘であるクレアが居た。


「マヨ? あ、クレアさんお久しぶりです~。実はですね・・・・って事で、マヨマヨネーズ、マヨネーズ・・・・なんですよ~」


 オリーブ探しに集中するあまり人の顔を一切確認していなかったし、言語もおかしくなっていたかもしれない、と少し反省するユキは、クレアなら知っているかも知れないのでわずかな希望を持って相談する。


「・・・・いや、聞いたことのない食材じゃな。スマンが力になれそうにない」


 が、わずかな希望すら潰えてしまう。


 その後、クレアは「急ぐのでな」とユキに謝ってから忙しそうにどこかへ行ってしまった。



 見習いとは言え世界中を旅している商人で、食材には精通しているクレアが知らないと言う果実。


 もはやオリーブの入手は絶望的なのかもしれない。


「マヨ~」


 その現実を目の当たりにしたユキは悲しそうに鳴いた。



「お嬢ちゃん、どうした? これでも食べて元気だせよ」



 店の前でクレアと別れて「マヨマヨ」鳴くユキが気になったらしく、商店のオジサンが慰めるために売り物を手渡してくる。


「マヨ~。マヨ~。マヨ? ・・・・なんですかこれ~?」


「ああ、最近ウチの畑で採れた果実なんだけど、あんまり売れなくってな・・・・独特の味が癖になると思ったんだけどな~」


 そう言って手渡された果実、それこそユキが血眼になって探し求めていたオリーブだった。


 ユキ、オリーブ入手。


 ミッションコンプリート!




 ルークに確認すると「間違いなくオリーブだ」と言われたユキは、すぐに商店のオリーブを買い占めて持ち帰り、ルークから完璧なマヨネーズを作るという約束を取り付けた。


 ユキが必死に材料をかき集めるその姿に、情熱に、謎の気迫に、怒っていたはずのルークは負けたのだ。


 もう怒るや呆れるという感情を通り越し、彼女に対する気持ちは尊敬の域にすら達していた。



 ルークがマヨネーズを作っている間、ユキはオリーブ農家との契約するために再び街を訪れる。


「私はロア商会の者です~。このオリーブを定期購入したいです~」


 親切心からオリーブをくれたオジサンは、世界初のオリーブ生産者としてロア商会と専属契約を結び、大金持ちの農家として一生楽しく暮らしましたとさ。




「さぁ。これが一切の妥協のない完璧なマヨネーズだ」


 俺はそう言いながらユキの前にマヨネーズと生野菜と出した。


 手抜きではなく、これがマヨネーズを一番味わえる食べ方だと思う。


「光沢が違いますね~。食欲をそそる匂いも良いですね~」


 まずは見た目と匂いを楽しむユキ。


 でも本能が抑えきれないようでヨダレが垂れ流しになっていて、テーブルはビチャビチャだ。


「で、でででで、では! 実食っ!!」


 野菜にたっぷりとマヨネーズとつけて、ガブっと噛り付いた。



「マァァァァヨ! ネェィィィーーーーーーーーーィィズッッッ!!!!!!」



 しばらくオルブライト家にはマヨラー精霊の絶叫が轟き続けることになる。



「ルーク、ユキはどうしたの? なんで食べながら叫んで踊ってるの?」

「だ、大丈夫なのかしらアレ? 油で顔中ベッタベタだけど・・・・」

「ユキ、ユキ、ユキッ。駄目です聞こえていません。あんなに食べて、夕食はどうするのでしょうね」


 家族から心配されるほど一心不乱にマヨネーズと野菜を貪り食ってるけど、今回は本当に頑張ったし大目に見よう。


 お陰で調味料が一気に増えたことだしな。



「マヨっ!?」


 俺達の会話が聞こえたのか、奇声を上げてテーブル一杯の皿を抱え込もうとするユキ。


 いや、マヨネーズの話してないし、誰も取らないから威嚇すんな。

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