千三十六話 晩餐
魔獣を含むキャストやダンサーが話し掛けてくれたり触れ合いをさせてくれたり、アドリブ満載のナイトパレードを堪能した俺達は、締めくくりに相応しいアトラクションはどれか、頭を悩ませながら閉園時刻の迫る園内を歩いていた。
「ウソつきはドロボーのはじまりなんだから! メーカクな目的地があるじゃない! アトラクションに見向きもしないし、させてくれないじゃない!」
「イヨたん。これは嘘じゃなくて聞き手のワクワク感を煽ってるだけ。面白おかしく話すために必要なことなんだよ。
嘘だと思うなら農場の連中で試してみろ。『ふふふっ、その後はねぇ~、何したと思う!?』と『メイン所は一杯だったからホテルで食事して帰った』のどっちが良いリアクションが返って来るか、自分の目で確かめてみろ」
「負けるミライしか見えないッ!」
確かめるまでもなくどちらが盛り上がるかを悟ったイヨたんは、衝撃の事実を突きつけられた純粋動物のように目と口をかっぴらいて硬直した。
ふっ、喧嘩を売る相手を間違えたな……。
「子供をイジメて楽しいかにゃ?」
「うん」
もうこれをするためだけに知識を集めてるんじゃないかと思うぐらい楽しい。こういうのも含めて『先生』なんだろうな。先に生まれた者の特権だ。
――というわけで、ヨシュアーランド最後の思い出に『夕食』を選択した俺達は、園内に隣接しているオープン前のホテルへとやって来た。
「「「おおおお~~っ」」」
時刻は8時。6歳基準なら十分夜中と言える時間だが、巧みな話術のお陰で眠気や空腹感を忘れていた4人の幼女は、テーブルに並べれている料理を目の前にしてようやく思い出したようだ。眠気はしばらく思い出しそうにない。
「おっ、来たな」
「先に始めとるで~」
俺達を待っていたのは料理だけではない。サイ・セイレーン・ライム・ジョセフィーヌさん(人間ver)の元まったりティータイムの面々もだ。
もう御察しの人も居るだろうが、オープン前のホテルを利用させてもらえた理由は、彼等がプレオープンに招かれていたから。
準備&打ち上げで使ってくれというヨシュアーランド側からの申し出に、知人という立場を利用して紛れ込んだだけだが、メンバーの1人も混じっているので実質俺達もまったりティータイムだ。
で、俺達がパレードを楽しんでいる間もおこなわれていた打ち上げに、今から参加すると。
「ホネカワとベーさんは帰ったのか? まぁアイツ等こういうの苦手そうだし仕方ないけどさ」
辺りには4人分の食器しか見当たらない。席も空いていない。トイレや休憩で一時退席しているわけではなさそうだ。
俺達が途中参加することは全員が知っていたので、部外者(主にルイーズとジェファソン氏)と関わりたくないなら不参加一択だろうと、サボり癖のある2人をそれっぽい言い訳でフォローすると、
「ホネカワはおるで。そこに」
ほろ酔いながらも『マスター』だの『ベルフェゴール様』だの、追加情報を与えるような発言をしなかったセイレーンが、料理を並べられているテーブルを指さした。
「……鳥ガラ野菜スープのことを言ってるんだとしたらブラック過ぎるから軽蔑するし、骨付きカルビのことを言ってるんだとしたら『アイツ肉ないじゃん!』ってツッコむし、煮魚のことを言ってるんだとしたら『どっちかと言うとお前だろ!』ってツッコんだ後で女体盛りを提案する」
俺と彼女の距離も、彼女からバイキングエリアまでの距離もそれなりにあったので、どれを指さしているのか絞ることは出来なかった。
しかし発言が真実だとしたら3つの中にある……いや居るはず。
「あえて言うなら全部やね」
「全部!? バラしたり成形したりってこと!?」
「スープは味見する時に『良いの良いの俺骨だし』って笑いながら指を突っ込んどったから、出汁が……なぁこういう場合って入っとるんかな? 出とるんかな? どっちやろ?」
「どっちでも良いわ。つーか誰か止めろよ。汚いだろ。知り合いの出汁とか摂取したくねぇよ。あとで取り除かせるからな。そして残り2つも気になるからはよ」
幼女達にスープを飲まないよう注意して説明を続けさせる。
「骨付きカルビは、前にルークが『そっちの方が美味しい』言うとったのを思い出したホネカワが、バラ肉だったんに骨を付けたんよ。あ、もちろん牛のやで。そん時にロシアンルーレットしよってなって1つだけホネカワの骨が混じっとるけど」
「酔っ払いのお遊びに俺達を巻き込むな。そもそもこんなドロドロな状態で見分けられるわけないだろ。さっさと取り除いて美味い骨付きカルビ堪能させろ」
幼女達に骨付きカルビも食べないよう注意して説明を続けさせる。
「あの煮魚は無関係やで。ウチがやろうかとも考えたけどサイズが違い過ぎて無理やった。ホネカワみたいにバラバラになれんし」
「嘆くな。それで良いんだ。つーかやるなら食材じゃなくて食器の方にしろ。女体盛り万歳。わかめ酒サイコー」
「なら良かったわ。あの辺の皿全部ホネカワや。女体ちゃうけど盛られとるで」
「…………」
幼女達にすべての食事に手を出さないよう注意したのは言うまでもないことである。
「しっかしエルフってホント似てるよな~」
お前等の体はもちろん食器と比べても俺の方が清潔だ。
そんな微生物……もとい微精霊マウントを取るホネカワを『気分的に無理』と一蹴し、盛られた料理の数々を崩さないよう食器からの離脱を命じた後。
ジェンガの終盤のような顔で四苦八苦しているホネカワから色々な意味で目を逸らしていたサイが、強者の慧眼によって俺達より一足早く食べられる品を見つけ出したルナマリアとイヨたんを見て、ポツリと呟く。
「さっきまでもそうだったけど、髪や耳を見てもホント瓜二つだ」
食事中のフード着用と1人への幻術。
どちらが面倒臭いか天秤にかけたルナマリアは、おそらくイヨたんのために後者を選び、発狂必至のルイーズにだけ変装しているよう幻術を掛けて、頭の装備を外した。
それによって露わになったエルフ力に、両者とは交流があっても2人同時というのは初めてのサイが、ルナマリアとイヨたんを交互に眺めて感心したように頷く。
だいぶアレな例えが浮かんだが未成年の手前控えさせていただく。ヒントは3P。
「髪の色と長さが似てるってだけでしょ。アタシ達以外に長い耳の人型生物を知らないから錯覚してるのよ」
「それはあるだろうね。サイって昔から女性のことを髪で判断してるし。覚えてるかい? 昔、ノルンが面白がってエクステでロングヘアーにしたら、気付かず他人行儀な挨拶したこと」
「仕方ねぇだろ。髪型1つであんなモブに成り下がるなんて思わなかったんだからよ。あんなどこにでも居る髪型や髪色してるのが悪いんだ。覚えてもらいたきゃ個性を出せ。流行とか言ってチョロチョロ変えんな」
「いや~あの時は爆笑させてもらったよ」
不貞腐れるヤンキーにどれだけの需要があるかはわからないが、この場に居た全員にはウケたようだ。俺もニタニタが止まらない。
「髪で判断してるってのは認めるが、俺が似てるって言った理由はそれだけじゃねぇぞ。雰囲気もだ。2人が親子みてぇだと思ってるヤツは他にもいるだろ?」
これには全員が同意する。
エルフ族は全員緑髪でスレンダー体系なので、親子の判断材料は顔立ちや性格となるのだが、彼女の母はあまりにも普通なので、このツンツンした性格はルナマリア譲りと言われた方が納得がいく。
「ハッ……ル、ルナマリア、まさかお前……フリーザと一晩の過ちを!? もしくは誰かわからない相手との子供をクララ夫婦に預けた!?」
「なわけないでしょ。いい加減なこと言うんじゃないわよ。殺すわよ」
幼心にトラウマを植え付けかねない俺の発言にルナマリアがキレた。
「ルイーズ。安心しなさい。ウチは違うからね」
「もちろんウチもにゃ。ユチはそうだけどココとチコは違うにゃ」
すかさず家庭存続を願う親達がフォローに入るも、ジェファソン氏の『ウチは』発言にルナマリアさんの怒りのボルテージが加速する。
「くっ……このままでは精霊を悪用してDNA検査で偽情報を出しかねない!」
「とんだ逆恨みね。アタシにメリットないじゃない。自分から目を逸らさせるために他を巻き込むとか下衆のすることよ」
『わたしの体に指を入れてもらえれば一瞬で調べられますよ?』
「ライム、アンタ……」
『はい?』
何でもないですよ。微乳のイチャモンです。気にしないでください。
それにしても流石ですね。伊達にプヨプヨしてませんね。何でも出来そうですもんね、スライムの体って。
それじゃあ早速――。
「「「しゃべった!?」」」
しかし、子供達(と一部の大人)の興味は、自身の出生よりスライムが喋ったことに向いていた。
「ずっとセイレーンの力だと思ってたんだから当然でしょ」
「あー、水の塊だと思ってたわけね……道理でさっきから喋らないと思った。まぁベーさん以外の全メンバーを紹介出来たから結果オーライってことで」
「アイツもこうなることを想定して逃げたんでしょうね。どうせ岩形態で庭のオブジェになっててもネタにされてたし」
せやね。ルイーズ辺りが触らぬ神に祟りなしの誓いを破って大変なことになってたね。
『ルークさんがそう思ったら呼ぶように言われてますけど……どうしましょう?』
任せます、貴方の良心に。
そして今後彼等とどう付き合うかも。




