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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千三十五話 ナイトパレード3

『遥か昔に現代よりも高度な文明が存在した……その名は超古代文明。

 天を貫く巨大な建造物、魔力を使わずとも使用可能な魔道具、大山を一瞬で消し去る異能、海の底から天の先まで彼等にわからないものはなかった。

 しかし、神にも等しきその力に驕り高ぶった彼等は自らを世界の支配者と宣うようになり、神も精霊も信仰しなくなった。そして世界を創り変えていった。

 木々を燃やし、海を埋め立て、土を汚す人間達に怒った神は、すべての生き物に平等に力を与えた。

 努力する者は強くなり、努力しない者は淘汰される世界……道具に頼り切っていた人間は魔獣によって蹂躙されることになる』


 司会……もとい世界の真実を数千年前から語り継いでいる男性は、指定されたエリア……ではなく世界で唯一異能の行使を許された空間で、ショーを楽しみにしている観客……ゴホン! 探求者達に当時の光景を見せながら語っていく。


『数えきれないほどの争いが起きた。数えきれないほどの命が失われた。数えきれないほどの勝者と敗者が生まれた。

 最後に立っていた獣の名は……エンシェントドラゴン!』


「グルアアアアアアアアーーーッ!!」


 合図……呼び声……通知……ぜ、絶妙なタイミングで空中に現れた緑色のドラゴンは、まるで自分がそのドラゴンだと言わんばかりに巨体に見合った咆哮をおこない、火を噴き、舞台上に舞い降り、再度咆哮し、人々を震え上がらせる。


『そ、そんな……まさかヤツが復活したというのか!? 超古代文明の力をもってしても封印するのがやっとだった、あの、エンシェントドラゴンが!!』


 あ、やっぱそうだったみたいです。当時の生き残りらしいです。


『いくら1万2000年ぶりの復活で弱っているとは言え、現存しているドラゴンとは比較にならない強さ! 凶暴性も園内にいるドラゴンとは比較にならない! このままでは世界は終わりだぁぁ!』


 さり気なく2つ前のステージ『冒険者vsドラゴン』を貶して頭を抱える男。


『これさえ……この超古代文明の遺産さえ動けば、再びヤツを封印することが出来るかもしれないのに……!!』


 舞台下からせり上がって来る巨大装置。


『伝説では1000を超える人の想いが必要になるらしいけど、そんな膨大な人数どうやって……ハッ、そ、そう言えばここに集まっているお客さんの数は丁度1000人!?

 みんなお願いだ! ぼくは今から古代の遺産を動かす準備をする! その間、エンシェントドラゴンの張っている結界を弱体化させるから、攻撃して時間を稼いでくれ! 自信のない子や魔術を使えない子はぼくや周りの応援を頼む!

 準備が終わったら合図をするからぼくと一緒に「光よ、ホーリー!」と叫んでくれ! みんなの心が一つになればきっとドラゴンを封印することが出来る!』


 そして始まる御都合展開。


『弱体化させてもコイツの結界は強力だ。魔術が逸れることも多いけど構わず攻撃を続けてくれ。危険だから絶対に近づかないように! コイツは人間を食べることで力を取り戻していく! そうなったらもう手が付けられない!』


 メタいと思ってはいけない。何故そんなこと知ってるんだと言ってはいけない。


 理に適った素晴らしい理由じゃないか。これである程度は結界のせいに出来るし、悪戯小僧が居てもキャストが止められる。


『それじゃあ行くよ! まずは右側の結界を弱めるから、そっちの人達は思いっきり攻撃してくれ! さぁ、ドラゴンの右手を狙って!』


「「「やあああああああああッ!!」」」


 事情を知っているから良いものの、話を鵜呑みにした子供は怖がって泣き出すんじゃないかというぐらいに迫力満点のドラゴン。


 しかし子供達は合図と共に躊躇なく魔術を放った。


「大丈夫っていう言葉も信じてるんだろうにゃ」


「ただ恐れを知らないってだけでしょ。魔獣を見たことない子供なんてそんなものよ。子供が魔獣に襲われる理由の3割が不用意に近づいたことだし」


(動物園で檻に近づくor入る子供と同じってわけか……)


 指示を聞かない子供も明後日の方向から攻撃を加えているが、古代の遺産こと結界魔道具によってことごとく防がれる上、貫通したとしてもドラゴンにダメージを与えることは出来ない。


 唯一の不安要素。エルフのイヨ氏が所属している俺達の番はまだ回って来ない。



「ふっ、コダイだろうとダイダイだろうとドラゴンなんてわたしの敵じゃないわ!」


 順番待ち……いや、もう1人で倒せるんじゃないかと思えるほど有能な語り部が最高火力を出せるように調整してくれていると、大人しく順番待ちという名の力溜めをしていたイヨたんが声高らかに宣言した。


 頑張れルナマリア。このパレードが無事の終わるかはお前の腕に掛かっている。何としてでも彼女の精霊術を無効化するんだ。


 そう目で訴えかけた俺は、もはや定例行事と化している『イヨたんのここが変だよアルディア語』の指摘をおこなうことに。


「あの人が言ってる古代ってのは大きさじゃなくて時間だぞ」


「「「???」」」


 本人どころかソーマ達まで首を傾げる。


 今のは自分でも説明不足だと思ったので俺はすぐさま補足説明に入る。


「あー、つまりイヨたんは古代を『小大』か『誇大』で考えてたわけだ。じゃなきゃ『大大』なんて出てこない。『代々』だとしたら説明聞いてなかったことになる。復活って言ってただろ」


「なるほど。だからアンタは大小の問題じゃなくて時間って指摘したわけね」


「そゆこと。で……なんでイヨたんは理解してないのかな? これ以上ないぐらいにわかりやすい説明だっただろ?」


 イヨマスターの俺への称賛が鳴り止まぬ中、当の本人だけが数秒前から変わらぬリアクションを取り続けている。何故だ。まさか自分に向けられた指摘だと気付いてない?


「わたし、そういう意味で言ったんだけど?」


「……kwsk」


「くわしくって言われても……はじめに『遥か昔』って言ってたし、全体的にそーゆーフインキだったから古代ってわかるじゃない? ダイダイは、あの男もドラゴンも絶対そんなに生きてないからコチョーヒューゲンでそう言っただけで、代々だと思って」


 Oh……どうやら俺の早とちりだったようだ。


 アイムソーリーヒゲソーリー。イヨマスターへの道は遠そうだな。頑張って説明した結果2点ほど間違ってるから評価は上げないけど。




 司会も言っていたように、現代と古代の差はあれどどちらもドラゴンを題材としたものであり、6つしかない演目で被らせるのはどうなんだ、どちらか片方にするべきなんじゃないか、と思ったヤツは全力で謝罪しろ。


「アンタのことじゃない……」


「だから心の中で謝ったじゃないか」


 まさか脱走したドラゴンが心を入れ替えて古代種と戦う胸熱展開が待ってるなんて……演目被りが怪獣大決戦のための布石だったなんて……。


 しかも涙なしには語れない激熱シナリオ。


 俺達だけでは封印の準備が終わるまでの時間を稼ぐことは出来ず、駆けつけてくれたレッドドラゴンは戦いの中でエンシェント何某の弱点が過去に負った傷だと気付く。しかし同じくレッドドラゴンの弱点が優しすぎることに気付いたエンシェント何某は、卑劣にも俺達観客への攻撃を開始した。


 勝つことより犠牲者を出さないことを優先するレッドドラゴン。ボロボロになりながらも俺達を庇う雄姿に、子供も大人も泣きながら応援していた。一刻も早く準備が終わることを祈っていた。


 封印成功でハッピーエンドを迎えたわけだが、俺達の中でエンシェント何某とレッドドラゴンの好感度の差が凄まじいことになった。


 アイツ等のいる『超古代文明の遺産』と『ダンジョン&ドラゴンズ』は、この後、絶対混むぞ。


「これはもう行くしかないね!」


「どこだったっけ!?」


「まぁ待て。落ち着け。どうせ今行っても閉まってるぞ。こういうメインキャラが不在の場合は中止してることが多いんだ。並べはするだろうけど結構な時間待つことになるぞ」


 その要因となろうとしているココとイヨたんを引き留めた俺は、パレードを抜け出すことに反対した。


「でも何人か向かってるよ! パレード終わってからだと間に合わなくなるかも!」


「アイツ等はその情報を知らないか、前にパレードを見てて心の準備をしてたかのどっちか。俺達とは違うの。諦めるしかないの」


「「ええ~!?」」


「別に良いよ? まだパレードは半分残ってるからあれより好きな演目があるかもしれないけど、乗り気なのお前等だけだから俺達のパレード話について来れなくなるけど、ど~~~しても行きたいって言うなら行っても」


「「……パレード見る」」


 よろしい。


 別にどっちが先でも良いけど、個人的にはここで全部見ておいて今度来た時に思い出しながら一気に回った方が効率的だと思う。




 流石にドラゴン2連続は迫力に欠けると思ったのか、今なおどこかに存在する幻の空島編を間に挟み、息をつかせぬ3連撃で少年心をこれでもかというほど刺激された後。


 ナイトパレードは、メルヘンな妖精の国、勇者と姫の物語、セイレーン(種族の方)と人の悲恋、という乙女心を震わせるターンに入った。


「あれ! あれってアールヴの里にあるヤツでしょ!?」


「あれじゃなくて世界樹な」


 定番のものからオリジナリティ溢れるものまで、現実と空想が入り混じったパレードは、新しいセットが1つ目に入る度に観客を熱狂させる。


 中でもイヨたんが盛り上がったのは妖精の国にある世界樹。


 映し出されている世界樹は俺が知っているものより数倍大きい。隠れ里にあっていい大きさではない。王都がスッポリ納まるほど巨大だ。


 場所も大きさも史実とは異なるがそのぐらいは許容範囲内だろう。


 かくいう俺も、エルフの里と妖精の国のどちらに世界樹があるべきかと言われたら、相当悩む。


「実際はどうだったか俺もルナマリアもミナマリアさんも知らないけど、昔より小さくなってるって話は聞いたな。女王の力が大きく関わってるとかで」


「そうなの!?」


「みたいね。まぁこれは作り物だから違うけど」


 負けず嫌いからか、出来栄えの問題か、尋ねられたルナマリアは夢の国にあるまじき禁句を放った。


「良いじゃないか。各々の脳内に理想を思い描いて楽しめば。過去に戻れるわけじゃあるまいし、本物なんて知りようがないんだからさ」


 ……おい誰だ、今、フラグ立ったなって言ったヤツ。


 もうお腹いっぱいだよ。過去なんて変える以外の目的で行く場所じゃない。俺は今の生活に満足してるし、さっきも言ったけど『こうだったかも』と考えることが楽しいのであって、正解なんて必要としていない。


 そんなの「これなんだっけ? あ~思い出せないわ~」と友人達とあーだこーだ悩みたいのに、秒でスマホ取り出して調べる空気読めないヤツと同じだ。「お、おう、そういえばそうだったわ……」と微妙な空気にするだけだ。


 良いんだよ、わからなくても。考える時間が楽しいんだから。どうしても我慢出来ないなら勝手に調べて『違うんだよな~』と心の中でマウント取ってろ。

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