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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十九章 新生活編Ⅱ

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千三十一話 本来の目的とは違っても何かしらの成果は得られるもの

 後継者の有無。気が向いたら復活する。辛いことも苦しいこともなかった。だって自由気ままにがモットーだし。


 ほぼほぼココの妄想通りの展開になったまったりティータイムの解散ライブ後、ソーマが合流するまで時間を潰すことになった俺達は、昼ぶりに広場へやって来ていた。


「ここで何するの?」


「言っておくけどわたし達にきゅーそくなんてひつようないわよ! まだまだよゆーよ!」


「そうだ、そうだー。1つでも多くアトラクションを堪能させろー。時間を無駄にするなー。子供だけでも大丈夫だー」


 無尽蔵のエネルギーを持つ子供達が喚く中、俺はニヤける顔を必死に隠して一同から少し離れた場所に立ち、声高らかにこう宣言した。


「幼女諸君に嬉しいお知らせがありまーす! なんとキミ達の入学祝を用意していたのでーす!」


 すかさず背後から電子ピアノと魔道チェイサーを取り出す。


「これは俺からココとチコに」


「え? え? え? え? え?」

 

「これってルナちゃんの……?」


 こんな巨大なものをどこに隠し持っていたのか、一体何に使うものなのか、何故両親からではなくルークなのか、自分達だけ貰って良いのか。


 混乱する幼女猫を少しでも落ち着かせるべく電子ピアノを開封すると、数分前まで見ていたものと酷似していることから楽器だと理解した2人は、素晴らしいプレゼントだと……これを言うとロリコン扱いされそうだが、ほぅ、と色っぽく惚けた。


「イヨにはこれね」


「せいふくとランドセル! ひっきようぐも!」


「もちろんココとチコの分もあるにゃ。お揃いの文房具は今度買いに行くにゃ」


「ルイーズは先日私と一緒に拵えに行ったね。その他用品も貴族の淑女として身に付けていても恥ずかしくない特製品だったんだけど……どうやら友達とお揃いのものの方が良さそうだね。まぁ貴族の友達が増えたら使ってよ」


 俺に倣って自身の背後から次々に入学祝の品を取り出しては、子供達に差し出して歓喜の渦を巻き起こしていく大人達。


 彼女達にはそういうサプライズだったと思っておいてもらうとして、真実を話していこう。



 ココの言った通り、アトラクションを堪能する計画だったのだが、ライブ(というかルナマリア特製の楽器)の影響が思っていたより大きく、演奏に夢中になっていたイヨたん達はもちろん、他人の演奏なんて見て何が面白いのかと不満タラタラだったココも「またアレやりたいな~」と言い出す始末。


 なら入学祝渡すしかないじゃない! タイミングここしかないじゃない!


 俺が特製魔道具を用意していたように、保護者達は保護者達で入学祝の品を用意しており、サプライズ好きのユキの好意で四次元ボックスを使った発表会となったのだ。


 範囲は限られるものの物品を思い浮かべて持ち上げれば、あら不思議! 自宅で大切に保管していた入学祝がジャジャジャジャーン!


「ルークは!? ねぇルークも何か用意してあるんでしょ!? はやくちょうだいよ!」


 ……こういう空気を読まないガキはホント嫌い。


 お年玉とかもそうだけど、なんでもらえること前提で話すの? 去年○○円だったから進級した今年は絶対増えてるみたいな考えもやめない? 俺、他人よ? 交流時間も大したことないし、話題に出した回数もたかが知れてるよ?


「この遊園地がイヨたんへの入学祝だよ。大変だったんだぞ。大人達の都合合わせたり、チケット手配したり、ライブ開催してもらったりするの」


「…………ぐす」


「な~んて、ウソぴょーん! 歌うのが好きなイヨたんには、自宅で簡単にライブが出来る魔道具を用意してあるぴょーん! ただちょっと調整が難航してて間に合わなかっただけぴょーん! 1曲でも多く入ってた方が良いと思って、というか電子ピアノと互換性あった方が良いと思って、今頑張ってるぴょーん!」


「そ、そうなの……?」


「そーなの」


 イヨたんは「えへへ」と子供らしい笑みを浮かべ、潤んだ瞳を乾かしてくれた。


 もちろんウソです。何も用意してません。ただ別の研究チームが試作品を作ってたの知ってるので何とかなると思います。


 ここは優しいウソが必要な場面だと、精霊達も何も言わなくても隠蔽工作してくれてます。出来れば開発にも協力してくれると助かります。


 ところで、将来のことも考えて『打ち上げだから1人1曲歌うルールなんだ』とか言い出したら爆発する機能を付けようと思うんだが、どうだろう?




 流石に、ここで着替えたり、アトラクションを潰しかねない魔道具を発動させたり、室内用品をいつまでも野ざらしにしておくのは憚られるので、暇つぶし用の電子ピアノのみを残して入学祝の方々に自宅待機を命じた後。


 キャッキャッ!


 そんな声が聞こえてきそうなほど楽しそうに、しかし一刻も早く帰りたい気持ちと、まだまだ遊んでいたい気持ちがせめぎ合う幼女達にホッコリしつつ電子ピアノの使い方を指導した俺は、遊園地を訪れたもう1つの目的『ジェットコースターの動力と原理』についてルナマリアと話し合っていた。


「……ダークドラゴンには電気を使ってない? マジで?」


 リニアモーターに使える技術だと思っていただけに、彼女の返答は中々ショッキングなものだった。


「なんで乗ったのに気付いてないのよ……。あれは反発の力や化学反応を一切利用してない、風と土の魔術で制御されてるだけの魔道具。急発進や重力に逆らうような動きは乗客の魔力を利用して加速してるだけ。その吸収が客には悪寒や気怠さに感じるから体調不良続出ってわけ」


「なにそれ怖い……」


「大丈夫でしょ。調べてみたら国の法律で定められた範囲だったし。まぁ短期間で何度も繰り返して乗るような連中はどうかわからないけどね」


 それは吸収うんぬんがない乗り物でも同じことなので良いとして……。


「当たり前だけど長距離で使うの無理だよな?」


「無理ね。アンタの想定してる大きさ・速度・距離であのジェットコースターの仕組みを使ったら、乗客の他にアタシやフィーネクラスの術者が複数人必要になるわね」


 以前イブが作った暴走機関車より酷い。あれはフィーネ1人で動かせた。


「……ちなみに車体の素材を変えたり動力追加で何とかなるなんてことは?」


「ないでしょうね。あれだってフィーネ達がアドバイスして生成した最適素材みたいだし。化学反応と一緒で下手に追加しても劣化するだけよ」


 打つ手なし。というかこっちにはアドバイスしないのに何してんスか強者さん。いやまぁそれだけ難しいってことなんだろうけどさ。



「マジかぁ~。参考になると思ったんだけどなぁ~」


 手入れの行き届いた綺麗な芝生の上で大きく伸びをする。そして寝転ぶ。天地が逆転しても楽し気な幼女達にはホッコリさせられる。


「フッフッフ~。お困りのようですね~」


 そこへ現れたユキは、いつも以上にニヤニヤした様子で俺を見下ろす。


「邪魔すんな。今良いところなんだ。4人の連弾が始まりそうなんだ。絶対不協和音になるけど本人達が楽しそうにしてるから正解なんだ。心のファインダーに納めなきゃならないんだ」


「普通に写真撮れば良いのに~」


 ……そうですね。でもご両親を差し置いて俺がやるのは憚られると言いますか。演芸会で座席離れて撮影する親みたいにはなりたくないと言いますか。


「で、なんだ? 四次元ボックスは返しただろ。送り返す時に異次元に挟まったとか、何か破損させたとか、異世界から変な生き物を連れ込んだとかの報告か?」


「私がそんな失敗するはずがないじゃないですか~」


「いやだってお前佇まいがギャグだし」


「佇まい!?」


 っと、危ない危ない。ついいつもの調子で脱線してしまうところだった。


「ほっ、と……なんの用だ?」


 俺はこの空気を入れ替えるべく、手を使わずに体のバネで起き上がる、イケメンのみに許されたアクションをおこなってドヤ顔で尋ねる。


「はっ、と……ジェットコースターの補足とお悩み解決のアドバイスをしようかと思いまして」


 ユキも負けじとスケボー(氷の板)でよくわからないけどカッコいいアクションをして、話を進める。


「ほほぉ~、それは嬉しい、なっ! と」


「そうでしょう~そうでしょう~。ルークさんは感情の強さに男女の差があると聞いたことあります……か!」


「男はワクワク、女はドキドキの感情が強ってやつだ……ろ!!」


「アンタ等……その辺にしておきなさい……」


「「フヒヒ、サーセン」」


 突如始まったダンスバトル(?)に、イヨたん達はもちろん周囲の客達が注目し始めていたことなど、ルナマリアに言われるまでもなく気付いていた。


 ビタッ――。


 俺達は目立たないよう停止系パントマイムに切り替えて話を続ける。


「……はぁ、もう良いわよ」


 なら口に出すな。不愉快だ。反省しろ。詫び石寄こせ。ガチャ排出率弄んな。



「メカにワクワクする。遊びにワクワクする。悪戯にワクワクする。だから子供っぽい。

 美しいものにドキドキする。恋にドキドキする。犯罪にドキドキする。だから落ち着いているが時として過ちを犯す。

 あちらではどうだったか知りませんけど、こちらではそういった感情は微精霊の色分けによって区別されるんです~。属性とは別の~」


「ピンクは淫乱、だな」


「まぁそんな感じです~。そしてそれを化学反応に用いると~」


「と~?」


「どうにもならないことはもうお分かりでしょう」


 ええ。とっくの昔に試しておりますよ。何の成果も得られませんでしたよ。というか貴方その場に居ましたよね。


 脱線とはわかっていても思わずユキを睨みつけてしまう。


「でも~。『精霊術師として未熟なルークさんでは制御出来なかったから』とは言いませんでしたよね~?」


「たしかにっ!」


「そして、あの最恐ジェットコースター『ダークドラゴン』は、それを上手に引き出すことで吸収と出力調整を可能にしている~」


「なるほど! つまり感情を揺さぶれば得られるエネルギーの質が変化するということですね! 安全な旅なら安全な旅なりのエネルギー変換装置を作れということですね!」


「……はい? 乗客を車体に貼り付けたり、合コンや婚活開いたり、オ●ニー部屋を用意すれば、あのシステムをそのまま使えるって話ですが?」


 さ~て、まずはどんな精神状態の時にどういうエネルギーが得られるか調べないとな~。馬車とかワイバーン便とかの乗客を調べさせてもらって、比率を割り出して、無駄のない変換装置を作らないとな~。


「いえ、だから、やりようによっては簡単に作り出せるという話をですね……あの……聞いてます? ねぇ? おーい?」

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