千二十九話 交流会inヨシュアーランド4
「「「ご馳走様でしたっ!」」」
食事の最初に食材への感謝『いただきます』をしたら、食後にそれを調達するために方々駆け回ってくれた人々や作ってくれた人への感謝『御馳走様』をするのは当然のこと。
楽しい時間を提供してくれた皆への感謝も籠めて全員でおこなった俺達は、ボールのように膨れた腹を抱えてレストランを後にした。
「うっぷ……たべすぎた……」
「バカめ。調子に乗って食うからだ」
食事でも運動でも、自分の限界を知らない子供は出来ると思って挑戦して失敗し、過去の栄光を忘れられない大人は衰えを認めずに失敗するもの。
頭の中では上手くいっているのに体がついて来ない。
そんな定説が通用するのは弱者だけで自分は違う。そう息巻いて次から次へとデザートを注文したイヨたんは、自らの腹でそのあるあるを再現した。
「デザート1つに付き、限定のマスコットのキーホルダーが1個貰えるんだよ!? 今だけなんだよ!? 食べなきゃ!」
足だけでなく口を動かすのも鈍いイヨたんの代わりに、ココがそうすることの必要性を熱く語り始めた。
「なら大人しく出てきたデザートだけ食べてろ。『美味しいものと美味しいものを組み合わせたら最強になるのでは?』とか宣って、持ち込んだオヤツをトッピングすんな。どれが合ってどれが合わないのか研究すんな。楽しみを見出すな」
「え~? どうせ食べるなら味を変えて楽しんだ方が良いでしょ? バニラアイスとかチョコケーキとか、試さなくてもわかる万能選手は除外したし」
「自分で処理出来るならな!」
どのデザートにどのオマケがついて来るか定めているレストランもレストランだが、余計なものを付け足すイヨたん達もイヨたん達だ。
というかイヨたんがやり始めた。絶対ドリンクバーで遊ぶタイプだ。
「途中で知ったから仕方ない。私達は十分頑張った」
「じゃあコンプリート目指すのやめろよ! 無理だってわかってただろ! 食事って頑張るもんじゃないぞ!?」
イヨたんとココはそうでもなかったが、チコは『キャッティ』なる猫のキャラクターを、ルイーズはエルフに似ているということでメインキャラクター『フェアリー君』を1点狙いしていた。
が、注文したデザートに付属していたのは別のキャラクター達。
てっきり選べると思っていた俺達はウェイトレスを呼んで説明を求め、そこでようやくルールが明らかになった。
空腹時ならまだしも、そんな状態で追加注文しても入る量など、たかが知れている。
しかも、チコの狙っていた子は巨大ジャンボパフェの付属……いや景品で、他にもジャンボアイス・ジャンボホットケーキ・ホールケーキ3種類と、コンプリートさせる気ゼロのラインナップとなっていた。
悪いことは言わないから通えば誰でも達成出来るもんにしとけ。
当然クレームは入れた。
目立たない場所に書くな。デザートの名前か写真の隣に絵やマーク入れて、どのオマケがついて来るかわかるようにしておけ。百歩譲ってランダムだろ。詫びの品寄こせ。
たかがオマケにそこまでの熱をあげる客がいなかったのか、それともわかっていて無視していたのか、店側は事を荒立てないよう大人しく要求に従ったのだが、流石に全種類寄こせとは言えなかったので、チコとルイーズの求めるキーホルダーを手に入れたところ、今度はココのコレクター魂が火を噴いた。
1からなら諦めたけど半分揃ったらやるしかないだろう、ということらしい。
「あのウェイトレス。クレームと持ち込みのことで心の中で舌打ちしてたから、3日間腹痛になる呪いを掛けておいたわ」
流石ルナマリアさん。そこに痺れる憧れる。
接客で大切なのはマゴコロです。
仕事だからと割り切ってもわかる人にはわかります。自分が気に入らないからと許可されていることを批難するのはやめましょう。指摘は有難く受け取りましょう。
「おにぃが手伝ってくれてたらこんなことにはならなかったのに……」
「ジャンボシリーズはどう頑張っても無理だっただろ。狙ってたキーホルダーは手に入れてたし、限定ボトルももらったし、腹も満たせたし、十分だよ」
本来の目的を忘れているココを慰めつつ、休める場所を求めて3時のオヤツで訪れるはずだった広場へやって来た俺達は、
「「「ふっかーつ!」」」
大人達より早く復活した幼女達がコンプリート戦争第二章を開幕しようとしていたので引き留め、雑談タイムに突入。
フードファイター交代や心配してもらうための嘘だったら許さん。消化能力の差だったら凄い。自分達でも想定してないことだったら尊い。
「手術で使われる全身麻酔が何故人体に効くのかはわかっていない!」
「ウソね!」
「アルコール消毒水は濃度100%より60~95%の方が殺菌力が強い!」
「それもウソ!」
「おしどりの夫婦は仲が悪い!」
「だからなに!?」
手始めにヨシュアーランドの雑学を語ると、そのお礼とばかりに自分達の知っている雑学を披露し、いつしか人狼ゲーム(知識試し)が始まっていた。
(くっ……地球の雑学ではダメか……そもそも自然というのが……?)
知識不足で理解されないこともあるが、ほほすべてのウソを秒で暴かれる。精霊に関係のない雑学を捻り出そうとするがこういう時に限って出てこない。
絶対に通じないので出さなかったが、他にも『ランチパックには発色剤として亜硝酸ナトリウムという劇薬が入っている。致死量は2g』とか『全世界の預金額は3000兆円でそのうち1400兆円が日本人』とかもある。
「へぇ~。歯磨き粉を使って歯磨きした後に口の中がスースーして味覚が変になるのは火傷してるからで、元に戻るのは細胞が再生してるからで、続けてると味覚がおかしくなるのか~。知らなかったな~」
「ふふーん! でもウソかもしれないわよ!」
こちらのターンが終われば次は相手のターン。
幼女達から次々に出される真偽不明な話題。どれを信じ、どれを信じず、どんなトラップを仕掛けるかで、俺への信頼度は大きく変わってくるだろう。
「今のは嘘だ!」
俺の出す答えをワクワクしながら待っているイヨたんに自信満々に宣言した瞬間、彼女は笑顔の色を変えた。赤あるいは黄から黒に。
「ハズレ~」
「本当に火傷してるわよ。硝酸が使われてるものは全部そう。人間は歯垢を落とすことばかり気にして舌や口内を軽視してるけど、刺激に弱い部分に強い薬を使ったら荒れるに決まってるでしょ。洗剤と一緒」
「なん……だと……」
バトンを渡されたルナマリアは、イヨたんでは到底出来ない詳細説明をおこなう。
言われてみれば至極真っ当な理屈だが、まさかイヨたんに騙される日が来ようとは……。
というか凄いアドバイスをもらった気がする。今度注意して見てみよ。事と次第によっては安物の歯磨き粉を撤去することになるかもしれない。
「ちなみに、エルフは歯ブラシで磨くだけで綺麗に出来るから、粉や薬品は使わないわよ。何なら口をゆずぐだけで良いし」
綺麗自慢乙。
その後もヨシュアーランドを満喫していると、あっという間に17時。まったりティータイムの解散ライブの時刻が迫っていた。
「こいつ等こんな人気だったのか……」
一体誰のコネなのか、キャパシティ1000人という巨大コンサート会場を貸し切り、ナイトパレードでも使わなそうな豪勢なセットを用意してもらっていた。
当然、会場は超満員。開始30分前にもかかわらず立見席まで一杯で、辛うじてセットが見える距離までしか近づくことが出来ない。
「こんなことならVIP席でも用意してもらえば良かったな。特設の2階席に。チラッチラ」
「ふふーん! ルナマリアさんならお茶づけ山菜よ!」
それが出来そうなルナマリアに視線で要求すると、何故かイヨたんがドヤ顔で胸を張った。虎の威を借る狐ならぬ『大人の威を借る幼女』だ。
尊いので良しとする。
「普通に美味そうだが『お茶の子さいさい』な。あと提案してみたものの、ファンの反応見てるとちょっと気が引けてきた……」
これで見納めということで、始まってもいないのにすすり泣く声がそこら中から聞こえる。彼等を差し置いて特等席に座るのは精神的に厳しいものがある。
ルナマリアはこちらの指示を仰ぐような雰囲気で待機している。
「園内全域に映像モニター出すらしいにゃ」
「セイレーンとライムが居るから当然ね。音も生に近いでしょうね。視点が複数ある分そっちの方が良いって連中も多そうよ」
あ、そうですか……なら遠慮なく特設ステージ使わせてもらいます。不可視結界も忘れずに。セイレーン達からは見えるように。
「待たせたなぁ! まったりティータイムやでー!」
「「「うおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」
風で作られた床と空気椅子(物理)の上で寛ぐことしばし、主役達が登場して会場のボルテージは最高潮に達した。
そして盛大な解散ライブの幕が上がる。




