千二十六話 交流会inヨシュアーランド1
セイルーン歴1000年、3月14日(木)、晴れ。
「4人ともオヤツは銅貨3枚までって約束は守れたかなぁ~? ちなみにバナナなどのフルーツや手作りの菓子はオヤツに入りませんよ~」
「「「守れてな~い!」」」
イヨたんが一発で機嫌を直してくれそうな入学祝を思いつかなかった俺は、開き直って友人と過ごす『楽しい時間』をプレゼントすることにし、ついでに人間のことを知ってもらうべく弱者向けの乗り物だらけの遊園地にやって来ていた。
何でも手に入って何でも喜ぶ幼女なんて最強も良いところだ。
金持ち唯一の欠点『簡単に手に入るからつまらない』からの『人の心だけは手に入らなかったんだ』コンボも通用しない相手をどうしろと。
まぁ俺の愚痴はこの辺にしておいて、本編に戻ろう。
集合時間の1時間前に到着した俺が最後ということからもわかるように、最初からテンションMAXだった幼女達は、ターンスタイルゲートを自らの手で開き(押し?)、園内に溢れる人混みと甘い匂いと楽し気な声をその身一杯に感じることで限界突破を果たした。
凄いだろ。現地購入も可能だって事前に伝えてあるのに、何なら遊園地でしか手に入らないスペシャル品だってのに、それはそれとして自分達の好きなお菓子を皆で分け合いたいからって近所のスーパーで購入済みなんだぜ。
しかも予算を守る気ゼロ。
断言するが4人は、昼食か、開けたお菓子か、ここで買った物を残す。昼食以外……いやワンチャン昼食すらも食器ごと持ち帰る。ボトルしかダメと知って絶叫するところまで俺には視えている。
「私、雪見大福とパビコとシューアイス」
「全部2個入りですよね!? たぶんもう溶けてるし! そしてどうして1品追加しちゃったの!? 2つまでなら大丈夫だったのに! 予算を守る気がゼロなら分ける気もゼロでしたか!?」
ただ見せびらかしたかっただけなのか、チコは俺のツッコミを無視して、ドロドロになっているであろうアイス3点セットをトリーのリュックに戻した。
「ふふーん! わたしのはみんなで分けられるわよ!」
続いて保護者が持っていたカバンからオヤツを取り出し、自慢気に見せつけて来たのは、イヨたん。
正直に言おう。
この幼女……俺への怒り3日持ちませんでした! この話を持ち出した時には普通に戻ってました! というかこの前のベルダン会議の帰りに普通に話し掛けられました!
むしろ企画したことで前より好感度上がってるんだよなぁ。強者に確認したら誰も何もしてなくて、気になったから話を聞いてみたら『ルークってそういうヤツだし』とか言われた。
喜んでいいのか30分ほど悩んだけど結局気にしないことにした。
「テレレレッテレー♪ パッキーとサツマイモの里~♪」
「チェリーの山は!? 初代三大チョコ菓子だろ! どっちか1つで予算オーバーするんだからいっそ3つとも用意しろよ! 戦争になるぞ!」
どこかで聞いたことのある効果音を口ずさみながら紹介されたのは……まぁアレだ。きのこ・たけのこ的なサムシング。
「食べにくいからキライ。パッキーみたいに細くするか、サツマイモの里みたいにザクザク食べごたえあればイイのに……」
「それはもうパッキーとサツマイモの里ぉぉー! そういう商品だから! 女の子受けを狙って実際成功してる商品だから!」
「らしいわね。人間界のおかしってまだあんまり食べたことないけど、とりあえずチョコの中で一番キライだったわ。なんか花を食べてる気になるのよ」
「そ、そうですか……」
想像以上に嫌われていた。『わざわざ買わないけど人の家で出されたら食べる』ぐらいだと思ってたら、とんだ地雷が埋まってましたわ。
好みがわかれるのは仕方のないことだが、発案者としては心が締め付けられるわけで……。
「え~? わたしはチェリーの山、好きだけどな~。高かったから選ばなかったけど」
「みーとぅ」
「ワ、ワタクシは好きですわよ? 一番はチェリーの山ですけど……」
しかもイヨたん以外全員チェリー派。やはり分けられるようなものではなかった。いや分けて良いんだろうけどさ。
それはそうと、いつの間にか全員分のオヤツを紹介する流れが出来上がっていたらしく、ココも自分のオヤツを差し出してきた。
うめぇ棒……の味違いセット。
もちろん入っているのは各味1本ずつ。
「揃えろって言ってんだろうがああああああああーーーッ!! 何!? お前等は自分が良ければそれで良いの!? 皆で分け合おうって気はないわけ!?」
「これは全員で食べられるよ?」
幼女の回し飲み……もとい回し食べ……。
良いですね~。想像するだけでホッコリします。
「まぁわたしは、セット売りにしか入ってないゴールデンうめぇ棒が目当てだから、それ以外は要らないけど」
「やっぱり自分良ければすべて良しの精神じゃねえか! どうせそのゴールデンは1人で食うんだろ!」
「もちろんだよ。そのためだけに予算オーバーしたわけだし」
うめぇ棒は6本で銅貨1枚。セットは20本入りで銅貨4枚。セット限定のゴールデンとシルバーを必要としなければ、バラで買う方が安い。
それをチョイスするココもココだが、こういう機会でも無ければ手に入らないのも事実であり、ゴールデン以外は分け合うことが出来るので、俺的にはギリギリセーフ。
シルバーをはじめとした各味を取り合うなんてことになったらもう知らん。百歩譲ってそれは良いとしても押し付け合うのはやめてくれ。
発案者がここに居るんです。
「ワタクシが用意したオヤツはこれですわ!」
ラストを飾るルイーズの品は……なんだろう?
「パイ……か?」
「メアリーが作るピーチパイは世界一ですのよ」
そう言えば貴方だけ予算うんぬんの時に返事してませんでしたね……。
「え~、それでは改めて本日の予定をお伝えします。本来であれば入場前に話すつもりでしたが、興奮してゲートに突貫したアホが1名ほどいらっしゃったので、仕方なくここでさせていただきます」
前半は全員をグルッと、後半はイヨたんを凝視しながら言い、誰からも反応が帰って来なかったので大人しく話を続ける。
今回は全員の家族(ルナマリアは保護者だが)が揃っている。やはり大好きなパパママと一緒というのは子供にとって重要なファクターだからな。
よってメンバーは、俺・イヨたん・ルナマリア・ココ・チコ・トリー・ルイーズ、そしてルイーズパパことジェファソンさんの8人。
調整は楽なもんだった。
俺は成果さえ出していればある程度の自由が許される研究職で、ルナマリア達ロア商会員は代打強者という便利な方法がある。子供達は言わずもがな。あとはジェファソンさんに合わせてもらうだけ。
夕方からもう1人追加となるが、その辺りのことは後で話すとしよう。
「まず昼までは自由行動です。子供達の行きたい場所に行き、乗りたいものに乗り、遊びたい遊びをするために、大人達はタイムキープをお願いします」
「タイムキープって言ってもにゃぁ……」
やる前から諦めムードを漂わせるトリー。
「ええ……こういった場所で計画を立てることほど難しいことはないですし」
ジェファソン氏も顔をしかめて唸る。
混み具合をリアルタイムで知らせてくれる自分専用の魔道具でもない限り、遊園地での計画などまず不可能だ。共有データだと空いてるところに一気に押し寄せる。
「問題ない。俺達にはルナマリアっていう強い味方がいるじゃないか」
「「「おおっ!」」」
大人も子供も一斉に強者に視線を向ける。
「まぁ今日ぐらいは協力してあげるわよ」
いつも通りツンデレるエルフの王女様。
ちなみにルナマリアとイヨたんは、入り口近くにあった土産屋で、長い耳を隠すためのイヤーマフを購入済みなので、例えツンツンしても……いや、ツンツンすればするほどしゃいでいるように見える。
じゃあなんでそんな格好してるんだよ、の一言で彼女のクール&デストロイな部分が一瞬で無に帰す。こんなの陽キャぐらいしか身に付けないしな。
ちなみに、ルナマリアがドラゴンの角、イヨたんが妖精の耳を付けていて(こちら自前のものとほぼ変わらないが)、スレンダーなスタイルや髪色やツンデレも相まって誰が見ても親子だ。
「スレンダー!? 6さいにスレンダー以外のなにをもとめると言うの!?」
「金と権力」
「なんてセチガライ世の中!!」
「お前等が肩に乗せてるマスコット人形のフェアリー君は、銀貨1枚を支払うことで一瞬でヨシュアーランドの一員になれ、運が良ければ本物の妖精が肩に留まってくれるかもしれないというサプライズ品でもある」
「世の中は金ッ!! わたしおぼえた!!」
バシッ――。
人妻猫から背中を平手打ちされました。ただのご褒美です。
ズドンッ――。
処女エルフには尻を蹴られました。ただの苦痛です。というか立ち上がれません。
「さ、みんなの行きたいところ教えてくれるかしら。マップで無理なら歩きながら決めれば良いから」
「置いて行かないで……1日フリーパスとか優待券とか昼からの予定とか話はまだまだあるの……」
これさえあればどこへでも行き放題だし、隣の総合レジャー施設も利用可能だけど、順番は優待券を持っている人が優先されるから気を付けてねって話が。
……え? 全アトラクションの優待券も持ってる? 買ったんじゃなくてヨシュアーランドからもらった? なんで? そして聞いてないの俺だけ?
じゃ、じゃあ、昼からベルダンメンバーとソーマとサイで構成されたバンドチーム『まったりティータイム』の解散ライブが、中央広場でおこなわれるって話……も知ってるから良い? あ、そうですか……。




