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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十八章 新生活編

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外伝28 妖精乱舞2

 冒険者になって間もない頃に、3ヶ月ほど世話になった小さな妖精達。


 その中でも特に仲の良かったピンキーと再会を果たしたアリシアは、部外者のフリをしてチャッカリ依頼を受注したパックと、外で待っていたクロを連れて、ひと気のない公園へやって来た。


『このままギルドの近くで語らっていたら、また良からぬ計画を立てていると勘違いされて、折角の語らいを邪魔される可能性が……』


 そうクロに言われたからだ。


 戦闘はウェルカムでも会話を邪魔されたり嫌悪感を向けられるのは嫌だったらしく、珍しく騒動回避に前向きのアリシアは、木製ベンチに腰掛けて机の上の妖精達の話に耳を傾ける。


「――というわけで、1年前の魔力革命以降、里の湖と大樹から現れるようになった上級精霊に鍛えられた私とパックは、半年前にその実力を認められ、天下を取るよう命じられたんです」


「いつからアンタ達そんな過激派になったの!? 昔は結界の中で静かに暮らしたいって言ってたじゃない!」


 明かされたのは衝撃の事実。


 最後の一言さえなければ、詳しい修行方法を尋ねたり2人の実力を確かめたりしていたが(アリシアが戦闘以外のことに興味があるはずが無い)、そうも行かなくなってしまった。


「くくく……人間も妖精も、手に入れた力は使わなければ気が済まない生き物なんですよ……」


 ツッコまれることを予想していたように、全身からピンクのオーラを噴き出して黒い笑みを浮かべるピンキー。


「心なしかオーラも前より黒ずんでいるように見えるんだけど……」


「それはそうでしょう。性器と同じで使えば使うほど黒ずんでいくものですから」


 まだそういう歳ではないアリシアには、彼女の言っている意味が理解出来なかったが、どうせ下ネタだろうとスルーすることに。


 そのようなことはフィーネ達から教えられていないので嘘の可能性も高かった。


「世界征服の件が冗談でないとしたら私達とも戦うことになるわよ? 良いの? アンタの力はクロに効かないってわかってるでしょ?」


 さり気なくクロを巻き込み、それとなくこの淫乱娘の相手を任せ、やんわりと事態を治めるつもりのようだが、仕方があるまい。


 ピンキーの能力は人間と相性が悪すぎる。


 アリシアでは文字通り手も足も出ずに倒されてしまう。勝てない戦いならともかく、勝負にならない戦いは彼女の求めるものではないのだ。


「ピンキーの冗談だから気にすんな。オイラ達は、里以外の妖精や他種族の暮らしがどう変わったか、調査するよう頼まれただけ。要するに調査隊だ」


「その割に随分やらかしてるみたいだったけど?」


 妖精達が変わっていないこと、ピンクの悪魔と戦わなくて済んだこと、彼等がここに居る理由を知れたことなど、様々な理由から安堵したアリシアは、改めて数十分前のゴタゴタについて尋ねる。


 ギルド職員の言っていたことが真実だとしたら、2人はこの半年で凄まじい……相当……アリシアと比べても遜色のない数の迷惑行為をおこなっていることになる。


「人間の実力もわかるし路銀も稼げるってことで冒険者になってみたものの、オイラ達の常識が通用しなくて四苦八苦してたところだったんだ」


「不法侵入や器物破損や傷害事件や苦情はともかく、わいせつ行為はダメだってわかるでしょ?」


 この場には彼女の意味不明な発言にツッコミを入れる者はクロだけだが、彼も最近諦めている節がある上に話の続きを聞きたそうなので、おそらくスルーする。


 ちなみに、アリシアは他者への暴力を『教育的指導』、害のない魔獣を逃がす行為を『当然』と考えているので、活躍すればプラスマイナスゼロに出来るという暴論も含めて一生治ることはない。


「あれは不幸な事故です。戦闘に必死になるあまり淫術に巻き込んでしまったり、睡眠で気が緩んで垂れ流してしまったり、種族の生態調査だったり、あの程度の術も跳ね返せない弱者が興奮し過ぎて暴徒と化しただけ。むしろ私は被害者です」


「3つ目の理由がなければそうだったかもしれないわねッ!」


「まぁほとんどの魔獣に淫術は効きませんし、寝ていて気が緩むこともないので、少しでも罪を軽くするための嘘なんですけどね。100%種族の生態調査目的です」


「冒険者辞めてそういう研究機関に勤めなさいよ! いくらでも出来るわよ!」


「他者に言われてやるのはちょっと……例えるなら親兄弟から子供作れと言われて仕方なくするセックスと一緒。やりたい時にやるのが一番です。周りに出来ることは如何にその気持ちを作らせるかだけだと思いませんか? 共感しないというなら精神汚染で味わわせてあげます。恐ろしいほどダウナーになれますよ」


 このままではマズイ……。


 アリシアとクロは、彼女の言動(右手でピストン運動、左手の人差し指と中指の間に親指を入れてこぶしを握るフィグサイン、腰を振ったり股を広げたり)をすべて無視して、この話を終わらせに掛かった。




「ネガティブゾーン!」


 術者であるピンキーを中心に闇の輪が広がり、触れた敵は次々に地面にひれ伏していく。


 ここは数時間前までアリシアがいたダンジョン。


 たまたま立ち寄っただけで彼等の目的とは無関係の町だったらしく、「なら途中まで一緒に行きましょ」と荷台を預けてある町まで戻ろうとするアリシアに言われてホイホイついて来たパックとピンキーがリタイアした話を聞いて寄り道することを提案したところ、未練タラタラのアリシアも当然のようにこれを受け入れ、4人で再挑戦することとなった。


 2人がしていなければ彼女が提案していたに違いない。


「まったく……雑魚しか居ないじゃないですか。誰一人抗えないとか私1人でノーダメージクリア確定じゃないですか。アリシアってばこの程度のダンジョンも踏破出来なかったんですか?」


「実力じゃないわ。食糧の問題よ」


 お互いの実力を見るために3戦交代にしたは良いものの、傍観者に甘んじていたことで実力で負けたのだと勘違いされたアリシアは、苛立ちながら訂正を求めた。


「冒険者はそういうところも含めての実力だと思いますけどね。マッパー然り、環境適応能力然り、食材選びや栄養摂取然り」


「あの時はたまたま無計画に突っ込みたくなったんだから仕方ないでしょ」


「あーはいはい。女性を妊娠させた時の男と同じ理屈ですね。それで失敗してれば世話はないですよ。知ってます? 世界で一番同族を殺しているのは人間で、その方法は中絶だって。ダメですよ、ちゃんと認知しないと」


「わ、悪かったわよ……」


 嫌すぎる例え話をされて思わず謝罪するアリシア。男女の情事に詳しくない彼女でも、それが如何に下衆なことかは知っていたようだ。



「ところで、ピンキーが倒した連中……あれどういうこと?」


 隠匿が得意なパックは、敵に気付かれないように低火力の精霊術を放って1体1体確実に命を刈り取っているが、ピンキーの一網打尽の攻撃はひれ伏させるだけ。


 戦意こそ失っているが倒したとは言い難い状況だ。


 しかも喰らった者達の反応が普通ではない。


「へ、へへへ……もう一回、もう一回やればっ」

「私はぽっちゃり系……デブじゃない……」

「充実してる、私は今充実してる……間違ってない……」

「へ、へへへ……も、もう一回! もう一回やれば絶対来る!」


 誰も彼もが暗い顔をしてうな垂れ、ボソボソと聞き取れないほど小さな声で、ネガティブなことを呟いている。要クロ翻訳。


「な、何あれ?」


「ふふ、私の精霊術は心にダメージを与えます。

 『親のすねを齧りながら全SSR(最高ランク)を揃えようと課金を続けるも上手くいかないニート息子の絶望』

 『ガリガリになるまでダイエットして異性にドン引きされた挙句、肌の艶まで失った美意識の高い長女の失望』

 『そんな子供達に八つ当たりをされながら、おなら製造機と化した夫の家事係として淡々とした日々を過ごす母親の虚無感』

 『ブラック企業の使い捨てとして家族サービスという名目ですら休みが貰えず、ストレス発散にギャンブル依存症になった父親の恨みつらみ』

 そういった負の連鎖のみを召喚し、敵の精神を暗~~~い気持ちにする技です」


「散々過ぎない!? 酷い酷いと言われ続けて育ってきた私でも引くぐらいの極悪精霊術よ、それ。あとなんか男共のは被ってるし……」


 自覚はしている。しかし治さない。何故なら間違っているのは自分ではなく相手なのだから。byアリシア。


「そうですか? あと範囲攻撃だと、それを通り越して幸せしか感じなくなる術か、足のつま先から何千という虫が体内を這って来るような感覚に襲われる術か、絶頂に次ぐ絶頂、快楽に次ぐ快楽によって足腰立たなくなる術の3つしかありませんけど」


「ピンクの悪魔の二つ名は伊達じゃないわね! なんでこんなのと手を組んじゃったのかしら私!」


 暗に『範囲でなければもっとエグイのがある』と言っているが、あえて脱線しない心優しいピンキーであった。


 もしくはその対象にするつもりのアリシアにバレたくないだけ。


「最後のとかオススメですよ。子供からお年寄りまで効果ありますし、後腐れなく無力化出来ますから。ちょっと変な臭いしますけどそこは健康な証拠ってことで」


「――っ!?」


「アリシアに掛けてみたら面白いのではと道中で隙を伺っていたのですが、その度にクロに睨まれて出来ませんでした。勘のいい竜は嫌いですよ」


「クロ、グッジョブ!」


 嘆き苦しむ魔獣達を早く逝かせてやった方が良いのではないか、という鬼とも天使とも取れる思考をしていたクロは、肩ポンからの褒め言葉を『巻き込むな』という目をして受け取り拒否。


「おやおやぁ~? まさかこの程度の精霊術で乱れるほどアリシアは淫乱なのですか~? 効かない自信がおありなら是非受けてみてくださいよぉぉ~~」


「し、知らないっ、知らない!」


 ピンクの悪魔によって着実に大人への階段を上らされているアリシアであった。



「……なぁ、オイラ達、影薄くないか? 活躍してるよな? 100%成功する不意打ちってスゲーと思うんだ」


「グルル」

(ピンキーさんに協力しないだけでエライですよ)


 クロの力をもってしても凝視してようやくパックのことを見つけられるかどうかといった有様なので、2人に手を組まれてアリシアに例の術を使われたらおしまいなのだ。


「あーそれな。やろうかとも思ったけど尋常じゃない寒気がしたから止めておいた。神アルディアかそれ以上の存在がダメって言ってるような気がしてさ」


「グル」

(その気持ち大切にしていきましょう)

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