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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十八章 新生活編

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閑話 お揃い

 ルーク達が盗聴・盗撮を再開した、同時刻。


 シェラード家から400mほど離れた町中を、誰が見てもひと目でパーティの途中で抜け出したとわかる恰好の幼女が4人、速足で移動していた。


「ふふーん! わたしの力をみく……みくびれ……ったわね! 大人たちが精霊をつかってわたし達をかんししてたことなんてセンセイコウゲキよ!」


「『見くびった』と『先刻承知』ね。先制してるのはたしかだけど攻撃じゃなくて脱走だし、たぶんそろそろ屋敷を抜け出したことバレてるからわたし達が大目玉っていう攻撃を喰らうことになるし」


 イヨの発言すべてに的確なツッコミを入れつつ、今起きていること、そして今後起きることを仲間達に伝えるココ。


 育った環境の違いを加味しても同い年とは思えない差だ。


「好きにやれって言ったのはルークじゃない。『家の中で』なんて一言も言ってなかったわ。それに、おそろいのモノを買ったらすぐ帰るつもりだし、こども達の思い出づくりにハンタイする大人なんているわけないから、ヘイキヘイキ」


 というわけである。


 離れた場所からでも自分達の様子を窺える方法があるなら、大人達があの場から動くことはない、という心理を逆手に取った逃亡計画だった。


 つまり精霊は二重スパイ。


 さらに言うなら、イヨに協力かつ自分達に情報を伝えるようフィーネとルナマリアに命じられた三重スパイだったりするのだが、すべて自分の力だと思っているイヨが気付くことはない。



「ところで、さっきから躊躇なく進んでるけど、イヨちゃん、百貨店がどこにあるかわかってるの?」


 ズッ友の証の購入先に百貨店を選んだ一行は、期間的にも能力的にも地理に不安のあるイヨを先頭に歩いていた。


 あまりにも自信満々だったので誰も何も言わなかったが、竜車では通れないほど細い路地……つまり絶対に通っていない道に入るのは流石にどうなのだろうと、ココが気を遣いながら尋ねる。


「あたりまえじゃない! 精霊がおしえてくれるわ!」


(あ、やっぱり覚えてないんだ……)


 ソーマ宅→百貨店と、農場→学校→シェラード家の2ルートは実際に移動したのでわかるとしても、シェラード家から百貨店までのルートをイヨが理解しているとは到底思えなかったココの、失礼極まりない予想は見事的中した。


 そもそも、2つのルートを繋げられるか否かの前に、彼女は通った道すら覚えていない可能性が……いや、まず間違いなく覚えていない。


「ってどうしたの!? はやくおしえなさいよ! このままじゃたどりつけないじゃない! ねえっ!」


 何故か非協力的な精霊に動揺を露わにするイヨ。


(しかも今聞くんだ……そして断られるんだ……というか迷ってる自覚あったんだ……なのに一言も相談なしで進んでたんだ……)


 精霊を感知出来ない者達にとって、空中に向かって文句を言っている友人の姿は非常に滑稽なのだが、それとは無関係にココの中でイヨの地位がみるみる落ちていく。


「探検も楽しいからオッケー」


「そ、そうですわ……自分達の町を知るのは良いことですわよね。入学してからもやりましょう。この企画」


 本来の目的をそれほど重要視していないチコと、葛藤しつつも友人との初めての悪事に前向きなルイーズが、すかさずフォローする。


「でもあんまり遅くなると見つかって買い物出来なくなるよ? イヨちゃんの指示が通用するのはあの辺りにいた精霊だけみたいだし、おにぃ達だって自分の足で探すだろうし、見つかるのは時間の問題だよ?」


「……ワタクシ、百貨店の場所、覚えてますわ。こっちですわ」


 それはダメだと地元民ルイーズが案内役に名乗りをあげた。


 そして、リーダー交代に伴い、彼女達の目的地到着予定時刻は大幅に見直されることとなった。同時に元リーダーの無能さが露呈したのは言うまでもない。


「なんでよおおおおおおおおッ!!」


 精霊達が言うことを聞いてくれない理由が、ルナマリアの『でも甘やかすな』という命令のせいだと彼女が知るのは、自分が保護者になった後のことである。




「……高い」


「たかいわね」


「高すぎるね」


 百貨店1階。化粧品と女性用小物を取り揃えているフロアで、お目当てのコーナーへやって来た4人は、値札に書かれていた数字を見て絶望していた。


 自分達の財布の中身(カメラのレンタルを条件に白雪からもらったお小遣い)をすべて足しても1つも買えない。


「チコさんとイヨさんはともかくココさんは違いますわよね? その、宝石が散りばめられた明らかに子供用ではない髪飾りは、ワタクシ達が求めている物ではありませんわよね?」


「わたし達ならってどーゆー意味よッ!」


「ちょっと待っていただけます!? 今ココさんと話していますので!」


「イヨが言うと理解出来ずに尋ねてるように聞こえるから不思議。そうじゃないなら今のルイーズの言葉の意味を説明して。ちなみに私は理解した上で聞いてる。どうしてルイーズが納得してないのか、わからないなんてことはない」


「だから貴方達のターンはまだですわ! そして自白してますわ! どれだけ誘導下手ですの!?」


「えー? わたしはルイーズちゃんに気を遣ったんだよー。貴族ならこのぐらいじゃないと『付き合うなら自分のレベルに合った子にしなさいっていつも言ってるでしょ! こんな安物で喜ぶなんて恥ずかしい!(パシーン)』って家族から怒られると思ってー」


「そんな貴族滅多に居ませんし、そもそも招いている時点で貧富や価値観の違いを許容されてますし、気を遣ったところでどうしようもありませんし、道中である程度品定めしましたし、セリフが棒読みですし……」


(もしかしてワタクシ、付き合うべき人を間違えました?)


 ルイーズのツッコミ人生はこうして幕を開けた。


 後に彼女はこの時のことをこう語る。


『ボケ3人にツッコミ1人はバランスが悪いですわ。叫ぶだけでも良いのでイヨさんをこちら側に引き入れるか、ココさんがワタクシをからかうことに喜びを覚えないように注意しておくべきでしたわ。

 というか何故ルークさん相手だとツッコミに回れるのにワタクシの時はそうしないんですの? ワタクシがボケないからですの? エルフ関係で興奮しても「はいはい……」で終わらされますわよ? どうしろというんですの?』



 リーダーの精神力を代償に次なるフェーズへ移行した幼女達は、比較的安価な品が揃っているコーナーへとやって来ていた。


「これなんて良いんじゃない? 4個で銅貨3枚の花柄のヘアピン。長持ちするものは高いし1つしかないけど、使い捨てでも沢山あれば長く使えるし、1つの物を皆で分けるのって仲良しって感じするよね。色もレッド・ワインレッド・ローズ・ストロベリーだから1人1色で分けられるよ」


「同感ですがせめて色の系統は違うのにしません!? 10種類以上ある中で何故そのチョイス!? ワタクシ達には赤が似合うとおっしゃりたいんですの!?」


 ココの差し出してきた、商品の中身からパッケージまでこれでもかというぐらい真っ赤なそれを、別の商品と変えるよう進言するルイーズ。


「ん~。イヨちゃんだけかな~。わたしはピンク。チコは白か黒。もしく2人まとめて茶色。ルイーズちゃんは紫か黄色って感じがする」


「イヨはあえての緑もあり」


「あーわかるわかる。ヘアピンやシュシュだと髪色と混ざっちゃって目立たなくなるからダメだけど、腕や体につけるものなら全然オッケーだよね」


「そこまでわかっていながら何故その赤マニア垂涎の品を差し出したんですの!? 隣にバッチリのラインナップの物がありますわよ!?」


「てへっ、気付いてた♪」


「気付かなかったああああああああッ!! そこに当てはまる台詞は気付かなかったああああああああッ!!」


 ルイーズは他の客への迷惑も考えず、絶叫しながらお目当ての品に手を伸ばし……、


「えー、わたしも白がいいんだけど」


「正解はこっちですわ!」


 直前でさらにその隣の品に変更した。



 買ったばかりの商品をその場で開封することは子供の義務だが、今回彼女達が手に入れた品は身に付けるもので、使用するためにはイヨは覆面を取ることになる。


「ぐふぅぅ~~!」


 グルグル巻きにしていたことで籠っていたニオイと、久方ぶりに見るエルフの耳と髪、さらには自分とお揃いのアイテムを装備していることを実感したルイーズは、その場にガクリと膝をついて全身をぶるぶる震わせた。


 誰にも見えないが目に涙が浮かんでいたりする。


「ねぇ……いまさらだけど、わたし、ヘアピンつけてる意味ないんじゃ……」


 そうなると困るのはイヨだ。髪を晒さなければヘアピンは誰に見られることもなく、ただの自己満足で終わってしまう。


「あーあ、ルイーズちゃんのせいで思い出の品が台無しになっちゃった~。イヨちゃんが仲間外れになっちゃうからわたし達も付けられない~」


「にゅ、入学までには……入学するまでには何とかしますわ……!」


 この日から彼女の血の滲むような……いや、血と涙とその他諸々を噴き出しながらの、エルフを直視しても平気になるための特訓が始まる。



「み~つ~け~た~!」


「「「――っ!」」」


 が、その前に、幼女好きな青年による合法的なセクハラが始まる。

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