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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十八章 新生活編

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千二十三話 幼女は尊いものですね

 一応のメインだったンボンゴ試食会が終わり、飲み物だけでは満たしきれなかった腹を用意してもらった食事で膨らませた後。


「後のことは若い者達に任せる。好きにやれ」


 俺は、食後特有のまったりとした空気が流れる中で、今後は保護者らしく一歩引いて接することを宣言した。


 ちなみに席順は、右からイヨたんチコココルイーズと、服の色が縞々になるように並ばせた。イヨたんが緑髪を隠したことで頭の色まで2色だ。


 イヨたんの隣に座った俺も黒を基調とした恰好なので、カツラでも被って頭を黒くし、全体的に緑色のウッドとツリーに両サイドに立ってもらえばシンメトリーとなるのだが……普通に兄妹並んで座られたので叶わなかった。


 悔しいです。


 何故こんな宣言をしていたかと言うと、幼女達の関係が俺を介してのものになってしまいそうなほど手や口を出しているので、そろそろ大人しくしようと思った次第だ。人見知りしてる子もいないしな。


「え? じゃあルークは何するの?」


 それを聞いたイヨたんは、心の底からわからないという顔で尋ねる。『まさか自分達を置いて帰るのでは……』と若干の不安も滲む。


「あれあれ? もしかしてイヨたんは俺のことを、幼女としか仲良く出来ない変態や、常に何かしらのネタを提供してくれる便利屋と思ってるのかな?」


「ちがうの!?」


 今度は心底驚いた様子で目をかっぴらく。僅かばかりの不安が吹き飛ぶほどの衝撃だったのか驚愕に全力投球だ。


 本当に感情豊かな子だ。目の前のことで手一杯のバカとも言うが。


「当たり前だ。俺だって保護者と上辺だけの交流ぐらい出来る。幼女から目を逸らして生活することも出来る。指示厨や仕切り屋にならなくても生きていける。落ち着いた空気も醸し出せる。セクハラ・パワハラ・モラハラは求められてるから仕方なくやってるだけだ」


(((ザワッ――)))


 言った瞬間、辺りを漂っていた精霊や庭で寛いでいた白雪達、一仕事終えてオルブライト家で昼食を取っていたユキを含め、その場に居た全員が驚愕した。


「先に言っておくが、見栄を張ってるわけでも、無理してるわけでも、冗談を言ってるわけでもないからな」


(((ザワッ――!!)))


 動揺がさらに大きくなる。


「信じられない……」


「うそよ……うそって言ってちょうだい……」


「く、口では何とでも言えるし……」


「そ、そうですわね。数秒もすればエルフを前にしたワタクシのように、全身が震え出し、虚ろな目をして、訳のわからない言葉を発するに決まっていますわ」


 日頃のおこないって大切だね。


 しかも『口では何とでも~』なんてキラーワードが飛び出してしまったら行動で示すしかなくなるじゃないか。元々そうするつもりだったから別に良いけど。


 ってかルイーズ……流石に数秒はない。もう過ぎてる。そして自覚してたんだな。立派なことだぞ。止められるかどうかはまた別の問題。



 そんなわけで堂々とフェードアウトすることになったはずなのだが……。


「おにぃ~、面白い遊び教えて~」


 挑発なのか何なのか、ココが絡んで来た。


「ん~。それを自分達で考えろって言ったつもりだったんだけど、子供の頭じゃ理解出来なかったのかな?」


「うん!」


「……ならわかりやすい言葉にしてやろう。俺は忙しいからどっか行け! この他力本願のコミュ障共がッ!」


「――っ」


 突然の大声にビクンと体を震わせたココは、離れた場所でニタニタしていた幼女達の下へ駆け寄り、少し話した後、4人で部屋を出て行った。


「「「…………」」」


 と、同時に周囲の大人達から冷たい視線が突き刺さる。


「貴方。絶望的なまでに親に向いてませんわ。接する方法が0か100しかないなんて、しかも0の選択肢が無視か罵倒しかないなんて、ゴミにもほどがありますわ」


「うっせーなぁ……チョーシに乗ってるガキにはこうするのが一番なんだよ。たまには大人のイゲンってもんをビシッと示しておかねーとナメられんだよ。わかる? 俺なりのキョウイク? 的な?」


「それが貴方の素だとしたら、わたし達は精霊術師を二度と信用しなくなりますわよ」


 なら大丈夫だな。俺なりに頑張ってダメ親のモノマネをしただけだから。


 茶髪で細身でピアスしてて、フリーターで出来ちゃった婚で安いアパート住まいで、地域貢献や近隣住民との交流を一切しない、そこら中に唾とかガムとか吐き捨てるチャラ男ならパーフェクト。もちろん子供はDQNネーム。


 ……というのが世間一般の認識だと思います。


 マスゴミの方々が広めたせいもありますし、実際確率は相当高いんでしょうけど、ちゃんとしている親も居るはずです。


 俺が言うのもなんですが日頃の積み重ねが大事ですよ。


 偉い人が言っていました。いざという時に自分を守ってくれるのは正論じゃなくて普段のおこないだって。


 まぁ俺は信頼を勝ち取れていなかったみたいですけどね。そういう冗談だって思うことにしていますよ。ポジティブに行きましょう。はははっ。


「冗談はさて置き、手出ししないと決めたら叱ってでも甘えん坊を離れさせるって選択は間違ってないと思うんだ。構う時は全力、構わない時も全力。もちろんタイミングはあるだろうけど、今は全力で突き放して良い時だろ?」


「「「……まぁ」」」


 彼等も教育に絶対的な正しさがないことは理解しているらしく、あれは自分なりに考えがあっての言動だと主張した途端、大人しくなった。


 実際問題、厳しくするのって難しいよな。可愛いがりたいよな。甘やかして喜ばせたいよな。


「…………おいコラ、そこのハーフエルフ共。なにボーっとしてんだ?」


「「え?」」


「『え?』じゃねぇよ。さっさと盗撮&盗聴用の精霊飛ばせや。いくらエルフより力が劣るからって、魔力を身に付けて1年足らずのイヨたんにバレないように監視するぐらい出来んだろ」


「過保護ッ! そして心配性!! こ、この男……裏で自分がどんな扱いを受けているか気にするタイプですわ……自分の目で確かめないと納得しないタイプですわ……」


 もし幼女達にさっきの発言を批難されてたら3日は寝込みます。


「良いからさっさと不可視結界を展開して監視精霊飛ばしやがれ。もし聞き逃したらどうしてくれるんだ。会話なんてそれをしながらでも出来るだろうが。そのぐらい言われなくてもわかれ。何のためにお前等を引き留めたと思ってるんだ。頭に行くはずの栄養が全部胸に行ってんじゃねえのか。カスが。クビにするぞ」


「セクハラ・パワハラ・モラハラ。三大ハラスメントを一瞬でコンプリートしましたわね」


「戯言も泣き言も聞きたくない。時間の無駄だ。文句があるなら証拠を出せ。出せないなら黙ってろ。結局やるのか、やらないのか、どっちだ?」


「やるよ。やりゃ良いんだろ……」


 社会の荒波を長年経験している(?)だけあって、ウッドとツリーはこのありふれた問答を受け流し、幼女達の監視を開始した。


 ちなみに、表裏やニュアンスの違いはあれど、すべて俺が社会人だった時に聞いた台詞だ。


 横柄な客や理不尽な上司や他人のせいにする後輩って本当に居るから気を付けろ。どう気を付けるのかは知らんが。労働組合に言ってもそんな効果ないし。




「ふむ……4人とも気にしてはいないようだな。ちゃんと俺の言いつけを守って自分達で楽しいことを探してるし」


 シェラード家の一室(おそらくルイーズ嬢の部屋)に移動したイヨたん達は、ハートや動物など可愛らしい形をクッションに座って、3週間後に迫った学校生活について語らっていた。


 俺のことを咎める様子はない。咎めた様子もない。


「ところでこういうクッションの使い方ってこれで正しいのかな? 使用者はどんな気持ちなんだ? 潰して良いのか? 抱いてる方が絵面良くないか? 特に凹凸の多い動物系のクッション」


「貴方の盗撮趣味に付き合うつもりはありませんわ。用がないのでしたらわたし達は帰りますわよ」


「怒んなよ。素朴な疑問を投げかけただけじゃないか。

 話は2つ……いや、3つある」


 俺は肩を竦めて会場に残った大人達をグルリと見渡す。



「1つ目はンボンゴについて。

 昔、ドラゴンフルーツっていうどうしようもなく使えない食材を『龍菓子』って名産に変えたことがあるんだが、もしかしたらそれと同じことが出来るかもしれない。

 しかも今回はどこぞの神獣1人じゃなくて、エルフとハーフエルフ全員の好物になり得る」


 調査対象が少なすぎるのでまだ何とも言えないが、今回参加したすべてのエルフの血族がンボンゴを美味と言ったのは間違いない。


「と言っても結構色んなところで採れるぞ?」


「調理の条件が厳しいだろ。全員が全員お前等みたいにプライド皆無ってわけでもないだろうし」


「……言っておくが今ぶっ飛ばさなかったのは話の続きが聞きたいからだぞ。この調子で続けるつもりなら終わってからぶっ飛ばしてやる。美味いンボンゴを振る舞ってくれた礼に一撃で気絶させてやるから感謝しろ」


 ただ事実を述べただけなのに……怒りっぽいヤツだ。


 それとも反論出来ない時に手を出すって例の法則か? 無視したら調子乗らせるだけだと理解しているからこその宣戦布告か?


「イヨたんの例があるからエルフは難しいかもしれないけど、自分で作れないハーフエルフは手の平を返して人間と仲良くなる可能性が高い」


「いやいや。待て待て。いくらンボンゴが美味いからってそこまでの効果ないぞ? 実際こんなこと俺達ぐらいしかしてないしよ」


「言っただろ。どうしようもなく使えない食材を名産に『変えた』って。素でこれだ。手を加えれたらどうなるかわからんぞ」


「……マジで?」


「マジで。例えば、卵の薄皮的存在の固形胚乳を取り除いてたけど、普通に食べれただろ?」


「2つはハズレだったけどな」


「逆だ。液体と違う味になったってことは、飲む方と食べる方で別々のものが作れるってことだろ。加工や品種改良すれば美味くなるかもしれないじゃないか」


 ゴクリ――。


 想像力を働かせて好物が無限に進化する未来を視たウッドとツリーは、無言で生唾を呑む。


「んでこっからが本題。そんなンボンゴを調べる……いや、遠回しの言い方はやめよう。手柄は誰が得るのか。

 ハーフエルフなら精霊術師や化学反応の国家資格を持った人間より上手くやれるだろうし、人間の協力が必要ならシェラード家が手配すれば良い。もしエルフの手が必要だってんなら俺から頼んでやる」


「誰の手柄にするかっつーより『お前等にやるから頑張れ』って言ってるように聞こえるんだが……?」


「そう言ったつもりだし」


 これ以上の手柄も強者の知り合いも必要ない。差別主義者共が手を取り合えるようになるなら、そんなものいくらでもくれてやる。


 イヨたんもその方が暮らしやすいだろうしな。


 世界樹を隠すなら森の中ってね。

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