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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十八章 新生活編

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千十六話 楽しみ方は人それぞれ

「「「ただいま~」」」


 ロア商店2階。


 建築後に手を加えた部分のみが違う内廊下と10個の扉の中で、ひときわセンスの光るソーマ家の前にやって来た俺達は、躊躇うことなく室内へ足を踏み入れた。


 当然だろう。約束の時間は少し過ぎてしまったが、『道が混んでいた』で通用する程度ではあるし、メンバーの半数の住まいなのだから。


「ルークさんが『ただいま』と言うことには違和感しかないけどニャ」


「でも『お邪魔します』も違うだろ? 謙虚な心を持つのは良いことだけど、この子達の間柄には必要ないものじゃん。もちろん俺にも」


 普段なら「○○居るか~」とズカズカ入ったり、無言で入って「あ、来てるぞ」と馴れ馴れしくしたり、「俺参上!」と勢い任せで乗り切ったりするのだが、それを正しい挨拶と勘違いしそうな幼女が傍に居るのでやめておいた。


 こんな他人行儀な言葉、里では使ってなかっただろうしな。


 もちろんだからと言って挨拶が必要ないわけではない。敬語や呼び方と同じで、相手との距離感を把握することが人間関係の第一歩だと思っているだけだ。


「それはそうだけど自分から言うことではないニャ……」


 ここで違うと言わないニャンコの優しさに乾杯。


「それと純粋バカが『邪魔? 何するの?』とか言いそうだしさ」


 本人の名誉のために名前は伏せさせていただくが、相手の時間を使わせること、家を踏み荒らすこと、もてなしてもらうことを『邪魔してしまった』というのは謙虚を通り越して卑屈な気がする。


 もし意味を尋ねられたらどう説明したらいいかわからない。


「じゃ、じゃあ、わたしはなんて言えばいいの?」


 直前の話題は自分ではないと思っているようだが、その前は該当するとわかったらしく、2度目の来訪で『ただいま』は違うと1人無言だったイヨたんは、どんな時でも使える万能挨拶を求めて縋るような目を向けてきた。


「エルフって尊敬される側なんだから『おはよう』『こんにちは』『こんばんは』で良いだろ。子供なら普通に使えるし、大人になればなるほど使いやすくなる。100年後には人類全員に通用するようになるぞ」


「それまではどうするの!?」


「そんなの知らん」


「むせきにん! それはあまりにもむせきにん!!」


「待て待て、落ち着け。最後まで話を聞け。お前が感情昂らせると精霊達がざわつく。体から尋常じゃない魔力も溢れ出してる。里に強制送還されても知らんぞ」


 俺は気圧が元に戻ったのを確認して話を続ける。


「10年後、20年後にどんな性格になってるかで変わるだろ。ユキやベーさんやルナマリアみたいに皮肉で使うも良し、フィーネやクロみたいに弱者に優しくするも良し、人間らしく相手や気分で変えるも良し。その時になって決めれば良いさ」


 アイツ等は本当に邪魔をする。どうぞどうぞと招き入れた時点で負けだ。荒らしを許可してしまっている。だから邪魔するって言ったじゃんと逆ギレされる。


 ちなみにイヨたんは意図せずそうなると予想している。


 だから挨拶なんでどうでも良い。キミの持ち味バカさを許してくれる人間と仲良くなりなさい。デレなさい。許してくれない相手にはツンしなさい。



 ――などという話をしていると、買ってもらった服を自慢したくて仕方がなかったココとチコが、一足先にリビングへ突入していた。


 20秒は経過しているが一切反応がない。もし彼女達が犯人で、ここが某名探偵の舞台であれば、間違いなく証拠隠滅を図っているだろう。


 話が一段落したので俺達も玄関から移動することに。


 美獣人3名の住まいということを差し引いた上に、野郎が暮らしていることを加味しても、十分舐められそうな手入れの行き届いた廊下を歩き、リビングへ。


 そこには三者三様……もとい三組三様の姿があった。


「「…………」」


 1組目は床に転がってピクリとも動かないソーマとトリー。


 口からは透明の中に赤色が混ざった液体が垂れている。酔い潰れた(?)人妻という、薄い本なら120%襲われるシチュエーションだが、幸か不幸か他に起きている人間が居るのでセーフ。


「お父さん、お母さん、大丈夫~?」


「水飲む~?」


 2組目は両親を介抱しているココとチコ。


 酔い潰れているとしたら間違った対応だが、正しい介抱の仕方など知らない幼女達は、2人の全身を揺さぶって反応を待っている。服の入った袋を散らかっていない離れた机の上に置いていることから察するに、慌ててはいないようだ。


「ゲラゲラゲラッ! こ、ころもに撫でられてらー!!」


「ケラケラケラっ! らおれてらぁ~!!」


 3組目はそんな4人の様子を見て爆笑しているサイとノルン。


 酔っぱらっているにしても不謹慎なので、いつものことで心配する必要がないからだと思いたい。そう考えたらココ達もポーズだけな気がしてくる。それはそうとボリュームがおかしい。扉を開けるまでこんな大声に気付かないとは素晴らしい防音性能だ。


「……状況。わかるかニャ?」


「たぶんな」


 誰に聞いてもまともな答えが返って来そうにないので、俺とユチは独自に現場検証を開始した。


「まず大人達が飲み会をしてたのは間違いないな」


「だニャ。でもソーマさんと母さんは弱くないニャ。母さんに至っては最強だニャ。先に潰れるのはいつもサイ達の方だニャ」


「でも今回に限っては潰れてる。気になるのは……」


「「2人の傍に転がっている缶」」


 見覚えのあるラベルだ。ユチの言ったように、あの程度の度数の酒をいくら飲んでも、トリーを潰すことは出来ない。


 が、成分が変化すれば話は別だ。


「度数と魔力量がとんでもなく高い……要するに酒飲みを潰す劇薬になってる。4人の誰か、もしくは第三者が、俺が教えたメントスガイザー現象を試したな」


 俺は青酸カリを舐めただけで判断出来る人間ではないので、嗅いだり舐めたりしない。そんなことをしなくても見れば成分がわかる。


 ちなみにメントスガイザーってのは、ペットボトルに入ったダイエットコーラの中にメントス数粒を一度に投入した際に急激に炭酸が気化し、泡が一気に数mの高さまで吹き上がる現象のことだぞ。


 簡単に言えば化学反応。


「それと2人の口から出てる液体は香辛料を煮詰めたものだな。おおかた辛さの限界の追及でもしてたんだろ」


「さっすがルークさん。気持ち悪いニャ」


 褒め言葉として受け取っておこう。


「つまり4人は、子供達が居ないのを良いことにハメを外して……いや騙された可能性もあるニャ。とにかく何かしらの理由で激辛食品を口に入れ、堪らず酒で流し込み、不幸にもハズレを引いてしまったソーマさんと母さんがダウンしたと」


「何十とある缶の中で成分変化……あ~、凄まじく変化してるのが2つだけってことは、そういうことなんだろうな」


 何度か試した中で一番凄いものを引いてしまったようだ。おそらくサイとノルンのテンションがおかしいのもそれが原因。


「どこまでが意図しておこなわれたものかはわからないけど、この酔っ払いに聞いても無駄だろうし、真相は闇の中ってことで」


「いやいやいや。普通に明日聞けば良いニャ」


「記憶失ってる可能性高いぞ?」


「そういう時はたたくのよ!」


 てっきり関わりたくないから黙っていたのだと思っていたのが、単純に会話に入るタイミングを見失っていただけだったようで、ここだと思ったイヨたんは勢い任せで物騒なことを言い出した。


「イヨちゃん……人は機械や魔道具じゃないニャ。叩いても治らないし思い出さないのニャ」


「え? 人間ってそうなの?」


「……エルフは違うのかニャ?」


 2人して俺の方を見る。


「あ~、ユチ。実は今回ばかりはイヨたんが正しいんだ。最近わかったことなんだけどな。心臓マッサージや腹ごなしの運動と同じで、魔力を込めて刺激することで動いていない部分を動かす効果あるみたいなんだ」


 肩が凝ったら揉み解すし、便秘改善のために腸の動きを良くするし、ゲームカセットは吹いちゃダメって言われているのに実際フーッすればつくし、電子機器だって接触の問題は叩けば解決していた。


 人間でも同じことが起きる可能性はゼロじゃないって話。


 脳でも容量が増えたり思考回路を切り替えたり出来るんじゃないかって話。


「ま、記憶を失う可能性もあるから、そこまでして真実を知りたいかはまた別だけどな」


「というかフィーネ様達に聞けば教えてくれると思うニャ……」


 ですよねー。それ言う前にイヨたんに持っていかれたから言えませんでしたけど、普通に考えて強者に尋ねるのが一番ですよねー。


 あ、俺達の推理合ってました。




「あ~!? にゃんらっれぇ~!?」


「だーかーらー! ココとチコは農場に泊まる! 明日も俺と過ごす! 将来は一緒に暮らす! オーケー?」


 丁度良い(?)のでソーマとトリーの介抱をしてみたいという白雪に2人を任せるのは良いとして、まだまだハッスルするつもりのサイとノルンを放置するのも良いとして、こんな場所にココとチコを置いておくのは良くない。


 ……かどうかは知らないが、ユチが何気なく言った「明日も一緒だし農場に泊まれば?」を真に受けた3人は、急遽お泊り会の開催を決定。


「誰もツッコまないのにボケて楽しいのかニャ?」


「ユチがツッコんでくれたじゃん」


「仕事があるからここでお別れだけどニャ」


 無駄とは思いつつもサイとノルンにその旨を伝え、人語を喋れない白雪に手紙を託し、念のために隣の部屋(家)の人に伝言を頼み、双子の着替え&一張羅を持って外へ。


 唯一無二の保護者……言ってみれば妻と夫の関係だったユチと涙の別れを経て、農場を目指した。


 宿泊先に目と鼻の先にある猫の手食堂を選ばなかった理由は、彼女が仕事で忙しいこと以外にもありそうだが、深く考えないのがイイ男というものだ。


 ニャンコの優しさに再び乾杯。



「なんで普通に乗せてくれるかなぁ……いやまぁ有難いんだけどさ」


「クゥ」

(じゃあ良いじゃん)


 家族の前で頑張ってる姿を見せたくない、あえてダラけて注意を引く、夜行性、人数的に仕方なく、なんとなく。


 理由はいくらでも考えられるが決して答えは出してくれない一夜に運ばれ、短時間で農場に到着した俺達は、これまた理由不明で寝泊りも立ち入りも拒否しなかったルナマリアと対面していた。


「その調子でもう一声! 明日の食事会に参加してみよう! エルフがたくさん居て楽しいぞぉ」


「い・や・よ。保護者はアンタ1人で十分でしょ」


「そ、そんな信用してもらえてたなんて……テレテレ」


「照れるな、頬を染めるな、流し目でこっち見るな、勘違いするな」


「やれやれ……これだからツンデレは困る。たまには素直に慣れよ。そしてこれだけは言っておく。俺に惚れると火傷する、ぜ♪」


 頭を掻いていた手でバッと髪をかき上げ、バチコンとウィンクを決めた瞬間、今週2度目の人間大砲が打ち上げられた。


 ルーシーと一夜が置き去りにされているが、朝一で白雪を回収すれば足は困らないので、子供同士親睦を深めてもらうとしよう。

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