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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十八章 新生活編

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千十話 はじめてのともだち4

 人生は『特別』と『日常』で成り立っている。初めてはもちろん、慣れるまでは何もかもが新鮮で、何度も繰り返すことで日常になっていく。


 それには時間を掛けるしかない。


 だからこそ、絶対的な時間が足りない上に出来ることが限られている子供は、毎日が発見の連続で、毎日が特別だ。


 例えば、家族と団欒しながら心と体を睡眠に向かわせている時間帯に親公認で町へ繰り出したりしたら……。


 しかも相手は、コッソリ悪いことを教えてくれるかもしれないし、頼めば何でもやらせてくれるかもしれない近所の気のいい兄ちゃん姉ちゃんと、仲良くなったばかりの友達。


 門限を守らず遊んでいるのとは一味も二味も違った気持ちになることだろう。大人への階段を登っているようで鼻高々だろう。特別中の特別で某B級妖怪並みに色々大きくしてしまうことだろう。


「肩がこる」


「かわいいデザインのブラがないわ」


「か、階段で下が見えない……」


 やってみたは良いものの、どこに重心を置けば良いのかわからず、取り合えず猫背になって自分の肩を揉むチコに。


 腹の方が乗せる脂肪がありそうな胸……もとい空中に手をやってウッフンポーズを取りつつ(おそらく彼女の脳内では腕から零れている)、それに見合う綺麗な器が見つからないことに眉を顰めるイヨたんに。


 足元がおぼつかないのを表現するためにわざわざルーシーから降りて地面を見下ろし、視界を遮るものがないにもかかわらず演技力だけで俺にZカップの幻を見せるココ。


「ほざけ、まな板が。お前等のはあと3年は現役だ。何なら生涯現役の可能性の方が高いわ」


「「「なあっ!?」」」


「吠えるな、弱く見えるぞ。そういうのはせめてインナーを卒業してからにしろ。お前等どこからどこまでが胸かもわかってないだろ」


 夢を見るのは勝手だが、自分がどんな種族で、親兄妹がどんな見た目をしていて、敵の最大戦力がどの程度のものなのか、冷静かつ客観的に考えてからでないと将来傷つくことになる。


 ならば、この苦労話をしているように見せかけて自慢している小娘達に、現実を突きつけてやるのが俺の優しさだ。大きくなるなら胸が良いという安直な願望を抱いていることにはホッコリするが。


「……って、そっちの2人はともかくイヨたんは巨乳に憧れるなよ。エルフはスレンダー至上主義のはずだろ。低脂肪を誇れよ」


「そんなの古いわ! 時代は『大は小を兼ねる』よ!」


 拝啓、クララ様。


 あなたの娘は着実に人間界の悪い文化を身に付けていっています。例えこのまま成長して異教徒になったとしても俺のせいではありません。ミナマリアさんにもそうお伝えください。



「ま、足掻くのは勝手だよ。エルフのお前に巨乳になる可能性は限りなくゼロだけど、努力や願望を否定するつもりはないからな。でも今は巨乳から一番遠い存在だってことは認めろ。大きくなるって言ったのは心情的な話で肉体じゃない」


 あくまでも自分はそうなることを信じてやまないイキり幼女達に、諭すように言う。


 俺の知る限りエルフと獣人(ハーフ含む)でワールドスタンダードに届く者は居ない。全員が平均値を下げている。


 まぁ同時に体重や体脂肪率も下げているので……って逆にダメだな。部分的な比較対象は逆効果だ。胸が平均である以上、他もそれなりでなければならない。


「ふっ、甘いわね! エルフにだってしょーらいせいはあるのよ! だってフィーネさんがいるじゃない!」


「あれは例外。フィーネ以外で一番大きいエルフがどの程度のもんだったか思い返してみろ。何カップだったか言ってみろ」


「うっ……で、でも、わたしがそうなるかのーせーはゼロじゃないわ!」


「だからさっきからそう言ってんだろ……。ただしどんな結果になろう自分を嫌いになるなよ。そうなったら人生終わりだ」


「言われるまでもないわ! 見てなさい! ひっくり返してやるんだから!」


 ビックリさせるか、驚きのあまりか、はたまたそれ以外か、独特な言い回しをすることが多いイヨたんの発言は理解に苦しむ。


 事実を認めようとしない者の常套句が飛び出したので、俺はこれ以上の口論は無駄だと判断し、その疑問と共に話を切り上げて別件のトラブルに取り掛かった。



「「……ハァ」」


「オイ、コラ、テメェ等、何故私の胸を見て溜息を漏らす? これじゃあ不満か? 小せぇってのか? 理想に届いてねぇってのか? おォ?」


 俺達が言い争いをしている横で、現状最も手近で身近な存在に自分達の将来の姿を重ねたココとチコと、重ねられたユチの間に歪みが生じていたのだ。


 怒りのあまり、クセになっているはずの語尾の『ニャ』も忘れて、失礼な言動を取った妹達に絡んでいる。まるで……いや、まんまヤクザだ。


 彼女の胸も決して小さくはない。小さくはないが、それが原因で肩がこったり、視界を遮ることはどう足掻いても……おっと誰か来たみたいだ。




「で、散々田舎アピールしておきながら、連れて行くのは最新技術盛沢山の場所なんだニャ……」


「そりゃあ目的がイヨたんに人間について知ってもらうことだからな。俺の個人的な感情なんか二の次三の次よ」


 やって来たのは最近中央部にオープンした百貨店。


 場所が場所なので広さはロア商店の1/4もないが、その分高さがある。地下2階、地上4階の巨大建築物には、食品・衣料・家具など各種高級品が取り揃えられており、そこら中で金持ち連中が札束ビンタを繰り出している。


 露店や商店街が庶民の味方なら、ここは貴族の味方というわけだ。


「知ってもらうって、ここになにかあるの?」


「あると言えばあるし、ないと言えばないな」


「???」


「あ~……ある方向で説明すると、ユチが言った通り最新技術がてんこ盛りだから見てるだけで面白いかもしれない。今日は金持ってないから買えないけど、学校生活で必要になる用品とか、個人的に欲しいと思える物が見つかるかもしれない。同じことを考えてる貴族達が、3人の同級生になる子供を連れて来てるかもしれない。たぶん町で一番接客上手な連中だからイヨたんを見ても動じないかもしれない。

 要するに、楽しめるかどうかも、人間の文化に興味を持てるかどうかも、知り合いを増やしたいかどうかも、ぜ~んぶイヨたん次第ってわけ。もちろんココとチコも」


 間違いないのはロア商店だが、比較対象がなければあそこの凄さは理解出来ない。そこで選んだのがこの最新技術の宝庫。


 エルフから見ても品質の良い物が揃っているし、金銭感覚を身に付けるという意味でも早い内に上流階級を経験させておいて損はない。


 ――という名目で、イヨたんの入学祝を何にするか考えるのは秘密だ。


 仕方ないとは言え、ココとチコにだけあるってのも可哀想だからな。魔道チェイサーや電子ピアノと同じぐらい凄いものを作らねば……。


「クルゥ~!」

(ルークさぁぁん!)


「ええいっ、鬱陶しい! まとわりつくな! ……ってなるところじゃないんですかね? なんで1人で歓喜するだけしてノソノソと駐車場に向かうんですか?」


「クル」

(そんなだからですよ)


 受け入れる準備はバッチリだったのに……。



 下手に絡むと計画をバラされてサプライズが台無しになりそうだったので、自主的に地下駐車場へ向かう竜達を放置し、一応大人しくしているよう注意もし、いざ百貨店へ。


「ところでなんで中央部なのニャ? 東じゃダメだったのかニャ? あっちならシッカリ見て回れたはずニャ」


 ヨシュアに限らず、町というのは東西南北と中央の5ヶ所に分かれることが多いが、ヨシュアの場合、ロア商会が生まれる前までは中央部と東部が、ロア商会が出来てからは北部が発展している。


 西部は工業、南部は住宅地がメインなのでどこが発展しようとさして影響はないが、商業区としてぶつかる上記3ヶ所には優劣や進退が如実に表れる。


 そして北部の成長が一段落したのであれば次は中央部と東部の番。


 昔と違って人々の生活にも経済的にも余裕があるので、「面倒臭いから切り捨てよう」だの「どうせ人なんか来ないしほっとけほっとけ」だの言う者はおらず、百貨店とまでは行かずとも東にも高級店がいくつも誕生している。


「まぁこんなデカイ店、どう頑張っても全部見る時間なんてないから、あっちでも良かったけどな」


「ならなんでニャ?」


「こっちの方が学校に近いじゃん。どうせ全部は覚えられないんだから少しでも使う道を覚えた方が建設的だろ」


「わたしそんなにバカじゃないわよ!」


 イヨたんが吠える。


 誰のことを言っているのか一瞬で理解したようだ。


「あれあれ? 俺と会うまで道に迷ってたのはどこのどなたでしたっけ~?」


「――っ! ど、どうしてそれを!?」


 強者センサー舐めんな。今朝フィーネが苦笑しながら教えてくれたわ。あと数分で解決しなかったら屋根の上を移動してたこともな。

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