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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四十八章 新生活編

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千八話 はじめてのともだち2

 『片隅』は、大抵の場合はマイナスイメージが強い言葉だが、大通りに面しているか否かで集客力が大きく変わる小売店にとっては是が非でも手に入れたい土地である。


 しかし、例え町を横断するメイン通りに建てたとしても徒歩で何十分も移動する羽目になるなら、多くの客は苦労を取るか価格を取るか悩むことになる。


 商品の数と品質・価格・接客力など、多少劣っていてもあえて中心部から少し外れた場所に建てて、広々とした駐車場を設けた方が売上が伸びたりするのだ。建てるのはもちろん隅。


 それ等の条件を満たしている上、世界トップクラスの極上品がどこよりも早く手に入るロア商店は、今日も商店街の片隅で凄まじい売上を叩き出している……のは良いとして。


 俺達がやってきたのは、その2階にある商店街の面々が暮らす社員寮。


「まぁ家庭持ちの連中しか居ないから、管理者のことを『寮長』って呼んでるから自然と社員寮って言われてるだけで、正確には『社宅』なんだけどな」


 階段を登った先にあるエントランスを説明しながら進む。聞き手はイヨたんと白雪。


 ルーシーと一夜は下でお留守番だ。


 主人の買い物が終わるまで裏の駐車場で待機していた若い竜が、理由はわからないが俺達を見て鼻で笑ったので焼きを入れているわけではないし、その隙に帰ろうとしていたわけでもない。


 きっと今頃は同族と楽しくお喋りしていることだろう。


「よくわからないけどよーするに家族ばっかりってことでしょ。そしてその中にわたしの同級生がいるってことでしょ」


「そゆこと」


 もうお分かりだろうが目的はココとチコだ。


 突撃お宅の晩御飯、か~ら~の~、夜遊びをしようという計画である。もちろん連絡はしていない。ヤラセ無しの出たとこ勝負。


「言っておくけど、いくらルークのしょーかいだからって、気にいらないヤツとは仲良くしないから」


 と、つよがりながら自分の耳にソッと手を当てるイヨたん。


 エルフの特徴である長い耳は、周りの大人達から「人前では隠せ」と言われて育ってきたはずなので、『一般的な姿形』をここまでの旅で知った彼女は、周囲と違うそれに劣等感でも抱いているのかもしれない。


(ま、当然か……)


 農場の連中はルナマリアで慣れているし、外で露わにしたこともないので(俺とのは指摘されてないし本人も気にする余裕がなかったのでノーカン)、初めて見せる相手がどんな反応をするか気になって仕方がないようだ。


 俺だって先月まで異世界漂流者であることや能力のこと隠して生きていたし、現在進行形で転生者ということを隠して生きているので、彼女の気持ちは痛いほどわかる。


 つまりアレだ。


 息子や娘(女性器をそう例えるのかは知らん)の変化が気になり始めた思春期ちゃんが、異形であることを知った直後に晒すことになったみたいな。同年代の子よりだいぶ早く、そして果てしなく成長されるおバスト様に、コンプレックスを抱くみたいな。


「クル……」

(納得してしまう自分が憎いです……)


 どうやら竜にもそういう時期があるらしい。


 どれだけ自然で仕方ないことでも人と違うってやっぱ怖いよな。ま、なってしまった以上は受け入れて生きていくしかないわけだが。


「だから胸を張るんだ、イヨたん。その長い耳は素晴らしいぞ。サイコーだ。欲しいと思って手に入るもんじゃない。ステータスだ。希少価値だ。ビバ☆エルフ!」


「と、突然どうしたの?」


「隠すなよ。わかってるから。その耳にコンプレックスを抱いてるんだろ? 気持ち悪がられたらどうしようって怖がってるんだろ?」


 言うべきか迷ったが、俺達の間に隠し事も気遣いもなしだ。子供とはそういう関係であるべきだと俺は思う。限度はあるけどな。


「??? そんなの気にしたこと人生で一度もないけど……あ、もしかして今の? あれはかゆかったから掻いただけよ」


 勘違い系主人公はこうやって生まれるんですね……。




 ソーマ・トリー・ココ・チコ。家を出ているユチを除いたこの4名が通常時のメンバーなのだが、たまの帰宅と重なったので現在は5人全員が揃っていたりする。


 こちらから言い出すまでもなく共に晩御飯を食べるよう誘われてしまい、一家団欒の邪魔になるとは思いつつも断るのも失礼かと誘いを受けることにして、食事の席で話を切り出した。


「――ってわけで、これを食べ終わったらココとチコを借りるぞ」


 心苦しい。一家団欒に入り込むどころか引き離すなんて、心が張り裂けそうだ。


「いきなり来て、止める間もなくズカズカ上がり込んで、サイとノルンのために用意してた夕飯をむさぼった挙句、親の同行を拒否する発言をしてるんだけど、それについては何かないのかな?」


「断らなかったじゃん」


「だってルークだし」


 ソーマはこれ以上の議論は無駄だと言わんばかりに肩を竦めた。


 つまり、今の質問は俺の話を否定するためだけにしたもので、答える必要も反応する必要もないけど、しておかないとイヨたんとココとチコの評価が落ちると。


 なんて厄介なトラップだ。


「白雪さんが申し訳なさそうにしてたし、そっちの……イヨちゃんにはチココが興味津々だし、事情を聞いておいて損はないと思ったのにゃ」


 トリーから申し訳程度のフォローが入る。


 でも自分の娘達をチーム名みたいに言うのやめなさい。出来れば『お姉ちゃん』とか『妹』とかも。ちゃんと個人として扱ってあげないとグレるし歪むぞ。そういうのは立場をハッキリさせる赤ちゃんの時だけにしな。


「素晴らしいネーミングセンスだと思わんかね」


「ココさん!? ど、どうしたんですか……? 貴方そんなキャラじゃなかったですよね?」


 もしかしたら本人達が望んでいるのかもしれないので、こちらはイヨたんと違って慎重に行こうと思った矢先、双子の片方から予想だにしない発言が飛び出した。


 ココは数ヶ月前まではアリシア姉とヒカリを混ぜたような将来が怖い幼女だった。世渡り上手で、力を欲していて、俺のことを『おにぃ』と呼ぶ、天使の皮を被った悪魔のような天使だった。


 それが……それが……こんな天空の城の王みたいなことに……!


「私は良いと思いますけどね、チココ。どこが悪いと言うんです?」


「チコさんまで!? 貴方はイブとニーナを合わせたような、本能に忠実で、エルフの髪の毛に並々ならない情熱を注ぐクールガールだったでしょう!?」


「「チココー♪」」


「なにその掛け声とポーズ!?」


 2人共、阿吽の呼吸で手に持っていた食器を置いたかと思うと、左右対称のフュージョンというか両手を合わせたアーチというか皆のトラウマ2人組の屈伸運動を披露。


 そして、俺のツッコミを無視して、食事を再開させた。


「可愛いじゃねぇか」


「クル……」

(まぁルークさんはそうでしょうね……)


 必要なのは理解ではなく納得だ。


 俺は意味がわからなくても萌えた。だからオッケー。たぶんゴッコ遊びみたいなもんだろ。変な言動を取ってアレで締めるんだ。



「だってお前等、この後サイ達と遊ぶんだろ。じゃあ同行不可じゃん。俺1人でも十分だったけど、ユチも来てくれるみたいだし鬼に金棒よ。安心して遊んでろ」


「それはそうだけど……」


 世が世なら育児放棄だのクズ親だの言われそうだが、逆だ。


 子供を預けられる人間が少ないだけ。信用出来る相手がいないだけ。子供を信頼していないだけ。


 話し合いの結果、ソーマとトリーは俺という心身共に信頼に足る保護者が居たことで、躊躇いなく親友との約束を優先した。


「ココもチコも行きたそうにしてるし、この町でおかしなことが起きるはずがないし、ユチと白雪さんが一緒なら安心して預けられるよ。遅くならないようにね」


「俺になんか恨みでもあんのかッ!」


「自己評価が高い人ほど信用するなってお婆ちゃんが言ってたからね」


 ったく……自分を信じてやらなくて誰が信じるってんだ。


「そんなんでよくスラム街で出会ったサイとロア商会に入り、そこで出会ったノルンと3人で発展させ、女手ひとつでユチを育てたトリーに乙女心を取り戻させて、一家の大黒柱として寮長とレジ係を兼任出来てるな」


「これ以上ないくらい説明口調だね。イヨちゃんにはわかり易くていいかもしれないけど」


「そうだったの!?」


「そうだったのです」


 今後も続けていくから感謝しろ。


 まぁ彼女の興味は最初から最後まで双子に向いてて、ソーマやトリー、何ならユチの生い立ちとかどうでも良さそうだけどな。


 取り合えず驚いておけばオッケーと思っている節がある。


「それはそうとイヨたんも随分馴染んでるな。仲良く出来るかどうか不安そうにしてたのが嘘みたいだ」


「わたしそんなことしてないッ! イヤな子とは仲良くしないって言っただけ!」


 イヨたんはココとチコは違うと言わんばかりに2人を抱き寄せた。それでこそ共に食卓を囲んだ甲斐があるというものだ。


 美幼女3人(しかも内2人が獣人)がイチャイチャしている……尊い……。

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